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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
282/360

準備

「というわけで、連れてきちゃった♪」

「連れてきちゃったじゃねぇよおっさん!!」

 カワイコぶりながら説明するサタンをにリナがツッコんだ。

 ノエル達が蟲人(むしびと)の先発隊を連れ帰ってくる頃に、丁度サタンもアンドラス達を連れ帰還した。

 そこでアンドラス達を連れて来た経緯を報告すると、軽くノエル達は軽く頭を抱えた。

「だって〜、賭けに勝った訳だし連れてきたって問題じゃないでしょ?」

「まあ殺さずに処理してきたのは上出来なんだけどね。 問題はこの後だね」

 ラミーアを含めて皆が頭を悩ます理由は二人の扱いだ。

 アンドラスはアルビア兵の拠点を2つ全滅させている。

 万一サタンの言う通り賭けの結果に従い此方に従うにしても、内部に不満が出て支障をきたす可能性がある。

 それでも通常ならアンドラスの能力は戦力として歓迎されるものだが、タナトスという死者を操る敵がいる以上アンドラスの崩壊の力はただ単にタナトスの兵隊を増やすだけになってしまう。

 なので現段階では正直かなり持て余す存在になってしまっている。

「キマリスって言う人も戦力としては頼もしいんですけど、ベルフェゴールの事もありますからね」

 ノエルが心配しているのは、かつて四天王だったベルフェゴールが裏切った途端デスサイズによって仕掛けられた骨の刃で惨殺された事。

 キマリスにもし同じ仕掛けがされていれば、キマリスが裏切りの意思を見せた途端殺されタナトスの兵にされる。

 だがラミーアはそれを冷静に否定した。

「多分それはないよノエルの坊や。 デスサイズの性格上タナトスってやつの事は嫌ってるだろうしね。 殺して向こうの都合のいい駒に使われるなんてされたくないだろうからね。 と言っても、確証がないから扱いに困る点では変わらないけどね」

「まあ、厄介な敵を早めに抑えられたってだけでも十分なんだけどね」

「流石エミリアちゃんは話がわかる♪」

「調子に乗るなおっさん!」

 調子に乗るサタンに釘を指すと改めて、今後の予定を話し合う事にした。

 現在ノエル達のプラネ、エミリアのアルビア、そしてセレノアはほぼ集結している。

 加えてノエルの連れてきた蟲人(むしびと)の先発隊も加わり戦力としてはそれなりの規模が整った状態だ。

 更に近日中にラバトゥ、ルシス、蟲人(むしびと)の本体、そしてヤオヨロズも到着する予定なので、全員揃えばノエル達の全戦力が揃う事になる。

 問題は未だ情報の少ないヤオヨロズだが、そこはクロード達に間に入ってもらいながら調整するしかない。

「とりあえず戦力や装備に関しては問題は無さそうだね。 となると、後は向こうの戦力はどの程度まで膨れ上がるかだ」

 魔界勢力で一番読めないのがタナトスの率いる死者の軍。

 なにせ死んでいる者を兵にするのだから数は勿論、実力者も大勢加わっているのは間違いない。

 現に竜等の希少種すらタナトスの配下にされている死者も確認されている。

 問題は一度にどの位の死者を操れるのか?

 何年前までの死者を呼び出せるのか?

