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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
252/360

それぞれの課題

「これはこれはライル殿! 我輩に何用ですかな?」

 いつもの様に芝居がかった大仰な振る舞いをするアルゼンに対し、ライルは複雑な表情を浮かべながら意を決して口を聞いた。

「てめぇに聞きてぇことがあってきたんだけどよ。 俺を強く出来るか?」

 ライルの質問にアルゼンの目つきが変わった。

 それは新しい玩具を見つけた様に輝いていた。

「詳しくお聞きしましょうか?」

「言葉のままだよ。 てめぇが鍛えりゃ俺は四天王連中とやり合える位強くなれそうか?」

 ライルはラミーアに鍛え直せと言われた時、それは自分が主戦力として数えられている事を理解した。

 普段なら喜ぶが、実際敵の力を目の当たりにした今そんな余裕はない。

 リナ達がかつての五魔という化け物と戦わなければならない今自分が出来る事はその負担を減らす事。

 つまり四天王クラスを倒せる様になる事だ。

 幸か不幸か、ヒュペリオスに目を付けられていた事もあり、ライルは打倒ヒュペリオスに的を絞る事にした。

 そして正直気は進まないが、ライルにとってアルゼンが一番自分を鍛えるのに適任だった。

 父親であるギエンフォードをギリギリまで追い詰めた拳聖とまで呼ばれる程の武術の達人。

 人の武術に興味を持ちそれを習得しているヒュペリオスを倒す為の特訓相手としてはうってつけだった。

 アルゼンは興味深そうにライルの話を聞くと、更に目を輝かせた。

「なるほどなるほど。 かの拳王ギエンフォード殿の御子息を我輩が育てるというのはなかなか楽しそうですな」

「なら引き受けてくれんのか!?」

「そうですな〜」

 ライルが勿体ぶった様にカイゼル髭を触るアルゼンに苛つきそうになると、背後から気配を感じて慌てて避けた。

 するとライルの頭のあった場所にアルゼンの弟子兼秘書であるリザの蹴りが飛んできた。

「どあっ!? あっぶね!?」

「ほほぉ、流石にいい勘をしておりますな〜」

 アルゼンは楽しそうに言いながらライルに背を向けた。

「リザに勝てたら貴殿の願い叶えて差し上げましょう」

「はっ!? なんでそんなことうぉっ!?」

 再びリザの蹴りが飛び今度は腕でガードした。

「リザを舐めてはいけませんぞ? 仮にも我輩唯一の弟子ですからな。 才能も実力もそこらの魔族より上です。 そんな彼女を倒せぬ様では、貴殿の望みは到底叶わないと思うのですが?」

 アルゼンの言葉に、ライルは意識を戦闘に切り替え拳を打ち鳴らした。

「やってやろうじゃねぇか! その代わり約束守れよな!?」

「無論、そこはしっかり守りますぞ。 リザ。 殺す気でやりなさい」

「はい、師匠(マスター)

 リザとライルの戦いが始まった音を聞きながら、アルゼンはその場を離れた。

(申し訳ありませんなライル殿。 暫くリザと戦っててもらいますぞ? その間我輩もやらねばならない事があるのでしてな)

 アルゼンの脳裏にセレノアで戦ったキュラミスの姿が浮かぶ。

 華麗にして優雅なその身のこなしとその見た目に合わぬ力強さ。

 そして遊び感覚で自分を圧倒する技量。

 その時の戦いを思い出しアルゼンは思わず笑みを浮かべる。

(あの方との再戦の為、我輩も己を鍛え直さねばならないのでしてな)

 ライル達から離れたアルゼンはある小屋に入ると、土床に誰かが首だけ残し埋まっていた。

 彼女はタローマティー。

 キュラミスのお気に入りの魔族であり血を吸われ吸血鬼化されていたが、セレノアでアルゼンが倒した後回収されていた。

 その後ラミーアに聞いた吸血鬼化を解く方法を使い、こうしてアルゼン管理の元保護されていた。

 アルゼンが彼女を管理する理由はキュラミスの情報を聞き出す事にあった。

(彼女なら、キュラミス嬢の力もよくご存知の筈。 となれば、それを聞き出し対策を講じれば我輩にも勝機はある。 楽しみですな。 再び彼女の死闘を演じる事が出来る日が)

