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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
256/360

元魔王の飲み会

「申し訳ありませんね、無理を言ってしまって。 重くないですか?」

「いえ、気にしないでください。 この位大丈夫です」

 ノエルはそう言いながら、酒樽が乗った荷車を引っ張っていた。

 無理矢理乗せその数12樽。

 更にその後ろにはベアードが腰掛けている。

 リナやサタンとの訓練で鍛えているノエルにとっては余裕の重さだが、正直体勢的に腰に来る。

 それでも既にゴルグの町を出て、坂を登っている途中だった。

 ベアードはそんなノエルを見ながら、落ち着いた様子で語りかける。

「なかなか頼もしい方ですなミスターノエル。 しかし先程のマスターが王様と言っておりましたが、貴方はどこかの王なのですかな?」

「そうですね。 プラネという国の王をしています」

 ベアードは隠すと思っていたのに普通に認めた事を少し意外に思いながら話を続けた。

「なんと。 では私は王が引く車に乗っているというわけですか。 これはなんと恐れ多い」

「いえ、構いませんよ。 今は王というより、お使いで来てるだけですから」

「一国の王に護衛も付けず使いに出すとは、なんとも凄い方がいるものですな。 まあ、先程の腕前を見れば護衛がいらないのも頷けますがな」

「僕なんてまだまだですよ。 今も鍛えてもらっている最中です」

「ふむ。 さしずめこの酒はその稽古代の様なものですか」

「そうですね。 今回もたまには息抜きしたいって半ば強制的に」

 ジャバ達をフェンリルの森に預けた後、サタンは急に真面目な顔で強制的にノエル達をゴルグまで連れて来た。

 そして「おじさんここの蜂蜜酒好物だから、買ってきてね」とノエルに命じた。

 無論リナやエミリアは怒ったが、その場で軽くサタンに倒され言う事を聞く事になってしまった。

 今はこの坂の上の丘で飲み会の準備をさせられているはずだ。

 その話を聞いたベアードは呆れながらもどこか懐かしそうに笑った。

「なんとも滅茶苦茶な方ですなその師匠殿は」

「ええ。 ですが、なんだかんだでしっかり鍛えてくれますから、そこは信頼してます」

「それは結構」

「おじいさんはなんであの酒場に?」

「私は酒に目がないもので。 美味い酒があると聞きつい足を運んでしまうのですよ」

「あんな所まで行くなんて、お好きなんですね」

「ええ。 美味い酒が飲めるなら国も滅ぼしますよ私は」

 そう言って笑うベアードの言葉に驚きながらも笑うノエルは、漸く坂を登り終えた。

「ああ、すぐそこです」

 ノエルが指指すと、見晴らしのいい丘に簡易的に椅子とテーブルが置かれていた。

 そして、不満そうにするリナとエミリアに挟まれサタンが機嫌良さそうに座っていた。

「! ノエル!」

 ノエルに気付いたリナが駆け寄ると、エミリアもそれに続いた。

「大丈夫だったかノエル?」

「ええ。 少し腰に来ましたけどね」

 ノエルが腰を伸ばすと、エミリアは荷車の樽を見て改めてサタンを睨む。

「仮にも一国の王にこの量の酒を運ばせるなんて何を考えてるのよもう」

「怒っちゃだめよエミリアちゃん。 折角息抜きに来たんだし、笑って笑って」

「逆にストレスが溜まりそう。 あら? ノエル君、その人は?」

 荷車の後ろに座るベアードに気付いたエミリアが聞くと、ベアードは荷車を降りた。

「あ、この人はお酒を取りに行ったお店で会って・・・」

「おんや〜? 懐かしい顔じゃないのベアードちゃん?」

 ノエルの説明を遮りサタンが声をかけると、

ノエル達は警戒しその場を飛び退いた。

 ベアードの名は、ラミーアやベルフェゴールから聞いた敵の四天王の名だったからだ。

 ベアードはそんな周囲を気にせず片眼鏡の瞳を光らせサタンに向かい穏やかに答えた。

「これは、お久しぶりですねミスターサタン。 偶然とはいえ、まさかこんな形で再会するとは」

「おじいさんが、敵の四天王?」

「なんでそんな大物がこんな所にいやがんだよ!?」

「ふふ、身分を偽った無礼は謝罪しましょうミスターノエル。 ただ、私は本当に酒を飲みに来ただけなのですよ」

 その言葉を裏付ける様に、ノエル達が臨戦態勢を取るのに対しベアードは未だに敵意も見せず落ち着いた様子で話していた。

「安心していいよノエルちゃん達。 このベアードちゃん、酒に関しては嘘付かない程の酒好きだから。 おじさんが保証するって」

「その通り。 それに今は我らが魔王陛下がそちらに手を出さないという盟約をされたのでしょう? それを私が破る訳にはいかないですからね。 流石に私もこの面子に一人で勝てると思う程自惚れてはいませんしね」

