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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
246/360

遊戯

ラミーアに付いていったノエル達はプラネを囲う岩山の中にある広い部屋まで連れて来られた。

「あの、ここで何をする気ですか?」

「まあ見てなよ」

 ラミーアは力を込めると、床に大きな魔法陣が現れる。

 紫色の光を放ちながら、魔法陣はその魔力を高めていく。

「おい! てめぇ何しやがった!?」

「言っただろ? あんたらを鍛える奴を呼び出すんだよ」

「呼び出すって、一体何を?」

「ディアブロの前に魔界を事実上統一していた男だよ」

 魔力が更に高まり魔法陣から紫電が飛び散り、周囲の石壁を破壊する。

「ちょっと待って! それってディアブロの前の魔王を呼ぶってこと!?」

「その通りさエミリアの嬢ちゃん。 当時魔王と呼ばれた数人の強豪魔族の頂点に君臨した最強の魔族。 その名も、大魔王・サタン」

 魔法陣の魔力が極限に高まり、中心に大きな閃光が起きる。

 そして魔法陣の中心に粉塵が立ち込めると同時に、ノエル達を巨大なプレッシャーが襲った。

 まるでリナの重力の魔術を受けた様な圧倒的威圧感が、粉塵の中から漏れ出している。

「おいおい、マジかよこれ?」

「冗談にしては笑えないわね」

 リナとエミリアはその大き過ぎるプレッシャーに耐える様に力を全開にする。

 ノエルもそれに続く様に魔力で体を強化するが、プレッシャーのみでこれかとラミーアの呼び出した存在の大きさに危機感を抱く。

 そんなノエル達を余所に、粉塵から声が聞こえてきた。

「・・・我を喚び出せる術者がまだいたか。 我を喚び出した愚か者は何者ぞ?」

 地の底から響く様な低い声に、周囲の壁がミシミシと軋む。

 それは並の兵士どころか、修羅場を潜った戦士ですら逃げ出しそうな程威厳があった。

 ノエルはディアブロの前に魔界を支配していた存在であるサタンに最大限の警戒をする中、ラミーアは一歩前に出て呆れた様に言った。

「全く、相変わらず下らない遊びが好きだね〜サタン」

「ら、ラミーアさん!?」

 不遜にも思える様な口をきくラミーアにノエルが焦ると、粉塵の中の瞳がギラリと光った。

「その声、ラミーアかぁ!?」

 すると突如粉塵が一気に吹き飛び、なにかがラミーアに向かい猛スピードで突っ込んでいく。

 ノエル達はラミーアが危ないと思いすかさず守ろうとした。

 だがノエル達よりも早くラミーアはその何かに掴まれノエル達の間を擦り抜ける。

「なっ!?」

 余りの速さに驚きながらもノエル達は振り返りラミーアを助けようとした。

「あ〜ラミーアちゃんお久しぶりね〜。 相変わらず可愛いにゃんこちゃんでおじさん嬉しいわ〜」

「そのむさい顔近づけるなって毎回言ってるだろうが! 酒臭いんだよあんたは!」

 4、50位の大柄のおっさんがラミーアにデレデレした顔をして思い切り頬擦りしている光景に、3人は思わず固まった。

 先程までの威厳も威圧感も欠片も感じさせないその姿に混乱しながら、ノエルが口を開いた。

「あの、ラミーアさん。 その人は一体?」

「あ? さっき言っただろ? これが大魔王サタンだよ」

「「・・・ハァ〜!?」」

 3人が思わず大声を上げて驚く中、サタンは立ち上がり「ふふふ」と得意そうに笑った。

「そう、その通り。 我こそが、かつて魔界の頂点に君臨した最強無敵の絶対魔王! 大魔王サタン様よ! よろぴくね♪」

 かっこよくポーズを決めた後軽いノリで話すサタンに、ノエル達の思考は完全に追い付いていなかった。

「な、なんなんだよこのおっさんは!? つうかいい年したおっさんがよろピくねとか言ってもキモいだけなんだよ!!」

 思わず絶叫するリナにエミリアもノエルも頷きこそしなかったが心の中で全力で同意した。

「まあそう騒ぐんじゃないよリナの嬢ちゃん。 こいつはディアブロに負けてからずっと地上で好き勝手遊び歩いててね。 今じゃあたしの数少ない昔馴染さ」

「いや〜もう地上出たら楽しくてね〜♪ 酒はうまいしギャンブルはスリリング。 でもって姉ちゃん達は可愛いと来たもんだからもうおじさん遊ぶしかないでしょうが」

