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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
248/360

帰還と代償

ラミーアがサタンを連れてきて一週間後、レオナ達各国の援軍はプラネに帰還した。

「レオナ殿!」

 エドガーが出迎えると、レオナは少し疲れた様子を見せながら笑顔を見せた。

「久しぶりね。 なんとか無事帰ってきたわよ」

「ご無事の帰還、心より喜びを申し上げます」

「そんな改まらなくてもいいって」

「一応、ノエル陛下の臣下だから形式というのは大事だろう」

 少しニヤリも笑うと、エドガーはレオナの後ろの人物に目を向けた。

「貴方もご無事で何よりです、マークス王」 

「ありがとう。 君もスッカリここに馴染んだようでなによりだよ」

 ルシスの王マークスは普段と変わらない様子でエドガーに答えた。

 ルシスは魔族の襲撃を受けはしたが国民を国外に避難させるまでの被害を受けていなかった。

 人にのみ効力を発揮するベルフェゴールの能力が幸いし建物等の被害はなく、生かされた状態に留められていたのもあり人的被害も他の国に比べれば少ない方だった。

 もっとも、それは他の国に比べればという話で犠牲が少なかったわけではないのだが。

 現在はキサラ達による治療もあり、回復した者から国の立て直しに動いている。

 そんな中マークスがわざわざレオナ達と一緒にプラネまで来たのには理由があった。

「それより他の皆は?」

「ギゼル殿達セレノア組も帰還。 ラズゴート殿達ラズトゥの者も、もうすぐこちらに付くようだ」

 プラネには今ダグノラとメリウス率いるセレノアの難民達がプラネに受けていれられている。

 更にラバトゥも国民を一時的にギエンフォードのいるソビアに預け、アクナディン達首脳陣も向かってきている。

 マークスの目的はそれら大国の大物と今後の対策を話し合うことだった。

 セレノアは壊滅、ラバトゥとルシスも大打撃を受けるという大事件は恐らく近い内に大陸中に広がるだろう。

 そうなれば魔族側に付く国も現れ、戦いは更に不利になり、地上の国全てが魔族の物となる。 

 かつて魔族の奴隷だった経験を持つマークスにとって、それは地上の奴隷化とも言っていい状態であり看過できるものでは無かった。

 普段己の国の利益最優先のマークスだが、今回は利益関係なしに早急に対策を講じねばと思いルシスをエルフ騎士(ナイツ)に任せ、こうして自らプラネにやってきたのだ。

「所でリナやノエル君達は? 一応“お土産”持ってきたんだけど」

 レオナの質問に、エドガーは複雑な表情をした。

「ノエル陛下達は、今ラミーア殿の連れてきた方と特訓中だが・・・」

「? どうしたのよ?」

「・・・まあ、会ってもらえればわかる」






「ガハハハハ〜!! いや〜絶景絶景!」

 レオナとマークスはエドガーに案内された部屋の光景に呆然とした。

 初めて見るおっさん相手に、リナとノエル、エミリアまでが給仕をしている。

 しかも所謂バニー服姿で。

「あ、レオナさん! マークス王も無事だったんですね!」

「いや、無事というかそっちが無事じゃないというか、これどういう状況ノエル君?」

 帰って来て早々訳のわからない状況に混乱するレオナに、ノエルは恥ずかしそうに顔を赤らめる。

「これは、特訓のペナルティというかなんというか・・・」

「ふむ。 女性的だと思っていたがそういう格好するとなかなかいいね」

「てめぇ内の王様口説こうとしてんじゃねぇ!」

 リナが慌てて飛んできてノエルを庇うと、マークスは苦笑する。

「生憎、いくら可愛くても男を口説く趣味はないよ。 というより、その格好じゃ凄んでも迫力ないよ」

「好きで着てんじゃねぇ〜!!」

「リナ、本当どういうことよ? あんたが大人しくそんな格好するなんて普通じゃないでしょ?」

「文句はあのクソ親父に言え!」

「あらら〜、クソ親父なんて心外だね〜。 おじさんは約束守ってもらってるだけでしょうよ」

 サタンがわざとらしく肩を竦めながら近付き、エミリアもその後ろに続いた。

「特訓でおじさんが勝ったら言うこと聞いてくれるや・く・そ・く。 おじさんはそれを守ってもらっただけよ」

「それでエミリアまでそんな格好なのね」

「あ、あんまり見ないで」

 エミリアはいつもの凛として様子もなく、赤面しながら俯いてしまう。

 レオナだけならともかく、他国の王にまでバニー姿を見られているのだ。

