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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
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穴ぐらの住民


 ヴォルフ達はバーテンダーに案内されると、そこは店の地下の酒蔵だった。

 バーテンダーはそこにある酒樽の1つの栓を抜く。

 すると、床の一部が開き地下へ伸びる階段が現れる。

「こちらです」

 バーテンダーに促され、ヴォルフ達は更に深くへと降りていく。

 暫く降りると階段は坂へと変わり、壁もただの岩壁へと変わっていく。

 それは上の華やかなイメージとは真逆のものだった。

「随分辛気臭い所だな」

 ヴォルフはそう言って顔をしかめた。

 だがそれは上との雰囲気の差ではなく、鼻に入る臭いが原因だった。

 下へ降りれば降りるほど、血の臭気が濃くなっていく。

 人間よりも優れた嗅覚を持つヴォルフ達にとって、それはあまり心地のいいものではなかった。

「そこは我慢していただくしかありませんね。 我々にとって、この香りは聖なる香りなのですから」

「聖なるとは面妖な。 貴公らにとって血は聖水かなにかなのか?」

「似たようなものですね。 私達にとって、死は崇高なもの。 これはその死を成し遂げた証の香りです」

 ライノの質問に答えるバーテンダーの雰囲気も、先程上でのものとは違っていた。

 言葉は丁寧だが気さくさは感じられず、どこか狂信者にも似た独特の空気を纏っている。

 こちらが本性かと思いながら付いていくと、広い空間に出た。

 四方を岩壁に囲まれた巨大な地下空間。

 その光景は、ここが暗殺ギルドの本拠地だという事を物語っていた。

 岩壁にはいくつもの横穴が空いており、通路や住居になっている様だ。

 だがそれよりも目を引いたのは、空間の中央に立つ巨大な像だった。

 まるで御神体の様にそびえ立つ目つきの悪い男の像に、バーテンダーは忠誠を誓う様に手を合わせる。

「我等が組織の創始者様です。 既に名すら残されていませんが、死の体現者として我らを見守ってくださっています」

「なんか、どこか宗教めいてるわね」

「それに近いでしょうな。 死を崇拝しそれを体現する者。 ある意味暗殺者には最も適した姿でしょうか」

 ハンナとラドラーがそんな事を話している横で、ヴォルフはある物に気付く。

 それは巨大な像の足元に造られたいくつかの像の一体だった。

 他の3人もそれに気付くと、思わず声を失った。

「あ、あれは・・・」

「メロウの、ジジィ」

 それはヴォルフ達の知る姿より若かったが、明らかにメロウそのものだった。

 それはメロウがこの暗殺ギルドにいた事を示す何よりの証拠だった。

「本当に、ここにいたのね」

「メロウ様は、創始者に匹敵すると言われた死の体現者です。 我らの世代は皆あの方を尊敬し崇拝しております。 ですから・・・」

 瞬間感じた殺気に、ヴォルフ達歯意識を周囲に向ける。

 すると、ヴォルフ達に向かいドクロが描かれた布製の覆面で頭部全てを覆った集団が襲いかかってきた。

「貴方方が共にいたにも関わらずメロウ様を死なせた事、償ってもらいましょう」

 バーテンダーもナイフを手に取り、数人に見える様な残像を作りながらヴォルフに襲いかかった。

「舐めんな」

 ヴォルフは瞬時に本体を見極めその頭を掴むと地面に叩きつけた。

 更にハンナは暗殺者達を超える速度で切り裂き、ライノのその怪力で戦斧を振るい薙ぎ払い、ラドラーは空中から羽を射ち出し暗殺者を壁に貼り付けにする。

 獣王親衛隊トップを実力を見せ付ける様に暗殺者を圧倒するヴォルフ達に、バーテンダーは頭から血を流しながら驚きながらも更に追撃を指示しようとする。

「ぐっ、まだだ。 怯まず攻め続け・・・」

「およし、この馬鹿共」

 その声に反応し、暗殺者達は動きを止めて跪く。

 暗殺者達が跪いた先を見ると喪服の様な黒い服に身を包んだ老婆が杖をついて歩いてくる。

 その後ろには他の暗殺者と違い薄いピンクのマスクを被った女性らしき人物が付き従っている。

「私はただ連れてこいと言った筈だよ?」

 黒いヴェールで覆われた顔からうっすら見える鋭い眼光に、暗殺者達はただただ頭を垂れる。

「申し訳ありません。 どうしても納得がいかず、己を抑えられませんでした」

 謝罪の言葉を述べるバーテンダーに老婆はやれやれと頭を振る。

「しょうがない子達だね。 まあ、この子達の力が多少見れたから良しとはするか」

 老婆はそう言うとヴォルフ達の方を向いた。

「すまなかったね。 私はアメルダ。 ここで一番長生きしてるババァさ」

「獣王親衛隊、獣王の牙ヴォルフだ。 つっても、あんたらにはみんなわかってんだろうがな」

「そうさね。 まあ、一通りはね。 内のが無礼を働いた詫びに私の部屋に案内しよう。 なに、取って食いやしないよ。 レイネ。 お前はこいつらの手当と上のスタッフの補充指示をしときな」

