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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
285/360

遭遇と開戦


 今ある軍勢がプラネへと向かっていた。

 先頭には騎馬隊、その後ろにいる歩兵は刀隊、槍隊、弓隊、そして見慣れない金属の筒を持った兵と編成され、部隊長と思われる侍により統率されている。

 奥には更に屈強な部隊がおりそれが主力、もしくは総大将のいる部隊だろう。

 補給の為の物資を積んだ牛車も体力に引き連れられ、単純に見積もって5万はいるだろう大軍勢。

 複数の小国が集まり出来上がった連合国家ヤオヨロズ。

 具足と呼ばれるヤオヨロズ独自の甲冑を身に纏うその軍勢は、この大陸の大国として相応しいものだった。

 その軍勢を、その男は自分の軍の最奥から見詰めていた。

 男の名はガープ。

 魔元卿と呼ばれる魔界の実力者の1人である。

 爬虫類を思わせる緑色の肌に自分では歩けないほどブクブク太った巨体で輿に乗った姿は、醜いという言葉以外で表せられないものだった。

 見た目の通りこの男の信条は他力本願であり、自分では動かずに他者に全ての事を任せる天性の怠け者だ。

 何故この男が実力者として数えられているかというと、それはこの男の能力にある。

 このガープの力は己の魔力を部下に分ける事でその力を数倍に強化する事。

 これにより中級程度の者でも上級以上の力を手に入れる事が出来る。

 しかもこの力には中毒性があり、魔力を受けた者はその時の高揚感を得る為にガープに忠実な部下となる。

 ガープはこの力を駆使し部下を集め、ディアブロに支配される前は魔界でも有数の大軍勢の持ち主として知られていた。

 今回はその力を買われ近隣から魔族側に寝返る者を集める様に命じられ付近の街を襲おうとしていたのだが、近くにヤオヨロズの軍勢がいる事を知ると勝手に目標をヤオヨロズへと変更した。

「ガープ様、よろしいのですか? 魔王陛下の命に背く事になりますが?」

 側近である魔族の男の言葉をガープは「ブククク」と気味の悪い笑いをしながら答える。

「何を馬鹿な。 わしは地上の兵隊を集めろと言われているのだ。 連中をこちらに付ければ任務は達成するというもの」

「し、しかし、我々は1万で敵は5万。 流石に不利かと」

「その為のわしの魔力による強化だろう。 第一地上の民とわしら魔族では力の差は明らか。 それに加えわしの強化が加われば、5倍程度の兵力など恐るるに足らん」

「で、ですが・・・」

「ああそうか。 お前はわしの魔力を信用出来ないのか。 ならばもう魔力はいらんな」

「め、滅相もありません! ガープ様の魔力の恩恵を受けし我が軍は無敵です! ですのでどうか、どうか魔力をお分けください!」

 平伏し必死に弁解する側近にガープは満足そうに「ブクク」と笑った。

「まあわしらには切り札もある。 万一想定よりも強かろうがいくらでも対処は・・・」

 瞬間、熱線がガープの鼻先を掠め、後ろにいる兵士の脚を打ち抜いた。

 悲鳴を上げ転げ回る兵士に周りが動揺する中、ガープは熱線が飛んできた方を見た。

「おのれ! 気付かれていたか!」

「ど、どうします!? 奇襲前に気付かれては我々の勝機は薄くなるかと!」

「そんな事はわかっておるわい!」

 怒鳴るガープに側近は恐怖で縮こまる。

 ガープは側近の言葉もだが、先程の熱線の真意に怒りを覚える。

 これだけ正確に熱線を撃つことが出来るなら自分の頭を撃ち抜くことも出来た筈。

 しかも撃たれた兵士も急所が外れている。

 つまり、これは警告だ。

 このまま逃げ帰ればよし。

 さもなくば容赦はしない。

 自分達より劣る筈の地上の民如きに舐められたと、ガープは目を血走らせた。

「おのれ下等種族が!! その愚かさを見を持って汁がいい!!」

 言葉と同時にガープから紫色の魔力が溢れ、兵士達に降り注ぐ。

 すると兵士達は体に力が溢れ、肉体がより強靭に変化していく。

 先程脚を撃たれた兵士もすぐに回復し、溢れ出る力に雄叫びを上げる。

「全軍突撃! 主力だけ生け捕りにすれば構わん! 残りは皆殺しにしろ! 我ら魔族の恐ろしさを思い知らせてやれ!!」

 兵士達は雄叫びを上げると、ヤオヨロズ軍に対して突撃を開始した。






「あ〜あ、折角忠告してあげたのに」

 決戦前にいらない戦闘はしない様にと警告したつもりが、真逆の効果になってしまいクロードは肩をすくめる。

「あんな挑発する様なやり方すればああなりますよ」

「全くだ。 貴様は思慮が足りん」

 傍らに控えるリーティアとカイザルが呆れた様子を見せると、その後ろから毛皮で装飾をした甲冑を身に纏った無精ヒゲの壮年の男が笑いながら近寄ってくる。

「いやしかし見事な狙撃! 流石音に聞こえた五魔の魔竜殿と言った所か!」

 この男の名はマサユキ。

 ヤオヨロズ一の知恵者として名高い軍師であり、ヤオヨロズ国主であるケンシンの右腕として実務を熟す実質ヤオヨロズこナンバー2と言える存在だ。

「お褒めの言葉はありがたいけど、どうしますマサユキ殿? 数の理があるとはいえ一筋縄ではいかないはずだけど」

「例の殺せば死なぬ兵になるから殺せないという話か? 確かに殲滅出来ないのはやり辛いが、それでもやりようはいくらでもある」

 マサユキが後ろを向くと、後方で白い頭巾を被った人物が頷いた。

「親方様の下知が下った。 ヤオヨロズ初の国外での戦、とくと御覧じろ」

 マサユキが右腕を上げると、合図を送る様に太鼓が打ち鳴らされた。

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