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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
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暴竜復活

 元聖五騎士団聖竜だった暴力の申し子ガルジの突然の出現に、ゴンザ達もラバディ達も状況がわからず混乱していた。

「な、なんでお前がこんな所にいるんだ!?」

 ラバディがそう叫ぶと、ガルジは凶悪な笑みを浮かべた。

「ここんとこ手頃な連中は狩り尽くしちまったんでな。 後はてめぇのとこくらいしてデケェ所がなかったんだよ」

「手頃って、まさかてめぇがここらの組織潰しまくってた犯人かよ!?」

 リストにあった組織の半数が消えていた原因を察したゴンザが驚くと、べクレムが「やはりな」と顎に手を当てた。

「ちょっと、やはりってあんたなにか知ってたわけ?」

「ああ。 我々以外で他勢力を吸収して大きくなっている集団がいる情報があったからな。 こいつらに我々の噂を流したついでに、連中がこちらに手を出しそうなものも流していたのだ。 五魔の息のかかった勢力が動いているとな」

「あんた知ってたなら他はともかくあたし位には話しときなさいよ!!」

「他はともかくってなんだよ!?」

「俺達だって教えてほしいっス!」

 ミラ達がべクレムに文句を言っているのをよそに、ガルジはなんとなく状況を理解した。

「つまり俺もてめぇも乗せられたってことか。 やられちまったな〜ラバディよ?」

「乗せられただと!? 俺からすれば、向こうの魔王への手土産が増えただけだ! 今頃この場でお前達両方殺って、魔族連中への手土産にしてやるよ! お前ら!!」

 ラバディが命じると、広場にいた手下達が武器を構える。

 だが、ラバディは違和感を感じた。

 広場以外にいる筈の手下達の反応が一切ないのだ。

「おいお前達! 何をしてやがるんだ!? さっさとこっちに・・・」

「あ〜呼んでも無駄だぜ? 連中なら当分動けねぇからよ」

「なに!?」

 ラバディがガルジの来た方向を見ると、自分の手下達が無残な姿で倒れていた。

「殺しちゃいねぇから安心しろ。 連中は俺の手下になる予定だからな」

「ぐっ! 聖帝の犬になったお前がなんで急にこんな事を!?」

「ぶっ倒してぇ奴がいてな。 そいつらに追い付く為に、ちと古巣をデカくしたかったんだよ」

 ガルジは両手から爪を出すとギラリと目を光らせ笑った。

「てめぇらはその総仕上げだ! ちったぁ楽しませろよ!」

「こ、殺せ! こいつら纏めて殺してしまえ!」

 ラバディが命じると、手下達はガルジとゴンザ達に襲い掛かった。

「くそ! なんなんだよこの展開はよぉ!!」

 ゴンザは獲物である鉄で出来たトゲこん棒を振りかざすと手下を2,3人纏めて吹き飛ばした。

 べクレムやミラ達も戦闘態勢に入り、それぞれの獲物でラバディの手下を倒していく。

 そんな乱戦の中、ガルジは雑魚には目もくれずラバディに真っ直ぐ向かっていった。

「ヒャッハァ!」

「ちぃ!」

 ラバディは手を上にかざすと指先から鉄線を出し素早く木の枝に巻きつけ宙を舞った。

 爪が空を切ったガルジが上を見上げると、いつの間にかガルジの周囲に鉄線が蜘蛛の巣の様に張り巡らされていた。

「お前が来るのは誤算だったが、ここは俺の庭だ! やりようはいくらでもあるんだよ!」

 ラバディは指を動かすと鉄線が一気にガルジに巻き付いた。

 ガルジは鱗を出し防御するが、鉄線が鱗の隙間に徐々に入っていく。

「お前の鉄壁の鱗も、こうやって隙間から攻められれば意味はない! このまま体を切り刻んでやる!」

 ラバディが力を込めると、鱗から血が滲みだす。

 だがガルジは動揺する様子もなく、笑みを浮かべたままだった。

「流石に今までの奴等とは違うか。 なら、こいつを試すのにちょうどいいぜ」

 ガルジが全身に力を込めると、その体に変化が現れ始める。

 紅い鱗がガルジの全身を覆い始め、その体は巨大化を始めた。

 それだけでなく背には翼、頭には角が生え始め、元の人の姿とは別物へと変わっていく。

 それに伴い鱗の密度が上がり、体に侵入しようとした鉄線を弾き出し、ブチブチと音を立てて千切れていく。

「なんなのよあれ?」

 他者の強さをオーラとして見る事の出来るミラは思わずそう呟いた。

 体は2メートルを超え、肥大化した筋肉とそれを覆う鱗、そして太い尻尾に巨大な翼と、まるでその姿は二足歩行する竜の様だった。

 それに加えミラの目に見えるオーラは赤く刃の様に鋭く、大きさだけならかつて初めて会った時のクロードやレオナ達よりも大きい程だった。

「な、なんなんだそれは!?」

「ヒャ〜ッハッハッ! これでも竜の名前を持ってるんでな! ちっと本気で鍛えたんだよ!!」

 ガルジは腕を大きく振るうと、ラバディの乗っている木を凪倒した。

 ラバディは落ちながら体勢を整えて鉄線を放つが、ガルジの鱗に弾かれ意味をなさなかった。

「な、なんなんスかあれ!? マジでバケモンじゃないッハッハッスか!?」

竜人変化(ドラゴニュート)

