プラネ参戦
駆け付けたノエルはジンガに跨りながら、ヤオヨロズとガープ軍の戦闘を見詰めていた。
すると上空からベアコンドルに乗ったレオナ、アクナディン、そしてベアコンドルの足に掴まれたジャバが到着する。
「たく、おどれは速すぎるわ! 大体王が先には戦場に駆け付けるなど、王の自覚が足りんわ!」
「アクナディンさんに言われると説得力ないんですけど」
「わしはもう王じゃないけぇええんじゃ」
自分を棚に上げるアクナディンに苦笑していると、レオナが隣に近付いてくる。
「それでノエル君、戦況は?」
「ヤオヨロズが押してますけど、攻めきれていない様です。 恐らくクロードさんからタナトスの事を聞いているんでしょう」
「そうみたいね。 ラミーアが連絡取ってくれてて助かったわ。 ゾンビの兵隊が増えるなんてまっぴらだもん」
「しかしそのせいでちぃとばかし動きが悪いのぅ。 わしらは殺す戦は慣れちょるが、殺さんとなると勝手が違うけぇ。 攻め時を見極められとらん様じゃの」
アクナディンの指摘通り、ヤオヨロズは攻めあぐねている様に見える。
敵を死なせないというのもあるが、何より味方に死人を出さない様に積極的な攻めは控えているのだろう。
一部で魔族をぶん投げたりする者や何かしら術を使って攻勢に出ている者もいるが、基本は撹乱させながら数の理を活かし包囲を広めようとしている様だった。
ただ相手が思った以上にしぶとくそれも手間取っている。
「後続はどの位で付きます?」
「もうすぐ来るだろうけど、このままだとヤオヨロズに被害出るかもね」
「そこは大丈夫ですよ」
ノエルが見上げると、空中にリナが浮遊している。
ノエルが合図を送ると、リナは手もかざさず重力を発生させる。
すると魔族達のみ重力の影響を受け、地面に押し付けられていく。
「は! なんちゅう反則技じゃ!」
「前にコキュートに同じ手使ったしね。 あの時より人数少ないから、寧ろ楽でしょ。 とはいえ、これならヤオヨロズだけでもどうにかなるかしら?」
「いえ、油断は出来ません。 このまま後ろから突入して敵大将を倒します。 そうすれば、兵力差もあって敵を無効化出来るでしょう」
「了解。 それじゃ早速・・・あ」
レオナが前を向くと、雄叫びを上げながら突入するジャバとアクナディンの姿があった。
「あの二人は・・・」
「僕達も行きましょう」
ノエルはジンガを走らせ敵陣に突っ込み、レオナもそれに続いた。
「いやはや! これは実に見事な術ですな!」
戦場の様子を見たセイメイは興奮した様子だった。
敵の軍のみを重力の影響下に置くリナの力はヤオヨロズ1の陰陽師と言われたセイメイから見ても高度かつ繊細な技だった。
「これが噂に聞く五魔の魔王か。 なんとも凄まじい」
マサユキは驚きながらも、好機と見てすぐに号令をかける。
「今こそ攻め時! 敵が動けぬ内に速やかに無力化し、敵本陣を叩け!」
合図の太鼓が鳴り響き、ヤオヨロズは一気に攻め込んでいく。
「さてと、カイザル君、ここは頼むよ」
「ノエル陛下の元へか」
「そういう事。 折角私達の王が迎えに来てくれたんだ。 なら駆けつけないとね。 行こうかリーティア」
「ええ。 ノエル様達にお会い出来るのが楽しみ」
クロードはリーティアの手を取ると空を飛んでいった。
「王自ら先頭に立って戦場に来るとは」
「そういう人なんですよ、ノエル陛下は」
「まあ、そこは我が親方様も似たようなものだが」
そう言って後ろを向くと、戦の初めにいた白い頭巾を被った人物が姿を消していた。
「またか。 あの方は本当にわしの策を無視なさる」
頭を抱えるマサユキだが、慣れているのかすぐに切り替え指揮に戻る。
「親方様が出陣なされた! 我らも続き、ヤオヨロズ兵の力を見せつけよ!」
兵達の応える様な咆哮が周囲に響き、ヤオヨロズの士気が一気に高まっていった。
