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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
五魔捜索編
27/360

聖五騎士団


 ダグラ国、かつてアルビアの南東に位置した大国の1つであり、その国土の大半がアルビアから奪い取ったものだ。

 屈強な兵士達が集うその国は、アルビアの多くの領土を侵略した。

 このまま中央もと意気込んでいたダグラの当時の王、ハイル・ダグラだったが、その野望は五魔によるダグラ国滅亡と自身の死いう形で幕を閉じた。

 今ではその息子、ルイス・ダグラ率いるダグラ国再興連という反アルビア組織がなんとか自国復活に向け活動している。

 そしてついに、ルイス・ダグラは旧ダグラ国の最硬堅固の砦、ダース砦を奪取した。

ルイスは歓喜した。

 ここを足掛かりに旧ダグラ勢力、また他の反アルビア勢力を取り込み、アルビアを潰す、それがルイスの野望だった。

 だがそれもここまでだった。

 何故なら、ルイスの行為が現アルビア国最強の5人を呼び寄せる事になってしまったからだ…。






「相変わらずゴツい砦じゃの~」

 ダース砦を遠くから眺めながら、聖獣ミノタウロスこと、ラズゴートは呟いた。

 今はノエルと会った時とは違い戦用の姿だった。

 と言っても、利き手でない左腕に肩まで伸びる大きな小手をしているだけで後は上半身裸。

 あとは左右に大きく伸びた角と、目元を隠す装飾が付いたバイキングヘルムを付けているだけだった。

 最も、その肉体が筋肉の鎧と呼べるほど屈強なため、鎧は必要いようにも見えたが。

「なんだジジィ? 怖じ気づいたか?」

 ラズゴートの隣でそう話す柄の悪い男こそ、聖竜ニーズホッグことガルジである。

 逆立った灰色の短髪に尖った歯を持ち、目付きは凶悪と、とても聖竜という名が似合わない風貌の男だ。

 それもそのはず。

 実はこの男、元盗賊である。

 盗賊として各地を暴れまわっていた所をアーサーに倒され、その実力を見込まれ聖五騎士団にスカウト。

 のち実力で現在の地位へと登り詰めた男だ。

「がっはっはっ! 相変わらず口が悪いの~ガル坊!」

「てめぇ! その呼び方止めろってんだろ!!」

「すぐムキになりよって! 可愛い奴よ!」

 ラズゴートはガルジの態度に気を害する事なく、むしろこうしたガルジとのやり取りを楽しんでいた。

 豪快に笑うラズゴートに、ガルジの額に青筋が立つ。

「ジジィ、あの砦潰す前にてめぇをぶちのめしてやろうか?」

「がっはっはっ! いいだろう! 準備運動がてらやるか!」

 楽しそうに腕を回すラズゴートをガルジは睨み付ける。

「だったら、バラバラにしてやるよ~!!」

 ガルジは飛び上がり、ラズゴートに拳を見舞う。

 ラズゴートもそれに対抗しようと拳を振るう。

 だが二人の拳はぶつかることはなかった。

