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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
235/360

片鱗と再起

 体を砕かれたタナトスの首は宙を舞った。

 手足が同様に舞うのを横目で見ながら、タナトスはダクノラの横にイトスがいる事に気付く。

(あ~アイツの術で姿消してたか。 しかも回復もしてるし。 雑魚だと思って放置しすぎた)

 のんきにそんなことを考えるタナトスに向かい、ダクノラはもう一撃突風を放った。

「これでチリと化せ! 冥府の王よ!」

 だがその突風はタナトスを砕くことはなかった。

 突然現れた影がタナトスの首を拾い、突風を避けたのだ。

「おい! あれって!?」

「なるほど。 確かに死者を操るならば当然あれも使役できるか」

 影の正体は、20メートル程の紫の鱗を持つ竜だった。

 その体を紫電が稲光となって駆け巡り、ギゼル達が知る竜とは別格の存在だと言えるほどの威圧感を出していた。

 竜に丁寧に首を手の平に乗せられると、タナトスはギゼル達を見下ろした。

「やれやれ。 とんだ誤算だよ。 これじゃ君達に小僧扱いされても仕方ないね」

 体を砕かれ冷静になったのか、タナトスは元の余裕ある態度へと戻っていた。

「その二人の事を忘れさせる為に散々挑発した訳ね。 しかもさっきの熱線に何か混ぜたでしょ?

「ほぅ。 我が秘術に気付くとはな」

「だって体が全然戻らないんだもの。 どうせどさくさに紛れて魔力封じでも射ったんだろうけどさ。 あ~あ、これじゃまたデスサイズ辺りが嫌み言ってくるよ。 本当やになっちゃう」

 ため息を吐きながらも先程と違い冷静に此方の仕掛けを見抜いたタナトスにギゼルは警戒しながらも更に挑発を続けた。

「姿と同じで多少はまともになったではないか。 ではこのまま続けるか?」

「う~ん止めとく。 そろそろ退き時っぽいしね。 それに・・・」

 そう言うタナトスの上空に無数の竜が現れ、同時に先程の操っていた死者よりも屈強な体を持つ巨人達がギゼル達を取り囲んだ。

「続けても勝てるだろうけど、それじゃつまらないしね。 やっぱり直接やった方が楽しいでしょ?」

 するとタナトスは無邪気な、それでいて冷たい笑みを浮かべた。

「だから今度はもう少し真面目に相手してあげるよ。 楽しみにしてなよギゼル」

 タナトスがそう言うと竜と巨人達はタナトスと共にその場から霧の様に消えた。

 完全に気配が消えたことを確認すると、ギゼルは張り詰めていたものを出すように息を吐き出す。

「全くなんなんだあいつは!?」

 冷静に対処していた先程とは別人の様にギゼルは声を荒げた。

『父様落ち着いて。 今はダグノラ様達を逃がすことが先決よ』

「あ、ああ。 すまないアンヌ」

 宥められたギゼルは改めてダグノラに頭を下げる。

「助力感謝します。 助けに来ておきながらそちらの手を煩わせ、情けない限りです」

「いや、お陰で命を拾い奴に一矢報いる事が出来た。 お主らには感謝しかない。 改めて礼を言おう」

「あ、あまり動くなって! 応急手当てしか出来てねぇんだからな!」

 自分を抱えるイトスに注意されダグノラは苦笑で答えた。

「すまぬな。 だがゆっくりとしてもおれぬ。 急ぎメリウス様達の元へ戻らねば」

「ご安心下さい。 そちらは私の仲間達が守っています。 必ず王夫妻と民は守り通すでしょう」





「あら、撤退ですの? もう少し遊びたかったのですが」

 そう言うキュラミスの視線の先には、膝を付くアルゼンの姿があった。

「おや? もうお帰りになるのですか? 我輩まだまだ戦い足りないのですが?」

 そういつもの調子で言うアルゼンだったが、肩で息を体には幾つも傷を作っていた。

 それに対しキュラミスは服に汚れ1つ付けず優雅に立ちながらクスリと笑った。

「その姿でよくその様なことを言えるものですわね。 でも喜びなさい。 不本意ですが、貴方との遊びは少し楽しかったですわ」

「これは光栄ですな。 ならばもう少しお付き合い願いたい。 我輩の真骨頂はまだまだこれからですぞ?」

「そうしたいのは山々ですが、今日は止めときますわ。 目的の生け贄は集めましたし、あまり遅くなると魔王様の不興を買いかねませんからね」

 キュラミスは新しく日傘を出すと広げてそのまま宙に浮かび上がった。

「次会う時はもう少しその醜い服装をなんとかなさい。 そうすれば、ワタクシの人形にして差し上げることも考えてあげますわ。 それでは、ごきげんよう」

 キュラミスがそう言い空へと消えていくのを見ながら、アルゼンはそれを見送ることしか出来なかった。

 実際まだ本当に戦うことは出来た。

 深い傷も無くまだ手の内は見せていない。

 今回はあくまでセレノアの民を救うのが目的。

 だから敢えて時間稼ぎが出来る戦い方をしたのだ。

(ですが、本気で挑んでも我輩負けてたでしょうな)

