女王リリィ1
ノエル達はオブトとポネラ二人の蟲人と捕えられ蟲人の住処であるオアシスへと連行された。
両手を蜜の様な物で固められてはいたが、今のノエル達なら簡単に解くことが出来た。
だがアルファ達の言葉に従い、敢えて反抗はせず黙って捕られられた状態で二人に付いていく。
オアシスの周りの森には蟲人の住居と思われる物があり、蟻の巣の様に土を大きく盛り上げたものや木の上に草や枝を使い造られた物など種類は様々。
そしてそんな場所に住む蟲人達も蝶やトンボ、アメンボやムカデと様々な虫の特徴を持ち住居並に多種多様だった。
そんな様々な姿をした蟲人だが、統一性のない姿と違いしっかり統率されそれぞれの役割を果たしていた。
皆他の事には目もくれず自分の役割となる仕事をし、雑談や遊んでいる者は誰もいなくどこか無機質に働き続ける。
個性的な見た目とは裏腹に無個性な、まさに役割を果たす為に生きているという情報通りの光景だった。
そんな光景を見ながら進むノエル達の前に一際大きな建物が目に入る。
中に入ると蜂の巣の様な六角形の部屋で隙間なく埋め尽くされている。
その中の一際大きな部屋に通されると、そこには色とりどりの花が床に植えられ、どこか甘い香りが漂っていた。
そしてその奥に金色の玉座が置いてあり、そこに一人の女性が座りその両脇に二人の蟲人が立っていた。
両脇にいる蟲人の片方は両手が鎌になっており大きな2つの目を持つカマキリの蟲人、もう片方は甲冑の様な甲殻に覆われ頭には前後左右に立派な角を持つカブト虫の蟲人だった。
オブトとポネラはその玉座の前に跪いた。
「女王リリィ陛下。 近衛四蟲が一蟲、東の守り手オブト、御前に推参いたしました」
「同じく北の守り手ポネラ、御前に」
オブトは先程の粗野な態度から一変し忠実な騎士の様に礼節ある態度で女王に言葉を述べると、ポネラもそれに続いた。
「苦しゅうない。 面を上げよ」
女王リリィの言葉にノエル達は顔を上げ改めてその姿を見る。
リリィは他の蟲人に比べると人間に近い姿をしていた。
足や胴に蜂の様な黒と黄色の縞模様を持ち、背中には半透明の羽、頭には2本の細い触覚がある。
黄色い髪と瞳を持ち、その顔は女王と言うより少女の様な幼さが残っている。
だがそんな顔と違い表情は凛としており、蟲人を率いる女王としての威厳を醸し出していた。
「その者達が、異国より来た王とかいう者達か」
「ハッ。 不敬にも女王陛下に拝謁したい等と申す不届き者達にございます。 許可を頂ければ今すぐ処断致します」
「良い。 許す。 その王という者の話を聞こう」
「しかし陛下、こいつらは無断で我等が領域に侵入した無法者! 陛下と言葉を交わす権利など!」
「構わぬ。 それに仮にも王を名乗る者じゃ。 無下にするは妾の女王としての程度が知れるというものよ」
リリィはオブトをそう宥めるとノエルの方を向いた。
「妾はこの国の女王リリィ。 改めて名を聞こうか異国の王よ」
「プラネ王、ノエル・アルビアと申します」
「ふむ。 ではノエル王。 そちはこの国に何用で参った?」
「貴女方と同盟を結ぶ為に来ました」
ノエルの言葉にカマキリの蟲人は興味を持つ様に「ほぉ」と呟き、オブトは怒りノエルの襟を掴む。
「てめぇ何を女王陛下に無礼な盲言を吐きやがる!! 同盟だと!? 我等が女王陛下と対等に同盟等身の程知らずも・・・」
「オブト」
リリィが声をかけると、部屋に入った時感じた甘い香りが少し強くなった。
そしてオブトは我に還った様に慌てて跪く。
「そなたの忠心は妾もよく理解している。 じゃが今は妾がこの者と話しておる。 少し気持ちを抑えてくれぬか?」
「ハッ。 申し訳ありません、女王陛下」
オブトはノエルの事など既に眼中に無く、ただただリリィの前で無礼を働いたと後ろに下がった。
この様子にノエルはオブトの忠誠心の強さと、リリィの絶大な影響力を感じた。
「話を遮りすまなかったな。 して、何故我等との同盟を望む?」
「今この大陸は魔族の侵攻を受けています。 それに備え各国が手を取り合い魔族を迎え打とうとしています」
「その戦列に、妾達蟲人も加われと?」
「はい。 既にこの大陸で大国と言われたセレノアという国が魔族により滅ぼされました。 更に魔族は従わせた国から生贄を定期的に差し出させています。 もしこのまま魔族が大陸を支配すれば、この国も今の平和を保つ事は不可能です」
リリィは静かに何かを思案すると、先程のカマキリの蟲人に視線を向けた。
「マンティ。 周辺の警備を増やしておけ。 こやつらの話が真なら、警戒しておく必要はあるじゃろう」
「ふふふ、お任せください。 して、こやつらの処遇はどういたしますか?」
「こやつらの言葉が真に信じられるものか、更に見聞をせねばなるまい。 妾の部屋へと連行せよ」
その言葉にオブトはまた飛び出しそうになるが、先程の失態を思い出しノエルを睨みつけるのみに留めた。
「案ずるなオブト。 ヘラクレスが共におる。 そなたはポネラやマンティ達と共に警戒を強めておけ」
「ハハッ!」
「御意」
オブト達が下がると、リリィは静かに立ち上がった。
「さて、こっちじゃ。 ゆるりと付いて参れ」
リリィの後ろにヘラクレスが続き、ノエル達もその後を付いていった。




