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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
257/360

荒くれの意地

 アルビアの西にあるヴェーヌ地方。

 ここはアルビアの中でも治安の悪い土地だった。

 理由は2つ。

 1つは荒くれの集う町ゴルグが近く、盗賊、山賊、ごろつき達が集まりやすかったというもの。

 もう1つはセレノアの存在だ。

 かつて西の大国セレノアは亜人奴隷を集める為違法な人身売買にも手を染めていた。

 その為独自の密輸ルートがいくつかあり、それを目当てに商売をしようとする悪徳商人やそれに連れられた用心棒集団、更にその密輸品目当ての盗賊達が根城を構えていた。

 かつてガマラヤを襲いノエル達に返り討ちにあったヴォックスもここにかつては本拠地を構えており、名うての悪党はこの周辺に集まっている事が多かった。

 そんなヴェーヌの山中にある一団が進んでいた。

「ねぇ、本当にこっちで合ってるの?」

「うるせぇな! 俺の記憶を信じろっての!」

「そう言ってもう3日は歩いていると思うが?」

 ズンズン進むゴンザに、ミラとべクレムは顔を見合わせため息を吐いた。

 ラミーアはノエル達を鍛えるだけでなく、戦力の増強を考え在野の勢力を取り込む事を提案した。

 小国ではなく在野の勢力を選んだのはその方がしがらみ等面倒事がなく、金や報酬で簡単に味方になる場合が多いからだ。

 そしてその戦力集めで特にガラの悪い連中担当に選ばれたのがゴンザ達偽五魔達だった。

 かつて荒くれとして山賊や盗賊達を相手にし、自分達の配下にしてきたゴンザ達がこの件に適任だと判断された。

 結果としてゴンザ達はよく働いてくれた。

 ラミーアがピックアップした、比較的温厚かつ力のある組織をゴンザ達は既に5つ傘下に加えていた。

 時折力づくというのもあったが、ゴンザの荒くれ連合は元の2500人から4000人を超える勢力に成長した。

 そして今、とある盗賊団のアジトへと向かっている最中だったのだが、辿り着けずにいた。

「なあゴンザよ〜。 てめぇ本当にそいつらと知り合いなんだろうな?」

「あ!? 俺を疑ってんのかピンス!?」

「でもこんだけ歩いて着かないんじゃ、もう間違い決定じゃないッスか?」

 ピンスに同意するゾンマに、スカーマンドリルも同意する様に頷いた。

「仕方ねぇだろ!? 俺だってもう来るつもりはなかったんだしよ! それともてめぇら! あれっぽっちの人数で帰れって言うんじゃねぇだろうな!?」

「そうは言ってねぇけどよ」

「せめてリストの連中がもう少し残ってりゃ良かったんスけどね〜」

 ゾンマが残念そうに言うと周りも同じ空気になる。

 実はゴンザ達が仲間に出来たのはまだリストの半分程度だった。

 残りの半分はというと、ゴンザ達が訪ねた時は既に何者かに襲撃されもぬけの殻になっていた。

 魔族の仕業なのかはわからないが、ゴンザ達にはそれはどうでもいい。

 問題なのは予定の半分程度しか戦力が集められないかもしれないという事実だった。

 悩んだ挙げ句、ゴンザは昔会ったある盗賊団に会いに行くことを提案した。

 それは通称蛇の目。

 ラミーアのリストに載っていたどの組織よりも勢力が大きく力もあった。

 が、その性質は残忍で目的の為なら手段を選ばない。

 特に首領であるラバディは狡猾で他者をなぶるのが大好きなサディストで有名だった。

 そんな組織が大人しくノエルに従うとは思わなかったが、ゴンザはなんとかこのままじゃ帰れないと皆を説得し、こうして蛇の目の根城を目指していたのだ。

「とにかく、どうするにしてもまず連中に会わなきゃ話にならないわよ。 連中の縄張りにはもう入ってるんだし、いっその事向こうから来てくれればいいんだけどね」

「それなら直に来る」

「え? それはどういう・・・」

 べクレムの言葉に疑問を抱いたミラが問うより早く、ゴンザ達は周囲の気配に気付いた。

「おい、これ完全に囲まれてねぇっスか?」

「おいべクレム! どういうことだよこれは!?」

「こうなることを予測して念の為噂をを流しておいた。 最近悪党共を傘下に加えて勢力を拡大している連中が縄張りには入ったとな」