「なんなら〜!!」
「ウガアアアアアアア!!」
敵陣に突っ込んでいったジャバとアクナディンは、その怪力と技を使い敵魔族をなぎ倒していく。
その後ろからベアコンドルの空中からの掩護を受けながらジンガに乗るノエルとレオナが駆け抜ける。
それに気付いたガープは突然の乱入者に驚きながらも怒りを顕にする。
「なんなのだ奴らは!? どこから湧いて出た!?」
「そ、それが、どうも地上の五魔とプラネ、ラバトゥの王だと」
「なんでそんな連中がここに来ているんだ!?」
怒りながら歯ぎしりするガープだがなんとか平静を保とうとする。
そして逆に今の状況がチャンスだと思い至る。
「そうだ。 もし奴らを倒し、わしの魔力の虜とすれば敵の主力を此方に引き込んだという事でわしの株が上がる。 それどころか四天王に取り立ててもらえるかもしれん」
再び「ブクク」と笑うと近くにいる側近達を呼び寄せる。
「ケルベロス! クラーケン! マリリス! レヴィアタン! お前達に魔力を多めにくれてやる! その代わりなんとしても奴らを倒してここに連れて来い!」
「ははっ! 仰せのままに!」
側近達は一斉にノエル達の前に飛び出して行き、同時に大量の魔力が注がれる。
すると肉体が盛り上がり衣服を破り、それぞれ三首の狼、巨大なイカの化け物、女の上半身に4本の腕を持つ下半身が蛇の怪物、そして強固な鱗に覆われた鯨と大蛇の中間の様な魔物と姿を変えていく。
「はっ! 豪勢な出迎えじゃのう! 重力にも耐えとるようじゃし楽しめそうじゃ!」
「ノエル! ここは任せて先に行く!」
「え? でも敵は4体ですし、一人1体で行った方が」
「親玉倒す方が先でしょ? それに、数ならその子入れれば十分足りるわよ」
レオナが指差すと、ジンガが任せろと言う様に吠えた。
「わかりました。 どうか気を付けて」
「誰の心配してるのよ?」
レオナがニコッと笑うと、ノエルはジンガの背を蹴り側近達を飛び越える。
クラーケンが脚を伸ばして捕まえようとすると、アクナディンが瞬時に切り刻む。
「頭が多い奴の次は脚か! 全く面倒なもんばかりに当たるのぅ!」
クラーケンはアクナディンに向かい周囲の岩を投げつけながら脚を伸ばして攻撃を加えていく。
だがアクナディンはサンダリオンを分裂させその全てを切り刻み、粉砕していく。
「ぬるいわボケ!!」
アクナディンは一気に接近するとサンダリオンを一つにし、剣の腹をクラーケンの眉間に打ち込んだ。
クラーケンは白目を向き、体の色を白くして気絶した。
「たくっ、手間かけよって」
肩でサンダリオンを担ぐとアクナディンは他の3人に目を向ける。
ジャバは自分と同じ位の大きさになったケルベロスを相手にしている。
3つの頭で噛み付いてくるケルベロスを力任せに投げると、今度はそれぞれの頭から炎、雷、氷が吐き出される。
ジャバはそれを正面から受けながら、効いている様子を見せずケルベロスに突進していく。
「ウガアアアア!!」
ジャバの豪腕ラリアットがケルベロスの首全てを巻き込みながら炸裂し、ケルベロスは吹き飛びながら目を回している。
完全に戦いに対するトラウマを払拭した様子のジャバにアクナディンは安心した様に他の戦いを見る。
ジンガは自分の何倍も大きなレヴィアタンの体を素早く走り回りながら体の刃や牙で攻撃を加える。
だが強固な鱗に覆われたレヴィアタンの体は傷つく事なく、そのまま締め殺そうとしてジンガに巻き付く。
だがジンガはスルリと抜けると、宙高く飛び上がりレヴィアタン目掛けて体を縦に回転させながら突っ込んだ。
高速回転し切れ味を増したジンガの刃はレヴィアタンの鱗を削り取る。
ジンガは回転したまま何度もレヴィアタンの鱗を削り続け、ついにはその肉を削り取る。
苦痛の声を出すレヴィアタンだったが、そのままジンガを捉える事が出来ず、最後には鱗が削れ顕になった喉に噛みつかれ、巨体を倒した。
