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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
237/360

魔甲の集合体

 それはこの窮地にとって光明とも言える存在だった。

 デスサイズの前に立ちはだかる二人の人物。

 一人は魔甲機兵団最強の男オメガ。

 もう一人は現五魔1の武器使いである鋼鉄の死神レオナ。

 マークスは目の前の二人を見てふぅと小さく息を吐く。

「いや~助かったよ。 あの男の下らない話を長々と付き合った甲斐があったよ」

「全く、あたし達に気付いてたからって、挑発しすぎなんじゃない?」

「時間稼ぎは必要だからね。 それに正直あの男へのイライラが我慢できなくてね」

 軽く言うマークスだったが、本当にギリギリだった。

 レオナとオメガが来なければベルフェゴールの提案を飲むしか生き残る道はなかった。

 それほどマークスの知をもってしても覆せないほど追い詰められていた。

 一方のデスサイズはまたケラケラと笑い出す。

「ヒャ~ッハハッ! わかるぜその気持ちよ! てめえとは気が合うじゃねぇか!」

「それは光栄だね。 それなら気が合う同士味方になってくれるとありがたいんだけどね」

「そいつも面白そうだが、それよりこいつと遊ぶ方が楽しそうだ」

 デスサイズはレオナを見て、両目を光らせる。

「声聞く限り女みてぇだが、久しぶりに骨のある奴とやれそうじゃねぇか」

「骨しかないあんたなんか、あたしはお断りだけどね」

「ヒャハハ! 言うじゃねぇか! 気に入った! 骸骨同士! 仲良く殺し合いと洒落こもうぜ!」

「一緒にしないでよこの変態骸骨!」

 レオナとデスサイズは互いの獲物をぶつけ合うと、斬撃を打ち合いながらその場を離れていった。

「デスサイズ様! 勝手にどこへ!? ・・・クソッ!」

 デスサイズの勝手な行動に先程助けられたにも関わらずベルフェゴールは歯軋りする。

「あの骸骨! 肝心な時に好き勝手して!」

「貴様の相手は俺がしよう」

 ベルフェゴールは目の前のオメガに気付くと、再び余裕の態度を取り繕った。

「これはこれは。 随分と風変わりな方のご登場ですね。 しかしいいのですか? 魔王ディアブロ陛下四天王が一人、災厄のベルフェゴールを一人で相手するなど愚行以外のなにものでもないですよ?」