 ベアードはそう言うと用意されていた椅子へと腰掛けた。

「さあ飲みましょうミスターサタン。 久しぶりに貴方と飲み比べするのもいいでしょう」

「酔わないくせに飲み比べも何もないと思うけどね〜」

 サタンは嬉々としてベアードの向かいに座ると酒を要求し、ノエル達は成り行きを見守るしかなくなった。






「いや〜相変わらずいい飲みっぷりだね〜ベアードちゃん♪」

「なんのなんの。 ミスターサタンには負けますよ」

 始まって30分も経たない内に12の樽の半分以上を飲み干した二人は機嫌よく昔話に花を咲かせていた。

 その様子にリナとエミリアは警戒しているのがバカらしく感じ、酒こそ飲まないがノエルの用意したツマミを摘みながら様子を見ていた。

「つうか、あんたら仲いいけどどんな関係なんだよ?」

「ま、昔散々殺し合った仲かな?」

「殺し合ったとは人聞きの悪い。 殆ど貴方が勝手に暴れていたようなものでしょう?」

「その割にはノリノリで戦ってたじゃないのよ」

「まあ、貴方の相手は数少ない退屈を紛らわせる素晴らしい遊戯でしたからね」

 物騒な事を遊戯と言い笑い合う二人に、リナとエミリアは自分達では入り込めない様な何かを二人の間に感じた。

 同時に、敵対しているにも関わらずこうして一緒に飲んでいられるのは、この二人がお互い本当に理解し合っているからというのもわかった。

「つまり、今ディアブロちゃんに付き合っているのも、ベアードちゃんには遊戯って事かな?」

「流石にそうは言いませんがね。 まあミスターディアブロがもたらす新しい世には興味がありますね」

「それ、ディアブロちゃんの下でないと見れないものかな?」

 サタンの一言に、ベアードは酒を飲む手を一旦止めた。

「それは、どういうことですかな?」

「いやね、今のディアブロちゃんの下にいるの堅苦しくてベアードちゃんには窮屈なんじゃないかな〜と思ってね。 だったら、こっちで一緒に酒を飲みながら楽しく暴れる方がベアードちゃんには合ってるんじゃないかなと思ってね」

 ベアードは片眼鏡の中の瞳を光らせ、先程の穏やかなものとは違う笑みを浮かべた。

「なるほど。 偶然ではなく、私を勧誘する為に来たわけですか」

「ベアードちゃんならここの酒に目を付けると思ったんでね」

 サタンの本当の狙いを知ったリナ達が驚く中

、ベアードは一口蜂蜜酒を飲んだ。

「全く貴方にしては珍しい積極性ですな。 ずっと遊び歩いていた貴方が急に動き出すのも変だと思っていましたが、何か理由がお有りですか? 例えば、今になってミスターディアブロに滅ぼされた一族郎党の恨みを晴らすとか」