ジャバと一緒に特訓した成果を見せ付けたジンガは勝利の雄叫びを上げた。
そしてレオナと対峙したマリリスは4本の手から剣を出し、それぞれに斬りかかる。
レオナはいつもの様に剣を出さず静かに手をマリリスにかざす。
すると剣がまるで液体の様に姿を変えてレオナの手の中に吸収されていく。
「マズっ。 あまりいい鉄使ってないわねこれ」
顔をしかめるレオナに、マリリスは警戒し今度は炎を纏わせた剣を出し目の前で振った。
すると炎の斬撃がレオナに向かい飛んでいく。
レオナはその場から動かず一本だけ剣を産み出すとそのまま空を切る。
すると炎の斬撃が全て真っ二つに切れ、その先にあるマリリスの肉体も切り裂いた。
「悪いわね。 今のあたしは、形がないものも簡単に斬れるのよ」
完全に意識を失ったマリリスを見下ろしながら、レオナはアクナディン達と合流しノエルの元へと向かった。
ガープのイライラは頂点に達しようとしていた。
魔力を過分に与えたにも関わらず、側近達は一人取り逃し自分の前に敵を辿り着かせた。
ノエルが自分の目の前に現れた事もだが、何より自分が相手をしなければならないという状況は、他力本願が信条のガープにとってあってはならないものだった。
「小僧、わしの前に乗り込んで来るとは、そんなに死にたいのか?」
「そんな気はありませんよ。 というより、どう見てももうそちらに勝ち目はないですし、そろそろ降伏してくれると助かります」
ノエルの生意気な一言でガープの中で何かがプチンと切れた。
そしてその醜く太った体を起こしゆっくりと立ち上がった。
「つくづく生意気な小僧だ! ボロボロにした後魔力中毒にして飼いならそうと思ったが止めだ! 貴様はここで殺す!」
そう言うと、ガープは大きく口を開けた。
するとガープの兵である魔族達が悲鳴を上げ、体からモヤの様なものが溢れ出てくる。
同時に魔族達の体が強化される前に戻っていき、更に細くなり弱体化していく。
ガープは自軍の魔族全てからモヤを集めるとそれを一気に口に入れ飲み込んだ。
するとガープの体が徐々に縮んでいき、最終的に筋骨隆々の戦士の様な肉体へと変わった。
「ブクク、わしは魔力を与えるだけでなく喰らうことも出来るのよ。 そして今、我が軍の魔力全てを喰らった。 この意味がわかるか?」
ガープの軍は約1万人。
つまりガープの体には1万人分の魔力が内包され、それがオーラの様にガープの体から溢れている。
「恐ろしくて声も出んか? 無理もない。 これこそわしの最大の切り札であり必勝の・・・」
「そんな事はどうでもいいんです」
「あ?」
「あなたは、自分の部下をなんだと思ってるんですか?」
ノエルは魔力を吸収された魔族達を見る。
魔族達はやせ細り、ガープの魔力で抑えていた戦闘での傷が一気に開きもがき苦しんでいる
中にはリナの重力に耐えられなくなり全身の骨が折れた者までいる。
リナは既に重力を解いている様だが、もはやガープ軍の者達はボロ雑巾の様にズタボロになっている。
そんな部下達を見てもガープは下卑た笑みを消さなかった。
「ブクク、バカめ。 わしの魔力の世話になっておきながらわしに働かせるゴミ等もはや用はない。 また使える者を探しわしの魔力の虜とすればいいだけの事よ」
部下達をゴミと言い切るガープを、ノエルは鋭く睨みつけた。
「僕はあなたの様な人が一番嫌いです」
「ぬかせ小童が! 貴様はどの道殺すのだ! 地獄で己の愚かさを呪うがいい!!」
ガープは柄の長い片手斧を出すとノエルに向かって振り下ろした。
1万人もの魔族の魔力の籠もった斧は、風圧だけで地面を割る勢いでノエルの頭上に迫る。
が、斧はノエルに当たる前に溶解した。
「へ?」
何が起こったかわからないガープは、思わず間抜けな声を出す。