「安心しろ。 貴様の戦闘力は明らかに俺より低い。 少なくとも、先程のレオナの一撃を見切れなかった貴様などたかが知れている」

 オメガの冷静な言葉はベルフェゴールの怒りを買うには十分だった。

 ベルフェゴールは目を血走らせ、オメガを睨み付ける。

「本物の愚か者ですねあなたは。 私は見切る必要などないのですよ。 何故なら、そんなことしなくともあなた方はすぐに惨めに地面に這いつくばるのですからね!」

 ベルフェゴールの怒気の籠った言葉を受けてもオメガは変わる様子もなく、むしろ若干呆れた様に問うた。

「貴様、気付いていないのか?」

「? 一体何を気付くと言うので・・・ッ!?」

 そこで漸くベルフェゴールは異常に気付く。

 オメガとレオナは結界の外にいるのに平然と立っていた。

 ベルフェゴールは力で国中を覆い、マークスの結界の外にいる者は例外なく苦しみもがいていた。

 なのにオメガと、先程デスサイズとこの場を離れたレオナはそんな様子など欠片もない。

 この場所に来るまでの間散々ベルフェゴールの力の影響を受けている筈なのにも関わらずだ。

 その事に気付いたベルフェゴールにオメガは静かにその事実を突き付ける。

「残念だが、俺達には貴様の“ウィルス”は効かない」






 それはレオナ達がルシスの国境近くに辿り着いた時の事だった。

 レオナとオメガはキサラのエルフ救護隊とサルダージの魔術隊を引き連れ国に入ろうとしたが、急にオメガの足が止まった。

「止まれ」

「どうしたのですかオメガ殿?」

 キサラの問いにオメガは遠くに見える国境付近を指差した。

「今あの辺りに大量のウィルスが浮遊している」

「ウィルス?」

「病原菌の事だよ。 目に見えない小さなもので、分かりやすく言えば風邪とかの病気の素だよ」

 サルダージの説明にオメガは頷いた。

「俺はギゼル様のお力でその手の微細なものを見分ける事が出来る。 恐らくこのまま進めば、隊全員が感染し動けなくなるだろう」

「ちょっとそれどうすんのよ!? それじゃあたし達国に入れないじゃない!?」

 慌てるレオナに対し、オメガは少し考え向き直る。

「レオナ。 完全に密閉した鎧は造れるか?」

「え? それは造れるけど、そんなの造っても前見えないし、第一息も出来ないから役に立たないわよ?」

 するとオメガは丸い透明な板と何かのパーツを取り出した。

「これは?」

「俺の体にも使われている対衝撃強化レンズと浄化装置だ。 この浄化装置を兜に付ければウィルス等の毒物を浄化し空気を取り入れる事が出来る」

「じゃあこれで鎧を造ればあの中に入れるのですね」

「待ってよキサラさん! あたしこの人数分の鎧なんて造れないわよ! せいぜい自分含めて3人! それ以上使ったら戦う分の鉄無くなっちゃうわよ!」

「パーツも限られている。 どのみち全員分は造れん」

「そんな! それじゃどうすれば!?」

「やれやれ、頭の弱い連中だね」

 サルダージは呆れながら3人に指示を出す。

「先ず鎧はレオナとキサラ、後誰か体力のある兵士の計3人分。 残りはここに簡易的な治療拠点を作る。 どうせそのウィルスとやらでルシスの連中は動けなくなってるだろうから、兵士は生きてる国民運んでキサラが治療。 他の者は可能な限り浄化の魔術を使い感染が広がらない様に処置だよ」

「あたし達はどうするのよ?」

「お前とオメガは、マークス王の所に決まってるじゃないか。 あの賢王の事だ。 どうせ感染はしてないだろうが、早く救援に行かないと流石にまずいだろうしね。 幸い、そのオメガならウィルスとやらに感染する心配もないし、二人なら移動と早くて済む」

「そんな! 二人だけで行かせるというのですか!?」

「それが最善だよ。 私も解毒薬を造るが、国民全員に配る量を作るより大元を倒した方が効率的だしね」

「ですが・・・」

「大丈夫よ、キサラさん」

 レオナはキサラを安心させる様にニッコリ笑いかけた。

「あたしの強さは知ってるでしょ? 昔の五魔だかなんだか知らないけど、もしそいつらがいたって負けないわよ。 それに、今回は強い味方もいるしね]

 レオナが見ると、オメガは静かに頷いた。

「だからさ、あたし達に任せてみんなは助けられる人を助けてて」

 少し迷いながらもキサラは頷き、レオナはすぐに鎧を造ると自身もそれを纏いオメガと共に走り出した。






「ば、馬鹿な! 地上の者ごときに私の力が!?」

 自分の力を見透かされたベルフェゴールは動揺する様に後ずさる。

「生憎、俺には貴様のウィルスにかかる生身の部分が殆どない。 俺がここに来たこと不運を呪え」

「く、来るな鉄クズめ!」

 そうわめきながら後ずさるベルフェゴールは、オメガに気付かれない様小さく口角を上げた。

(愚か者め。 やはり地上の者は詰めが甘い)

 オメガの存在は確かにベルフェゴールにとっては不都合なものだった。

 だがオメガがベルフェゴールの能力をウィルスを操るだけと勘違いしていることに勝機を見出だした。

 ベルフェゴールが操るのは“菌”そのもの。

 病原菌に限らずこの世に存在するあらゆる菌をベルフェゴールは産み出し操る事が出来る。

 ベルフェゴールは後ずさりながら、バレぬ様に手からある菌を放つ。

 それは金属を溶かし吸収する特殊な細菌。

 オメガの装甲が何で出来ているかは知らないが、この菌にかかればどんな金属であろうと無力化出来る。

 しかもその侵食速度は従来の何倍もの速さを誇る。

(余裕ぶれるのも今の内。 すぐに貴様は音を立てて崩れ落ちる哀れなブリキ人形へと早代わりするのです!)