「滅ぼされた!? サタンの一族が!?」

 驚くエミリアを他所にサタンはいつもの軽い調子で返した。

「別にそんなんじゃないよ。 ただ、ディアブロちゃんに好き勝手暴れられると折角楽しくやってるのが壊されると思ってね」

 それが真意かどうかサタンの態度からはわからなかったが、ベアードはそれ以上その事には触れなかった。

「まあいいでしょう。 それで貴方は私が貴方に従うと本気で思っているのですかな?」

「勿論条件は出す。 ベアードちゃんに酒が更に美味しく飲める方法を教えてあげちゃう♪」

「ちょっと待ておっさん!? まさかそんなんでこいつをこっちに引き入れようってんじゃねぇだろうな!?」

「まあ見てなよリナちゃん。 それにほら」

 サタンが指指すと、ベアードの目の色が変わっていた。

 明らかに先程よりも興味を持っている。

「ほほぉ。 それは興味深いですね。 一体何を?」

「まあ慌てない慌てない。 ノエルちゃん♪」

 サタンが呼ぶとノエルが料理の乗った皿を持って現れ、それをサタンとベアードの間に置いた。

「鴨スモークにカマンベールとブルーベリージャムを乗せたものと、クルミとゴルゴンゾーラを小麦の皮で包んで軽く揚げたものです」

 いきなり出された料理を見て、ベアードは怪訝な顔をした。

「ミスターサタン。 まさか、貴方の言う方法とはツマミの事じゃないでしょうね?」

 ベアードもツマミは食べた事はある。

 それこそ酒が美味しくなると聞き様々なものを食べてきた。

 だがどれもベアードの期待する程のものではなく、寧ろツマミを食べるならその分酒を飲みたいという想いが強まりベアードは常に酒飲みを飲み続けていた。

 だからサタンの策がツマミだと知り、正直落胆を隠せなかった。

「まあまあそう言わずに、騙されたと思って食べてみなよ」

 サタンに進められ渋々クルミとゴルゴンゾーラのスティック状のツマミに手を伸ばすと、ベアードはそれを口に入れた。

 するとサクッという生地の音と同時にゴルゴンゾーラの風味が口の中いっぱいに広がり、クルミの程よい食感にベアードは目を見開いた。

「こ、これは!?」

 ベアードは戸惑いながら蜂蜜酒を口に運ぶと、更に目を丸くする。

 蜂蜜酒がより引き立ち、ベアードの舌と喉を刺激した。

「馬鹿な!? これはどういう事だ!?」

 今まで経験した事のない感覚に驚くベアードにサタンはイタズラに成功した悪ガキの様な笑みを浮かべた。

「やっぱりノエルちゃんの料理は最高だね〜♪」

「役立ったなら良かったですけど、本当にこれで大丈夫なんですか?」

「これを作ったのは貴方なのですかミスターノエル!? 一体何をしたのです!?」

「いや、普通に料理作っただけなんですけど」

 興奮気味のベアードに圧されながら答えるノエルに、サタンはおかしそうに笑った。

「ノエルちゃんの料理はおじさんの食べた中でもトップクラスに美味しかったからね〜。 絶対ベアードちゃんの度肝抜けると思ってたのよね」

「それにしても、驚き過ぎじゃないのあれ?」

「ベアードちゃんは食べる必要ないから基本食べ物には無関心だし、そこらへん鈍いのよね。 でも、ノエルちゃんの料理ならベアードちゃん刺激するには十分だし、その分刺激が強くなるってわけよ。 しかもベアードちゃんの大好きなお酒が絡めばご覧の通りよ」

 サタンの言葉通り、ベアードは無関心だったツマミを食べながら先程よりも夢中になり蜂蜜酒を飲んでいく。

 エミリアはノエルの料理の腕に改めて驚き、何故かリナは自分が手柄を上げたみたいにふんぞり返っていた。

 そして、樽を更に2つ開けたベアードは漸く一心地付き、悩み始めた。

「おい、本当に悩み始めたぞあいつ」

「だから言ったでしょ? ベアードちゃんにとってお酒は何より大事なのよ」

 暫く悩むと、ベアードはノエルを見上げた。

「貴方の料理は素晴らしいものでしたミスターノエル。 この様な衝撃は初めて酒を口にした時以来かもしれません」

「お口に合ってよかったです」

 ベアードは暫くノエルの目を見つめるが、何かを思い留まる様に首を横に振った。

「全く、貴方には野心の様な感情は無いのですな。 今も単純に私の口に合った事を喜んでおられる様ですし」

「まあ、料理を褒められるのは嬉しいですし、喜んでもらえるなら尚ってことですよね」

「本当に、我らの王とはある意味対局な方です。 そんな貴方の元でいられればさぞ酒以外にも楽しめそうな気がします」

「じゃあ・・・」

「しかし、そちらに付くことは出来ませんな」

 ベアードの拒絶に、サタンが一番驚き立ち上がった。

「ちょっとちょっとベアードちゃん!? 何言っちゃってんの本当に!? このチャンス逃したらもうこっち来れないのよ!?」

「ミスターサタン。 それに関しては本当に申し訳ない。 私も本来なら今すぐにでもそちらに加わりたい気持ちでいっぱいなのです」

 「マジでそこまで揺れてたのかよ」と酒でそこまで悩んでいた事に驚くリナに頷きながらベアードは続けた。

「ミスターサタンの言う通り私にとって酒はそれ程大きなものなのですよミスリナ。 しかし、今の魔界の現状を知る者として今もミスターディアブロを裏切るわけにはいかないのですよ」