「お、斧が? 1万人の魔力が籠もった斧が? ジュワって?」
「すいませんね。 どうも最近僕を鍛えてくれていた人の魔力が強すぎて、僕の魔力も上がっていたみたいです」
「そ、それは一体誰なんだ?」
「サタンさんって言えば、あなたにはわかりますよね?」
その名を聞いた瞬間、ガープの顔から血の気が引いた。
ノエルは黒刀を抜くと静かに構える。
「随分滅茶苦茶な事されましたけど、お陰であなたの自慢の魔力を全然脅威に感じなくなりましたよ。 サタンさんの魔力はもっと大きかったですからね」
「ふ、ふざけるな! 魔王陛下に無様に敗れた負け犬が鍛えた程度で、わしが倒せると思うか〜!!」
「もう終わりましたよ」
「はへ?」
ノエルの言葉通り、ガープの胸に斜めに大きな傷が浮かびそこから鮮血が溢れ出る。
「ば、馬鹿な!? いだいいいいいいい!!?」
ガープは痛みで転げ回り、ノエルはそれを静かに見下ろした。
「魔力を使うなら、この位濃縮させないと意味ないですよ」
ガープが目を凝らすと、ノエルの黒刀に魔力が宿っているのが見える。
それは自分が今纏っている魔力よりも強く、より高密度に圧縮されている。
そんなもので斬られれば、自分の1万人の魔力など紙切れのような物だ。
「このまま降伏してください。 拘束はしますが、命は取らないと約束しますよ」
「滑るなよ。 なら貴様の魔力を吸うのみ・・・」
「それは無抵抗な人に対してだけですよね? そうじゃなかったら、最初からヤオヨロズ軍の力を吸ってとっくに勝負を終わらせていた筈です」
全て見透かされ黒刀を向けられたガープは脂汗をかきながらも、口角を上げる。
「これだけは、使いたくなかったんだがな」
ガープは地面に付いた手に魔力を込める。
「何を?」
「確かに魔力は無抵抗な者からしか吸えん。 だが、生き物だけからとは言ってない!」
ガープは一気に地面から魔力を吸い上げようとする。
すると触れている地面が干からび、草が枯れ始める。
「この一帯の魔力を全てを手に入れる! 土地が死ぬだろうが関係ない! 貴様らを殺せば魔王陛下もお許しになるだろう!」
ノエルはガープを止めようとする為黒刀を振るおうとした。
だがそれよりも速く、白い影がノエルの前に現れガープに一閃した。
ガープの両腕は切り離され、ガープはうめき声を上げる。
「貴方は?」
ノエルは白い頭巾を被った人物に声をかけるが、その人物はノエルに口元に小さく笑みを浮かべるとガープに向き直る。
「もう無駄ですよ。 貴方の力の核を破壊しました。 もう、魔力を奪う事は出来ません」
「な、何を馬鹿な・・・ハグァ!?」
白い頭巾の人物の言葉を証明する様に、ガープの体から吸収した魔力が一気に霧散した。
ガープはそれを再び吸収しようともがくが、魔力は元の持ち主である魔族達へと帰っていく。
ガープは元の醜く太った姿へと戻り、力を失った事実に茫然自失し項垂れた。
「やれやれ。 私達の出番完全に奪われてしまったね」
ノエルが顔を上げると、クロードとリーティアがゆっくりと降りてくる。
「クロードさん! リーティアさん!」
「お久しぶりです、ノエル様。 またお会い出来て嬉しいです」
「? リーティアさんなんだか雰囲気が?」
リーティアの変化に気づき首を傾げるノエルにクロードはクスリと笑った。
「まあ、それは後で説明するよ。 それより、随分強くなったね」
「ありがとうございます。 それより、あの人は何者なんです?」
ノエルが見ると、先程の人物が頭巾を取って振り返った。
短い黒髪に中性的な、それでいて透き通る様な美しさを持ち、思わず見惚れてしまいそうになる。
「あの人はケンシン。 戦の国の大名であり、ヤオヨロズのトップ、つまりこちらで言う王みたいな人だよ」
「え?」
ノエルが驚くと、ケンシンは優しい笑みを浮かべた。




