鋼の親子の決意
ギゼル達を見たタナトスは、新しい玩具がきたと笑みをこぼす。
そんなタナトスの態度など意に介さずギゼルは分析の意味を込めて口を開いた。
「貴様が魔王の手先か。 死体操りとは、本当になんでもありだな」
「随分安っぽい言い方してくれるね。 まあ僕は寛大だから許してあげるよギゼル。 君のそういう性格はよく知ってるしね」
「ほぉ? 私と貴様は初対面の筈だが?」
「君のお仲間から聞いたんだよ。 この前こっちにいっぱい来てくれたからね。 ボンっ!て綺麗な花火になってさ」
邪悪な笑みを浮かべ挑発するタナトスにイトスが怒りの声をあげようとするがギゼルは冷静にそれを止める。
「なるほど。 少なくとも死者をどうこう出来るというのは本当らしいな。 しかしなんとも稚拙な。 この程度の者に操られるとは、死人も無念だろうな」
「強がっても意味ないよ? 君の事は聞いたって言ったろ? 確かに技術と知識は凄いけど、戦闘力は他の幹部に比べたら雑魚に等しい。 それに、そこの魔人の弟子だって姿を消すのと治癒しか使えないんでしょ? よくそれで僕を止められると思ったよね」
「誰が私達だけだと言った?」
瞬間、巨大な影がタナトスに向かって急降下してきた。
タナトスはそれを避けるが、何体かの死人が巻き込まれ崩れ落ちた。
『ご免なさい父様。 逃したわ』
「気にするなアンヌ。 そう簡単に済むとは思っていない」
巨大な金属の鳥の姿をしたアンヌがギゼル達の前に降り立った。
「面白い玩具だね。 壊されるのが怖いくせによく連れてきたね」
「娘の願いを聞くのが親の役目なのでな」
「作り物を娘か。 本当おめでたいね。 まあいいや。 壊したら操れる存在なのか気になるし、遊んであげるよ」
タナトスが指を鳴らすと、巨人の死人が1体現れアンヌに向かっていく。
「アンヌ。 Bコード起動」
『了解、父様』
すると突然、アンヌの体を光が包んだ。
光に巨人が怯むと、光の中から何かが飛び出し巨人の腹を貫いた。
巨人が音を立てて崩れ落ちると、その上を赤を基調としたしなやかなボディーの人型の何かが浮遊していた。
それは人間の女性型へと変形したアンヌだった。
それはアルビアでの戦いが終わり、ラミーアを探しに行く少し前の事だった。
『お父様、お願いがあるの』
小さな鳥の姿のアンヌの珍しい申し出に、ギゼルは首をかしげる。
「お前がなにかをねだるとはな。 一体何が望みだ?」
『戦える体が欲しい。 あの巨鳥以外でね』
「!? 馬鹿な! お前は自分の言っていることがわかっているのか!? お前を前線に立たすなど・・・」
『お願いお父様。 今は私の話を聞いて』
驚くギゼルを宥めるとアンヌは自分の想いを口に出す。
『私はお父様を守れるだけの強さが欲しい。 魔甲機兵団が半壊している今、少しでも戦力を上げる為にも私が強くなるのが一番有効で早いはず』
「だがその為にお前を危険に晒すなど」
『私はもう、守られるだけは嫌なの』
食い下がろうとするギゼルの言葉をアンヌは遮った。
『お父様は私に任務を任せてくれるけど、あくまで私が壊れる可能性の低い任務に回してくれているのは知っている。 お父様がどれだけ私を大事にしてくれているのかも理解している。 けれども、私もお父様の力になりたいの』
アンヌはギゼルの肩に乗るとその頬をギゼルに擦り付けた。
『お父様がシグマ達の事を気に病んでいるのもわかってる。 私が彼らみたいな行動を取るかもしれないって恐怖しているのも。 だから約束する。 これからはお父様の隣でずっとお父様を支える。 彼らとは違う形で、お父様を支え続ける。 だからお願い、お父様』
ギゼルはそう話すアンヌの目に、彼女の人格の元となった少女のアンヌの事を思い出す。
オメガやアルファ達と違い、アンヌは死んでしまった少女アンヌの人格を云わばコピーした存在。
人からすればそれはただの紛い物かもしれない。