 仮にも元アルビアの代表としては堪えられない程恥ずかしいだろう。

 無論、それは久しぶりのダグノラとの再会を女装姿で果たしてしまったプラネ王ノエルも同じ気持ちだった。

「それで、特訓とやらで君達を打ち負かしたこの素敵な趣味の御仁は誰なのかな?」

「お〜お兄ちゃん話がわかるね〜。 あんたとならいい酒が飲めそうだ」

「前の魔王のサタンだとよ」

 リナの口から出たサタンという言葉に、マークスの顔色が変わり警戒を強める。

「サタン? まさか、地上に初めて現れた原初の悪魔?」

「おじさんの事知ってるなんて、なかなか賢いね〜。 ま、今は気さくなおじさんだから身構えなくても平気よん」

「ねぇ、こんなふざけたおっさんが本当にそんなに強いの?」

「悔しいが、そこはガチだよ」

 レオナの質問に舌打ちしながらもリナは認めた。

 実際、リナ達は欠片も相手にならなかった。

 サタンは殆ど攻撃せずただ避けるだけでリナ達を翻弄した。

 リナの重力もノエルの黒の魔術もエミリアの超スピードも全て掠りもせず、からかう様な攻撃を繰り返し、飽きてきたら少し強めに攻撃して3人とも気絶。

 サタンの無茶なわがままを聞かせられるというのがここ数日のリナ達だった。

 その話を聞き、レオナは納得してしまった。

 仮にもこの3人相手に遊び感覚で相手して勝ってしまう相手なら実力は本物だ。

 ましてや、こんな無茶要求されるならリナは

勿論ノエルとエミリアも必死に攻撃を仕掛けたに違いない。

 それを簡単にあしらわれてしまってはリナですらサタンの力を認めざるおえない。

 だからこうして大人しく向こうのわがままを聞いているのだ。

 もっとも本心ではかなり苛ついている様ではあるが。

「しかし、原初の悪魔まで呼び寄せるとは。 ラミーアというのは恐ろしい存在だね」

「お褒めに預かり光栄だね賢王殿」

 背後から現れたラミーアの姿にマークスは一瞬驚きの表情を見せるが、すぐにいつもの態度に戻った。

「おや、話には聞いていたけどまさか本当にこんな可愛らしい姿をしていたとは。 お目にかかれて光栄だよラミーア殿。 今度二人でお茶でもどうだい?」

「この姿のあたしを口説くとは流石だね〜マークスの坊や」

 面白そうにケラケラ笑うラミーアを見て、レオナはある事に気付く。

「あれ? あの傲慢堕天使様いないのね? 珍しい」

「あれには今色々飛び回ってもらってるよ。 折角能力があるんだから使わなきゃ損だろうさ。 そいつと同じでね」

「おじさんもルシフェルも、ラミーアちゃんには形無しなのよね」

「そう言うなサタン。 なんだかんだでこの体になってからの貴重な友人だ。 これでも信頼してんだよ」

「ラミーアちゃんに信頼されるのは悪い気はしないね〜」

「まあ、こんなのだけど腕は確かだから安心しとくれ。 なに、レオナの嬢ちゃんにもちゃんとした相手用意しといたから」

「え!? おじさんがやるんじゃないの!?」

 本気で驚くサタンにラミーアは呆れた様に首を振る。

「そりゃそうだろ。 レオナの嬢ちゃんとあんたじゃ戦い方も違うし、何より今は3人に集中してもらいたしね」

「折角次はメイドさん頼もうと思ってたのに〜!!」

「てめぇはどんだけ俺達にへんてこな格好させる気だこら!?」

 本気でガッカリするサタンにリナは文句を言い、ノエルとエミリアは次にさせられる格好を想像しガックリ肩を落とした。

「レオナの嬢ちゃんもいいかい?」

「まあ、力不足は痛感したしありがたいわね。 寧ろあのおっさんじゃなくてホッとしたわ」

「てめぇレオナズリぃぞこら!?」

「あんたはそっちでせいぜい頑張んなさいリナ」

 からかう様に笑うレオナの横で、マークスは真剣な表情でノエルに向かった。

「所でノエル殿。 可能なら今後の事について会議をしたいんだけどいいかい?」

「あ、はい。 ラバトゥ側がもう少ししたら到着する筈なので、その時ダグノラ殿達セレノアも交えて行うつもりです」

「助かるよ。 なら先に私はセレノアの方と話を・・・」

「ウギャアアアアアア!!!」

  突如聞き覚えのある叫び声が響き渡り、ノエル達は顔を見合わせた。

「これは、ジャバさん?」

「だけど様子が変だな」

 ノエル達は外に駆け出し、エミリアとマークスもそれに続いた。

「ちょいと! せめてそれ脱いでから行きな3人とも!」

 ラミーアは呆れながらもサタンと共にノエル達を追いかけていった。






「おいジャバ! しっかりしろって!」

「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアア!

