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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
278/360

蟲との戦い4 決着

「ノ、ノエル王、何故ここに?」

リリィはノエルの腕に抱えられた状態になりながら、驚きを隠せなかった。

確かにノエル達と協力関係は結んだ。

だが近衛が敵となった今自分を助けるメリットはない。

しかも自分はヘラクレスに事実上負けている。

そうなってはもはや女王とも言える立場ではない。

それなのにノエル達が自分を助けた事が、蟲人(むしびと)として生きてきたリリィにとっては予想外の行動だった。

そんなリリィの疑問など気にする様子もなく、ノエルは笑顔で答えた。

「約束しましたよね? 今までと違う強さを彼等に教えるって」

ノエルが今日会ったばかりの自分の語った理想を応えてくれる為に来たと知ったリリィは更に驚いた。

 だが同時に、そこまで誠実に自分と向き合い応えてくれたノエルに、強い感謝の気持ちが芽生える。

「すまぬ。 妾が不甲斐ないばかりに、世話をかける」

 ノエルはリリィに笑顔を返すと、ヘラクレスへと意識を向ける。

 ヘラクレスは突然の乱入者が現れたにも関わらず、変わらず落ち着いた様子で此方を見ている。

「随分余裕じゃねぇか? 俺達なんか問題ねぇってか?」

「いや、そうでもない。 だが好都合でもある」

「好都合だ?」

 リナが首を傾げるとヘラクレスは続けた。

我等蟲人(むしびと)は強者を感じ取る事に長けている。

 お前達が真に強者である事、特にお前が強い事は最初に見た時から理解していた。

 だがお前は後ろの王に従い、今女王の考えに賛同している。

 これは俺達の理解を超える行動だ」

「そうかよ。 だったらどうだってんだ?」

「お前達はここに駆け付けた事で女王の言う我々の強さとは違う強さを示す存在となった。

 だからお前を倒す事で、俺が女王の言う我々とは違う強さとやらに勝つ事。

 そうする事で俺は真に女王に勝利し、新たな王へとなる事が出来る」

 前の王の理想すら完全に潰し勝利する。

 強者を是とする蟲人(むしびと)を体現する様にヘラクレスの完全勝利への拘りをノエル達は感じた。

「じゃあ、僕達が勝てばリリィ陛下は女王のままでいられるという事ですね?」

「ああ。 お前達は女王の理想に賛同してここにいるのだ。 ならばそれは女王の力だ。

 女王の理想が今までの蟲人(むしびと)のあり方に勝利した事になる。

 だから万一俺が負けた時は女王を認めよう」

「いいじゃねぇか。 そういう単純な方が俺は好きだぜ。 なら、かかってッ!?」

 瞬間、リナの額にヘラクレスの拳が当たり鈍い音が辺に響く。

「相手の準備が整うまで待つ程、此方も余裕は無いのでな。 卑怯と言いたければ言うがいい」

「は? 言う訳ねぇだろが」

 ヘラクレスはリナの声聞いた瞬間、全身が重くなる感覚に襲われ地面に押し付けられそうになる。

「な、なんだこれは!?」

「へぇ、初見で50倍の重力で倒れねぇとは、やるじゃねぇか」

 全身に力を入れ踏ん張立ち続けるヘラクレスが見ると、リナは腕を組んで立っていた。

 しかも先程の拳によるダメージは殆どない様子だ。

「じゅ、重力? なんだそれは?」

「今のてめぇじゃ説明してもすぐにはわかんねぇだろ? ま、俺の力だって事だけ言っとくわ。 ついでに、100倍の重力をくれてやる」

 するとヘラクレスの体に更に強い力が加わり膝を付きそうになる。

 体の甲殻がミシミシと音を立てる中、ヘラクレスは決して屈さぬと言う様に100倍の重力に耐え続ける。

「な、何なのじゃあの女は? あのヘラクレスを身動き1つせず圧倒しておる」

「あれが出来る様になったのは最近なんですけどね」

 昔のリナは重力を使う時は手をかざすか体に纏わせる事しかしてこなかった。

 だがサタンとの特訓である程度の範囲なら意識を向けただけで重力を発生させる事が出来る様になっていた。

「あやつは一体、何者なのじゃ?」

「そういえばあまり話してませんでしたね。 彼女は、五魔という戦闘集団のリーダーで、僕の大切な仲間ですよ」

「その辺の説明は事が終わってからでいいじゃねぇかよ。 まずはこいつが先だ」

 ノエル達と会話をする余裕を見せるリナに、ヘラクレスは己とリナの差を痛感する。

