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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
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光の王、降臨


 ドルマロは目の前に出現した相手に完全に混乱していた。

 元々そこまで頭が働く方ではないが、それでも目の前の光の精霊の名位は知っている。

 この世界には精霊の頂点と言われる2体の精霊王がいる。

 1体は闇の精霊王ハンニバル。

 もう1体は光の精霊王ジャンヌ。

 どちらも巨大な力を秘め、精霊内でこの2体を超える力を持つ者はいないと伝えられている、魔族であるドルマロから聞いてもお伽噺の様な存在だ。

 目の前のそれが本物かどうかはドルマロが判断する術はなかったが、一つだけ確かな事があった。

 ドルマロは様々な種類の魔族を罠にハメた経験から、相手を見ればどの罠で確実に死ぬか見極めることが出来た。

 それが見えなかったのはドルマロが会った中では過去魔王ディアブロとデスサイズ、そして四天王のベアードの3人のみ。

 そして目の前のジャンヌを名乗る精霊も、その3人と同じ罠で死ぬ姿が一切見えなかった。

 つまり、ドルマロにとってジャンヌは自分が敵わないレベルの違う怪物だという事だ。

(な、なんなんじゃ!? 小僧を殺すだけの簡単な仕事の筈が、なんでこんなバケモンが出てくるんじゃ!?)

 ドルマロだけでなく、イトスも状況に頭が追い付いていなかった。

 イフリート達でなく、より上位の存在であるジャンヌが現れた原因が、イトスには欠片もわからなかった。

「なんで、あんたみたいなのがここに? 師匠の知り合いなのか? だから助けてくれたのか?」

 やっと出た問いの言葉に、ジャンヌは優しく微笑んだ。

「半分正解。 ですが、私が貴方に力を貸したのは、ずっと貴方を見てきたからです」

「見てきた?」

 ジャンヌが頷くと、杖を指差した。

 すると、中央にある元々杖に付いていた宝珠が光りだした。

「ずっと、あそこにいたのかよ?」

「エルモンドとの盟約で、あの中でずっと見守ってきました。 そしてイトスが本当に成長を遂げた時、力を授けると」

 その時、イトスはエルモンドから杖を貰った時の事を思い出した。


 あれは8歳の誕生日。

 エルモンドに拾われ約3年が経ち、本格的に魔術の修行を始める時に、イトスはあの杖を貰った。

 喜ぶイトスに、エルモンドはこう告げていた。

『この杖は君をずっと見守ってくれる。 そして君が成長を遂げた時、きっと杖も応えてくれるよ。 温かい光とともにね。 ふひひひひ』

 

