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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
227/360

進撃の竜


 かつての五魔であるバハムートが静かに見下ろしていると、背後に片眼鏡をかけた一人の老紳士が現れる。

「首尾はどうですかなミスターバハムート?」

「手練れはおる様じゃが、我々竜にかかれば造作はない。 そっちはどうじゃベアード殿?」

「いやはや、私としたことが東の田舎と思い少々見くびっておりました」

 そう言うと、ベアードは『酒』と書かれた陶器製の酒瓶を取り出しグイッと飲んだ。

「この米という穀物で造られた清酒という酒は実に旨い。 これほど上等な酒があるとは、この国も侮れませんな」

 真面目にそう語るベアードにバハムートは呆れ顔になる。

「酔えもせぬのに酒狂いか。 かつての魔王の一人が随分変わられたな」

「昔の事です。 そもそも、私は魔王を名乗ってすらおりませんしな。 強いゆえに皆がそう呼んだだけです」

 そう言いながらベアードはまた一口酒を飲んだ。

「とはいえ、この国の者が侮れないのは事実ですな。 良く言えば意思が固い。 悪く言えば頑固。 特に生け贄に適した実力者等は異常なまでにね。 お陰で私の魔眼も効きづらく、村2、3つ分の生け贄を確保するのが精一杯でしたよ」