 それは確信と言えるほどハッキリした感覚だった。

 多少傷を付けられはするだろうが、恐らく負ける。

 良くて相討ちに持ち込むのがやっとだろう。

 ただしそれは昼間の内のみの話だ。

 彼女は吸血鬼。

 本当に力を発揮するのは恐らく夜だろう。

 もし夜に戦うことになれば、相討ちすら難しい。

 長年の戦いの経験でそう悟ったアルゼンは、静かに笑んだ。

(いやはや、まさかあの様な御仁がいるとは。 世界は広いですな)

 それはギエンフォードに敗北した時と同じ様なワクワク感だった。

 拳聖と呼ばれるほど強くなり戦える相手が殆ど格下となった自分を打ち負かす相手が現れた。

 それも何人も。

 戦いを至上の喜びとするアルゼンにとって、それは朗報と言えるものだった。

(これはノエル陛下達に感謝せねばなりませんな。 これからこの様な素晴らしい戦いを何度も味わえるのですからな)

 立ち上がったアルゼンは、服の乱れを整えると上機嫌でラグザ達に合流する為移動を始めた。

 




「それよりダグノラ殿。 奴の正体はなんだと思いますか?」

「わからぬ。 だが死霊使いであるヘラとは次元が違う。 本当に冥府の王等と言う荒唐無稽な存在と言われても、もはや否定出来る自信がない」

「私も同じですな。 体を吹き飛ばして尚あの不死身ぶり。 正直化け物としか言いようがありません」

「でもよ、死人使う術さえなんとか出来ればなんとかなるんじゃねぇか? 実際アンヌとギゼルで戦えてたんだし」

『それは無理よイトス』

「? なんでだよ?」

『気付かなかった? あの男は殆ど素手で私達と戦っていたのよ』

 アンヌの指摘で漸くイトスは気付いた。

 先程タナトスは死者を使う以外魔力を殆ど使っていなかった。

 たまたま持ってた剣で斬りかかるか素手での攻撃のみ。

 しかも直接手を下すと言い後半は死者すらも戦闘に参加させていない。

 それはつまりタナトスが手加減していたということ。

 先程までの戦いは本当にタナトスにとって“遊び”に過ぎなかったなによりの証拠なのだ。

「全く、リナ達の五魔を化け物と思っていた頃が懐かしい。 まさかそれ以上の化け物が出てくるとは」

 ギゼルはタナトスとの力の差を感じ歯軋りしながらも、なんとか分析しようと頭を回転させる。

 タナトスが本物の冥府の王だろうとただの死者を使う魔術師だろうともはや関係ない。

 美しい少年の姿とは真逆の残虐で強大な存在。

 本人の戦闘力の底知れなさは勿論、使う死者も先程の竜と巨人の軍団を見れば脅威以外のなにものでもない。

 そして結局先程の戦闘で有効的な攻撃は殆どわからなかった。

(私が出向きながらなんという体たらくか。 この程度の事しか知ることが出来なかったとは)

 己の不甲斐なさに怒りを覚えながらも、ギゼルはそれを飲み込んだ。

「ダグノラ殿。 とりあえず貴方達にはアルビアに来ていただくがよろしいか?」

「無論。 当初からそのつもりだったゆえ、受け入れてもらえるならばありがたい」

「アンヌ。 ダグノラ殿を乗せアルファ達と合流する。 イトス。 ダグノラ殿の回復を急げ」

『了解、父様』

「ああわかってるよ。 ほらじいさん行くぞ」

 アンヌが巨大な鳥の姿となり、イトスはダグノラに肩を貸しながらその背に乗ろうとする。

 ギゼルはそんな中タナトスの消えた方を見詰めた。

(次会う時は、この様な無様は晒さん。 貴様の正体を必ず見極めてやる)

 ダグノラはアンヌの背に乗り、アルゼン達の所へと飛び立った。

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