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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
275/360

蟲との戦い1


 マンティは近衛の中では知略の人としてその力を振るっていた。

 元々擬態を得意とし奇襲を得意とするカマキリの蟲人(むしびと)だけあり他者を追い詰める策略は彼の真骨頂であった。

 それは女王の命により己の心の中の衝動に正直に生きる様になりより磨き抜かれた。

 視野が広がり戦闘以外でもその知略を活かし、元々自分が持つ性質以上に蟲人(むしびと)の発展に貢献した。

 それはある意味リリィの望んだ結果を体現したと言ってもいい成果だった。

 だが、視野が広がれば違う考えも浮かぶ。

 それは下剋上のやり方。

 今までは単体でその時の王と戦い純粋に強い方がまた王として君臨した。

 マンティは戦闘力でも他の近衛と渡り合える力を持っていたが、それでも確実にヘラクレスには敵わない。

 更に女王リリィのフェロモンを防ぐ術をマンティは持ってはいない。

 普通に考えれば王には到底なれない立ち位置だ。

 だがもし誰かと組めばどうなる?

 誰かと共に王に勝てばそれはその者を動かせた自分も王とてし、もしくはそれに近い地位に付く資格を得る事が出来るのではないか?

 そう考えたマンティは早速ヘラクレスを自分の陣営に引き込む様に動いた。

 ヘラクレスを王にし、それを見抜いた自分がナンバー2として君臨する。

 それがマンティの描いた絵図だった。

 更にポネラを引き込み、万一オブトが来なくとも十分女王と戦える人員を揃えた。

 そして女王の目が外からの客人に向いている間に兵を揃えオブトを拘束し全ての準備は整った。

 外の世界を脅かしている魔族とやらもその客人達の首を持っていき交渉すれば、少なくとも蹂躙される事なく国を存続させる事は出来るだろう。

 そう考えたマンティは自身に満ち、計画を実行した。

 