「ケンカ・・・だめ」

 二人の間に割って入った小柄な少女が、その体に見会わぬ巨大な盾を両手に付け、二人の拳を止めていた。

「てめぇクリス! 邪魔すんじゃねぇ!!」

「だめ。 仲間でケンカ」

「がっはっはっ! わしらの拳を受け止めるとは、流石嬢ちゃん!」

 怒るガルジと笑うラズゴートに対し、クリスの反応は薄かった。

 彼女は聖盾(せいじゅん)イージスことクリス。

 青い髪の可愛らしい外見だが表情が乏しく、何を考えているかわかりづらい部分がある。

 だが実力は高く、それは本気ではないとはいえラズゴートとガルジの攻撃を同時に受け止めた事からもよくわかる。

「まあ安心せい! わしらケンカなんぞせん!」

「本当?」

「ああ! 勿論じゃ!」

「てめぇジジィ! 俺はまだ」

ぐぅ~

「・・・お腹へった」

 食って掛かろうとしたガルジを遮るように、クリスのお腹の音が鳴った。

「がっはっはっ! よしよしわかった! 後でハルナの肉料理食わせてやるから、それまで我慢しとれ!」

「!本当?」

 クリスは先程とは見違えるように目を輝かせる。

 もし尻尾があれば喜んで思い切り振っているだろう。

 ガルジはそれを見て「くっだらねぇ」と呟きやる気を無くした。

「ふふふ、相変わらず仲がいいみたいですね」

「アーサー」

 ギゼルを伴いやって来たアーサーに、クリスはとてとてと近寄る。

 アーサーはその頭を撫でるとガルジを見据える。

「やあガルジ。 調子はどうですか?」

「そこのガキに邪魔される前はよかったんだがな」

「がっはっはっ! 相手ならこの戦が終わったらいくらでもしてやるわい!」

「なるほど。 まあ血の気が多いのは結構ですが、今は作戦の前です。 どうしても暴れたいなら、砦の者達とやりなさい」

「ちぃ」

 ガルジは舌打ちしながらも素直にアーサーの言葉に従った。

 それはガルジもアーサーの実力を認めている証拠でもあった。

「さて、では作戦を説明しましょうか。 ギゼル殿」

 アーサーに促され、ギゼルは水晶を取り出すと砦の立体映像を写し出した。

「簡単に説明すると、現在ダース砦にはルイス・ダグラを含むおよそ3000人の反乱分子がいる。 皆かつてのダグラ軍の生き残りで、中には親衛隊隊長のダルクス将軍もいる」

「ダルクスか! 昔やり合ったがなかなか歯応えのある奴だったぞ!」

「ええ。 隊長将軍はメイスの使い手として知られた手練れです。 今も砦の総指揮を行っている様です」

 普段尊大なギゼルも、ラズゴートには敬意を払うように説明した。

「更に、砦は魔術師により結界が四方に張り巡らされている。 よって遠距離からの魔法は意味をなさない。 それどころか、侵入すら難しい」

「んなもん。 俺がぶっ壊せば済む話だろ」

「それもいいが、今回は私がなんとかしよう。 その後西の側面から侵入、無力化しつつルイス・ダグラを捕縛、といった流れですかね。 ラズゴート殿、結界が消えた後、道をお願いできますかな?」