 驚くゾンマにべクレムが手下を剣で切り伏せながら説明した。

「竜を先祖に持つと言われる蜥蜴人(リザードマン)の中で特に才ある者が修練を重ねたごく一部の蜥蜴人(リザードマン)のみが体得出来る秘技だと聞いた。 近年修得できる者はほぼ皆無と言われていたが、まさかそれを可能にする怪物がいたとは」

 べクレムが怪物と驚くのも無理はなかった。

 ガルジが習得した竜人変化(ドラゴニュート)は、ある種の先祖返りを意図的に行う荒業だ。

 しかも体を強制的に変化させるので負担も大きく、習得出来ず死を迎える者も少なくない。

 だがガルジは習得した。

 古巣の盗賊団に戻り強力な盗賊やあらくれ達と戦い続け、更に捨てた故郷に戻り蜥蜴人(リザードマン)の戦士全員と戦い、その全てを倒した。

 戦って戦って戦い続けるというガルジ独自の方法だったが、それがガルジの肉体と精神を研ぎ澄まし、高めていった。

 結果ガルジは肉体変化に耐えられる肉体と精神を手に入れ、この秘技を体得したのだ。

 そんなガルジと対し、ラバディは後退りをした。

 もはや完全に詰んでいる。

 だがこのまま軍門に下ればガルジの傘下に加えられ何をさせられるかわからない。

 ガルジの性格上魔王と戦わされるなんて事も十分に有り得る。

 なにか手はないかと神経を研ぎ澄ますと、ラバディは足元にある瓶に気付いた。

「チッ。 やっぱこの姿でやるにはてめぇじゃ役不足か。 このまま降参するなら終いにしてやるが、どうする?」

 ラバディの態度にやる気を無くしつつあるガルジに、ラバディは笑みを浮かべた。

「馬鹿が! その油断がお前の命取りだ!」

 ラバディは先程の瓶を拾い、中身の液体をガルジ目掛けてかけた。

 液体がかかるとラバディは勝ち誇った様に笑った。

「ハハハハハ! やったぞ! いくらお前でも毒ならどうしようもない! そのまま苦しんで死ぬがいい!!」

「野郎! さっきのべクレムの毒を! べクレム! 解毒剤かなんか早くあいつに・・・」

「必要ない」

「は?」

 べクレムの反応に戸惑うゴンザはガルジを見ると、当の本人は首を傾げていた。

「おい。 本当にこいつ毒か? なんにも感じねぇぞ?」

「バッ馬鹿な!? さっき鼠が一瞬で死んで・・・」

 混乱するラバディの耳に、呆れた様なべクレムのため息が聞こえてきた。

「まさか本当に信じているとは、狡猾という噂も当てにならんな」

「お前、まさか!?」

「あれはただの鼠用の痺れ薬だ。 鼠には即効性もあるし強力だが、人にはほぼ無毒だ。 ましてや人より強い肉体の竜神に通じるわけ無いだろう」

「ちょっと待てべクレム!? てことはお前俺まで騙しやがったな〜!?」

 ラバディ以上に驚き動揺するゴンザに、べクレムはやれやれと首を振る。

「だから私がやると言ったのだ。 あれなら先行さえ取れば確実に此方の勝ちは見えていたからな。 まあ、お陰で此方のお頭の方が精神的に優れているという事が証明出来たがな。 それに、本当に効き目があるかどうかも確認せず此方の話を鵜呑みにするマヌケを引き込まなくて済んだ」