 アルゼンはキュラミスとの再戦を夢想しながら、その場を後にし自身の特訓を開始した。






「で、わしはなんでこんなとこに連れてこられとんじゃラミーア殿?」

 ラスゴートはラミーアに連れられドルジオス達ドワーフの工房に連れてこられていた。

「あんたの場合は自分を鍛えるというより武具を揃える方がいいと思ってね」

「そりゃつまり、わしが武具に頼らにゃ強くなれんって事か?」

「半分正解で半分不正解」

 ラズゴートが少しムッとした様子を見せると、その素直で子供っぽい反応にラミーアはクスリと笑いながら説明した。

「確かにあんたは年齢的に単純に鍛えて強くなるってのは難しくなっている。 だけど伸び代が無いわけじゃない」

「ふむ」

「あんた、今まで自分の力に耐えられる武器無かっただろ?」

 ラミーアの指摘にラズゴートは苦笑する。

 実際それは正しかった。

 ラズゴートの強過ぎる力に耐えられる武器は少なく、既に何度武器を変えたかわからない。

 中には一撃放っただけで壊れてしまった事もあり、武器探しはラズゴートの悩みの種の一つだった。

 ジャバと戦った時使っていた戦斧が一番相性が良かったが、それももう壊れてしまった。

 武器は所詮消耗品ではあるが、やはり自分に合う武器が無いのはラズゴートにとって不便なものだった。

「あんたが強くなるには、自分に合った武器が必要さ。 あんたが気兼ねなく全力を出す事の出来る位頑丈で優れたね」

「言いたい事はわかったが、そんなもん造れるのか? ドルジオスの腕は買っとるが、そう簡単に出来るとは思えんぞ?」

 今までラズゴート自身自分に合う武器を探してきた。

 中にはドルジオスの様に腕利きのドワーフの職人にも造らせた事があったが、全て壊れてしまった。

「安心しなよ。 ちゃんと手は打ってるよ」

 ラミーアが目配せすると、工房からドルジオスだけでなくマグノラが姿を現した。

「今度のあんたの武器には魔術の力も付与する。 そうすりゃあんたよ力に耐えられるだけでなく、ちょっとした魔術の攻撃も出来る様になるってもんさ」

「つうことだ! マグノラとはこの間イトス乃杖で共同制作したばっかだしよ! いっちょ任せてくれねぇか!?」

「生粋の武人であるラズゴート様に魔術は邪道と見えるかもですが、今は自体が自体です。 私の力も使ってくれませんかな?」

 ラズゴートはそこで漸く納得すると、いつもの様に豪快に笑った。

「そういうことか! なら任せようかのぉ!」

「よろしいのですか?」

「別にわしは魔術が使えないだけで否定も何もしとらん! 使えるもんは何でも使うのがわしのやり方よ! それに、実はちょっと魔術使うの憧れとったからのぉ! ガッハッハッ!」

「なら話は早ぇ! 早速こっちであんたの手を見せてくれ! 完璧に合う武器造ってやるからよ!」

「魔力の波長も見させていただきます。 馴染めば馴染むほどラズゴート様の力をより引き出してくれるでしょうからな」

「おお! よろしく頼むぞ!」

 ラズゴート達が工房に入るのを見届けると、ラミーアは次の相手の所へと向かっていった。





「なあ頼むよ! 俺に教えてくれよ!」

「そんな暇はないと言っているんだがね」

 プラネにあるアルビア勢の駐屯地に建てられた建物で、イトスはサルダージに頭を下げていた。

 サルダージは半私室化しているその部屋で調べ物をしながらイトスを受け流していた。

「そもそも精霊を扱うには適性が必要でね。 それが無ければどんなに優れた魔術師ですら使う事は不可能。 まあラミーアがそれを渡したと言う事は適性自体はあるんだろうが、四大精霊をたかが2ヶ月で扱うなんて無理難題もいい所だよ」