「お安いご用だ! がっはっはっ!」

「うむ、砦に侵入してからは各自好きに暴れてくれて構わない。 これでよろしいかなアーサー殿?」

「ええ。 1つ付け加えるなら、出来るだけ生け捕りに。 特に文菅等知識を多く持っている者はね」

「んだよ? またあの裏切ったおやじみたいに引き入れるのかよ?」

「そんなことはしませんよ。 アルベルト殿は別格でしたから特別に許可したんです。 彼らには別の使い道があります」

「ふ~ん」

 どこか納得いかないようだったが、ガルジはそこで引き下がった。

「では、以上で説明を終えるが何か質問は?・・・こらクリス! 何を寝ている!?」

「ふぁ? ご飯?」

 説明が長かったのか、クリスは器用に立ったまま涎を垂らし居眠りをしていた。

「貴様と言う奴は、毎度毎度私の話を」

「まあまあそう怒るなギゼル。 とりあえず、結界が消えたら砦で暴れてこいって話だ。 わかったか?」

「うん」

 ラズゴートの言葉に素直に頷くクリスに、ギゼルは諦めた様にため息を吐く。

「というわけで、これより作戦を開始します。 目標はダース砦の解放と旧ダグラ勢力の無力化です。 皆、よろしくお願いします」

「「ハッ!」」

「はぁ~い」

 ラズゴートとギゼルはキリッと、クリスはのほほんと返事をし、ガルジは憮然としながらそれぞれの持ち場に散っていく。

 聖五騎士団再興幹部の5人による制圧作戦が、今始ろうとしていた。






 ルイス・ダグラは砦の奥でワインを片手に笑みを浮かべていた。

 現在聖帝の部隊が攻めてきている事は知っている。

 警戒し兵の配備も済ませた。

 だが確認された敵はたったの5人。

 舐められたものだと思いながらも、これはある意味チャンスだと思った。

 仮にも聖帝の軍だ。

 いくらなんでも只の兵士を5人だけ送り出す事はない。

 となれば、なにかしら特殊な力、もしくは高い能力を持つ者であり、聖帝がある程度信頼している筈だ。

 ならばそれらを打ち破るか捕らえて目の前で処刑すれば、それはダグラ復活の狼煙となり、聖帝の力がまやかしである事を示すアピールになる。

 そうなれば聖帝に不満を持つ勢力を吸収するのは容易くなる。

 上手くいけば聖帝に対する不信感を抱かせる事も可能だ。

 ルイスは自分の敗北など微塵も感じていない。

 たった3000人だろうがこの10年必死に集め、鍛え抜いた最強の軍。

 万一敗れる事があるとすれば、それは五魔を相手にした時くらいだと思っている。

 あの様な圧倒的な力を持つ者等いるはずがない。

 ルイスはこの戦いに勝利することを夢想しワインを口にした。

 だが、その時轟音が鳴り響く。

「何事だ!?」

 ルイスが驚く中、伝令の兵が駆け込んでくる。

「も、申し上げます! 結界が破られ、砦内部への侵入を許しました!」

「なんだと!?」

 ルイスの顔に同様が走った。






「全く、なんとも単純な術式だ」

 ギゼルはやれやれと首を振りながら片眼鏡型の分析機で結界を解析した。

 確かに表面からの攻撃には強い。

 だがそれだけだ。

 術式を解析し解除すれば簡単に解ける。

 直接的な攻撃ばかりに目がいき、自身の術を解除されることなど欠片も想定していない、単純かつ不完全な結界。

 無論、本来は術式の解析などそんな簡単に出来るものではないのだが、ギゼルにとってこの程度の結界を解くのは児戯にすらならなかった。

「貴様らごときが私の研究の邪魔をするなど、千年早いわ!」

 ギゼルが小さな魔力を放つと、砦を覆った結界がガラスの様に粉々に砕けた。