 今、イトスはあの時の言葉を本当の意味で理解した。

「貴方は他者の為、自分を蔑ろにする傾向がありました。 現に今回も自分の身を顧みず無茶な特訓をしましたね。 己の身を蔑ろにする者に、私の力を託す事は出来ません」

確かに、イトスは自分の事を軽んじる傾向があった。

 自分がエルモンドの複製(クローン)であるとわかってから更にその傾向は強まった。

 自分の体を考えず治療をし、策を考え、皆の力になろうとしてきた。

 仲間の為になるなら自分の身などどうでも良かった。

「ですが、貴方は最後に生に縋った。 心の底から生きたいと願った。 それは、エルモンドが何よりも望んだ成長なのです」

 エルモンドは何よりイトスの生を望んでいた。

 四大精霊だけでなく、精霊王などというとんでもない存在すら盟約を結んでいたエルモンドに驚きつつ、イトスはエルモンドの自分への想いに胸が熱くなる。

 だがイトスはその想いをグッと呑み込み、ジャンヌと向き合った。

「じゃあ、あんたは俺に力を貸してくれるのか?」

「ええ。 勿論」

「なら、力を貸してくれ。 俺の仲間達を、友達を助ける力を」

「その願い、叶えましょう」

 イトスにそう答えると、ジャンヌはドルマロに顔を向けた。

 その表情は先程の温かいものではなく、凛とした戦士のものへと変わっていた。

 ドルマロはそれに恐怖する様に、周辺の小石をジャンヌに向けて投げ出した。

「く、来るな! 来るんじゃない!」

 石はジャンヌに当たらずあさっての方向にとんでいき、ジャンヌはドルマロに憐憫の眼差しを向ける。

「憐れですね。 同じ生にしがみつく姿でも、何故かあなたのそれは醜く見える」

 ジャンヌがドルマロを仕留める為にイトスから離れると、ドルマロはニヤリと笑った。

「キャキャ〜っ!! 引っかかったな愚か者!!」

 ドルマロが小石を投げると、それはイトスの近くの木に当たった。

 するとイトスの四方から、炎、雷、硫酸ノ水流、そして刃の雨が襲い掛かった。

「わしの能力を忘れたか!? 新しく罠を生み出す事などわしには児戯よ! いかに貴様が強かろうが主人が死ねば何もできまい! これで貴様も終わりじゃ〜!!」

 ドルマロの抵抗が罠を発動させる為の時間稼ぎだと気付いたイトスは思わず身構えた。

 だが、ジャンヌは欠片も動揺しなかった。

「本当に憐れですね」

 瞬間、イトスの周りに火柱、竜巻、水流、そして巨岩が出現し、ドルマロの攻撃を全て防いだ。

「な、なに?」

「まだ気づかないのですか? 仮にも精霊王である私を従えたのですよ? つまり・・・」

 その時、火柱からイフリートが、水流からウンディーネが、竜巻からシルフィーが、そして巨岩からタイタンが、イトスを守る様に現れた。

「イトスは四大精霊を含む全ての精霊を従えたも同じなのですよ」

「お、お前達・・・」

 今までいくら語りかけても返事すらしなかったエルモンドの精霊達の出現にイトスが驚くと、ジャンヌは再び微笑んだ。

「すみません。 貴方を成長させる為、彼らには答えないように命じていたんです。 本当は皆すぐにでも貴方に力を貸したかったみたいですよ」

 ジャンヌの言葉を肯定する様に、 シルフィーが『ごめんね』とイトスの頬に抱き付き、他の3体もイトスに対し申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 エルモンドの複製(クローン)に過ぎない自分が認められていないと思っていたイトスは、精霊達の真意を知り少し目頭が熱くなる。

 それを抑え込むと、好戦的な笑みを浮かべた。

「じゃあその分、これからたっぷり手を貸してもらうからな! 覚悟しろよ!」

 精霊達は頷くと、それぞれ臨戦態勢に入った。

「さて、お待たせして申し訳ありませんでした。 終わりにしましょうか」

「ま、待て! わしが悪かった! もうお前達には手を出さん! 魔界に帰って穴蔵で隠居する! だから見逃してくれ!」

 命乞いするドルマロ向かって、ジャンヌは手をかざした。

「折角の謝罪ですが、あなたからは邪悪な闇が漏れていて信用出来ません。 何より、イトスをあれだけ傷付けたあなたを許せるほど私は優しくありません」

 ジャンヌの手から光が放たれると、瞬時にドルマロの上空に無数の光の剣を出現させた。

「断罪の光剣」

 ジャンヌが手を振り下ろすと、光の剣は豪雨の様にドルマロに降り注いだ。

 ドルマロは悲鳴を上げる間もなく、光の剣が消えるとその体は右腕以外消え去っていた。

 ジャンヌは振り返ると、またイトスに向かい微笑みかけた。

「貴方の勝ちです、イトス」

「そっか。 俺、勝てたのか」

 イトスはそこで気を失い、慌ててタイタンが受け止めた。

「大丈夫。 命に別状はありませんよ」

 唯でさえ無茶な特訓で消耗していた中、あの様な無茶な戦いをしたのだ。

 イトスの体が限界を迎えるのも無理はなかった。

「ウンディーネはすぐにイトスの回復を。 シルフィーは風で罠が残っていないか索敵を。 タイタンはイトスを拠点にしてたキャンプ地まで運んでください」

 精霊達がそれぞれ動き出すと、イフリートが『よろしいのですか?』と言う様にジャンヌを見た。

「構いませんよ。 今はイトスを休ませるのが先決です。 それに・・・」

 ジャンヌは森の外の方へと視線を向けた。

「彼の命運は、既に尽きています」






 森の外で、小さな影が這う様にしてその場から離れようともがいていた。

 それはドルマロだった。

 ドルマロは自身の下に深い落とし穴を生み出しそこに敢えて落ちる事で死んだと見せかけ、なんとか生き延びていた。

 だが勿論無事ではなかった。

 右腕を失い体には無数の深い傷が出来、更にジャンヌに気付かれぬ様に深い落とし穴にした為、落ちた衝撃で下半身の骨が砕けていた。

 もはや歩く事も出来ない状態ながら奇跡的に生き抜いたドルマロは、なんとしても逃げ延びようと残った左腕で必死に這った。

「わ、わしは死なんぞ。 漸く、漸くチャンスが巡ってきたんじゃ。 そう簡単に死んでたまるか」

「ほぉ、大した執念ですね」

 ドルマロが声に反応し振り返ると、その表情は絶望に固まった。

 6枚の漆黒の翼を持つ堕天使、魔人ルシフェルが腕を組みドルマロの背後に浮いていた。

「ル、ルシフェ・・・」

「貴様如きが私の前で口を効くか」

 プレッシャーで声すら失うドルマロを、ルシフェルはゴミを見る様な目で見下ろした。

「奴の可能性に気付いて刺客を差し向けるとは。 ディアブロの意思か、あの化け物の入れ知恵か。 何れにしろ、私との約定を無視した行為は許せんな」

「ひ、ヒィえああああ!?」

 恐怖に耐えきれなくなったドルマロは急ぎその場を逃げ出そうとした。

「冥獄の獄炎」

 瞬間、ドルマロの体は青白い炎に包まれ、灰すら残さず消え失せた。

 古より生に執着し生き続けた魔族の、あまりにも呆気ない最期だった。

 ルシフェルはもはやドルマロの事など完全に忘れ、森の奥にいるイトスに意識を向ける。

「精霊王に認められたか。 及第点と言っておこう。 褒美に貴様に戦い方を教えてやる。 ありがたく思うのだな」

 ルシフェルは小さく口角を上げると、そのまま森の中へと消えていった。


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