「それでも俺はやらなきゃならないんだよ! ノエル達の為に何が何でも!」

 諦めず頭を下げ続けるイトスに、サルダージは呆れた様に息を吐く。

「全く、貴様は本当あの男とは似ずに非合理的だね」

 サルダージは読んでいた本を置くと何かを書き始めた。

「なにしてんだよ?」

「精霊を使うにはまず精霊と友好関係にならなければならない。 それこそ貴様の師だったあの男と同じ様にね。 精霊も意思のある存在である以上、そこは絶対条件だよ」

 書き終えるとサルダージは羊皮紙をイトスに渡した。

 そこにはプラネ周辺の地図と何かの数値が書かれていた。

「この周辺で一番魔力が濃くて精霊の波長が安定する場所だよ。 そこで瞑想して精霊と可能な限り対話し続ける事だね。 それで精霊に認められれば、可能性は微かにあるだろうね」

「ッ!? ありがとうおっさん! 必ず使いこなしてみせるよ!」

 イトスが出ていくとサルダージは「礼儀のなってない小僧だね」と吐き捨てた後背後に意識を向ける。

「これで文句はないんだろう?」

 そう言うとルシフェルが背後から現れた。

「よくやった。 やはり貴様が適任だったか」

「よく言うよ。 瞑想に適した場所を割り出す事なら貴様やあの魔女でも出来ただろうに」

「確かに出来るが正確に、更に的確に精霊と交信出来る場所を割り出すのはやはり貴様の方が優れている」

「傲慢の堕天使にしてはやけに評価が高いじゃないか」

「得手不得手があるというだけの話だ。 それに、私では貴様の様に細かに教えられないから」

 サルダージは場所だけでなく最も効率よく瞑想を続ける為のデータまで細かく先程のメモに書き記していた。

 その事を指摘されサルダージは忌々しそうに舌打ちをした。

「単なる気紛れだよ。 あの小僧だとぶっ倒れるまで瞑想し続けそうだったんでね」

 サルダージはイトスの記憶を読み取った事がある。

 その時イトスの性質や感情も読み取っており、イトスがどういう行動を取るかよくわかっていた。

 本人の望む望まないとは別に、サルダージはある意味イトスの1番の理解者になってしまっていたのだ。

「それより、あの小僧に戦い方を教えるのは貴様に任せるよ。 流石にそこまで面倒は見切れないからね」

「そこは任せてもらおう。 しかし、なんだかんだであの小僧が精霊を味方に認められると信じているようだな」

 指摘に苛つくサルダージを見て、ルシフェルはその場を後にしようとする。

「そうそう。 これはアドバイスだ。 傲慢も程々にしないと、いずれ身を滅ぼすぞ?」

「おやおや、傲慢の堕天使とは思えない言葉だね?」

「その傲慢の堕天使の実体験だ。 説得力はあるだろう?」

 ルシフェルが姿を消すと、サルダージは再び舌打ちすると自身の調べ物へと戻った。






 レオナはラミーアに連れられ、プラネの岩山の中にある洞窟の1つに来ていた。

「こんな所に連れてきて、一体何のつもり?」

「なに、あんたの特性を強くする為の特訓だよレオナの嬢ちゃん」

「特性?」

鉄人族(アイアン)って言葉、知ってるかい?」

 その言葉にレオナはデスサイズとのやりとりを思い出す。

「それって、あの骨が言っていたあたしの種族?」 

「そう。 あんたらの言葉を借りればね、あんたも亜人なんだよ。 ジャバの巨人族(ジャイアント)と同じ絶滅種って言われるほど貴重な種族さ」

 レオナは自分が亜人だった事に驚きながらも、自分の能力の正体が亜人としての能力だと言う事にどこか納得した。

鉄人族(アイアン)って言うのは見た目こそ人間と変わらないけど、その特性は金属操作。 体の鉄分から道具や武器を造ったり、体を覆う事で冬眠みたいな形で何百年も自分を保存する事が出来るのさ。 両方ともあんたは経験済みだろ?」