 後ずさりながら、ベルフェゴールは勝利を確信し笑んだ。

「無駄だと言っただろう」

 オメガは全身から電磁波の様な光を発した。

 するとオメガの周りに飛んでいった菌が次々に消し去られていく。

「な!?」

「俺が微細な菌を認識出来ると気付かないとはな。 手から菌が出ているのがバレバレだったぞ」

 もし相手がレオナだったらベルフェゴールの菌は通じたかもしれない。

 だがオメガはそんな微かな希望すら打ち砕き、ベルフェゴールに迫る。

「推察するに、貴様はこの特殊能力で四天王とやらになったようだな。 他の四天王を知らないから正確ではないが、貴様はどの四天王よりも格段に格下と判断した」

 冷静で、それでいて冷徹な評価にベルフェゴールの中の何かがブツンと切れた。

「ふざけるんじゃねぇぞ鉄クズが!? 俺が格下だと!? てめぇみてぇなブリキ人形ごときに何がわかる!?」

 先程までの丁寧な口調は消え去り、怒りのまま乱暴な口調となったベルフェゴールの体が変化を始めた。

 着ていた服が破れ、皮膚は黄ばみ硬質なものへと変わっていく。

 手足は長く伸び、顔は尖っていきハ虫類の様に変化していくベルフェゴールは、5メートル程の巨体になるとオメガを見下ろす様に睨み付ける。

「俺が俺の本当の姿だ! 力もなにもかもさっきまでの数倍! てめぇなんか一発でゴミに早代わりだ!」

「なるほど。 幹部クラスの魔族は姿が二通りあるのか。 いいデータが取れた。 礼を言う」

「ぬかせ! 俺を侮辱した事を後悔する間もなくバラバラしてやらあ!!!」

 ベルフェゴールは巨大化した腕を振り下ろし、一気にオメガを叩き潰そうとした。

 振り下ろされた腕とオメガが激突すると、周囲の細かい雪が粉塵となって舞い上がる。

「ざまあみろ! 俺こそ四天王最強! 災厄のベルフェゴール様だ!!」

「貴様は観察力もないのか?」

 勝ち誇っていたベルフェゴールの気分に水を差す様に聞こえた声に、ベルフェゴールは手の方を確認する。

 すると粉塵の中からベルフェゴールの巨大な手を受け止めるオメガの姿があった。

「なにぃ!?」

 オメガの腕は先程より一回り大きく太くなっており、その腕が軽々とベルフェゴールの手を防いでいた。

 ベルフェゴールの手を受け止めながら、オメガはここに来る前のギゼルとのやり取りを思い出す。





 ラミーアを見付け帰還したその日、ギゼルはアルビアに点在する様に造っておいた研究所の1つにオメガとアルファを呼び寄せていた。

 オメガはある覚悟をしていた。

 ギゼルを守る為とはいえ秘密を作り、多くの同胞を死なせた自分への断罪。

 理由はどうあれ自分にとって恩人であるギゼルを欺き裏切った自分が罰を受けるのは当然だ。

 オメガはどの様な罰も受ける覚悟をし、ギゼルの言葉を待った。

「これを見ろ」

 ギゼルが基盤を操作すると、壁が開き中から何かが出てきた。

「これは、みんなの!?」

 それは死んだ魔甲機兵団の隊長達のパーツだった。

「貴様らが任務中負傷したらいつでも修理出来る様に各地の研究所にパーツを用意していた。 それがまさかこんな形で役に立つとは、皮肉な話だ」

 苦笑するギゼルは、オメガとアルファに向き直る。

「これをお前達に移植する」

「ッ!?」

「みんなのパーツを、私達にですか?」

 驚くオメガとアルファにギゼルは静かに頷いた。

「今回、お前達にあの様な決断をさせたのも私が弱かったからだ。 私に力と覚悟があれば、あの様な悲劇を起こす事はなかったかもしれん。 そう思うと、未だに慚愧に耐えん思いだ」

