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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
五魔捜索編
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ラクシャダの中で

今回はラクシャダ内でのノエル達の様子です。



 ラクシャダでの地中移動を始め早3日、ラクシャダの中での生活は意外に快適だとノエルは思った。

 最初こそ蛇の体内ということで不安もあったが、基本外と大差はない。

 気温湿度等の環境的な物は勿論、屋敷もゴブリン達のお蔭で住みやすく手入れされている。

 実際、このラクシャダの中でゴブリン達の存在は大きかった。

 ゴブリン達はゴブラドを含め、戦闘班20人、偵察・探索班10人、農業班10人、生活班9人と総勢50人。

 彼らが屋敷や畑の手入れをしてくれる事で、ノエル達は快適に生活することが出来たのだ。

 実際、これだけの規模の屋敷や畑を維持する能力はノエル達・・・主にリナやジャバだが・・には無く、恐らくもっと屋敷も荒れて果てていただろう。

 故にゴブリン達を仲間に迎えたのは本当に良かった。

 現に今もジャバの寝る小屋の隣に、ラクシャダの胃液の匂いに弱いジンガ用の小屋も造ってくれている。

 ドワーフから習ったらしく、空気清浄をしてくれるらしい。

 なら屋敷にも付けてほしいが規模が大きく駄目らしいのでそこは我慢するしかない。

 因みに、探索部隊の二人は今ゴブリン族の大多数がいる亜人の村に事態の説明に行ってくれている。

 今後の旅を円滑にするため亜人達に話を通しておくとのことだ。

「ノエル様の存在を知れば、きっと全ての亜人が力を貸してくれるでしょう!」とゴブラドが力説し、ノエルと戸惑わせていたが、余計な争いを避けられるならとお願いしたのだ。

 外の様子も屋敷の部屋に外の景色を写し出す水晶のスクリーンがあるため確認できるから閉塞感もない。

 これらのスクリーンやラクシャダの中の太陽等は昔魔人ルシフェルことエルモンドが造ったらしい。

 ノエルはどういう仕組みか気になったが、リナやクロードに聞いても「エルモンドに聞けばわかる」とのことで諦めた。

 そしてノエルにとって、ラクシャダでの移動で最も嬉しかったことがあった。






「もう少し集中して。 そう、手の中に包むイメージで・・・」

「はい」

 ノエルは屋敷の庭でリーティアから魔法の手解きを受けていた。

 地べたに胡座をかき、両手を内側にかざし、その中で魔力の玉を形成する。

 ジャバとライルはその様を真剣に見詰め、リナは面白そうにケーキ片手に見ていた。

 今までは移動に時間を割いたため精々ライルとの組手をするのが精一杯だった。

 だがラクシャダで移動することで時間に大きく余裕が出来、リーティア・・・というよりクロードだが・・・に魔法を教えてもらえる様になったのだ。

 現在やっているのは魔力の制御と維持。

 両手の中で魔力を球状になるよう制御し、それを維持し続ける。

 一見簡単そうだが、これを長時間維持するのは相当の集中力が必要になる。

 そうでなければ魔力は歪な形になるか、しぼんでいってしまう。

 最悪弾けとんで大怪我をする可能性も充分あるのだ。

 ノエルもそれがわかっているので集中して魔力を安定させようとする。

「・・・はい、そこまで。 ゆっくり魔力を解いてください。なるべく丁寧に」

 リーティアに言われ、ノエルは静かに魔力を霧散させた。

「ふぅ」

「はぁ」

「うがぅ」

 気が抜けた様にノエルだけでなく、ライルとジャバまで息を吐いた。

「なんでお前らまで疲れてんだよ?」

「だってよ、なんか見てたら力入っちまって」

「うが」

 リナはやれやれと呆れながらケーキを頬張った。

「・・・約5分ですね。 正式な魔法の訓練を受けていないにしては上出来です」

「でも、やっぱりなかなかうまくは・・・」

「当たり前ですよ。 まだ始めて三日なんですから。 いいですか? ノエル様は魔法の素養は高い方だと思います。 それは黒の魔術と他の魔法を組み合わせられる時点でわかります。 本来二つの魔法の同時に発動させるのは上位の魔術師クラスでないと出来ません。 ましてやそれを混ぜ合わせるのは至難の技です。 ですが、それが出来てしまっている為、基本となる部分が疎かになってしまっています。 制御、維持、解放、それら全て魔法や魔術といったものを操る上で必要不可欠、いわば体術における筋肉と同じです。だからノエル様にはしっかりそれを学んでもらいます」

