軍団集結
ヤオヨロズが正式に合流した事で、ノエル達の動きは加速した。
各国の軍が駐屯地としている場所に、プラネとその周辺の森林地帯であるルクスマを囲む様に砦の建設が始まった。
元々のプラネのドワーフの職人に加え、ラバトゥのゴーレム技術、セレノアにいた亜人達の能力、ルシスの魔術、そしてヤオヨロズの軍師マサユキの建城技術が合わさり、建設は急ピッチで行われていった。
それからアルビア軍によりヤオヨロズ等各国の補給部隊が速やかに来れる様に街道の整備も行われている。
遠方の国からはべクレムの転送術式も利用し可能な限り時間を短縮させられる様にした。
そして各国の軍を合わせた連合軍の部隊編成も行われた。
現在、プラネ軍1万2千。
アルビア軍3万8千。
ラバトゥ連合軍1万3千9百。
ルシス軍1万2千。
セレノア軍千2百。
ヤオヨロズ軍5万2千。
更にガルジに吸収されたあらくれ連合4千。
蟲人千8百。
海人3千。
暗殺ギルド3百。
ジャバの下に付いた魔獣達約2百。
総勢13万8千2百の大軍勢となった。
それをイトス、マサユキ、マークス、サルダージ、そしてラミーアの連合の知恵者が協議し部隊を分けた。
総大将をノエルが努めその下にマークスとラミーアの二人が参謀として付き、戦闘、感知、支援と部隊編成していく。
結果、以下の通りとなった。
第一部隊(近距離戦闘部隊)
隊長:アクナディン
主要メンバー:レオナ、ライル、アルゼン、ラクザ、ヴォルフ、ボクネン
第二部隊(中距離戦闘部隊)
隊長:ダグノラ
主要メンバー:オメガ、ヴィクター、カルラ、ムネシゲ
第三部隊(近・中距離戦闘部隊)
隊長:エミリア
主要メンバー:リナ、ラズゴート、アシュラ、シンゲン、ヘラクレス、メガロ
第四部隊(遠距離戦闘部隊)
隊長:リリィ
主要メンバー:クロード、リーティア、ラドラー、マゴイチ、オブト
第五部隊(特殊戦闘部隊)
隊長:ケンシン
主要メンバー:イトス、カイザル、セイメイ、ノーラ、モンストロ
魔獣部隊
隊長:ジャバ
主要メンバー:ベアコンドル、アシュラコング、山脈巨象
あらくれ部隊
隊長:ガルジ
主要メンバー:ゴンザ
偵察・奇襲部隊
隊長:水楼
主要メンバー:アルファ、ベータ、ガンマ、アメルダ、レイネ
感知部隊
隊長:ギゼル
主要メンバー:アンヌ、サルダージ
後方支援・医療部隊
隊長:キサラ
主要メンバー:コルトバ
国で分けずそれぞれの特色で分けられ、それぞれに適した者を配する。
それは特定の国が功に逸る事がない様にする為でもあるが、国ではなく連合として纏まっているという事を示す意味も込められた編成だった。
また魔獣、あらくれを独立部隊にしたのはそれぞれの特性を最大限に活かす為と、両方とも普通の部隊に組み込むには特質過ぎる為固めた方がいいという理由からだ。
準備は順調に進んでいった。
イトス、メガロ、マサユキ、そしてギゼルの4人は会議室でそれぞれの部門での報告をし合っていた。
「とりあえず、これで物資に関しては問題ないか。 海人の様子は?」
「モンストロ含め水人と造ってくれた居住スペースで寛いでいる。 戦う準備も既に出来ている」
「砦の方も順調だ。 ギゼル殿のカラクリのお陰で、この分なら予定より早く造れそうだ」
「感知用の装置を取り付けるついでだ。 大した労にはならない」
こうしてマサユキと普通に話しているギゼルだが、当初は上手く連携できるか心配されていた。
ギゼルにとってヤオロヨロズは、自分のいた町と人達を消し飛ばした爆の国が所属していた国。
爆の国が独立していたとはいえ、それを放任したヤオロヨロズにも責任がないわけではなく、それはケンシンがノエルに謝罪した事からも明らかだ。
当然ギゼル達魔甲機兵団にとって許せぬ相手であり、衝突するのではと危惧されていた。
だがその件に関してギゼルは「くだらぬ私情で火種を生むほど私は愚かではない。 謝罪がしたいなら、戦いが終わった後たっぷりと研究費を請求させてもらう」とケンシン達の目の前で言い放った。
オメガを始めとした魔甲機兵団の面々もギゼルに従い、ヤオロヨロズに対するわだかまりを自ら断ち切った。
ケンシンはギゼルに感謝し、研究費と資材の援助を約束した。
「それにしても、こうして見るとそうそうたる顔触れだな。 この大陸の実力者が揃い踏みとはな」
メガロは部隊編成の書かれた書類を見つめ思わず唸った。
プラネとアルビアを中心に東西南北の大国のみならず、各亜人や組織の強者から魔獣までが集結している。
これ程全ての国が集結するのは、大陸の歴史の中でも恐らく初めてだろう。
「しかし、ジャバ殿以外五魔の者が部隊長になっていないがいいのか?」
「連中全員、部隊率いるより好きに暴れる方がいいんだと」
「確かに。 特にリナは人に指示を出すのに向かんだろうからな」
「そういうあんたは前線でなくていいのかよ?」