「知るかんなこと!! 大体さっきのは一体なんだったんだよ!?」

「あ〜あれね〜。 いや〜おじさんこれでももと大魔王だし、ちょっと位それっぽい感じで登場した方がカッコいいじゃな〜い?」

「どうでもいいわ!! 俺達のさっきの緊張感返せやコラ!!」

「冗談にしては笑えないわ」

「いや、もう何がなんだか・・・」

 リナは怒った様にツッコみまくり、エミリアは先程とは違う意味で頭を抱え、ノエルはどう反応すればいいか完全に混乱していた。

 というより、魔王の地位追われた原因であるディアブロの元仲間のラミーア達を恨んでるんじゃないかとか色々心配したのに、それらが全て吹き飛びドッと疲れる感じがした。

「俺達は強くなれるっつうから付いてきたのによ、こんなフザケた酔っぱらい呼び出してどういうつもり・・・」

「まあまあそう怒らないの可愛い姉ちゃん」

 瞬間、リナは戦慄した。

 音も気配もなく、本当に瞬きする間もなく、サタンが自分の背後に立っていた。

 側にいたノエルとエミリアも同様に、欠片もサタンの移動を認識することが出来なかった。

「おじさんはね〜、今の生活結構気に入ってるのよ。 気ままにのんびりワガママし放題でね。 それをあのディアブロちゃんにぶっ壊されるのはちょっと困っちゃうんだよね〜。 だ・か・ら、おじさんが手を貸してあげるから仲良くしようよリナちゃん♪」

 サタンは軽い調子で言うとヒョイと尻を撫でた。

「っ!?」

「ほぉ、胸はまだまだだけどなかなか引き締まってブルアアアアアア!?」

「どこ触ってんだこのクソ親父が!!」

 リナの渾身のアッパーが顎にヒットし、サタンは宙を舞った。

 なんて命知らずな事を、と普段のノエルなら思うだろうがサタンの力の一端を見た今そんな事は欠片も思わなかった。

 サタンは今のわざと殴られた。

 そもそも、先程リナの背後に移動した時でさえこちらの最速の速さを持つエミリアを軽く超えていた。

 しかも全然本気ではない。

 喚び出した時の威圧感ですらラミーアに言わせれば単なる遊び。

 つまりサタンはここに来てから終始ただ遊んでいるだけなのだ。

 まるで子供と戯れる様に。

 リナもそれをわかっている様で舌打ちしてサタンを睨み付けた。

「あててっ、リナちゃん可愛い顔して過激ね〜」

「ごちゃごちゃうるせぇよ。 で、てめぇは遊びに来たのか? 俺達を鍛えに来たのか?」

 リナの言葉にサタンは先程とは少し違う笑みを浮かべる

「あらら、おじさん相手にやる気になってくれちゃって嬉しいね〜。 勿論ラミーアちゃんのお願いだし鍛えてあげるけど、おじさんワガママだからちょっと条件があるのよ」

「なんだよ?」

「おじさんの特訓は簡単。 おじさんと戦って戦って戦いまくってもらうだけよ。 その方が実戦的だしおじさん好みだしね。 ただ、正直それだとおじさんつまんないのよ。 だから、暫くの間はおじさんに一発当てられたらそっちの勝ち。 その前に倒したらおじさんの勝ち。 で、一回おじさんが勝つごとに言う事1個聞いてもらう。 どう? やる?」

 サタンの提案に、リナはいつもの好戦的な笑みを浮かべた。

「いいじゃねぇか。 俺の好みだ」

「ノリいいね〜。 おじさんそういうの好きよ。 で、ノエルちゃんとエミリアちゃんはどうする?」

「私は強くなるなら構わないわ。 その位の方が張り合いもあるしね」

「勿論、僕もやります。 無茶な要求はもう慣れてますしね」

 ノエル達の返答にサタンは満足そうに笑った。

「よし、決まった! いや〜可愛い女の子3人相手に出来るなんておじさん嬉しいね〜」

「え?」

 久しぶりに女に間違われたと悟ったノエルが固まると、リナは笑い始めエミリアも堪えながら小さく笑いを漏らした。

「ん? どうした?」

「あんたね、ノエルの坊やは男だよ」

「は?」

 今度はサタンが固まり、その後ルシフェルとラミーアに叱られるまで女の子じゃなきゃやだと駄々をこね、ノエル達は(これで大丈夫なのか)と不安でいっぱいになるのだった。

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