 リーティアの言葉にノエルは頷く。

 自分に基礎的な部分が足りないのは、出会った当初リナに思い知らされた。

 だから今もこうして1日の大半を重い鎧を着て過ごしているのだ。

 最も、今は正体を隠す必要がないので兜は脱いでいるが。

「うっし! んじゃ少し休んだら次は俺との組手だ! 頭使った後は体! これも基本だ!」

「はい」

「お前は頭使ったことねぇだろ」

「そりゃ姉さんも同じブロァ!?」

 余計な事を言ったライルはリナのアッパーで舞い上がった。

「いいな~、おれも、ノエルに教えたい」

 その一言に、その場にいた全員が凍りついた。

 ジャバがノエルに教える、となると当然組手。 

 ノエルはジャバに抱きつかれた時、綺麗な川の向こうで父が手を振っているのを見た時を思い出し脂汗をかく。

 そんなノエルの様子を察しリーティアはすかさずジャバを説得する。

「ええっと、ジャバは教えないで、ノエル様の応援をするのがいいと思うな。 ね、リナ?」

「お、おお、そうだな。 お前に応援されればノエルも更に元気出るしな!」

「そうそう! ジャバがノエルの応援しないで誰がすんだよ!? 姉さんなんかケーキ食ってばっかでぐひゃ!?」

 リナのボディーブローにライルは悶絶した。

「やだ! おれ! ノエルに教えたい!」

 駄々をこねるジャバに、リナ達も困ったように顔を見合わせる。

 ジャバは普段は素直だが、こうなるとなかなか引かない所がある。

 どうするか考えているリナの目に、まだ悶絶しているライルが写る。

「んじゃライルと組手してみろ。 それでお前が教えられるか見てやる」

「ちょっ!? 姉さん!?」

「おれ! 頑張る!」

 やる気のジャバに、ライルはもはや逃げ道なしとリナを恨めしそうに見詰めた。

「くっそ~! かかってこいよこら~!」

 ライルは半ばやけくそでジャバに向かっていった。






「皆様、お茶が入りましたのでそろそろ休憩を・・・ど!?どうしたのですかライル様!?」

 リナ達を呼びに屋敷から出てきたゴブラドは思わず叫ぶ。

 そこにはやっちまったなと顔を手で押さえるリナと苦笑するリーティア、そしてボロボロで白目を向いているライルを必死に看病するノエルとジャバの姿であった。

 ジャバは基本手加減が苦手、というより、本人が軽くやったつもりでも、体格差もあり相手には一撃必殺の威力になってしまうのだ。

 だからそんなジャバと組手をしてあの程度で済んだライルは、むしろ称賛に値すると言っていいだろう。

 ライルは治療のためゴブラドに連れていかれ、ジャバはしゅんと小さくなった。

「おれ、またやりすぎた」

 あまりに落ち込むジャバに、ノエルは励まそうと声をかける。

「だ、大丈夫ですよ。 ライルさん丈夫だし、ジャバさんも、次はうまくいきますよ」

「でもおれ、ノエルとやったら、多分ノエルに怪我させる」

「う」

 流石に言葉につまるノエルに、ジャバは更に小さくなる。

「なんか可愛そうな気もしますが」

「つってもやれば確実にノエルはノルウェと再会することになるだろうしな」

「不吉なこと言わないでください!」

 リナの言葉につっこむノエルの横で、ジンガがジャバを慰めるように舐めた。

「ありがと。 お前いい奴」

「がう!」

「そだな。 誰でも最初、失敗するよな」

 ジンガと会話するジャバを、ノエルは驚いたように見詰めた。

「ジャバさん、魔獣と話せるんですか?」

「?出来る。 おれ、人の言葉より簡単。 ノエル出来ない?」

 驚くノエルにジャバは不思議そうに首をかしげる。

「いや、流石に魔獣と話は・・・あ、そうだ!」

 ノエルは何か閃いた様にジャバに向き直る。

「ジャバさん! 僕に魔獣との話し方を教えてください!」

「うがぅ!?」

 驚くジャバに、リナとリーティアはなるほどと頷いた。

「あ~それならジャバでも教えられるな」

「魔獣使いとしての技術が身に付けば、何かの役に立ちますしね」

 皆の反応に、ジャバは子供のように晴れやかな笑顔になる。

「おれ! ノエルに教える! 魔獣と話せる様にする!」

「はい! よろしくお願いします!」

 嬉しそうなジャバに、ノエルも笑顔をこぼす。

 こうしてノエルは、ジャバから魔獣との意志疎通や接し方を学ぶのことになった。

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