「はい、婆様」

 レイネと呼ばれた暗殺者は頭を下げると、すぐに支持を実行した。

「さて、じゃあ付いといで。 メロウのお仲間さん」

 ヴォルフ達はアメルダに促されるまま、その後を付いて行った。






 地下空間の一室に通されたヴォルフ達は、アメルダに促され部屋の椅子に座った。

 アメルダはここでかなりの地位の様だが、それに似つかわしくない質素な部屋だった。

 アメルダは座ると、ヴォルフ達を真っ直ぐ見た。

「さて、改めてウチの若いのが迷惑かけたね。 まずそれを詫びとこう」

「構わねぇよ。 少なくとも、連中の言ったことはあながち間違ってねぇからな」

 ヴォルフはアクナディンと、ハンナ達は別働隊としてプラネ・ラバトゥの連合軍と戦っていたので、ラズゴートやメロウの元に駆け付ける事は不可能だった。

 だがそれでも、何も出来なかった事に対して4人共悔恨の思いを抱いていた。

 そんなヴォルフの素直な気持ちに、アメルダは小さく笑った。

「あの男の仲間にしちゃ、素直な男だね。 まあ、それならお互いいらない気遣いは抜きにして、本題に入ろうじゃないか」

 途端に、アメルダの目つきが変わった。

 するとラドラーは立ち上がり恭しく一礼した。

「小生達はプラネ王ノエル陛下と、現アルビア最高責任者であるエミリア様の命を受け来たのですが、そちらは現在のこの国の現状をどの程度把握していますか?」

「魔族とかいうのが出てきてアルビアの城とそこにいた化け物を乗っ取ったっていうのと、そいつらを倒す為にあんたらとラバトゥやらルシスやらと手を組んだって事くらいかね」

「そこまでわかってるなら話は早え。 俺達はあんたらに協力してもらいたくて来たんだ。 一緒に戦ってほしい」

「戦うねぇ。 私らは殺し屋だよ。 殺せない死体相手に役になんか立つとは思えないけどね」

「驚いたな。 そんな事まで知ってんのかよ?」

「情報は私らみたいな商売してるのにとっちゃ命と同義だよ。 こういう場所は情報と仕事手に入れるのに事欠かないからね」

 タナトスの操る死者の情報まで手に入れているのに驚きながらも、ヴォルフ達は説得を続けた。

「だけどよ、それでもあんたらの戦闘力なら十分戦力になるだろ?」

「然り。 貴公らの技があれば此方としても大いに助かります。 何卒ご助力願いたい」

 アメルダは手元にある茶を一口すすると、ヴォルフ達を見つめた。

「あんたら、ここを見てどう思ったね?」

「え? どうって・・・」

「人員が少ないと思わないかい? 仮にも1000年以上も続く大組織だ。 にしちゃあ、規模が小さいとは思わないかい?」

 言われてみればそうだった。

 このアジトにしても、広さに比べて人が少なく静かだった。

 上の店で働いている人数を合わせたとしても

これだけの大組織の人員にしては少なく感じる。

「今このアジトの人員はどのくらいなんですか?」

「上にいる奴ら含めて2、300程度かね。 その中であんたらの戦う魔族とやり合えそうな猛者となると、50いるかいないかだ」

「まさか暗殺者の質が長い年月で落ちましたってわけじゃねぇよな?」

「ある意味当たりだよ狼の坊や。 私らはね、この商売をそろそろ畳もうとおもってるんだよ」

 アメルダの突然の告白に4人は驚き立ち上がった。

「ちょっと待て! それほどういうことだよ!?」

「言葉のままさ。 暗殺者ギルドは解散。 上の客商売も、暗殺者を廃業した後の為の準備も兼ねてるんだよ。 殺しだけしか出来ないようじゃ、表で暮らせはしないからね。 あんたらも物騒な組織が1つ無くなるんだからいいだろう?」

 暗殺ギルドは裏の組織だ。

 しかも貴族や王族まで手にかけた実績まである。

 それが消えてくれるなら、アルビアとしては本来なら喜ばしい事には違いなかった。

「良かねぇ! いや、いいのか!? よくわかんねぇ!!」

「落ち着きなさいよヴォルフ! 今はこの人達に力を貸してもらわないと困るんだから!」

「ハンナの言う通り。 小生達はなんとしても戦力を集めてばならないのですから」

「うむ。 自分達の任務を忘れるなヴォルフ」

「わあってるっての!」

 ぎゃあぎゃあ話すヴォルフ達に、アメルダはまたクスリと笑った。

「本当賑やかな連中だね。 メロウが拾って育てたとは思えないよ」

「え?」

「メロウ様が、私の達を拾った?」

 アメルダの言葉に驚く中、ヴォルフが身を乗り出しアメルダに詰め寄る。

「おい! そりゃ一体どういうことだよ!?」

「なんだい? あんたらメロウから何も聞いてないのかい?」

 アメルダは少し考えると「しょうがないね」と呟いた。

「折角苦労してここまで来たんだ。 あんたらに少し話してやるかね。 ここでのメロウの事をね」


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