!」

 ノエル達が外に出ると、混乱した様に暴れるジャバをライルやラズゴート達が取り押さえていた。

「オイ! 一体どうした!?」

「あ、姉さんいい所に・・・て姉さん!?」

「お前さんこそどうしたリナ? それにノエル陛下達も」

「今はその事は触れないでください」

 バニー姿に驚くライル達を宥め、ノエル達はジャバを見た。

 ジャバはメイドから涙を流しながらなにかに怯える様にもがいていた。

「い、いやだああああ! やめるぅぅ!!」

「落ち着けジャバ! プラネ着いたから安心しろって!」

「いやだああああああ!! ウゲッ!?」

 暴れるジャバのあたまにリナがゲンコツを喰らわせると、ジャバは地面に頭をぶつけそのまま気を失った。

「姉さん! まだジャバ治りきってねぇんだから無茶すんなよ!」

「こんぐらいしねぇとこいつは大人しくならねぇんだから仕方ねぇだろ! つかどうしたんだよこいつ?」

「それがここんとこ目を覚ます度にこんな有様で」

「恐らく、ラバトゥでの戦いのせいじゃろうな」

「アクナディン陛下!」

 現れたアクナディンは陛下と呼ぶノエルを制した。

「王の座はファクラに譲った。 今はもう王でもなんでもない」

「それってどういう・・・」

「それより説明しろよ? なんでジャバがこうなった?」

「こいつは、ジャバはわしらを逃がす為に一人戦場に残りよった。 ギエンフォードの倅や獣王が助けに行った時、既にズタボロにやられとったそうじゃ。 その後もなんとか気力振り絞って戦ったようじゃが手も足も出ず、その後出てきよった魔王に片手で軽くあしらわれた。 それ以来こんな様子じゃ」

 ジャバの傷は報告に聞いていたよりは回復している様だったが、その目にはクマが出来憔悴しきっている様に見えた。

 更にジャバの頭に被っている鹿の角が片方折れており、それが戦いの激しさを物語っていた。

「よく若い兵士が戦場に出た後こうなる奴がおる。 特にボロ負けした時の戦場なんかは完全にトラウマになりおる。 獣は自分より強い者は本能で察し戦いを避けようとするが、ジャバはその本能に逆らってわしらを守る為に戦った。 その結果があれでは、こうなるのも無理はない」

 野生児であるジャバは人としてより獣の部分が大きい。

 今まではそれが強みとして活きてきたが、今回は逆にジャバの獣としての本能が完全に向こうのジャバウォックやディアブロに対する恐怖を倍増させ、ジャバに大きなトラウマを植え付けてしまった。

 ラズゴートの説明に、アクナディンはノエル達に地に頭を付け謝罪した。

「スマン! わしが不甲斐ないばかりに、お前さん達の仲間をこんなにしてもうた! 謝っても謝り切れん!」

「アクナディンさん! 止めてください!」

「おやおや、天下の武王の土下座とは、面白いものが見れたね」

 軽口を叩きながら、マークスがラミーアと共に現れた。

「わしは王じゃないけぇ。 あまりからかわんでくださいマークス陛下」

「陛下か。 君に畏まれるのは悪い気はしないけど似合わないね。 それとも、牙を折られて言い返す気力もないかい?」

「マークス陛下、それは•••」

「言っとくけど、無力差を感じたのは君だけじゃないよ」

 アクナディンが顔を上げると、マークスは真面目な表情でアクナディンを見詰めていた。

「私も賢王と呼ばれながら、民と籠城するしか出来なかった。 プラネから援軍が来なければ、セレノア同様滅ぼされていた可能性大だよ。 賢王どころか、これでは愚王も良い所だ」

 自身の無力さを語りながら、マークスは更に続けた。

「でもね、生憎私には落ち込む時間はないんだよ。 これでも王だからね。 そして君も、地位を譲ったにしてもまだラバトゥ国民には武王という象徴が必要なんだ。 そんなウジウジしてる暇なんてないと思うんだけど、どうかな?」

 マークスの言葉を聞き、アクナディンは立ち上がるとマークスを見下ろした。

「言われんでもわかっとるわボケ。 このまま終わらせたら、それこそジャバが体張った意味が無くなるけぇ」

 完全ではないが、かつての覇気が戻ったのを感じたマークスはクスリと笑った。

「やっぱり君は、その位ムカつく方が似合うよ武王殿」

 アクナディンは「ふん」と鼻を鳴らすと、改めてノエル達に向き直った。

「らしくない所を見せた。 すまんかった」 「いえ、僕なんて散々情けない所見せてますし、たまには逆もいいでしょ」

「ジャバの事も気にすんな。 こいつだって俺達の戦い続けてんだ。 自力でなんとかするだろ」

 ノエルやリナ達の言葉に、アクナディンは「そおけぇ」と答えながら小さく笑みを浮かべた。

 それを見ながら、ラミーアはしみじみと何かを感じていた。

「どうしたラミーアちゃん?」

「なに。 他国の王同士がこう支え合う世が来るとはねと思っただけだよ。 あたしらの時代じゃ考えられなかったからさ」

「ま、おじさんもこういうのは嫌いじゃないけどね〜。 でもどうするのよ? 実際戦力的に厳しいんじゃないの?」

「そこはあんたに嬢ちゃん達鍛えてもらうからいいんだよ。 それに悪い事ばかりじゃないさ」

 そう言うと、ラミーアはレオナの方を向いた。

「そうだろ、レオナの嬢ちゃん?」

「まあね。 一応、戦利品の中じゃ一番大きいかもね」

「なんだよ戦利品って? さっき言ってた土産の事か?」

「そういうこと。 多分あんたも驚くわよ」

 レオナはイタズラっぽく笑みを浮かべた。

「なんたって、向こうの四天王を生け捕りにしたんだから」

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