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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
293/360

足止めと奇襲と・・・

 魔族の軍勢は、ゆっくりとその足を進めていた。

 120万を超える大軍勢は縦に長く伸び、進む度に地響きが辺りに響く。

 周辺にいる生物はその異様な気配に我先にと逃げ出し、圧倒的な存在感を醸し出す。

 だが、今回軍勢の指揮を任されたタナトスは屍の竜の背中で不機嫌そうに頬杖を付いている。

「ヒヒャヒャッ! な〜にしかめっ面してんだよ?」

 竜に飛び乗ってきたデスサイズのニヤニヤした顔を見て、タナトスは舌打ちをした。

「そんなこともわかんないんだ。 ああ、骨だけで脳みそないから仕方ないか」

「脳みそ無くてもてめぇをバラす事は出来るけどなぁ死体クセェクソガキ」

「やってみなよこの骨男」

「お二人とも、そこまでにしておきましょう」

 いつの間にか二人の間に現れたベアードに静止され、二人は攻撃しようとした手を止める。

 するとベアードは両手から酒瓶と木製のジョッキが現れる。

「これから大戦で血が滾るのはわかりますが、ここは一杯飲みながら少し落ち着きましょうか」

「俺はんなもんじゃ乾きが癒えねぇよ」

「僕もパス。 今そんな気分じゃないしね」

 二人の返答に残念そうにしながらも、ベアードはすぐに自分の分のジョッキに酒を注ぎ飲み始める。

「しかし、なぜそんな不機嫌なのですかミスタータナトス? ミスターディアブロから軍の指揮という大役を頂いたというのに」

「ヒャハハ! バハムートのジジィが来ねぇ事で色々文句言われたんじゃねぇのか!? そのせいでディアブロの野郎も来れなくなっちまったんだしよ!」

 デスサイズの言葉に苛つきながらタナトスはまた睨みつける。

 タナトスが死んだ同胞を道具として復活させた事を怒ったバハムートはイグノラに残り、主力級の竜達も軍には加わらなかった。

 そんなバハムートをディアブロは危惧した。

 バハムートは味方だが、魔族の傘下になった訳ではない。

 あくまで自分の種族の為にアーミラの魔力が必要だからこちらにいるに過ぎない。

 もしディアブロが共に進軍しイグノラを空ければ、アーミラを自分達のものにする可能性も十分にある。

 だからバハムートを止められる力を持つディアブロも残らざる負えなかった。

「ていうかさ、これだけの軍勢用意した最大の功労者の僕がなんで文句言われなきゃならないわけ? これだけの兵力差があったらディアブロいなくてもどうとでもなるでしょ」

「ディアブロは魔族の王だからな。 生きてる連中からすりゃそりゃ一緒に戦場に来てくれる方がいいに決まってんだろ。 んな事もわからねぇからガキなんだよ」

「やっぱ粉々にしようか」

「お二人共、そこまで。 まあ、ミスターデスサイズを始め私達四天王寺。 更にミスタータナトスが集めてくださった過去の強者達もおります。 我々の勝利はほぼ確定でしょうし、そうイライラせずともよろしいでしょう」

「あのね、僕がイライラしてんのはそれだけじゃなくてね・・・・」

 すると急に辺りに霧が広がり始め、タナトスは更にイライラし始める。

「ああ! まただよもう!」

 濃い霧に囲まれると、周囲の部隊から「ぎゃあ!」と声が聞こえ始める。

 実は進軍を始めてから数日、霧が立ち込めると同時にカラクリ人形奇襲を受けるというのが続いていた。

 勿論迎撃して返討にするが少なからず被害は出る。

 更にいくらカラクリ人形は倒してもいくらでも湧いて出てくる。

 術者を探そうにもかなり遠距離から仕掛けているらしく特定は難しい。

 しかも人形は倒しても屍にならないから自分の部下にならない。

 オマケにたまに自爆までしてくるから面倒くさいことこの上ない。

「この霧のせいで進軍遅れるし僕の兵士は減るし! というかなんで僕の屍兵ばっかりピンポイントで狙うかな!?」

「ふむ。 この感じはヤオヨロズにいた忍びの者の術ですな。 いやはや少数でこの大軍に奇襲をかけてくるとは流石肝が座っている」

「何敵のこと褒めてんのさ!?」

「ヒャハハ! 死体操ってる奴が人形操ってる野郎に翻弄されてんじゃ世話ねぇな!」

「笑ってないで本体見つけるか霧消し飛ばすかしてよ! 結界斬り裂けるんだから霧くらい簡単でしょ!?」

「霧なんて斬ってもなんの足しにもなりゃしねぇんだがな」

 デスサイズはそう言いながらも骨のナイフを生やすと腕を横に振るった。

 すると霧は真っ二つに斬れ、そのまま霧散していった。

「ほぉ、お見事ですな」

「これで人形も始末出来る。 たくもぉ、また自爆なんてしないでよもぉ」

 タナトスがブツブツ文句を言いながら屍兵に指示を出している後ろで、ベアードはデスサイズに耳打ちする。

「所でお気づきですかなミスターデスサイズ? 我々がどこかに誘導されているのに」

「ああ。 タナトスは苛ついて気付いてねぇみてぇだがな」

「教えて差し上げないのですかな?」

「んなつまんねぇことするかよ。 誘導してるって事は色々面白え事用意してくれてんだろうからよ。 それに乗る方が楽しめるじゃねぇか」

 ドクロの奥の瞳を光らせるデスサイズに同意する様にベアードもニヤリと口角を上げた。

「確かに。 祭りは楽しい方がいいですからな」

「そこ! お喋りしてないでさっとさっさと人形の対処してよ!」

 その言葉の直後人形が自爆した音が聞こえ、タナトスは更にイライラを増し顔を歪ませた。






 魔族の軍から離れた場所で、水楼は印を解き息を吐く。

「大丈夫ですか、水楼殿?」

 アルファに声をかけられて水楼は「問題ない」と返すが、疲労しているのは明らかだった。

 距離の離れた場所に広範囲で霧を発生させるだけでも負担は大きいのに、更にこちらの位置を悟られない様に幻術まで付加されている。

 それを数日に渡り何度も実行しているのだから、疲労するのは当たり前だった。

 アルファに疲労していると悟られている事に気付き、水楼は拳を強く握り締める。

「情けない。 この程度でこの体たらくとは」

「少し部下に任せて休むべきです。 もう足止めの役目は十分果たしていますしね」

「いや、念には念を入れ数を減らさねば。 それに皆も遠距離の傀儡操作で消耗しているのは同じ。 そちらのサポートでなんとか敵に悟られずに事を為せているのだ。 それを活かさねばここにいる意味はない」

 不器用ながら責任感の強い水楼に少し呆れながらも、アルファは魔甲機兵団で支給されている携帯食料を差し出した。

「ならせめて食事だけでも。 責任を果たすのも立派ですけど、過度な無理は寧ろ非効率です。 それに、上が休まないと下も同じ様に無理をして共倒れになりますよ」

 水楼は少しアルファを見つめるとそれを受け取った。

「貴女の言う事にも一理ある。 もう少し削った後本陣に合流しよう」

 水楼は携帯食料を食べると、再び印を結び始めた。

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