「てめぇそういうことは相談してからやれやこらぁ!?」

 野太い声で怒鳴るミラの横を矢がすり抜ける。

 同時に盗賊達が武器をチラつかせながら姿を現した。

「おい! どうすんだよこれ!?」

「私は舞台を整えただけだ。 交渉は顔見知りのお前に任せるぞお頭」

「こういう時だけお頭扱いしやがってこの野郎!」

 淡々と話すべクレムに頭を抱えながらも、ゴンザは一歩前に出た。

「てめぇらの頭に伝えろ! 荒くれ連合のゴンザが会いに来たってな!」

 ゴンザの声に反応する盗賊達は警戒しながらも、ゴンザ達をアジトへと連行していった。






 山の中にある森の中にアジトがあった。

 木の上に居住区や櫓が建てられ、規模としては3000人は生活出来るだけの広さがあった。

 そんなアジトの中を進んでいくと大きな広場に連れて来られ、そこの玉座の様な椅子に盗賊団の頭ラバディが座っていた。

 ラバディは盗賊団の名前通りの蛇の様なギョロリとした目でゴンザを見た。

「よぉゴンザ。 随分久しぶりじゃねぇか?」

「出来ればもう会いたくなかったけどな」

「シャッシャッシャッ。 俺の前でそんな態度取るのはお前かガルジのトカゲ野郎くらいだ」

 長い舌をチロチロと出しながら笑みを浮かべるラバディに不気味さを感じ、ゴンザはあからさまに顔をしかめた。

「ちょっとゴンザ。 あんたこいつとどういう知り合いなのよ?」

「昔誘われたんだよ。 自分の盗賊団入れってな」

「は!? マジかよそれ!?」

 ピンスが驚く中、ラバディは懐かしそうにシャッシャッと笑った。

「懐かしいじゃねぇか。 まだウチがそんなにデカくなかった頃だ。 人使うのが上手い奴探したんだよ。 俺は見ての通り手下に優しく出来る質じゃねぇんでな、新しい手下がなかなか育たねぇんだよ」

「てめぇの場合、楽しみ過ぎで殺しまくってんじゃねぇか」

「まあそう言うなよ。 だからお前を引き入れてなんとかしようと思ってたんだよ。 お前は人望はあったからな。 アメとムチになってちょうどいいだろ?」

「てめぇのやり方は好かねぇ。 だが、今はそうも言ってられなくな」

 ゴンザの言葉にラバディは目の色を変えた。

「そりゃあ、俺達に魔帝のガキの手下になれってことか?」

「なんだよ。 俺達の事はもう知ってたんじゃねぇか」

「あのガキは派手にやり過ぎだ。 嫌でも耳に入ってきやがる」

「それなら魔族連中の事も知ってんだろ?」

「ああ。 連中がセレノアを潰したせいでウチは大赤字だよ。 あそこの裏取引から奪うのが一番儲かったからな」

「じゃあ話は早え。 俺の荒くれ連合Ⅱ入って一緒に魔族と戦え。 そうすりゃてめぇらの赤字分の倍の褒美だって手に入るぞ」

 勿論ノエルとはそんな約束はしていないからハッタリだった。

 だが盗賊を味方に付けるには報酬をチラつかせるのが一番だし、いざとなれば自分達の魔鉱石を大量に渡せばいい。

 それに、ゴンザにはもう一つラバディをそそらせるものがあった。

「それにてめぇも聞いてみたくないか? 魔族の悲鳴ってやつをよ。 まだこっちは情報が足りねぇからこれから拷問も増えるだろうし、そうなら好きに痛めつけられるぞ。 しかも魔族は体が強えから簡単には死なねぇしな」

「ちょっとゴンザ。 あんた何勝手に・・・」

「奴にはこれが一番効果あんだよ」

 小声で止めに入るミラに、ゴンザは目配せした。

 するとゴンザの言葉が正しい様にラバディは魔族を拷問する様子を想像してか舌なめずりをしていた。

「奴は痛めつけた相手の悲鳴が好きな変態だからな。 見た事ねぇ奴を拷問出来ると聞きゃああなるってわけよ」

「性格最悪じゃない」

「聞こえてるぞオカマ野郎」

 ラバディはギラリと睨みつけるがすぐにゴンザに視線を移す。

「確かに面白そうだな。 魔族の悲鳴なんて聞き応えはありそうだ」

「じゃあ俺も組もうぜ! 損はさせねぇよ!」

「でもよ、それって魔族の連中に付いた方が得じゃねぇか?」

 ラバディが片手を上げると、周囲の盗賊達が一斉に武器を向けた。

「ラバディ! どういうつもりだ!?」

「俺の聞いた情報じゃ大国はどこもかしこも魔族に痛い目にあってんだろ? そいつらが纏まったってそんな化け物に勝てる保証ねぇ。 なら魔族に付いた方がいい目見れるだろ? ちょうどいい手土産もここにあるしよ」

