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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
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帰ってきた最愛の人


 クロードは目の前の状況が理解出来なかった。

 里を抜けてからも散々色々試した。

 異国の知識を集め、五魔の知恵者であるエルモンドからもアドバイスを受け、実験に実験を重ねた。

 それでも決して自らの意思を宿すことのなかったリーティアが、今こうして自分の目の前に立っている。

「いつまでボーッとしてるんですかクロード? それとも、サイゾウ様と呼んだ方がいいですか?」

 リーティアのの言葉にクロードは我に返る。

 木龍はリーティアの一撃を受けながらもまた起き上がり敵意を露にする。

 そんな木龍を見て、クロードは小さく息を吐く。

「正直色々聞きたいこともあるしまだ整理できていないけど、それより今はあの無粋な客の対処が先か」

 クロードはそう言うとそっとリーティアに手を差し出す。

「行こうリーティア。 私と君の人形劇、再演といこうか」

「ええ、クロード。 貴方とならどこまでも」

 リーティアはそう言い、クロードの手を取った。

 瞬間、クロードの魔力が回復する。

 それだけでなく魔力自体が元の数倍にも膨れ上がるのを感じた。

 それは即ち、人傀儡が完成したことを意味していた。

 クロードは今、リーティアを完全に取り戻したのだ。

「行くよリーティア!」

「はい、クロード!」

 クロードの体を増大した魔力が炎となり包み込み火竜の装束を構成し、リーティアも白銀のフルアーマーを身に纏うと二人は木龍へと飛んだ。

 木龍は二人を迎撃する為に先程よりも太く頑丈な木の根を二人に向かって放つ。

 だがそれはクロードの熱とリーティアの拳で粉砕され、一切役目を果たすことはなかった。

「はあ!」

「せあ!」

 クロードとリーティアの拳が木龍の顔面に炸裂すると、木龍の牙が折れ後ろへと吹き飛ばされる。


 その光景を、カイザルや水楼は驚いた様に見ていた。

「まさか、リーティア殿が復活したのか?」

「大爺様、やはり奴に秘術を授けていたのか!?」

 水楼の問いに大爺は首を横に振りながらもその表情は穏やかだった。

「奴にはまだ何も教えとらん。 だがこれだけは言える。 今二人は人傀儡を完成させよった。 秘伝を聞くことなく、それも自力でな。 まさかそんな者をこの目で見ることになろうとはな」

 大爺の言葉に驚きながら、水楼はクロード達を見た。

 魔力の糸もなにもない。

 正真正銘自分の意思で動いている人形のリーティア。

 それは紛れもなく自分の知るかつてのリーティアだった。

 兄がとうとう悲願を達成した瞬間に胸の中で何かが疼くのを感じながらも水楼は再び意識を切り替え自身の戦いへと戻っていく。

 

 吹き飛ばされた木龍は起き上がると小細工は意味がないとその首を開き直接クロード達に襲い掛かる。

 巨体の龍が迫りながらも、クロードの心は静かだった。

「不思議だ。 まるでずっとこうしていたかのように、今は君の心がわかるよ」

「何を今更。 ずっと私は貴方と共にいましたよ。 そして、これからもね」

 リーティアは前に手を出すと、クロードはその手に自分の手を重ねる。

 そして魔力を貯めると一気に解き放った。

「「フレアランス・螺旋!!」」

 二人の言葉と共に2本の太い熱線が絡み合い螺旋の様に回転しながら木龍へと向かっていく。

 螺旋状の熱線は木龍を頭から貫き、その体を貫通する。

 そしてその熱で木龍の体は燃え、そのまま地面へと墜落していった。

 木龍の敗北を見たワイバーンやワームは形勢不利と見て、一気に退却していった。

 忍達を拘束していた木の根も腐り落ち、忍達は勝利に歓喜の声を上げた。  クロードは炎を解くと地面に降り立ち、リーティアも冑の部分を解除した。

「リーティア。 私は・・・」

 クロードは言葉が出てこなかった。

 ずっと話がしたかった。

 また声を聞きたかった。

 語り合いたかった。

 なのに、戦闘が終わりこうして対峙すると言葉が出てこない。

 そんなクロードの口に、リーティアは人差し指をそっと当てた。

「焦らなくていいですよ。 時間はたっぷりあるんですからね」

 笑顔でそう語るリーティアに、クロードの顔からも笑みがこぼれる。

「そうだね。 焦ることはない。 ただ、これだけは言わせてくれ」

 クロードはリーティアの顔をじっと見詰めた。

「お帰り、リーティア」

「ただいま、クロード」

 クロードはリーティアを抱き締め、二人は漸く本当の意味での再会を果たした。






 上空で一部始終見ていたバハムートとベアードは意外そうにクロードの姿を見ていた。

「これは意外。 あの魔竜を名乗る男の力がここまで上がるとは」

 ベアードは興味深そうに見下ろしながらまた酒を煽るとバハムートに向き直る。

「しかしよろしいのですかな? 竜達を退かせず今我々が行けば勝利は確実だというのに」

「じゃろうな。 だが今回は面白いものを見させてもらった。 奴の奮闘に敬意を評してここは退こう。 それに・・・」

 バハムートが見下ろすと、その視線の先にはカイザルを背に乗せるジークの姿があった。

「我が咆哮に従わぬ強き同胞の存在を知ることが出来た。 懐かしき友の忘れ形見にな。 奴を傷付ける訳にはいかぬ」

「同胞の為に我らの目的を放棄すると言うのですかな?」

「もう十分生け贄はお主が確保したじゃろう? 代わりに竜の秘蔵の酒を馳走しよう」

 その言葉にベアードの顔が満面の笑みになる。

「それは素晴らしい。 ではすぐ帰って頂きましょうかな」

「お互い、己の欲求には正直じゃのう」

 呆れながらも、バハムートは最後にクロード達をもう一度見下ろす。

「いずれ雌雄を決する時まで、せいぜい足掻くがいい。 当代のバハムートよ」

 そう言うとベアードと共にその場を去っていった。

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