「そんなに逼迫しているんですか、魔界は?」

「ええ、ミスターノエル。 魔力が足りなくなった事で我々は糧を失おうとしています。 ミスターディアブロは犯罪者を殺し、その魔力を魔界に拡散させる事で防いできましたがそれももはや足りず、少しでも罪状のある者を死罪にし、ついには力のある魔族を秘密裏に消す事で保っている状態なのです。 約200年前も魔宰相と言われたミスターキナンガが消され魔界の民の糧にされました」

「キナンガ!? あいつはディアブロの新しい国作りに最も貢献した男だろう!? それを殺したっていうのかあいつは!?」

 キナンガという魔族が殺されたと聞き軽さが吹き飛んだサタンに対し、ベアードは静かに頷いた。

「もはや私達に出来る事はアーミラを使い、地上に進出する事。 どの道魔力の糧が不足すれば地上で新たな糧を得るしか方法はないですからな」

 ベアードは立ち上がるとノエルに対し深々と頭を下げた。

「ミスターノエル。 ここまでのもてなしをされながらそちらの申し出に答えられない無礼、心よりお詫び致します。 しかし私も魔王の一人と呼ばれた者。 魔界の民が衰退する様を見るのは、流石に目覚めが悪いのですよ」

 敵の王であるノエルに対し最大限の謝罪をするベアードに、ノエルはこの人も王の名を持つ一人なのだと実感した。

「顔を上げてください、ベアードさん。 魔界の現状が知れただけでも、こちらとしては大きい収穫です。 それだけで、今は十分です」

「なんとも寛大な方ですね貴方は」

 ベアードは少し考えると、宙に黒い穴を出しそこから羊皮紙を取り出した。

「それは?」

「現在建築中の我らの砦の見取り図です。 貴方から頂いた素晴らしい料理には及びませんが、せめてものお礼です」

「そんな大事な物、渡してしまって大丈夫なんですか?」

「勿論。 私にとって、酒は何より大切なもの。 その酒の新たな一面を教えていただけたのは私にとって何よりの褒美です。 寧ろそちらに付けず申し訳ない位です」

 そこまで言うと、ベアードはサタン達に向き直った。

「ミスターサタン。 そしてミスリナにミスエミリア。 貴方達にも詫びましょう」

 心から詫びるベアードに、サタンはため息を吐きながら頭をかいた。

「残念だよ。 ベアードちゃんと共闘って楽しい展開になると思ってたのに」

「申し訳ありません。 ですが私も譲れぬものがあるという事です」

 ベアードは残った蜂蜜酒の樽を1つ持ち上げ黒い穴に入れた。

「残りは貴方方がお持ちください。 次会う時は戦場でしょうが、皆さんの健闘を祈っていますよ」

 深々ともう一度頭を下げらと、ベアードは黒い穴へと消えていった。

「・・・で、結局交渉決裂ってか」

「まあ、敵の本拠地の見取り図が手に入ったのは大きいから、それで良しとしましょう。 こちらとしては予想外の収穫だったわけだし」

「だな。 ん? どうしたおっさん?」

 リナに聞かれたサタンはベアードの消えた虚空を見つめていた。

「ベアードちゃんなら確実にこれでいけると思ったんだけど、どうやらおじさんのいない間に随分魔界も変わっちゃったみたいだね〜」

 その表情からはいつもの軽さは消え失せ、どこか寂しげなものを感じた。

 そしてサタンはノエル達に向き直る。

「本当なら、ここでベアードちゃん味方に付けて色々楽しようと思ったんだけど、そうも言ってられなくなっちゃった。 だからおじさん、そろそろ本気出そうかね」

「本気?」

「ああ。 今までの遊び半分じゃない、正真正銘の特訓よ」

「つまり、もう負けてへんてこなコスプレさせられなくて済むって話か。 上等じゃねぇか」

「その代わり、途中で死んじゃうかもしれないよ? 覚悟、出来てる?」

 かつてラミーアに召喚された時と同じ威圧感を感じたノエル達は、サタンが本当に本気になった事を理解する。

「元から、僕達が強くならないと先に進めません。 だからお願いします。 魔族に勝てる力をください」

 ノエルの言葉に同意する様にリナとエミリアもサタンの方を見つめた。

 サタンはその覚悟を受け止め、威圧を解いた。

「いいよ。 ならおじさんも見せてあげるよ。 正真正銘本物の魔王と呼ばれた者の力を」

 新たに決意を抱き、ノエル達の本当の特訓ガ始まろうてしていた。

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