次の目標
ラクシャダの中の屋敷の応接間で、ノエル達は今後の方針を打ち出すため話し合いをしていた。
因みにジャバは屋敷自体には入れないので窓から話を聞いていた。
「じゃあ、ジャバさんが仲間になって、残りは二人ですね」
「魔器・デスサイズことレオナと、魔人・ルシフェルことルドルフ・ミレ・エルモンド。 正直この二人に関してはどこにいるのか皆目検討がつかない」
クロードはお手上げと両手を上げる。
デスサイズはスカルフェルムというドクロの形をした兜を被った戦士で、あらゆる敵を切り裂き死神と呼ばれた程らしい。
ルシフェルことエルモンドに関してはノエルも何度か名前を聞いている。
例の小さな小屋やこのラクシャダの中の屋敷等の技術面や作戦等をたてる五魔の知恵袋といった存在らしい。
「特にエルモンドはなにしてっか想像できねぇからな・・・いや、ある意味想像しやすいか」
「まあ、あまり目立つことはしてないだろうけど・・・とにかく二人の所在を見付けるのが先決だ。 ジャバ」
「うがう! 任せる!」
クロードに言われジャバはラクシャダの外に飛び出した。
「そういえば、ここではジャバさんの鼻は使えないんですか?」
「ここではラクシャダの胃液の匂いが充満しております。それゆえ、鼻の良いジャバ様の鼻でも細かい匂い迄はわからないのですよ」
ゴブラドの説明にノエルは納得した。
最初にここに来た時の硫黄の様な匂いはラクシャダの胃液だった。
だからゴブラドはジャバに匂いを悟られないように奥へと逃げたのだ。
ノエルの近くにいるジンガも匂いに当てられたのか、少し気分が悪そうだった。
「でもあいつの鼻で本当にわかるんスか? 範囲この国中ッスよ?」
「あいつの鼻は特別だ。 昔中央にいながら国境付近に潜んだ敵兵の匂いに気付いたしな」
「マジッスか!?」
リナの説明に驚くライルに、クロードが付け足した。
「ジャバは元野生児ってことは話したね? 彼はこちらに来るまで魔物や魔獣に育てられたんだ。 その中で、魔獣しか持ってない筈の能力をいくつか持っているんだよ。 その代わり、人間の言葉とかは一切駄目だったけどね」
「あ~だからあんな喋り方なのか」
「見付けた!!」
「のひゃあ!?」
突然窓から声をかけてきたジャバに驚き、ライルはその場にひっくり返る。
「誰が見つかったんです!?」
「レオナの匂い! あっちからした!」
ライルは自分から右側を指した。
「あれは・・・この森の位置から判断すると・・・東ですな」
ゴブラドがすぐ地図を広げジャバの方向を予測した。
「レオナか・・・まああいつならいなくても平気だけどな」
「相変わらず彼女にはキツいね」
「むこうが絡んでくるのが悪い」
何やらムスッとするリンクに、クロードは面白そうにクスッと笑う。
「さて、それじゃレオナを迎えに行くかな。 ジャバ、頼む」
「うがう! ウロロロロロロロロロロロロロロロロロ!」
ジャバが叫ぶと、地面が動き出した。
正確にはラクシャダが大きくうねりだしたのだが。
ラクシャダは大きな体をうねらせながら、地中へと潜っていく。
ノエル達はそのまま東へと向かっていった。
体の痛みと共に、アルファは目を覚ました。
朧気な意識の中、なんとか体を起こそうとする。
『目が覚めたみたいね』
声の方を向くと、そこにはアンヌが立っていた。
傍らにはベータとガンマが寝かされている。
「アンヌ・・・! ベータ! ガンマ!」
アルファはそれまでのことを思い出しベータ達に駆け寄る。
『寝てるだけよ。 当分任務には付けないけどね』
二人の無事にホッとするアルファに、アンヌは続けた。
『感謝しなさい。 二人が盾になってなかったらあなたも動けなくなってたんだから』
「全く、無茶する連中だよ、こいつらは・・・」
口では呆れたように言いながら安堵の表情を見せるアルファを、アンヌは興味深そうに見ている。
「・・・何か?」
『いえ、それがあなたの本性なんだなと』
アンヌに指摘され、アルファは慌てた。