「がっはっはっ! ギゼルもやりおるのう!」

 ラズゴートは粉雪のように舞い散る結界の欠片を見ながら笑った。

「さて、荒事はお任せしてよろしいでしょうか?」

「うむ! 心得た! 後はこっちに任せとけ!」

 ラズゴートはギゼルに言うと斧を上段に構え力を込める。

「どおりゃ!!」

 そのまま地面に勢いよく斧を叩き込む。

 瞬間、大地が轟音と共に隆起する。

 隆起した大地は槍のごとく砦に向かい、頑強な砦の壁を粉砕する。

「相変わらずとんでもない力ですね」

「そうでもない。 昔に比べると寡言が難しいわ! がっはっはっはっ!」

 豪快に笑うラズゴートに、ギゼルは苦笑する。

「っと、うかうかしとれん! ガル坊達においしいとこ持ってかれる!」

 ラズゴートが慌てて砦に向かうと、そのはるか先で既にガルジとクリスが走っていた。

「ヒャ~ッハハ~!! 漸く暴れられるぜ!」

 ガルジは凶悪な笑みを浮かべながら疾走し、クリスは重い盾を持っているとは思えぬ速度でそれに付いていく。

「怯むな! 敵は二人だ! 射て射て~!!」

 敵の指揮官の命により、砦の屋上から大量の矢と魔法による炎弾がガルジとクリスに降り注がれる。

 それらは着弾すると大きな爆煙を上げた。

 確実に何発かは当たっている、敵の指揮官はそう思いながら着弾点を見下ろそうとする。

 だが目に飛び込んできたのは、煙を突き抜けて砦の屋上まで跳躍してきたガルジだった。

「ば、馬鹿な」

「ヒャ~ッハハ~!!」

 ガルジが腕を振るうと、指揮官の前面を切り裂いた。

 仰向けに倒れた指揮官には、鋭利な刃物で斬られた様な5本の傷が縦に付けられていた。

 だがそれ以上に兵士達が驚いたのはガルジの姿だ。

 ガルジはあれだけの炎弾や矢を受けたにも関わらず全くの無傷。

 それどころか、体が赤い鱗の様なものに覆われ、両手は爬虫類の様な鋭い爪が生えており、とても人間のものではなかった。

 ガルジは蜥蜴人(リザードマン)と呼ばれる亜人だ。

 先祖に竜を持つと言われる古い一族であり、その鱗と爪の硬度は魔力の籠った最高硬度の鉱石、魔鉱に匹敵すると言われている。

 無論防御力も魔鉱レベルであり、生半可な攻撃では傷すら付けることは出来ない。

「さててめぇら、一応聞くが、降伏すっか?」

 ガルジに睨まれ思わず怯んだ兵士達だったが、指揮官を殺された事もあり敵討ちとガルジにかかっていった。

「上出来だ!」

 ガルジは再び凶悪な笑みを浮かべ向かってきた兵士達を切り裂いていく。

 鮮血が飛び散り、ガルジの爪が鱗と同じ赤へと染まる。

「ヒャ~ッハハ~!! そうだ! もっと来い! 俺をもっと楽しませろ~!!」

 屋上はガルジの笑い声と兵士の断末魔に包まれた。






「ぐ、まさか一気に屋上まで。 急げ! すぐ増援を向かわせろ!」

 突き刺さった大地による負傷者を助け出していた部隊の隊長は、ガルジの行動に呆気に取られながらもすぐ平静を取り戻し指示を出す。

 余りにも目まぐるしく動く戦況に内心動揺しながら己の責務を全うせねば。

 そう思った瞬間、目の前の部下の表情が変わる。

「隊ちょ・・・」

 言葉が言い終わるより前に振り向くと、爆煙からもの凄い勢いで飛び出しきた少女が、左手の巨大な盾を自分に振るった。

 隊長は反応しきれず顔面に直撃し吹き飛んだ。

「ガルジ、ズルい・・・ぼくあんなに飛べないのに」

 クリスは屋上の方を見上げながら文句を言った。

 余りの出来事に呆然とした兵士達だが、すぐ我に帰りクリスに襲いかかる。