「まあね。 冬眠の方はいい思い出はないけど」

「だけどその力の本当に大きな特性は“全ての金属”を取り込んで自在に使う事なんだよ」

「全ての金属!? 魔鉱とかもってこと!?」

「そう。 あんたは今精々鋼鉄までだろ? それで魔鉱レベルの武器とやり合える技量は大したもんだけど、あいつ相手じゃそれは無理さ。 そこで、こいつだよ」

 ラミーアが足を止めると、目の前に巨大な魔法陣が描かれて入る場所に付いた。

 そしてその中を禍々しい造りのフルアーマーの人物がフラフラと歩き回っている。

 レオナはそれを見た瞬間、背筋に寒気を感じた。

「奴の気に気付いたかい。 流石だね。 ありゃオーディン。 最も鎧の持ち主のなだがね」

「鎧の持ち主? どういうこと?」

「あいつは鎧なのさ。 所謂リビングアーマーっやつさ」

「てことはあの中身は、空っぽってこと?」

「ああ。 あたしらよりも古い時代にオーディンっていう戦士がいた。 百戦錬磨。 一騎当千。 そんな言葉の生き写しとも言えるくらいその男は強く、あらゆる戦場を戦い抜き1度も負ける事なく死んでいった。 だけどオーディンを心の底から満足させる戦いは1度もなかったそうだよ。 そんな無念の想いが宿ったのかどうかは知らないけど、奴の鎧は自ら意思を持って動き始めた。 そして自分を満足させる強者と戦う為、各地を転々としながら人を襲う化け物になっちまった。 それをあたしら旧五魔が封印したんだよ」

「そんな危ないものをあたしの特訓相手にする為に引っ張り出したってわけね」

「そういう事さ」

 ラミーアは魔法陣に軽く触れるとドーム状の膜が見えた。

「あいつはこの中から出られない。 あんたはこの中で奴と戦って取り込んで貰う」

「ちょっと待って!? 取り込むってどういう意味!?」

鉄人族(アイアン)の最大の特徴は手の平から金属や鉱物を取り込んで操る事。 その能力を使いこなせれば鉄分切れ起こす事なんて無くなるし、相手の武器を取り込んで無力化することも出来る。 勿論取り込んだ鉱物を混ぜ合わせて更に強固な金属にして武器や防具を作る事も出来る」

「言いたい事はわかったけど、それなら取り込む練習すればいいだけなんじゃないの?」

 ラミーアは近くの石をオーディンに向かって飛ばしてみせた。

 するとオーディンは剣を抜き一瞬でその石を粉砕した。

 その速度はレオナの目でも追い切れなった。

「あいつは接近戦に長けてるデスサイズが必死に食い止めて封印に成功した化け物さ。 あいつに勝てなきゃ、あんたがデスサイズに勝てる見込みはゼロだよ」

 冷静にそうラミーアが告げると、レオナはため息を吐きながら剣を生み出した。

「やる気みたいだね」

「あたし別に特訓とか熱血キャラじゃないんだけどね。 でも、リナやノエル君達だけに任せるわけにもいかないし、あたしもあの骨には聞きたい事があるんでね」

 レオナは瞳に決意を宿し魔法陣の中に入った。

 するとオーディンは獲物の気配を察知し、もうスピードでレオナに斬りかかる。

 その剣を受け止め、レオナの特訓が始まった。

 ラミーアは万一の為に備えてレオナを見守り続けた。





 こうして特訓が始まり、それぞれ順調に動き出した。

 ただ一人を除いては。

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