 業者なのは理解していたが、ここまで差がある事に気付けなかった自分の甘さを後悔しつつ、それでもこのまま終わる訳にはいかないと力を振り絞る。

「ぐ、ヌオオオオオオオオオオオオ!!」

 体からボキッと言う音が聞こえた瞬間、ヘラクレスは重力を受けながら空中へと飛び上がった。

「おいおい、無茶しやがるな」

 重力に無茶に逆らい飛んだことでヘラクレスの右腕が折れぶらりと垂れ下がっている。

 それでもヘラクレスは100倍の重力を受けながらも空中に留まり続ける。

「体が重くなるなら、それを利用するまで! この程度で倒れては、蟲人(むしびと)の沽券に関わる!」

 ヘラクレスは頭の角をリナの方に向けると、回転しながら猛スピードで突進してきた。

 しかもリナの重力で引き寄せられる力が作用し、その速さは先程リリィに仕掛けたものよりも速くなっている。

「面白え! 来いよ!!」

 リナは両手を前に出すと、正面からヘラクレスを受け止めた。

 衝撃で後ろに飛ばされ手の中で高速回転する角に手のひらから血が飛び散る。

 だがリナは自分に重力をかけ強制的にその場に踏ん張り、両手に力を込める。

 すると勢いは徐々に弱まり、回転は止まった。

「ば、馬鹿な」

「悪いな! てめぇは運がなかったってこった!」

 リナは力を込め、ヘラクレスの角が一本へし折った。

 サタンの特訓を受ける前のリナなら、確実にヘラクレスは強者としてもっと善戦出来ただろう。

 だが特訓を得て強さを増したリナには、もはや通用するものではなかった。

 角を折られたヘラクレスは激痛に顔を歪めながらも、距離を取り尚戦意を失っていなかった。

「もうよしとけ。 一番の武器ぶっ壊されりゃ、もうどう足掻いても勝てねぇのはわかんだろ?」

「・・・何故だ? 何故これだけの強さを持っていてその男に従う? その男は強いのはわかるが、お前の方が上の筈。 なのになぜ?」

 リナの言葉を理解しながらも、ヘラクレスはまだ納得がいっていない様子でノエルを指さす。

 リナは「んな事か」とノエルに視線を向ける。

「別に従ってる訳じゃねぇよ。 俺はこいつが気に入ってるから一緒にいるんだよ」

「気に入ってる? それだけか?」

「そういうこった。 俺より強くても、気に入らねぇ奴と一緒になんかいたくねぇしな。 てめぇはどうなんだよ? 気に入らない奴の下に付きたいのかよ?」

「そんなものは問題じゃない。 上に立つものが強ければ種が保てる。 それが全てだ」

「意外とめんどくせぇなお前。 強いだけの奴なんて、つまんねぇだけなんだけどな」

 リナの言っている事はヘラクレスを含めた蟲人(むしびと)の常識ではあり得ない事ではあった。

 好き嫌いで王を決める。

 それで種を護れる程世界は甘くない。

 これ程強い者がそれを理解していないとは思えない。

 それなのにリナは気に入ったと言う理由で弱者に従ってる。

 混乱するヘラクレスに、ノエルが語りかける。

「僕は別に上に立っているつもりはないんです。 ただ、大事な人達の力になりたいって思ってて、その為に自分の出来る事をしているだけなんです。 リナさん達はそんな僕に力を貸してくれているんです」

「誰かの為に、何かを」

 ヘラクレスはそこで、リリィを見る。

 リリィはこの国の為に自分に何が出来るかを考えていた。

 その結果、ノエル達外部の者達と交流を持ち取り入れる事を選択した。

 そんなリリィの姿は、長年共にいるヘラクレスにとって好ましく感じていたのは確かだった。

「(他者の為に自分に出来る事を必死にやる事で周りが付いてくるか。 考えた事もなかったが・・・)リリィ陛下」

「な、なんじゃ?」

「もう一度聞こう。 貴女はなぜ俺に毒針を使わなかった? 配下とはいえ反逆者は消すのが道理だが」

「例えそうでも、妾の民を無闇に殺す事はせん。 そしてそちも妾が護るべき民の一人じゃ」

 迷いなくそう言い切るリリィに、ヘラクレスは静かに戦意を解いた。

「ヘラクレス?」

「・・・俺の負けを認めよう。 どうやら、民の事を本気で考えていたのは、貴女の様だ。 約定通り、俺は貴女の言う新たな強さに従おう」

 頭を垂れるヘラクレスに対し、リリィはノエルから離れるとその近くに歩み寄った。

「此度の事は不問にする。 妾はノエル王と共に新たな道へと進む。 そちもその為に力を尽くせ」

「はっ」

 こうして近衛による反乱はノエル達の手により終わりを迎えた。

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