 クリスは両手の盾を巧みに使い、剣を折り、槍を止め、鎧を砕きながら兵士達を倒していく。

 その動きはまるで両手の盾がないように軽やかだった。

「貴様~!! よくも我が同胞を!!」

 そんなクリスの前に立ちはだかったのは2メートル近くある全身鎧(フルアーマー)の大男だった。

 まさに大人と子供といった程の身長差にも関わらず、クリスは動じず大男を見上げていた。

「うわぁ、おっきい」

「くたばれ小娘~!!」

 大男は持っていた巨大な鉄根をクリスに降り下ろした。

 クリスは盾でガードするが、その威力に床が大きく陥没する。

「ふん! 見たか小娘! 我らダグラの兵こそ、真の強者・・・」

「あ~ビックリした」

 大男は驚き鉄根の下を見ると、陥没した床でクリスは平然と盾を構えながら立っていた。

「おじさんおっきいし、力あるね。 頭もおっきいから、いいのかな?」

「ふ、ふざけるな~!!」

 クリスの問い掛けに激怒した大男は再び鉄根を降り下ろした。

だがそれはクリスに届かなかった。

 鉄根はクリスの盾により、見るも無惨に砕け散ったのだ。

「ば、馬鹿な・・・俺の鉄根が・・・」

「あ~ごめん。 これ、魔硬っていうので出来てるから固いんだ。 スッゴく重いし・・・でもね、慣れると使いやすいよ」

 そう言うとクリスは盾の側面で大男の右肩を叩いた。

 ボキッ!と嫌な音が響くと、右肩はぶらんと垂れ下がる。

「う、うわあああああ!?」

 大男は絶叫し痛みに悶える。

 よく見ると盾の側面は刃になっており、それで大男の鎧を斬り、肩を砕いたのだ。

「やっぱり切れ味悪いや。 ガルジみたいに、スパッといかない。 ・・・まだやる?」

 大男は自分より圧倒的に小さなクリスに恐怖し、首を横に振った。

「よかった。 アーサー、褒めてくれるかな」

 クリスは嬉しそうに小さくクスリと笑った。






「ひゃああああ!?」

「がっはっはっ! もっと来~い!!」

 ガルジとクリスに遅れて砦に入ったラズゴートは、砦の壁を壊しながら前進していく。

 それを止めようと多くの兵士が群がるが、ラズゴートは兵士達を簡単に薙ぎ倒していく。

「がっはっはっはっ! 随分軟弱じゃの~! ん?」

 ラズゴートはある気配を察し進撃を止めた。

 すると、両手に巨大な2本のメイスを持った男が現れた。

「これは懐かしい顔だな。 獣王、いや、今は聖獣だったか?」

 褐色の男はそう言いながら鋭い眼光をラズゴートに向ける。

「お前さんも健在そうじゃの、ダグラス」

 ラズゴートも先程とは違い静かな笑みを浮かべる。

 かつて戦場でまみえた旧敵との対峙、自然とその場に緊張感が漂う。

「まだダグラに遣えとるとは、相変わらずだな」

「我が家は代々ダグラ王家に遣えてきた。 裏切るなどありえん」

「全く羨ましいこった。 わしなんか主が滅びたのに生き長らえとるんだからな」

「よく言うわ、自ら裏切ったくせに。 なあ裏切りの獣王?」

 その言葉に、ラズゴートの目付きが変わる。

「ふん、やはり噂は本当か。 貴様とやり合って10数年、どうやらかの獣王を腐らすには十分だったようだ」

「ふふ、随分安い挑発だの~ダグラス。 お前さんこそ、狡い手を使う様になったじゃないか」

「進歩した、と言ってほしいな。 だが安心しろ。 そんなに羨ましいならこの場で送ってやる。 あの悪しき魔帝のいる、あの世へな!」

 ダグラスはメイスを振るいラズゴートに突進していく。

 重量級武具に当たるメイスを体の一部の様に振るいながら、ラズゴートに叩き込む。

