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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
224/360

新たな決意


 クロードのサイゾウとしての過去を聞き終えたカイザルにとって、それは想像を越えるものだった。

 リーティアが元は人間で、その体を使って造られた。

 それはカイザルに大きな衝撃を与えたが同時に何故クロードがリーティアにあそこまで執着するのか理解できた。

 クロードはリーティア以外の人形も友と呼び大切に扱っている。

 だがリーティアと違い時に壊される事覚悟で戦わせる事もあった。

 だがリーティアに関しては戦闘時には強固な鎧を着せ、時には自らが身代わりとなり傷付かない様に必死に守っていた。

 それはリーティアが人の体を部品に使っている為修理することが難しいということ。

 そして最大の理由は、生前愛した者を傷付けたくなかったというクロードの今尚残るリーティアへの愛から来る行動なのだ。

「軽蔑するかい? 私の事を?」

「なっ?」

「愛した女性を人形に変え、その後父がどういう行動を取るか察しながらも国を捨てた人間。 それが君が敬意を抱いてくれた五魔の魔竜、クロード・ミストの正体だよ」

 自嘲気味にそう問い掛けるクロードに、カイザルは静かに聞いた。

「貴様は、あの水楼と会った時その人傀儡の法を教えろと言ったな? やはりリーティア殿を甦らせる為か?」

「勿論、それもあるけど人傀儡にはもう1つ効果があってね。 それは人形に生前の意思を甦らせる事で術者の魔力を増幅させるんだ」

「増幅!? そんなことが可能なのか!?」

「ああ。 術者と人形の相性もあるけど、少なくとも倍にはなると聞いている」

 クロードはそう言うと何かを思うように宙を見詰める。

「私は傀儡術の上げる為ずっとその腕を磨いてきた。 エルモンドに付いていったのも、彼の知識を応用すれば術は完成するんじゃないかという打算だった。 結局術は完成できなかったけど、その代わり大切なものが私に出来てしまった」

 新たな大切なもの。

 それがリナ達五魔やノエル達であることは、クロードを見てきたカイザルにはすぐにわかった。

「リーティアを甦らせたいという想いは変わらない。 だけど、今はそれ以上に力が欲しい。 こんな私を迎え、信じてくれたみんなの為に。 その為に私はどうしても人傀儡を完成させなければならないんだ」

 あの日、エルモンドが裏切りラミーアの魔力が解き放たれた時、クロードのみが重傷の為戦線を途中から離脱していた。

 他のリナ、レオナ、ジャバの3人はノエルを守るため必死に戦っていたのに、自分だけが何も出来なかった。

 遠距離タイプの自分がいれば、あの場での死者を減らせたかもしれない。

 ゴブラドを死なせなくて済んだかもしれない。

 あれ以来ずっとクロードは、自分の弱さを悔いていた。

 だからこそ、2度と踏み入らないと決めた故郷へと戻ってきた。

 例え過去が公になり皆に軽蔑されようと構わない。

 今度こそ守れる様に。

 今度こそ皆と最後まで戦える様に。

 クロードの願いはそれだけだった。

「・・・そうか。 ならばいい」

「え?」

「過去に何があったかなど今更どうでもいい。 私の知る魔竜バハムートのクロードが相方の人形に惚れ抜いた人形バカということに変わりない」

「なんだか、酷いこと言われてる様な・・・」

「更に言えば、自身の命を賭けて大事な者を守ろうとする事の出来る男だ。 それはあの時戦った私とジークが一番よくわかっている」

 カイザルは隣のジークを撫でると、ジークは同意する様に小さく唸る。

「そんなお前を、過去に何があろうが軽蔑する事など決してない。 それは私だけでなく貴様の仲間も同じ筈だ。 そしてもし意思があるなら、リーティア殿も同じことを言った筈だ」

 真剣に自分に語りかけるカイザルに、クロードは苦笑した。

 それがクロードの照れ隠しだということはカイザルにもわかった。

「全く、本当に君は真っ直ぐだね。 僕とは大違いだよ」

「私からすれば貴様がひねくれてるのだ。 もっと素直に向き合え」

「やれやれ、どっちが年上かわからないね本当。 でも、感謝するよカイザル君、ジーク」

 そんな二人のやり取りをしていると、今まで静観していたダキニがクスリと笑った。

「男同士というのはいいでありんすな~。 わっちの存在を忘れる程に熱く語り合えて」

「し、師匠」

「こ、これはご無礼を。 決してその様なつまりは・・・」

「いいんでありんす。 あのサイゾウがこんなに真剣になる姿を見れたんでありんすからな」

 からかう様にクロードを見詰めるダキニだったが、その表情は穏やかなものとなる。

「本当、いい出会いに恵まれた様でありんすな、サイゾウ」

「師匠、その名は捨てたのでご容赦を。 それに私にはもう名乗る資格もないですし」

「資格など誰かが決めるものでもありんせん。 ましてや自分で決めればそれは己をここまでと制限する枷になりんす。 強くなりたいと思うなら、そういうものを勝手に決めるのは止めなんし」

「肝に命じます、師匠」

 クロードが頭を下げると、ダキニはニッコリ笑った。

「さて、明日は主さんにとっての大一番でありんす。 さっさと夕食にしてしっかり休みなんし。 今支度するでありんす」

「え? 師匠が作るんですか?」

「おや、わっちの料理はいやでありんすか?」

「いや、そういう訳じゃ・・・」

 目をそらすクロードの姿になんとなく察したカイザルだったが、後が怖いので何も言わなかった。

 結果、その夜の夕食は甘い油揚げ料理づくしとなり、クロードとカイザルはノエルの料理を恋しく思う事となった。






 里長の屋敷のある部屋。

 水楼は目の前の位牌を前に静かに闘志を巡らせる。

「サイゾウ。 貴様だけは、俺が!」

 クロードへの怒りを闘志へと変え、水楼は明日の対決へと臨むのだった。

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