「人間の意思の強さか。 儂もそれはよく理解しておる。 故に、それを折らねば人は御せぬ」

 バハムートは持っていた杖を掲げると空に幾つもの影が現れる。

「さあ思い出すがいい人間。 竜の恐ろしさを」






 クロードと水楼が話していると、慌てた様な足音が聞こえてきた。

 何か問題が起きたことを察すると、水楼はすぐに長の顔になる。

 すると一人のくの一が駆け込んできた。

「頭! 緊急事態です!」

「どうした? 何があった?」

「龍が、見たことのない大量の龍が里に来襲! 里の人間を拐おうとしています!」

「なんだと!?」

「その見たことがない龍というのは、蜥蜴に蝙蝠の様な羽の生えたものかい?」

 クロードに問われて戸惑うくの一に、水楼は構わないと答える様に促した。

「そ、その通りです。 我が国の龍とは違い、羽の生えた蜥蜴の様な姿です」

 ヤオヨロズ方面にいる龍はアルビアや他の国にいる竜とは異なる。

 アルビアでの一般的な竜は翼の生えた蜥蜴の様な姿であり、ヤオヨロズの龍は翼はなく胴の長い手足のある蛇の様な姿をしている。

「大きさは? どのくらいの規模だい?」

「小型が殆どですが中型のものもおり、数は100位かと」

「ワイバーンの群れか。 なぜこの場所に? しかも幻術も効かないなんて」

 ワイバーンは数こそ多いが竜の中でも力が弱く、下級の竜に分類される。

 人でも扱いやすい為一部では騎乗用に飼い慣らされている程だ。

 そんなワイバーンが霧の里の幻術を破って里を襲うなど、ましてや拐うなど普通なら考えられない。

 考察するクロードの横で水楼は急に立ち上がった。

「水楼、どこに?」

「決まっている! その異国の龍を撃退する! 里の者に手を出されて黙ってはいられん!」

「その傷では無理だ。 私も行く。 あちらの竜なら私の方が詳しい」

 水楼はクロードを一瞥するとすぐに背を向けた。

「足手まといにだけはなるなよ」

「勿論。 お前こそ、あまり無理はするなよ」

 クロードと水楼は報告に来たくの一と共に竜が襲撃してきた場所へと急いだ。






 里にはワイバーンを主体とした竜が里の住民に襲い掛かり連れ去ろうとしていた。

 上空から爪や牙で襲い掛かり、時折炎のブレスを吐きかける竜の軍団に戦い慣れしている筈の霧の里の住民達も苦戦していた。

 術や人形を駆使して反撃を試みるが、小型とはいえ力も強度も違う竜の奇襲に次々と忍び達が倒れていく。

「ジーク!」

 カイザルはジークに乗り空中でワイバーンの群れを迎撃していた。

 カイザルのランスとジークの雷撃のブレスはワイバーンを撃ち落としていく。

 すると地面からもワームと呼ばれる地中に住まう竜が現れ始める。

「くっ! 下もか!」

「剛力丸!」

 大爺が筋骨粒々の人形剛力丸を操るとワームの突進を正面から受け止め、そのまま振り回して周囲の竜と激突させる。

「お見事ですねご老体!」

「お主も流石の腕よの。 しかし、これは流石にまずいのぅ」

 地上と空中両方からの竜の波状攻撃は激しく、今のままでは里が全滅するのも時間の問題だった。

「しかし、どういうことでありんしょうな?」

 カイザル達が振り向くと、ダキニが指先に炎を灯しながら近付いてくる。

 その後ろには体を撃ち抜かれた、もしくは燃やされたワイバーンやワームよ死体が横たわっている。

「こやつらは何故誰も殺さないんでありんしょう? まるで生け捕りを主にしているように思えるでありんすが?」

「恐らく例の怪物への生け贄を集めているのかと」

「なるほど。 わっちらは餌というわけでありんすか。 で、竜共は連中の軍門に下ったと」

「そう考えるのが自然でしょうね。 もし太古の五魔がいるなら、竜の神と言われたバハムートが向こうに付きている可能性が高い」

「神が魔に下るか。 まさに魔竜でありんすな」

 ダキニが他の竜を撃ち落とそうとすると、横から熱線と水刃が幾つも飛んできてワイバーンとワームを撃退していく。

「私の解説ポジション取らないでくれるかなカイザル君」

「クロード!」

「水楼。 怪我はいいんでありんすか?」

「そんなこと気にしている場合か女狐。 里を守るのが長の務め。 ならば今動かずいつ動く?」

 駆け付けたクロードと水楼はそのままワイバーンとワームの群れへと向かっていく。

「フレアダンス!」

「槍牙! 舞踏乱舞!」

 熱線と水流が入り乱れ次々と竜達を撃ち抜き粉砕していく。

 まるでお互いの間を縫う様に正確で息のあった攻撃は先程まで戦っていた者同士とは思えなかった。

 それはそれぞれの技の名の様に、舞うかの如く見事に美しかった。 

「やはり兄弟でありんすな。 反目しようとすぐに息が合う」

「二人に続かなくては! ジーク!」

 カイザルに応えジークが吠えると、二人は再び宙へ舞いワイバーンの群れへと突っ込んでいく。

「皆! 我らの長と異国の戦士が奮戦しておるのだ! ここで遅れを取れば霧の里の忍の名折れ! なんとしてもこの局面を乗りきるぞ!」