 ラズゴートはそれを必死に受け止め防いでいく。

「どうした!? 腕まで腐ったか!? ならさっさと逝け! あの最悪の王の元へな!」

「黙らんか喧しい!!!」

「!?」

 ラズゴートは一喝すると共にダグラスを吹き飛ばした。

 ダグラスは砦の壁に激突し吐血する。

「ぐ、腐っても獣王か。 だがこの程度・・・!?」

 ラズゴートと目が合ったダグラスは思わず怯む。

 その目は怒気に満ちており、普段の豪快なラズゴートのそれとは別物だった。

「ダグラスよ、お喋りが過ぎたな。 わしのことはどう言っても構わん。 すべて真実じゃからな。 だが・・・」

 そう言いながらラズゴートは斧を上段に構え、筋肉を隆起させていく。

「あ、あああ!?」

 ダグラスは本能的にまずいと感じラズゴートを止めようと突撃した。

「かつての主への無礼は、決して許さんぞ!!!」

 ラズゴートは斧を振り下ろすと、ダグラスを爆風の様な衝撃が襲う。

 ダグラスの鍛え上げられた肉体は無惨に砕け、後ろの壁と共に粉々になった。

「よかったの。 主の為に死ねてな」

 ラズゴートは唯一残ったダグラスのメイスをダグラスが粉々になった場所に置き、その場を後にした。






 ルイスから先程までの余裕は消え去っていた。

 どんな猛者であろうと3000人が5人に劣勢になるなどあり得ない。

 だが現実は結界が破られ、砦に穴を開けられ、兵士達は蹂躙されている。

ルイスは苦悶の表情を浮かべた。

「認めたくないが、敵は五魔と同等、それ以上か・・・」

「ほぉ、なかなか鋭いですね。 もう少し早く気付いていればよかったのですが」

「!? 誰だ!?」

 ルイスが立ち上がると、正面の扉がゆっくり開いていく。

 そこに現れた金色の騎士は静かに、かつ堂々と歩いてくる。

 それはまるで自身がこの砦の主であるかのような風格と気品を感じさせた。

「き、貴様! 何者だ!?」

 問われた騎士、アーサーは口元に小さく笑みを浮かべた。

「お初にお目にかかります。 聖五騎士団最高幹部、聖王・アーサーと申します」

 敵とはいえ一応王族ということで、アーサーは丁寧に自己紹介をした。

「聖五騎士。 なるほど、通りで。 ふふ、対五魔として選ばれた5人が相手だったとは」

 落ち着きを取り戻したのか、ルイスはアーサーを前にいつもの様に振る舞った。

「おや、ご存知だったとは意外ですね」

「情報収集は戦の基本だ。 だがまさか、こんな場所に出張ってくるとは思わなかったぞ」

「本来なら私達が出ずともよかったのですが、この砦を落とすとなると人員も時間もかかりすぎます。 なので、一番犠牲が少なく、それでいて早く済む方法として私達が来たわけです」

「涼しい顔でぬけぬけと」

 だが今の状況から、ルイスはアーサーの言葉が真実であると認めざるおえなかった。

「さて、ルイス・ダグラ殿。 すぐ降伏してくだされば、私達もこれ以上の戦闘は止めます。 そちらの能力次第では、聖帝陛下の役に立つ事も出来ますが、どうします?」

 アーサーの降伏勧告に、ルイスは突然笑い始める。

「ふ、ふふ、ふふふ、ふははははははは! ふざけるな! 我こそ由緒正しきダグラ王家の末裔! その私が、ポッと出の名ばかり聖帝等に使えるなど、断じてありえん!」

 ルイスの言葉に、アーサーはぴくっと反応した。

「陛下が名ばかりですか。 面白い冗談ですね」

「冗談なものか! 奴に魔帝程の力はない! その証拠に、奴は五魔を恐れている! 貴様らを組織したのがいい証拠だ! かつて破った者を怖れる様な腰抜けに、王の資格などないわ!」