「いや、これは・・・」
『あなたはなかなか本心を出してくれなかったけど、なかなかいいデータが取れたわ』
「それは・・・任務中ですし・・・」
『気にしなくていいのに・・・人間って面白い』
クスクス笑うアンヌに、アルファは笑顔を見せると頭を下げた。
「私達を助けてくれたんですね。 ありがとうございます」
『礼はいらないわ。 今回は余計な横槍も入ったし』
その言葉に、アルファはギクッとした。
「・・・知っていたんですね」
『通信機の記録はお父様に筒抜けよ。 まあ、あなたに対しては怒ってなかったから安心して。 むしろ唆した方にご立腹だったわ』
「はぁ・・・」
『それと、ディアブロを殺そうとした件だけど・・・なんでそうしたの?』
アルファは少し躊躇うが、口を開いた。
「・・・怖かったからです」
『怖い?』
「私は・・・ジャバウォックを倒すあの女が怖かった。 見た目は普通の女なのにジャバウォックを圧倒する姿が・・・」
『本能的な恐怖・・・てことね。 私にはない感情ね』
「申し訳ありません。 隊長として軽率でした」
『いいのよ。 いい経験になった。 それにお父様も同じみたいだしね』
「え?」
アルファの疑問の声に、アンヌはクスクスと笑うだけだった。
アルビア城のとある廊下、軍師が次の仕事の為移動していると、前にギゼルの姿を見付けた。
「これはギゼル様。 この様な場でお会いするとは珍しい。 何かご用でしょうか?」
「なに、部下が君に世話になったようなのでね、少し礼を言おうと思ってな」
丁寧に話す軍師に対し、ギゼルは尊大な態度を崩さず歩み寄った。
「いやいや、私はたまたま入手した情報を提供しただけでございます。 お役に立ちましたでしょうか?」
「ああ、貴重なデータは取れた。 私の部下の重症と引き換えにな」
ギゼルが睨み付ける中、軍師は動じずギゼルを見ていた。
「高名な軍師殿の助言は大変ありがたいのだが、私には私のやり方がある。 それを外から不確定な情報を流されると、こちらの算段が狂うのでね、自重してもらいたい」
こう見えてもギゼルは自身の部隊を動かす時、必ずその部隊の力量にあったものしか宛がわない様にしている。
任務の成功率は勿論だが、何より部隊の生存率に大きく関わるからだ。
前回アルファ達を当て馬にしたのも、小手調べ程度の戦いならディアブロ達相手に生き残れる可能性が高いと判断したからだ。
今回もジャバウォックをディアブロ、もしくはバハムートにぶつけその能力を更に分析し対策を練る為であり、本来アルファ達が表に出る筈ではなかった。
あくまでデータ収集が目的だからその必要も存在しないはずだった。
だが軍師の情報によりジャバウォックの能力を生かすためにディアブロ達の前に出て、包囲しやすくしたのだ。
結果ディアブロとバハムート達の分断には成功したが、アルファの部下二人が暫く動けなくなった。
下手をすれば部下を無駄に失うかもしれなかった。
ギゼルはそんな想いから軍師に釘を指すために来たのだ。
「これは、私が差し出がましい事をしたばかりに、申し訳ありません。 以後、慎みましょう」
頭を下げる軍師だったが、ギゼルにはそれが偽りであることはわかっていた。
「・・・まあいい。 私は聖王アーサーからノエル殿や五魔の事を任されている。 今後は余計な口出しは無用。 それでいいな?」
「はは、肝に命じます」
正直信用はしていなかったが、一応忠告はしたとギゼルは話を切り上げた。
「ならばいい。 私はこれからダグラの愚か者共を処理に向かう。 いいか、余計な事はするなよ」
「はい、吉報をお待ちしております」
恭しく頭を下げる軍師を一瞥すると、ギゼルはその場を去っていく。
ギゼルが行ったのを確認すると、軍師は妖しい笑みを浮かべた。
(さてさて、あのディアブロ達を見たギゼルがどう出るか・・・楽しみですね)
軍師は上機嫌に、その場を後にした。
これで五魔も3人
後二人は人物なのか…お楽しみに♪




