表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
229/360

通じ合う二人


 竜の軍団を退けたクロードはその場をカイザルとダキニに任せリーティア、水楼と共に大爺の屋敷へとやってきていた。

「なんのつもりだ大爺様? 俺は長として里の者達を見なければ・・・」

「そう言うな水楼よ。 この面子のみ呼んだということは察しが付くじゃろ?」

「人傀儡の件ですか?」

 クロードの言葉に大爺は頷いた。

「リーティア殿が自身の意思で動ける様になったのは即ち、人傀儡の完成を意味する。 お主の力が増したのもその影響じゃな」

「それは私も気になっていました。 なぜこうして動ける様になったのか、自分でもわからないのです」

 リーティアは自身の手を見詰め軽く握ったり開いたりした。

 久しぶりに動ける様になったのだ。

 戦闘が終わり改めてその感覚に戸惑っているのだろう。

「まあ、結論から言うとリーティア殿への人傀儡はほぼ完成していた。 その証拠に、リーティア殿の意識はずっと宿っておったのだろう?」

「!? そうなのかいリーティア!?」

「ええ。 あの日からずっと、私はこの体の中で意識を保っていました。 ですから戦う事も出来ましたし、ノエル様やリナ様達の事も全て知っています」

 驚きながらも冷静に考えれば確かに急に目覚めたならリーティアが普通に戦えたのはおかしい。

 それにクロードはリーティアが死んだ日から成長している。

 それらの事に混乱せずに受け入れ、戦いに参加出来たのはずっと意識があったという何よりの証拠だ。

「では、なぜリーティアは今まで動けずにいたんですか?」

「それは人傀儡の性質によるものじゃ」

「性質?」

「人傀儡とは、元々初代サイゾウ様が己の愛した人を甦らせる為に生み出した秘術。 それはまさに生涯の伴侶、己の半身を産み出すに等しい行為じゃった。 故に人形技術以外にもう1つ必要なものがあった」

「それは一体?」

「通じ合う心じゃ」

 大爺の言葉にクロードは余計訳がわからなくなる。

「どういうことです? 私達はあの頃からずっと互いの事を思い続けてきました。 それでも通じ合わなかったなんて・・・」

「そこじゃよ。 そこが肝なのじゃ」

「え?」

「例えば、お主はリーティア殿を大切に想いずっと甦らせる事に主を置いておったのではないか?」

「ええ、勿論そうです。 その事を忘れたことはありません」

「ではリーティア殿、お主はどうじゃ?」

 大爺に問われ、リーティアは戸惑いつつ口を開いた。

「私は、クロードの幸せを願い続けていました。 ただ、私の事は忘れて新しい道を進んでほしいと」

「そんな! 私がリーティアを忘れるなんて有り得ない!」

「でも里を抜けて放浪していた頃の貴方は変わってしまっていた。 あれだけ憧れていた外の世界に出たというのに、私を甦らせる事だけに興味を持って誰とも深く関わろうとはしなかった。 私は、それがとても辛かった」

 リーティアの本音を聞き衝撃を受けるクロードを見て、大爺は「そういうことじゃ」と続けた。

「互いを想う故に起きるスレ違い。 それがリーティア殿が動けず、人傀儡が未完成に終わった理由じゃよ」

「では、なんで今になって・・・」

「お主が変わったからじゃよクロード」

「私が、変わった?」

「それはリーティア殿に聞いた方かもしれんの」

「わ、私ですか?」

「お主なら心当りがあるじゃろ? こやつが変わったきっかけが」

 リーティアは少し考えると、すぐにその答えに辿り着く。

「五魔の皆様やノエル様」

「そうじゃ。 お主はリーティア殿以外に大事な者が出来た。 命をかけられる主と命を預けられる仲間。 それを得た事でお主はその者達を守りたいと想う様になったのではないか?」

 実際、それは当たっていた。

 クロードにとってリナ達五魔やノエルはかけ換えのない存在だった。

 リーティアへの愛情は変わらないが、それだけは確かだ。

 裏切ったエルモンドさえ、未だに大切に想っている。

 だからノエル奪還の時も命をかけたし、仲間の為に自身にとって向き合いたくない過去である故郷へと舞い戻る決意をしたのだ。

「それはリーティア殿も同じじゃったのだろう。 魔帝の息子とお主の仲間の五魔を大切に想い、守りたいと思った。 そしてこの里に来てその想いは完全に通じ合い、人傀儡は完成したという訳じゃ」