だがギゼルには違った。
アンヌは人間の様に成長し続ける。
物としてではなく、ちゃんと人格のある人間としての成長だ。
アンヌが見せたのはまさにそれだった。
ギゼルは今のアンヌの姿に、少女アンヌが成長した姿を見た気がした。
「・・・お互い、守られるだけの存在ではいられんということか」
『? お父様?』
首をかしげるアンヌの頭を、ギゼルは優しく撫でた。
「私も共に強くなろう。 お前と並び立てる父親でいたいからな」
人型の女性の姿になったアンヌに少し驚きながら、タナトスは興味深そうな顔をした。
「へ~。 随分可愛くなったね」
「言っただろう? 娘の願いを聞くのが父親の役目だとな」
今のアンヌの姿は、少女アンヌの姿が成長した姿を想像して造られた。
それは小鳥の様だったアンヌが人として成長したとギゼルなりに認めた証だった。
「でもさ、所詮玩具でしょ? そんな物が加わって本当に僕をどうにか出来ると思ってるの?」
「無論だ。 死体を人形にする悪趣味な小僧の相手など、我ら二人でも手に余る位だ」
ギゼルの言葉に、タナトスはイラついた様に目を細める。
「本当君達って馬鹿だよね。 見た目で判断するクソガキは、お仕置き代わりに僕が直接遊んであげるよ」
瞬間、タナトスはその姿を消しすぐにギゼルの背後に現れた。
完全に反応できずにいるギゼルに向かってタナトスは先程持った剣を突き出した。
だがその間にアンヌが立ちふさがり、剣は折れて刃先が宙を舞った。
『背後から攻撃なんて、小者の発想ね。 お子様で小者なんて滑稽ね』
「魂もない鉄屑が言うじゃないか。 壊れたらそれまでの道具風情が!」
タナトスが蹴りを入れると、防いだアンヌの装甲がミシミシと音を立ててへこんだ。
更にアンヌの顔目掛けタナトスの拳が叩き込まれようとした瞬間、アンヌはその場で屈んだ。
するとアンヌの顔があった場所にギゼルが手をかざしていた。
その手の平の真ん中に水晶の様な物が埋め込まれていた。
「この程度の挑発で怒るとは、やはり小僧か」
するとその水晶から太い魔力の熱線が放たれタナトスに直撃する。
後方にぶっ飛ぶタナトスは舌打ちしながらその熱線を拳で反らし地面に着地した。
「あれ~? 君自分の体は改造しない主義じゃなかったっけ?」
「そのつもりだったが、先の戦いで考えが変わった。 同胞が命を捨てて戦ったのだ。 私も同じ覚悟を持たねば、彼等に会わす顔がないというものだ」
ギゼルは肉体を失った魔甲機兵団達の事を思い、自らそれを捨てることはしないと誓った。
だがその想いは仲間が全てを捨てて戦う姿を見て変わった。
己の命も何もかも捨てて自分を守る為に散った同胞達に対し、自分が出来る本当の事。
それは生き残る事。
その為に強くなる事。
それこそが死んだ彼等に報いる唯一の方法と悟ったギゼルは、自分の体を改造する決意をした。
まだ右腕だけだが、ギゼルは漸く魔甲機兵団の者達と同じ立てた様な気がした。
「本当君ってムカつくね。 でもさ、まだ全身改造した訳じゃないんでしょ? だったら、やっぱり僕には雑魚と同じなんだよ!」
タナトスが向かってくると、ギゼルは迎撃する為に熱線を何発も放った。
だがタナトスは熱線を全て弾き進んでいく。
「無駄無駄! この程度じゃさっきみたいに不意を突かない限り足止めにもならないよ!」
「ふむ。 貴重な意見だ。 参考にしよう」
「礼はいらないよ! その代わり死んで僕の玩具になってもらうよ!」
タナトスはギゼルの目前まで接近するが、ギゼルは口角を上げた。
「やはり小僧か」
声と同時に、タナトスの目の前にいきなりダクノラが現れた。
「なっ!?」
傷付いて動けなかった筈のダクノラがいきなり目の前に現れ動揺するタナトスに対し、ダクノラは折れた愛剣に風を纏わす。
「酬いを受けよ! 暴波天嵐!!」
ダクノラの剣から放たれた竜巻状の突風が、タナトスの胴体を粉砕した。