 途中から得意となり捲し立てるルイスは気付いていなかった。

 アーサーの言葉が丁寧だが、冷たい冷気を放っていたことに。

「だが私は違う! 己を破った五魔を評価すれど恐れはしない! その為に力を付けたのだ! 見ろ!」

 ルイスは体に力を込めると、筋肉が膨張し始めた。

 着ていた服は破れ、その体躯は先程より二回りも大きく、逞しくなる。

「これは・・・なかなか珍しい」

「我が王家に伝わる筋肉操作! 私はこの力を研鑽し、ついにここまで極めた! この力の前に、五魔も貴様も無力よ!」

 ルイスは大剣を片手で軽々と握り締めると、アーサーに斬りかかる。

 大剣が激突した衝撃で空気が振動し、下の床にヒビが入る。

「くはははは! 他愛ない! 今の私なら、ここから挽回することも・・・」

「王家に伝わると言っても、この程度ですか」

 勝ち誇っていたルイスがアーサーの声に振り向いた瞬間、全身から鮮血が飛び散った。

「ぐほあ!?」

 全身の痛みによりルイスはそのまま崩れ落ち、体は元に戻ってしまった。

「その程度で私や五魔に勝てるとは、思い上がりもここまで来ると喜劇ですね」

 アーサーは冷たく見下ろしながら、ルイスに近付いていく。

「ば、かな・・・一体・・・何を・・・」

 自分が何をされたかわからないルイスは、息も絶え絶えにアーサーに問う。

「あなたに説明する必要はありません。 意味もないですしね」

 瞬間、ルイスはアーサーと目が合った。

 先程の優雅さは何処にもなく、全てを凍りつかす様な冷酷な瞳をしていた。

 ルイスは悟った。

 己の自惚れ等という些事ではない。

 自分は言ってはならないことを言ってしまったのだと。

「少しは使えそうだと思いましたが、見込み違いでした。 聖帝陛下を侮辱する愚か者等、この国に必要ない」

 言葉が終わると同時に、ルイスの首が宙を舞った。






 結果として、ダグラ国再興連3000人の内ルイス・ダグラを含む約600人が死亡、2400人が捕虜というダグラ国の完敗だった。

 まだ戦える兵士もいたが、王であるルイスと軍の最高指揮官であるダグラスが死亡した事で戦意を喪失した。

 その為死者もこの程度で済んだという訳だ。

 現在はギゼルの指示により後続の舞台が捕虜の拘束と移送を行っている。

「ありがとうございます、ギゼル殿」

「私は自分の仕事をしたまでだ。 しかし600か。 随分殺したなガルジ」

「なんで全部俺なんだよ!? 大体、軽く引っ掻いた程度で死ぬゴミなんかいらねぇだろが!」

「がっはっはっ! まあそう怒るな! よくやったよガル坊!」

「その呼び方で呼ぶんじゃねえ!」

 また小競り合いを始めるガルジとラズゴートを見ていると、アーサーの元にクリスが近寄ってきた。

「僕、ちゃんと生かしたよ。 偉い?」

「ええ。 素晴らしい働きです」

 アーサーに頭を撫でられると、クリスは嬉しそうに目を輝かせる。

 アーサーがその姿に口元に笑みを浮かべると、ギゼルはアーサーに視線を向ける。

「しかし、まさか敵の首魁を処分するとは」

「申し訳ありません。 少々早計でしたね」

「いや、少なくとも貴方が手を下したなら、取るに足らない者だということ。 何も問題はあるまい」

「ありがとう。 所でギゼル殿。 五魔の方はどうです?」

「問題ない。 前より追いづらくなったが追跡は可能だ。 更に私の第2部隊の隊長二人を助っ人に向かわせた」

「なるほど。 では引き続き五魔の件、よろしくお願いします」

「お願いされるまでもない。 まあ、可能であれば、今後はこの手の仕事はそこの暴竜で済ませてほしいものだ」

「俺は聖竜だ! 陰険男が!」

「貴様が聖竜という柄か」

 睨み合う二人に苦笑しながら、アーサーは思考を巡らせる。

 既に3人、それだけでも本来なら既に驚異だ。

 更にノエルが近くにいることが周囲に知れれば、それは旧魔帝派の者達が暴走する引き金となりかねない。

 幸いギゼルの案でノエルの手配を取り止めた為、ノエルと五魔が接触したということは大きく知られてはいない。

 だがそれでも五魔が活動し始めた事は少しずつ広まっている。

 無論五魔と接触した兵や目撃者には箝口令が出されたが、完全に防ぐことは不可能だ。

 だからこそギゼルも更に自身の隊長を派遣したのだ。

 早急に終わらせる為に、五魔がかつての力を取り戻す前に、ノエルにより巨大な反聖帝勢力が生まれる前に。

(いざとなれば私が刈り取ろう。 ノエルの首を)

 アーサーは静かに決意した。

え~今回は聖五騎士団のお話でした。

まだ五魔全員出てないのに聖五騎士団の最高幹部が全員出るという(笑)

まあ、楽しんでいただければ幸いです

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