 大爺の説明に、クロードはあることを思い出した。

 それはカイザルと戦い力尽きて地面に落ちていった時、リーティアが勝手に動きクロードを助けた。

 ノエルを助けたいという想いという同じ想いを共有し、一時的にリーティアの体が動ける様になったのだろう。

「そうか、 あの時から片鱗はあったわけか」

「そういうことじゃ。 お互いを想うのみならず共に並んで歩む。 それこそ人傀儡の極意であり、人傀儡を生み出した初代サイゾウ様のの想いじゃ」

 大爺の言葉に、クロードは苦笑を漏らした。

「互いを想うが故の究極のスレ違いか。 全く、とんだ皮肉だね」

「じゃが、お主はそれを成した。 愛しい者を甦らせたいという自身の想いから脱し、他者へ目を向けられる様になっていた。 己に囚われず他者を見よ。 それは長としての心構えでもある」

「それが俺をここに呼んだ理由か大爺様?」

「無論それもある。 じゃがな水楼、お主は長じゃ。 人傀儡の法は長の心構えでもあると同時に代々の長が引き継ぐべき秘術。 長であるお主に伝えるのは当たり前じゃろう」

 大爺は水楼に近寄ると頭にポンと頭を乗せた。

「お主も漸く、この心構えに相応しい男になった。 立派になったの水楼」

「子供扱いしないでもらいたい」

 水楼は大爺の手を払い除けるとそっぽを向いた。

 それが照れ隠しなのはクロードやリーティアにはバレバレだった。

「しかし、孫の成長は祖父として嬉しいが元里長としては口惜しいのぅ。 長に相応しい者が二人も出たというのに、その内の一人が他の主に取られてしまうとは」

「評価はありがたいですが、私達は今の主を変えるつもりはありませんよ」

「わかっとるわ。 わしらもお主らを見習い広い視野を持たねばならん。 この大陸という広い視野をのう。 その為ならば里の利がどうこう言うとる場合ではないからな」

「実際里が襲撃されたからな。 早急に中央に向かいこの事で協力を求める」

「感謝するよ水楼」

「礼はいらん。 長として正しいと思うことをするだけだ。 それより貴様らはどうするつもりだ? アルビアに戻るのか?」

 クロードはリーティアと顔を見合わせると頷きあった。

「もうしばらくここに残るよ。 交渉で私達が出る必要もあるだろうし、また師匠に頼んで稽古を付けてもらいたいしね」

「好きにしろ。 今なら里の者も貴様らに対して悪い感情はないだろうしな」

「お主も兄と手合わせ出来て嬉しいんじゃろ水楼よ」

「っ!? ち、中央とアルビアへ使いを出すから俺は行く! 大爺様、少し手伝ってもらうがいいな!」

「ああ、長の仰せのままに」

 カッカッと笑う大爺を連れ、顔を真っ赤にしながら水楼は部屋を出た。

 そんな二人の様子に笑みを浮かべながら、クロードは口を開いた。

「ねぇ、リーティア。 意識がずっとあったと言っていたね」

「ええ。 あの日からずっと」

「私は、君に苦しい想いをさせてしまったのでは・・・っ!?」

 リーティアはクロードの言葉を口付けで塞いだ。

 動揺するクロードにリーティアはイタズラっぽく笑った。

「ずっとこうしたかったんですよ。 やっと願いが叶いました」

「な、何をリーティア!?」

「あら。 私の体整備するんで弄くり回したり潜伏の時メイド服着せたりしてるのに今更恥ずかしいんですか?」

「それとこれとは別だよ!」

 リーティアはクスリと笑うとクロードの頬に触れた。

「確かに大変な時もありましたよ。 それでも私は幸せでした。 ノエル様やリナ様達に会えて、共に過ごせて。 そして今こうしてあなたと触れ合える。 だから私は、今とても幸せですよ、サイゾウ」

 かつてずっと呼んでほしかった自分の本当の名。

 それを今、正真正銘リーティア自身の意思で呼ばれ、クロードの中にあった重い楔が消えた気がした。

「リーティア、私とずっと歩んでくれるかい? これからもずっと」

「勿論。 永遠という言葉の先までずっとね」

 二人は再び口付けをした。

 近くにいながら長年離れていた二人が今、漸く結ばれたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