 だがその自信も目の前の光景に揺らぎ、マンティを混乱させた。

 千を超える自分達の兵がたった二人の異国の戦士に食い止められている。

 聖王を名乗るエミリアと言う剣士の高速の剣に、武王の部下を名乗るアシュラという拳士の柔の拳で、精鋭である筈の蟲人(むしびと)の兵達が次々に倒されていく。

 既に百人以上の兵が倒されている。

 しかも死なぬ様に手加減されてだ。

 なのにこの二人は息を乱す事すらしていない。

 強い事は察していたが、それはマンティよ予想を遥かに超えていた。

「流石聖王アーサー殿。 洗練された動き、見事です」

「あなたもね。 ラバトゥ最強の戦士と言われているだけあるわ。 でも、流石にこの人数は面倒ね」

「殺さぬ様に加減しなくてはなりませんからね。 大技を使う訳にはいきませんし地道にやるしかないでしょう」

 今のエミリアなら、この人数でも一人で短時間で倒し切る事は可能だろう。

 だが蟲人(むしびと)を味方に引き込む為に来ている今、彼等を殺して戦力を減らす訳にはいかない。

 ましてや魔族には死者を操るタナトスがいる。

 ここで彼等を殺せば死者てして敵の手に落ち、戦況が不利になる。

 そうしない為にも殺さぬ様に手加減をしながら戦わなければならない状況なのだが、正直それはかなり面倒だった。

「お困りの様ですね」

 声と共に轟音が鳴り響くと、地面から片手のドリルを回転させながらガンマが出現した。

 更にアルファとベータも現れ、エミリア達の前に立った。

「あら、来てくれたのね」

「ま、上司にばっか戦闘させる訳にもいかねぇし、そろそろ俺達も偵察以外の見せ場が欲しいって話だ」

「ベータ。 口を慎め」

「構わないわ。 そっちの状況は?」

「現在あちらに付かなかったオブトを救出し、協力者ウィドウが手当をしています。 回復し次第こちらに駆け付ける事になっており、私達はその先駆けとして参りました」

「そう。 じゃあお言葉に甘えて雑兵は任せるわ。 私達は向こうのボスを倒すから」

「お任せを。 道は我らが開きます。 ガンマ!」

 アルファの号令にガンマは左手のドリルを回転させながら飛び出し地面に刺した。

 そして力を込めると地面に衝撃波が走り、その衝撃で地面が隆起し兵隊達を吹き飛ばしていく。

「これはまた、豪快ですね」

「パワーアップしてるのはあんたらだけじゃねぇってこった。 俺達もギゼル様に強化改造されてね。 その力発揮したくてウズウズしてたんでさ!」

 ベータは踵から車輪を出現させると一気に兵達との間合いを詰めた。

 手に持つ槍の刃をノコギリの様に回転させ、兵達の間をすり抜ける様に切っていく。

「安心しな。 加減はしといてやったよ」

 かつてリナに善戦した腕は健在と見せつける様にカッコつけるベータにアルファは呆れた様にこめかみを抑えた。

「調子に乗り過ぎよもう。 まあ、今回はノリに合わせてあげるわよ」

 そう言ってアルファは背中から巨大な銃を二丁取り出した。

 それは魔甲機兵団第三部隊隊長イプシロンが使っていた連射式大口径銃を(れんしゃしきだいこうけいライフル)だった。

「出力は抑えておいてあげる。 その代わり新しい武器の試運転に付き合ってもらうわ」

 轟音と共に撃ち出された魔力弾は正確に命中し、兵達は次々に倒れていった。

「これは、なかなか強力ですね」

「私達が修行している間、彼女達も必死に強くなってたって事ね」

 より強力になった3人の姿に安心したエミリアは兵達を完全に任せる事にし、マンティ達に視線を向けた。

「じゃあ、私達はあの二人を」

「私はあの蟻の方を。 エミリア殿はカマキリの方をお願い出来ますか?」

「任せて。 早く終わらせてノエル君達に追い付かないとね」

 エミリアは速度を上げ、兵達の間をすり抜け一気にマンティに間合いを詰める。

 急に接近してきたエミリアに驚きながらも、マンティはエミリアの剣を両手の鎌で防いた。

「あら、あの速度を受け止めるのね」

「生憎ですが、私の目はあらゆる角度のものを見通すのです! そして近衛が一蟲マンティの鎌は、鉄すら切り裂くのです! キエエエエエエ!!」

 鎌で連続で切りかかると、周囲の壁や床がバターの様に簡単に切り裂かれていく。

 エミリアがそれを剣で受け流しながら応戦する中、マンティは必死に頭の中を整理した。

 この事態はマンティにとって完全に計算外だった。

 触れずに相手を押しつぶす力。

 見たこともない武器を持つ兵士達の乱入。

 千人を超える兵相手に正面から渡り合える戦士達。

 全てマンティの理解を超えるものであり、それが外の世界を知らないマンティの限界でもあった。

 だがそれでもマンティはそれらの事実を受け止めた。

 思考の停止は敗北を意味すると感じたマンティは必死に鎌を振るいながら打開策を考える。

 とにかく今この場で最も強いのは目の前のエミリアだ。

 彼女を討ち取ることが出来れば他の者に動揺が走る。

 その隙を付けばまだ自分達に勝機はある。

 幸いマンティの目はエミリアの速さを捉えられている。

 このまま切り合い続け僅かな隙を見極めれば。

 そう思った瞬間、エミリアの姿が消えた。

「なっ!?」

 鎌が空を切りつんのめりそうになりながらマンティは大勢を整え周囲を見渡す。

 だがエミリアの姿は捉えられなかった。

(擬態か? いやそんな筈はない! 人間に擬態の機能はない筈! ならばこれは・・・)

 思考を巡らせる中、マンティの横を静かに風が通った様な感触がした。

 マンティが振り返るとエミリアがおり、ゆっくりと剣を鞘に戻した。

「悪いわね。 もう斬っちゃった」

 瞬間、マンティの体の各所に無数の傷が出現した。

 いつ斬られたのかも何もわからなかったマンティは膝から崩れ落ちながら漸く理解した。

 エミリアが目にも写らないほど速かったということを。

「まさ、か、私の目ですら、影すら見えない速さが・・・」

 自分の認識を遥かに超える強さを体験したマンティの意識は、ジブンの認識の甘さを理解しながら闇の中へと落ちていった。

「残念だったわね。 少し前の私とならもう少しまともに戦えたのに」

 エミリアは気を失ったマンティにそう語りかけながら自分の力が上がっている事を改めて実感した。

 そしてエミリアは早くノエル達の元に駆け付ける為アルファ達に手助けしにまた兵達に向かっていった。


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