「私は元々裏方の研究者だ。 情報を纏め、指示する方が性に合っている。 最も、戦い出て遅れを取るつもりもないが」
ギゼルはそう言って右手の指を鳴らすと機械音が微かに聞こえた。
ギゼルはかなり体を改造しているらしく、戦闘用の装備を大量に取り付けた様だ。
「後はこの部隊と砦を使いどう魔族の軍と戦うかだ。 敵の陣容は?」
「今アルファ達とそちらの忍びとやらが偵察に行っている。 じきに通信が来るだろう」
「まあ、正直あまり聞きたくない気もするけどね」
急に現れたラミーアの一言に、皆の視線が集まる。
「どういう事だよラミーア? 魔族ってそんなに多いのかよ?」
「勿論、魔族に関してはそれなりに数は多いけどそれだけならこっちが勝ってるだろうね。 竜も同じさ。 竜は今は数をかなり減らしているからね」
「じゃあ何が・・・」
すると突然ピピピと何か音が鳴り、ギゼルが「失礼」とその場から離れ耳に手を当てた。
「私だ。 どうした? 何か問題でも・・・・なんだと!?」
ギゼルの動揺した叫びに、部屋にいた全員が異常事態だと理解する。
「何があった!? まさか誰か捕まったのか!?」
ギゼルは首を横に振るとゆっくり振り向いた。
「敵のおよその数がわかったが、これは、あまりに・・・」
額に手を当てながら、ギゼルはなんとか冷静にその言葉を口にする。
「敵の総数、約120万以上」
かつてのアルビアの首都イグノラ。
ディアブロ達魔族に乗っ取られたその場には、首都を囲う様に5つの城が出来上がっていた。
その5つの城から捉えられた魔甲機兵団のミュー達を媒介に魔力が放出され、アーミラのいるアルビア城を護る結界が形成されている。
だがそれ以上に目に付くのが、城の前に集結している軍勢の数。
城の上から見渡す限り、兵で埋め尽くされている。
しかもその陣容もとんでもないものになっている。
魔族がいるのはとうぜんだが、人間、亜人、魔獣、そして巨人族等滅んでいる筈の種族までが揃っている。
その光景を見て、デスサイズは興奮した様に笑った。
「ヒャハハハ! スゲェスゲェ! スゲェじゃねぇかタナトスこの野郎! 根暗野郎の癖にやるじゃねぇか!」
「根暗は余計だよ。 でもまあ感謝してよ。 秘蔵のコレクションまで用意したんだから」
タナトスは邪悪な笑みを浮かべ軍団を見下ろした。
この場にいる大多数がタナトスの操る死者の兵達。
雑兵用の者からタナトスがコレクションしている歴戦の実力者まで揃え軍に加えたのだ。
まさに数も質も、ノエル達の軍より圧倒的に上と言える軍勢だった。
だがそんな大軍勢に、バハムートは明らかに怒りを滲ませていた。
「我が同胞まで道具とするか貴様」
「侵害だな〜。 僕は単純に戦力になる連中を集めただけだよ。 そこの魔王様の命令でね」
わざとらしく肩をすくめるタナトスに歯ぎしりするバハムートを、ディアブロが宥める。
「タナトスの言う通りだ。 そして貴様の同胞共を眠らせる気もない。 気に入らぬなら余を消せばいいだろう」
「出来ぬとわかっていてその様な事をぬかすかディアブロ」
バハムートはディアブロを睨みつけると、その場から去っていった。
「あらら。 へそ曲げちゃったよ」
「しかしいいのかよディアブロ? あいつ本気でキレたらてめぇでもキツイんじゃねぇか?」
「奴は裏切らんさ。 生き残った同胞とやらがいる限りな。 余と敵対するなら竜種が滅びる覚悟をした時だろうが、今の奴にそれは出来ん。 どんな屈辱を味わおうとな」
ディアブロは前に進み出ると下の軍を見下ろした。
ディアブロの姿を見た生者の魔族から「魔王様!」と歓声が上がった。
そしてディアブロが手を上げると、魔族達は静まり返った。
完全に静まったのを確認すると、ディアブロは口を開いた。
「余はかつて弱者だった。
吹けば飛ぶ様な矮小の存在。
文字通り塵芥に過ぎぬ存在だった。
だが貴様らに問おう。
貴様らの魔王は誰だ?」
「ディアブロ陛下!」
「ディアブロ様!!」
「そう!
余は王となった!
誰もが笑った弱者の戯言!
届かぬ夢!
叶わぬ盲言!
余はそれを成した!
挑み!
倒し!
成し遂げた!
そして王とは、どの様な手段を使おうと国を栄えさせ、民の望みを叶える者だ!
貴様らの望みはなんだ!?」
「地上への進出!」
「魔族の安寧!」
「よかろう!
ならば叶えよう!
かつて地上進出も我ら魔族には叶わぬ夢と言われ続けてきた!
今貴様らはかつての余の様に挑むのだ!
届かぬ夢に!
叶わぬ理想に!
余は貴様らの標となりて導こう!
故に進め!
倒せ!
蹂躙せよ!
貴様らにはこの魔王!
ディアブロがいる!!
これより我らは、プラネへと進軍を開始する!!!」
ディアブロの演説に、魔族達は応える様に叫んだ。
そして、ディアブロ達魔族の軍は進軍を開始した。
全てを蹂躙し尽くす為に。