 さりげにゴンザを評価しながら挑発の言葉を投げかけるべクレムにラバディは怒りに顔を歪め、ガルジはおかしそうに笑った。

「ヒャ〜ッハッハッハッ! 面白え! 野郎の方がよっぽど狡猾じゃねぇか!」

「だ、黙れッ!?」

 怒りに任せ襲いかかろうとしたラバディは、ガルジの拳一発で吹き飛ばされ、近くの木に串刺しになり気を失った。

 ガルジは興味の対象が移り、ゴンザ達を見下ろした。

「さてと、俺を嵌めてこんなとこに連れてきたんだ。 どう責任取ってくれんだこら?」

「てめぇこそ俺達の獲物横取りしやがって。 どう責任取るんだこの野郎?」

 ガルジの威圧に物怖じせず向き合うゴンザに、ガルジは面白そうに笑んだ。

「なるほどな。 確かに肝は座ってそうじゃねぇか。 俺と同じ竜人変化(ドラゴニュート)出来る蜥蜴人(リザードマン)まで連れてるだけはありやがる」

「は? 何言って・・・」

 と言いかけて、ゴンザ達は視線をゾンマに向けた。

 爬虫類の頭をすっぽり被っているゾンマの事を言っているとわかると、ゾンマは慌ててて否定した。

「ちょっ! 違うっスよ!? オイラ普通の人間つス! ほら!」

 ゾンマは蜥蜴の頭の被り物を取ると、童顔の素顔を顕にした。

「なっ!? てめぇ変装してやがったのかよ!? 俺を警戒させるとは、やるじゃねぇか」

 リナやクロード達からさんざん酷いと言われた変装に本気で騙されるガルジに、ゴンザ達は「こいつ大丈夫か?」と本気で思ってしまった。

「五魔とつるんでるって聞いてたがクロードのクソ野郎並の策士じゃねぇか。 面白え」

 一人で何か納得しているガルジに埒が明かないとべクレムが前に出た。

「元聖五騎士団聖竜ガルジだな? 我々はプラネ王ノエル陛下と聖王アーサーであるエミリアと共に魔族と戦う兵力を集めている。 貴様の実力を承知した上で頼むが、我々と共に魔族と戦う気はないか?」

 アーサーの名を聞き、ガルジの目の色が変わった。

「おい。 アーサーの野郎もそっちにいやがるのか?」

「あ、ああ。 先の戦いで五魔のリナに負けた後和解し、今は魔族と戦う為に共闘している。 というか、貴様最近の騒動を知らないのか?」

「個難しい事はコルトバやゲルダに任せてるから知らねぇよ。 あいつらその位報告しろっての」

 実際は報告しようとしていたのだが、ガルジが戦いに明け暮れ禄に話を聞いていたかったのが原因なのだが、ガルジにとってそんなことは関係なかった。

「にしてもアーサーの野郎負けやがったか。 ザマァねぇな」

 リベンジを誓った相手が負けた事を聞き少し考え込むガルジはゴンザの顔をのぞきこんだ。

「今てめぇらに付いて行けばアーサーの野郎やクロード達はいやがんだよ?」

「お、おお、勿論だ! ただ、クロードの旦那とカイザルは今ヤオヨロズにいるが、近い内帰ってくる筈」

「なら条件がある。 手を貸してやる代わりにアーサー達とやらせろ。 ついでにてめぇら俺の下に付けや。 こいつら引き込もうと思ったが、それよりてめぇらの方が面白そうだ」

「ばっ、そんな事できるわけ・・・」

「別に構わねぇぞ」

 べクレムを遮りあっさり了承するゴンザに、ミラ達は慌てだす。

「ちょっとゴンザ何考えてんのよ!?」

「こいつの下に付くって、お頭のお前の立場どうなんだよ!?」

「そうッスよ! あんたがお頭じゃなくなったら荒くれ連合大混乱っスよ!?」

「別になんてことねぇよ」

 止めようとするミラ達に対してゴンザはあっさりと言った。

「元々俺の今回の役割はノエルの旦那達の為に兵力を集める事だ。 予定してたよりデカくて強い連中が仲間になるなら、俺のお頭の座なんて安いもんだろう」

「でも・・・」

「ただよ、俺の仲間を粗末に扱ったり、ノエルの旦那達に危害加えるってんなら、俺は容赦なく逆らうぞ?」

 睨みつけながら警告するゴンザに、ガルジは口角を上げた。

「面白え。 いつでも相手になってやるぜ、ヒャ〜ッハッハッハッ!」

 愉快そうに笑うガルジにホッとしながら、ゴンザ達はノエル達の為の戦力集めをなんとか成功させたのだった。





 結界に覆われ、今や半分廃墟と化したアルビア城の玉座。

 アーミラにより知識を吸いつくされ木乃伊と化した者達が転がるこの部屋に、ディアブロが入ってくる。

「貴様から呼び出すとは珍しいなアーミラ。 一体何の用だ?」

 黒い魔力の帯でまた一人知識を吸い取り木乃伊となった者を捨てると、アーミラはその目を開きディアブロを見つめた。

「お前に始末してもらいたい者がいる」

 アーミラの言葉に、ディアブロは興味深そうに「ほぅ」と呟いた。

「貴様がそんな依頼を余にするとはな。 なにか厄介な奴の情報でも手に入れたか?」

「我が宿主の奥深くに宿った記憶。 恐らく私に見られぬ様に隠していたものだろうな。 その記憶に、私の驚異となりうる存在があった」

「なりうるという事は、まだ力は目覚めていないということか?」

「もし目覚めれば貴様の計画にも支障が出る。 それは避けたいのではないか?」

 ディアブロは少し思案すると「いいだろう」と了承した。

「丁度四天王に空きが出来てな。 その候補の1人に新たな四天王に相応しいか、そいつを始末させ確かめよう。 その者の名は?」

 アーミラは無感情にその名を口にした。

「イトス。 我が宿主から産まれた異質な存在だ」

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