「何を言うのですギゼル様!」

「あれは俺達の力不足ゆえ。 ギゼル様が恥じることなど何一つありません」

 ギゼルは「そうか」と呟くと、キッと二人を見据えた。

「ならばお前達の主として命じる! これから自分を犠牲にする事の一切を禁ずる! 例え私の為だろうと、自ら死を選択するとこは許さん!」

 そう言い放つと、ギゼルはパーツの1つに手を触れる。

「これはその為の力だ。 亡き同胞の力を受け継ぎ、共に強くなろう。 2度と失わない為に」

「「ハッ!」」

 共に強くなろう。

 ギゼルの決意にアルファは涙を流し、オメガはこの時だけ泣けるアルファを羨ましく思った。

 もはや人とは言えぬ体の奥に熱い何かを感じながら。





「ふ、ふざけるな! くたばれブリキ野郎!」

 ベルフェゴールが押し潰そうと力を込めるが、オメガは余裕でそれを受け止める。

「無駄だ。 恐竜の力を持つ奴の力の前では、貴様ごときに蚊にも劣る」


[相変わらず細い腕だな! 俺みたいにもっとパワー付けねぇと、総隊長の座もらっちまうぞ? ムッハハハー!]


 恐竜をモデルとしたシグマの剛力を全開にし、オメガはベルフェゴールを投げ飛ばす。

「ぐぅ!? 舐めるな!!」

 地面に激突したベルフェゴールはすぐに起き上がり、口から緑色の消化液を吐き出す。

 だがオメガは背中に翼を生やすと、さのまま宙へと飛び消化液を避けた。


[空を飛ぶ気分? なんなら今度連れていこうか? きっと君も気に入るよ]


 デルタの翼を広げ、オメガは消化液を避けながら宙を自在に舞った。

「こ、このカトンボが!? 俺を見下すな~!!!」

 ベルフェゴールは飛び掛かるが、翼を持つオメガはそれをヒラリとかわす。

 地面に落ちたベルフェゴールを見下ろすと、両の拳から爪を出すとそれを高速で回転させる。


[え? なんでいつも技を叫ぶのかって?]

[決まってるじゃんそんなの]

[だって]

[その方が]

[[かっこいいでしょ?]]


「全開! 電磁力パワー!!」

 元々持っていた雷の力にゼータとシータの磁力が加わり、オメガの体を雷光が包み込む。

 その光に流石のベルフェゴールも驚異を覚える。

「ば、馬鹿な! 俺は、俺は四天王が一人災厄のベルフェゴールだ! 魔王陛下の次に権力を持つ筈の俺が、この俺が~!!!」

 ベルフェゴールは菌を飛ばすが全てオメガの雷光に消し飛ばされていく。

 オメガは両の拳を前に出すとそのまま光速で回転しベルフェゴールに突進していく。

「ツイン・ライトニングドライバー!!!」

 (いかずち)の矢となったオメガは、そのままベルフェゴールの胸を貫通した。

 胸に大穴を開けたベルフェゴールは、そのまま大きな音を立てて倒れた。

「権力だがなんだか知らんが、そんなものにすがろうとする貴様ごときに、俺達魔甲機兵団は負けん」

 倒れたベルフェゴールを一瞥するとオメガは爪を収め周囲を見渡す。

 ウィルスが消えていることを確認すると、 オメガはレオナが戦っている方を見詰めた。

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