 邪悪な笑みを浮かべ笑うラバディにゴンザは怒声を浴びせた。

「てめぇ自分が何言ってんのかわかってんのか!? 連中がてめぇらを配下に加えるわけねぇだろ!? 使ったとしても使い捨てにされて化け物の餌にされんのがオチだ!」

「そうならない様に手土産だよ。 少なくとも、敵の参加組織の長の首なら文句はねぇだろ」

 ジリジリ近付いてくる盗賊達にゴンザ達は武器を取ろうとするが、べクレムが前に出てそれを制した。

「なんだお前は?」

「べクレム。 不本意だがこいつの部下だ。 それよりラバディと言ったか? 貴様気付いていないのか?」

「何がだ?」

「魔族に付くということはこちらの五魔や聖五騎士団とも戦う事になるのだぞ? 私が向こうの魔王なら貴様らを捨て石にして力を削がせる事に使うだろうな。 向こうの魔王は冷徹だからもっと違う捨て方をするかもしれないがな」

 べクレムの言葉に盗賊達が動揺する中、ラバディは鼻で笑った。

「それがどうした? 勝つ見込みが少ない方に付くよりはマシだろう」

「確かにそうかもな。 だが、どの道貴様の計画は賭けだ。 ならこういう賭けはどうだ?」

 べクレムは周囲の茂みに何かを投げた。 

 その方向を見ると、ネズミが尻尾に針を打ち込まれ動けずジタバタしていた。

「そいつを持ってきてくれるか?」

 ラバディが許可すると盗賊の一人がべクレムの前にそのネズミを持ってきた。

 するとべクレムは懐から瓶を取り出すと、中の液体を1滴ネズミに飲ませた。

 するとネズミは急にもがき苦しみだし、やがて動かなくなってしまった。

「おいべクレム! お前何やってんだよ!?」

「昔王となる為に色々と習得していた時代の名残だ。 全身に激痛が走り呼吸困難に陥り死に至らしめる強力な毒でな。 結果はご覧の通りだ」

「その毒で何をするつもりなんだ?」

 明らかに毒に興味を持っている様子のラバディにべクレムは続けた。

「なに、簡単なことだ。 今からカップを6つ用意してその中の1つにこれを入れる。 そして私と貴様が交互に飲んでいく。 相手が毒を飲むか、降参した方が負けとなり、勝った相手の参加に入る。 もし貴様が勝てば倍近く増えた勢力を連れ魔族の所に行けばいい。 率いる勢力が大きい程、向こうの利用価値も上がるだろうし、その長の貴様を無下にはしないだろう」

 べクレムの提案にラバディは興味深そうに立ち上がりべクレムに顔を近付ける。

「なかなか面白え提案するじゃねぇか。 乗ってもいいが、お前がイカサマしない保証はあるのか?」

「貴様の手下に注がせればそれで済む話だ。 その代わり、私が先行を取らせてもらおう」

「シャッシャッシャッ。 いいだろう。 その賭け乗ってやるよ」

「ちょっ、ちょっと待ておい!!」

 ゴンザはべクレムとラバディを引き離すと二人の間に割って入った。

「おいおい水指すんじゃねぇよ。 それとも自分の組織がそんなに惜しいか?」

「んなわけねぇだろ! こちとら既にノエルの旦那に身も心も預けてんだ! てめぇらをこっちに引入れられんなら何でもしてやるよ!」

「じゃあなんだよ?」

「その賭けやんのは俺だ。 こいつじゃねぇ」

「!? 待てゴンザ! これは私が・・・」

「お前のお頭は誰だべクレム!? 俺だろうが! だったら俺に身体張らせろってんだよ!」

 ゴンザの言葉に頭を抱えるべクレムだったが、諦めた様に首を振った。

「わかった。 ここはお前の顔を立てるとする」

 べクレムが引くと、ゴンザはラバディと睨み合った。

「つうわけだ。 大将同士タイマンといくか」

「いいぜ。 悶えるお前見下ろすのが楽しみだ」

 そしてすぐに椅子とテーブルが用意され、ラバディの手下が注いた葡萄酒の注がれたカップが二人の前に並んだ。

「さてと、じゃあ約束通りそっちが先行だ。 すぐ終わらせるなよ?」

 ゴンザはゴクリとツバを飲み、一気に葡萄酒を飲み干した。

「さあ、次はてめぇだ」

 無事な事に安堵するゴンザをよそに、ラバディは迷う事無く葡萄酒を飲み干した。

「シャッシャッシャッ。 ビビってる奴を見ながら飲む酒はうまいね〜。 ほら、次行けよ」

「そんなに慌てて飲むと、体に悪いぜ」

 ゴンザは慎重にカップを見つめて、その1つを飲み干した。

 そして毒じゃないとわかるとホッとした様に息をついた。

「なかなか運がいいじゃねぇか。 さてと、3分の1か。 どうするかな」

 そう言いながら選ぶラバディは心の中で大笑いしていた。

 何故なら、ラバディはどのカップに毒が入っているか知っている。

 ラバディは外にはわからない様に手下に独自の合図を幾つも教え込んでいる。

 毒を入れた手下はそれを使い、密かにラバディに教えていたのだ。

(連続で当てた運の良さは褒めてやるが、こうなればもはや俺の土俵だ)