 最悪ラミーア達より古い太古の英雄まで相手にしなきゃならない可能性すらあり、ある意味ディアブロ達より頭の痛い問題だった。

「いっそタナトスって奴ぶっ倒した方が早いんじゃねぇのか? そうすりゃこっちも存分にやれんだろ?」

「そうしたいのは山々だけどねリナの嬢ちゃん。 相手は体吹き飛ばしても生きてるバケモンだ。 暗殺しようにも弱点がわからなきゃどうしようもない」

「めんどくせぇ野郎だな本当に」

「とにかく、今は情報収集が先決ね。 全部隊が整うまで少しでも有益な情報を手に入れなきゃ」

「なら、そこはおじさんに任せてくれないかな」

 サタンの積極的な姿にリナ達が疑いの視線を向ける。

「てめぇ、やけにやる気じゃねぇかよ? またコスプレねだる気か?」

「ふふん。 それもいいけど、また今度。 ま、今はおじさん信用してもらおうかね」

 そう言うとサタンは鼻歌を歌いながら部屋から出ていった。

「なんか機嫌いいですねサタンさん?」

「久しぶりに訓練以外で戦ったからじゃないかね。 まああれでも根はしっかり者だから、任せていいよ」

 ラミーアの言われ、とりあえずノエル達は話し合いに戻った。






 サタンは特別牢の前に立つと中の相手に気安く呼びかけた。

「キマリスちゃん元気〜?」

「そう見えるならお前の目は節穴だ」

 魔力封じの枷を付けられたキマリスは不機嫌そうに答えた。

 その額にはサタンのデコピンの風圧によル傷を手当した痕があった。

「そう膨れるもんじゃないよ〜。 弱肉強食の魔界出身なら生き残った運を喜ばなきゃ」

「捕虜にされるなら死んだ方がまだマシだがな。 アンドラスはどうした?」

「近くの特別牢でゆっくりよ。 あっちはあっちで静かになんか考え事してるけどね」

 そう言うとサタンは牢の前にどっかり座った。

「しかし弱くなったね〜キマリスちゃん。 出せる兵隊の数随分減ったんじゃない?」

「・・・全盛期の百分の一だ」

「だよね〜。 最後に出した魔力収束型だって数少ない割に軽かったし、やっぱり魔力が少なくなるとそうなるのかね?」

「魔界を追放されたお前には最早関係ないだろう」

「そうでもないのよ。 それに昔馴染が元気ないとつまんないしね。 キマリスちゃんとも昔散々遊んだしね」

「殺し合いの間違いだろう」

「そんなキマリスちゃんが今ではディアブロちゃんの使い走りか。 やっぱり魔力復活させて昔みたいに強くなりたいの?」

 無言だったキマリスだが、観念した様にため息を吐く。

「私だけではない。 凶刃バギュア。 金剛将軍Dゴーレム。 魔元卿ガープ。 それに魔武総裁ザガン。 皆かつて魔王クラスやそれに準ずる強さの者達がかつての力を取り戻す為にディアブロ陛下に従っている。 四天王達以外にもこれだけの強者が集っているのだ。 いくらお前が付き地上の強者が集おうがそちらに勝ち目はないぞ」

「なるほどね。 連中もまだ生きてたか。 同窓会するには丁度いい面子だね〜」

「お前は相変わらず、どこまでもふざけた男だ」

「ま、おじさん元々魔王とか興味ないし、面白おかしく生きられればいいタイプだからね」

 おどける様に言うサタンだが少し空気が変わった。

「だけど、それでも今回はちょっと真面目に頑張んないとだからね〜。 折角出来た可愛い弟子達死なせなくないし、何よりディアブロちゃんがあれだけ暴走してんのもおじさんのせいでもあるからね」

「? サタン?」

 キマリスが首を傾げると、サタンはまたいつもの調子に戻った。

「ま、というわけで、おじさん今回割とマジなのよ。 キマリスちゃんも、情報くれるなり兵隊使ってスパイする程度でいいから気が向いたら手伝ってちょうだいよ。 自分より強い奴に挑む高揚感まだ覚えてるならね」

 サタンが去ると、キマリスは虚空を見つめながら何かを考え始める。

「アシュタロスちゃん」

 キマリスの牢から離れると、サタンは自身最後の側近の名前を呼んだ。

 すると各国で手伝いをしている筈のアシュタロスが、いつもの不健康な顔で現れ跪いた。

「お呼びですかサタン様?」

「悪いね〜呼び寄せて。 忙しかった?」

「サタン様の後始末に比べたら楽でございます」

 側近の棘のある言葉にサタンは苦笑する。

「実は頼みがあってね。 極上の酒を5本用意するのと、呼んできてほしい連中がいるのよ」

「? 呼んでくる連中、ですか?」

「そゆこと。 久しぶりに会いたくなってね〜。 ディアブロちゃん一緒に倒したら、久しぶりに飲み明かそうと思ってね。 勿論、アシュタロスちゃんも一緒に」

 アシュタロスは少し考えると、ディアブロの言葉を理解する。

 そして跪きながら、小さく拳を震わせ歓喜する。

「御意。 必ず、あの方々をお連れ致します、我が魔王陛下」

 アシュタロスが消えると「魔王になる気はもうないのにね〜」とまた苦笑しつつ窓から外を眺める。

「さてとディアブロちゃん。久しぶりに本気で遊んでみようか」

 不敵な魔王の笑みを浮かべ、サタンはその場を後にした。

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