 傷を負いながら戦う水楼とクロード、そして大爺が激 で忍達は息を吹き替えし果敢に竜達へ向かっていった。






「ふむ。 あれが今のバハムートか」

 丘から里上空に移動したバハムートは下を見下ろしながらそう呟いた。

「やはり気になりますかな?」

「多少はな。 仮にもわしの名を名乗っているのだからな。 確かにセンスはいい。 魔力量もなかなか多く洗練されておる。 しかし、それは人のレベルでの話だがな」

 背後のベアードに答えるとバハムートは合図する。

 すると先程よりも巨大な影が里へと向かっていった。






 その変化にいち早く気付いたのはジークだった。

 警告する様に吠えるとカイザルは上空を見て驚いた。

 背中に幾つもの木を生やした全長約20メートルもある龍が自分達に向かって急降下してくる。

「ジーク!」

 カイザルは急いでジークに避けさせると、龍はそのまま下のクロード達に向かっていく。

「あれは、木龍か!?」

「まさかこの国の龍まで使役するとは、竜の神の名は本物の様でありんすな」

 ダキニは炎を木龍に放つが、木龍が咆哮すると同時に地面から木が生えそれを食い止める。

「水龍槍牙!」

 水楼も水流を放つが、木龍は防ぎもせずにその体で受け止めると水流をその体に吸収した。

「なんだと!?」

「よしなんし水楼。 奴は木の属性を持つ龍。 水では相性が悪すぎるでありんす」

「ならば私が相手だ! ジーク!」

 カイザルはジークの雷撃をランスに宿すと木龍に向かい構えた。

「雷槍竜牙!」

 必殺の突きを木龍に放つと雷撃を纏った突きの衝撃が木龍に直撃する。

 だが雷撃は木龍に生えている木々に分散され、その威力は普段の半分以下にされてしまった。

「馬鹿な!? くっ!」

 木龍が反撃しようと突っ込んでくるのを、カイザルは急旋回することでなんとか避ける。

 木龍が再び咆哮すると地面から伸びた木の根が次々と忍達を拘束し始め、それをワイバーン達が連れ去ろうとする。

「マズイ! このままでは!」

「ここは私がやる! 水楼や師匠達は皆を!」

「何を言って・・・」

「言う通りにしなんし水楼。 万全ならいざ知らず今の主さんではあれに勝てないでありんす。 ならまだ相性のいいクロードにやらせるのが一番得策でありんす」

 ダキニに諭され、水楼は連れ去られようとしている里の者を見るとクロードに向き直る。

「あの程度の龍に負けることなど許さんからな!」

「ああ。 皆を頼むよ」

 水楼とダキニが里の者を助けに走るとクロードは上空のカイザルに向かって叫んだ。

「君はワイバーンを頼む! あれを倒せば少なくとも連れ去られる事は無くなる筈だ!」

「わかった! 死ぬなよクロード!」

 カイザルがジークとワイバーンの群れに突っ込んでいくと、クロードは木龍に向き直る。

「さて、久しぶりに弟に頼られたんだ。 本気でやらせてもらうよ!」

 クロードはフレアランスを放つと熱線が木龍の出した木を貫通し木龍の体に当たった。

「まだまだ!」

 クロードはフレアダンスで何本もの熱線を木龍に浴びせる。

 木龍の木は貫かれ体には幾つもの火傷が刻まれていく。

 木龍はクロードの危険性を察知し木の根を操りクロードに襲い掛かる。

 同時に体の木を成長させ先程よりも太く丈夫な大木へと変化さていく。

「させるか! フレアドーム!」

 クロードは木龍を囲もうと火球を大量に放った。

 火球は大きな壁となり木龍を覆おうとするが、木龍は自ら火球に突っ込みその壁を突破しクロードに突っ込んでいった。

「くっ!?」

 クロードは転がる様に避けるが木龍は更に木の根をクロードに向ける。

(やはり火力が足りないか。 かといって火竜の装具は今の状態では使えない。 一体どうすれば?)

 クロードはフレアランスで木の根を撃ち抜きながら必死に打開策を考える。

 が、それが仇となった。

 只でさえ水楼との死闘の後でボロボロの状態だ。

 クロードの僅かな隙に太い木の根がその腹部に鞭の様に命中した。

「ぐがっ!?」

 体勢を崩すクロードに向かって、木龍は自ら噛み砕こうと牙を向きながらクロードに向かってくる。

「しまっ!?」

「フレアランス!」

 クロードが反応するよりも先に、別方向から飛んできた熱線が木龍に直撃し横へと吹き飛ばした。

 だがクロードはそれどころではなかった。

 熱線と共に聞こえてきた声は、クロードにとって信じられない人物のものだった。

「今のは・・・まさか・・・」

「全く、酷いですねクロードは」

 再び聞こえた声にクロードはゆっくり声の方を向いた。

 そしてその人物に、クロードは戦闘中ということも忘れ固まった。

「私を忘れて戦いに出るなんて。 パートナーじゃなかったんですか?」

「リ、リーティア!?」

 そこに立っていたのは、クロードが望み続けた自分の意思で動くリーティアの姿だった。

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