 ラバディは毒の入っていない葡萄酒を飲み干すとニヤリと邪悪な笑みを浮かべ、代わりにゴンザの顔からは脂汗がにじみ出す。

「さあ、これで2分の1だ。 これでお前が当てれば俺の負け。 毒ならお前の死。 わかりやすくていいじゃねぇか」

 相手を追い詰めるサディストの目になったラバディは楽しそうに言葉を続けた。

「あ〜だがお前をここで死なすのはもったいねぇな。 一度は俺がスカウトした男だしな。 だからもし、お前がここで負けを認めりゃ幹部に迎えてやるよ。 勿論お前の後ろにいる連中含めてな」

「うるせぇ! 俺がそんな事すると思うかバカヤロウが!」

 ゴンザは慎重にカップを見つめ、分かるはずがないのに必死にどれが正解か悩んでいる。

 追い詰められているゴンザの表情に愉悦を感じながら、ラバディはまだ続けた。

「なあゴンザ。 意地張るのもよせよ。 所詮俺達みたいなはみ出し者がああいう王族だ貴族だなんて連中と仲良くなれるわけねぇんだって。 どうせ体よく使われて捨てられるのがオチだ。 それより俺達と甘い汁吸う方がどれだけ得かわかるだろ? こんなくだらねぇことで命かけないで、俺達と楽しくやろうぜ」

 相手を追い詰めて、敢えて甘い言葉を吐き相手を誘惑し惑わし苦しませる。

 肉体的なものもだが精神的に追い詰めるのもラバディにとって堪らない。

 葛藤でもがき苦しむ様はまさに甘美と言える。

 だからラバディはゴンザの心が折れるのを待った。

 折れて自分の手元で苦しむゴンザを見てみたかったのだ。

 だが、そんなラバディの期待とは逆に、ゴンザは覚悟を決めた様に葡萄酒を手にした。

「わりぃが、それだけは出来ねぇんだよ」

「なに?」

「俺はよ、強くもねぇし頭も良くねぇ。 ノエルの旦那達の力になれることなんてたかが知れてんだよ。 だからよ、役立てるチャンスがあるなら命の1つや2つ喜んで賭けてやるんだよ。 それが、荒くれゴンザの意地ってもんだ!」

 ゴンザは葡萄酒を飲み干すと、勢いよくカップを置いた。

 そして小さく息を吐くと、ラバディを見下ろした。

「てめぇの負けだ。 それともその毒飲むか?」

 飲む前に心を折るつもりでいたラバディの計画は完全に失敗した。

 逆に追い詰められたラバディは、残った毒入りの葡萄酒を見つめ汗を滲ませる。

「こ、こんな事で、命を賭けるなんて、お前は馬鹿か!?」

「おお馬鹿だよ! でもな、そんな馬鹿を信じてくれる馬鹿な王様も世の中には入るんだよ! だから俺はその人の為に命を賭ける! てめぇにはわからねぇだろうがな!」

「ぐっ! くそっ!?」

 ラバディは葡萄酒を払いのけると手下達に命じた。

「こいつらを殺せ! 俺達が成り上がる為の手土産にしてやる!」

「てめぇ! 大将同士の勝負にケチつける気か!?」

「ふざけるな! 俺達は悪党! どんな手を使っても勝てばいいんだよ!!」

 手下達が武器を構えてにじりよる中、ミラ達は戦闘態勢を取った。

 だがべクレムだけは、状況を静かに静観していた。

「いいねぇ。 嫌いじゃねぇぜその理屈はよ」

 その時、突然した謎の声と共に近くの木が倒れ、そこで弓を構えていた手下達が落ちていった。

「なっ、なんだ!?」

 何が起こったかわからないラバディが倒れた木の方を見ると、牙をむき出しにしたガラの悪い男が立っていた。

「お、お前は!? なんでこんな所に!?」

「だがなぁ、てめぇのやってんのはセコすぎんだよ!」

 驚くラバディに、最悪の暴竜ガルジが、凶悪な笑みを浮かべた。

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