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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
222/360

クロードとリーティア1

「リーティア!? どういう事ですかそれは!?」

 クロードのサイゾウだった頃の話を聞くカイザルは驚きで声を出す。

 リーティアはクロードの最高傑作であり最愛の人形だ。

 それが生きた人間として話に出てきた事に驚くカイザルに、ダキニは変わらぬ様子でまた金平糖を一口食べる。

「せっかちなお人でありんすな。 それはこれからゆるりと話しんす。 もう暫く静かにお聞きなんし」

 囲炉裏の火を見ながらダキニは語りを再開させた。

「あの後サイゾウは急いでそのリーティアという娘を屋敷に連れていきんしたが、父親の15代目サイゾウがそれに激怒しんした」






「この戯け者が!! 自分が何をしたのかわかっているのか!?」

 屋敷に帰ったサイゾウを出迎えたのは父親である現長である15代目サイゾウの怒声だった。

 左頬に傷を作りながらサイゾウによく似た顔つきの父親は、眉間にシワを寄せ憤怒の表情だった。

「父上、怪我人の前でそんなに大声をあげるなんて何を考えているんです?」

「貴様こそ何を考えている!? このヤオヨロズで異国人を見付けたらどうすべきは知っている筈だろう!? それを連れ帰るなどどういうつもりだ!?」

「異国人だろうとなんだろうと怪我人は怪我人。 ましてやここまで弱っている女性を捨てろと言うのは、あまりにも鬼畜な考えだと思いますが?」

「次期長なら先の事を考えろ! 貴様が異国人を助けたなどと知れれば、里自体の立場が危ういのだぞ!?」

 言い合う二人の間で、水楼はどうすることも出来ずオロオロとするのみだった。

「いいのではないか、15代目」

「父上!?」

「大爺様!」

 二人の様子を見かねた14代目サイゾウである大爺が口を挟むと、サイゾウは安堵の表情を浮かべる。

「正気か父上、いや先代! 異国人を里で匿うなど・・・」

「外に漏らさねばいいだけの話じゃろう。 第1、我が里にはダキニ様の例もある。 万一バレても言い逃れは出来よう」

「しかし・・・」

 まだ反論しようとする父親を制するも大爺はその耳元へ語りかける。

「今サイゾウと争えば奴の16代目就任に支障をきたす。 それはお主も望まんじゃろ?」

「そ、それはそうですが」

「それに異国の情報も欲しいのでな。 ヒサヒデもキナ臭い今、ヤオヨロズも外のゴタゴタに巻き込まれる可能性もある」

 当時、ヤオヨロズの外ではアルビアが各国から集中的に攻められていた。

 ヤオヨロズはその争いには関わらず静観をしていたのだが、ヤオヨロズ所属の爆の国領主ヒサヒデは度々アルビア侵攻を訴えていた。

 だがヤオヨロズの議会はその訴える様子はなくヒサヒデは不満を募らせ、最近では良からぬ噂が出る様になっていた。

「あの男がどう動くにしろ、少なくとも外に対して情報を集めておく必要はある。 あのサイゾウの拾った娘、着ている物からしてそこそこの身分の様じゃ。 ならは、利用せぬ手はないじゃろう」

 14代目サイゾウとしての顔を覗かせる大爺に、父親も納得せざるおえなかった。

「貴様が監視役だサイゾウ。 いらぬ事は話さず、向こうから情報を聞き出せ」

「御意」

 頭を下げるサイゾウがニヤリと笑うのを見て、水楼は不安な気持ちになった。






 サイゾウは連れダキニの庵でリーティアの手当てをすることになった。

 護り神であるダキニの元なら里の者も無闇に近寄らず、余計なトラブルは起きないだろうという判断だった。

「全く、主さんは相変わらず無茶をするでありんすな」

 囲炉裏の近くで寝かせたリーティアを見ながらダキニが金平糖を摘まみながら言うと、サイゾウは苦笑する、

「そう言わないで下さいよ師匠。 私はただ傷付いた女性を見捨てられないだけです」

「紳士ぶるな。 どうせ外国の話でも聞きたいなと思ったんでありんしょ?」

 図星を突かれサイゾウは乾いた笑いで誤魔化した。

 実際ダキニの指摘は当たっていた。

 勿論見捨てられなかったというのも事実だが、サイゾウにとって今のヤオヨロズは窮屈だった。

 ヤオヨロズ以外の国の事を知りたい。

 そういう願望があったのも間違いのない事実だった。

 すると、眠っていたリーティアがその目を開けた。

「私は・・・」

「気が付いたかい? 私の事がわかる?」

「サイゾウ・・・様?」

「覚えてもらって嬉しいよ、リーティアさん」

 笑顔を見せるサイゾウに何かを感じ、ダキニはコッソリとその場を後にした。

「これは面白いことになりそうでありんすな」

 そう呟いて消えたダキニの事に気付かず、サイゾウは詳しい事情を聞いた。

 すると、リーティアがアルビアの貴族の娘だということ。

 他国のアルビア侵略が激しさを増す中、リーティアの両親がなんとか娘だけでも逃がそうとし、その場所に安全なヤオヨロズを選んだこと。

 密入国したはいいが潜伏予定の家が摘発され、町に出る事も出来ず行き倒れてしまったなど、リーティアは素直に話した。

「それでヤオヨロズに密入国を?」

「はい。 ヤオヨロズは中立国ですから、今の状況ではまともに入国すら出来ないだろうと」

「アルビアは今そんなに苦しい状況に?」

「ええ。 ノルウェ陛下が将軍達となんとか防ごうとしていますが、両親の話ではこのままでは後数年持つかどうかという話でした」

「ご両親は今は?」

「・・・私を送り出した数日後、セレノアの侵攻にあったと聞きました。 恐らくもう・・・」

 言葉を詰まらせるリーティアに、サイゾウは優しく声をかける。

「親を失う悲しみは、私もよく知っている。 君が安全に暮らせる様になるまで、ここにいるといい」

「え? そんな! 助けてもらっただけでもう十分です! 第一この国では密入国者を匿うのは重罪のはず!」

「じゃあこの後アテはあるの?」

「そ、それは・・・」

「その見た目じゃ町に出て働くことも出来ないだろうしね。 普通に生活するのも多分無理だと思うよ。 だから、正直選択肢は元々ないんだよね」

 リーティアは少し悩むが、サイゾウに対し頭を下げた。

「よろしくお願いいたします。 サイゾウ様」






「こうして、リーティアはわっちの庵で暮らすことになりんした。 クロードは監視役の名目で彼女のそばに付き、色々な話を聞きんした。 アルビアの事。 異国の文化の事。 そして彼女自身の事を。 元服の儀を正式に終えた後もずっと楽しそうに通っていんした」

「そうだね。 あの頃は本当に全てが輝いて見えた素晴らしい時間だった」

 話に夢中になっていたカイザルは、帰ってきていたクロードの存在に気付かなかった。

「貴様、いつからそこに?」

「ついさっきだよ。 それにしてと酷いですね師匠。 勝手に人の若い時代の話をするなんて」

「主さんが話す前に予備知識として色々説明しただけでありんす」

「全くこの師匠は・・・」

 少し呆れながらも、クロードはリーティアと共に囲炉裏の近くに座った。

「まあ、確かに説明するつもりではいたけど、まさか最初にこの事を話す事になるのがリナ達じゃなく君になるとはね。 本当、人生は何が起こるかわからない」

 小さく笑うと、クロードは当時を思い出す様に宙を見詰めた。

「本当に、あの時もあんな事が起こるなんて、思いもしなかったよ」

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