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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
221/360

過去の出会い


 クロード達がダキニに連れられてきたのは集落から少し離れた彼女の住まいだった。

 そこにあったのは里の護り神に相応しい絢爛豪華な屋敷・・・ではなく、質素な庵だった。

 無論2階建てで綺麗に整っているし、近くには専用の湯屋らしき建物も建てられているが、先程里の重役達にかしずかれていた人物が住むにはあまりにも小さな住まいだ。

「意外でありんすか異国の客人?」

「い、いえ、その様な事は!」

 また心情を見抜かれていると感じたカイザルが慌てて否定すると、ダキニはおかしそうにケラケラ笑った。

「素直な方でありんす。 まあ、遠慮せずにあがりなんし」

 ダキニはヒョイと玄関に入ると、クロードが声をかける。

「師匠。 申し訳ありませんがその前に1つ聞きたいことが」

「なんでありんしょう?」

「父は、今どこに?」

「主さんの母親の所でありんす」

 クロードはその言葉を静かに受け止める様に小さく「そうですか」と呟いた。

「そちらに先に顔を出してもよろしいですか?」

「好きにしなんし。 その間わっちは客人をもてなしておくでありんす」

「ありがとうございます。 カイザル君、すまないけど少し待っていてくれ」

「構わない。 久しぶりの里帰りなんだろう? 親と会う時間位、好きにすればいい」

 クロードは小さく笑い軽く頭を下げると「行こうリーティア」とリーティアと共にその場を後にした。

 その表情がどこか寂しげに見えたカイザルだったが、ジークと共に庵へと入っていった。

 玄関に入るとすぐにダキニの生活エリアである居間に出る。

 畳が敷かれた部屋の中央には囲炉裏があり、鉄瓶で湯が沸かされている。

「その古竜には少し狭いかもしれないが、そこは容赦しておくれなんし」

「いえ、お構いなく。 しかし、やはり貴女程の地位の方が住むにしては少々・・・」

「そうでありんしょうな。 そっちの権力者は隠居してても大きな城や屋敷に住むのが殆どと聞くでありんす」

「そうですね。 大体はそうなります」

「此方はまあここよりは広いでありんすが、人によっては仏門に入ったり小さな屋敷に引っ込んだりする者が多いでありんすな。 わっちの場合は、単純にその手の豪勢な暮らしに飽いただけありんすが」

 (一体どんな暮らしをしてきたんだ?)と疑問に思うカイザルを他所に、ダキニは懐からゴソゴソと小さな袋を取り出した。

「同じ理由で酒も煙草も飽いての、今はこれが一番でありんす」

 袋から取り出したのは白や桃色等の色の付いた砂糖菓子で、ダキニはそれをヒョイと口に入れると少女の姿に似つかわしい笑みを浮かべる。

「金平糖という。 今のわっちの好物でありんす。 主さんらにもやろう」

 ダキニに勧められながら食べると、カイザルの口の中に繊細な甘さが広がり、口に入れられたジークは嬉しそうに声を出す。

「それにしても主さんも大変でありんしたな。 サイゾウ・・・クロードに振り回されてこの様な国に連れてこられて訳もわからぬままわっちの相手をさせられながら待たされるのでありんすから」

「いえ、これも必要なことですから。 それに奴も弟ですらあの状態。 父親と会うとなればその比ではないだろうから私が一緒では・・・」

「その心配は無用でありんす」

「? どういうことです?」

「奴の父なら、既に死んでおりんす」

 カイザルは驚愕しながら、先程母親の所と言った意味を理解する。

「では、奴の母親も?」

「察しのいい方でありんすな。 あれの母親は水楼を産んでまもなく、父親は奴が抜けた後責任を取り自害しなんした」

 サイゾウの名を持つ者は代々長となる定めを持つ事は既にカイザルも把握していた。

 当然クロードも長を継ぐ者だったはす。

 それが禁忌を犯し、更に国の重罪である無断の出国までしたのだ。

 長である父親が責任を取る為にその決断をするのはわかる。

 クロード自身、恐らくその結末を察していたのだろう。

 だからああして冷静にうけとめていたのだ。

 少なくとも、表面上はだが。

 同時に、水楼が何故ああもクロードを敵視するのも理解出来た。

 クロードの勝手な行動のせいで父を失い、里を混乱させたのだから。

 だがそれでもカイザルはまだわからないことがあった。

「何故、クロードは国を抜けたのですか? あの男ならそんなことをすればどうなるか理解していた筈では?」

 ダキニはもう1つ金平糖を食べると少し表情を変え、それは少女ではなく底の見えない妖艶な女性のものとなる。

「そうでありんすな。 本来ならあやつ自身から語らせるのがいいでありんしょうが、さわり位ならいいでありんしょう」

 そう言うと、ダキニは静かに語り始めた。






 それはまだエルモンドが五魔の創設を提案するより7年ほど前。

 霧の里の森で一人の少年がキョロキョロと何かを探していた。

兄者(あにじゃ)~!? どこにいるんですか兄者!?」

 高い木の上を見回す少年は、漸く目的の者を見付けた。

「兄者! 父上が探してますよ! サイゾウ兄者!」

 木の上で小さく寝息を立てていたサイゾウ、後のクロードは片目を開けるとチラリと少年を見下ろした。

「なんだい水楼? 折角今思索に耽っていたのに」

「ただ寝てただけじゃないですか!」

「そうやって表面通りにしか捉えないからお前はまだ未熟なんだよ。 忍ならもっも裏を見なくちゃね」

 サイゾウは軽い調子でそう言いながら木の上から軽く飛び降りた。

「そんなこと言ってまた誤魔化して! それより父上が呼んでますよ!」

「どうせ元服の話だろ? 全く父上も飽きないね」

 サイゾウはまだ眠そうに欠伸をしながら答えた。

 この当時サイゾウはまもなく15才。

 ヤオヨロズで成人を意味する年であり、正式に長の継承者となる権利を得ることの出来る年である。

 サイゾウは当時この里では異端といえる存在だった。

 霧の里の忍びは傀儡と水の術を得意とするのだが、サイゾウが得意とするのは真逆の火の術。

 更にその思想と里の規範に当てはまらず何にでも興味を持ち、里を抜け出し町で遊び回る等問題行動も多かった。

 それでも長の継承者として認められるのは、その並外れた才覚と知謀が長に相応しいと父親である15代目サイゾウを始めとした重役達が認めたからだった。

 だがサイゾウ本人はというとその事をむしろ窮屈だ程度に思っており、こうして思索と称して抜け出していた。

「父上も皆期待している証拠ですよ。 俺だって、兄者が長になってくれるの楽しみにしてるんだし」

 最後照れた様にボソッと言う水楼に、サイゾウは優しく頭を撫でて微笑んだ。

「わかったわかった。 じゃあそろそろ・・・っ!」

 するとサイゾウは何かに気付き森の奥を見つめる。

「どうしました兄者?」

「少し見てくる。 お前はここにいろ」

「え? 兄者!?」

 サイゾウは水楼をその場に残しすぐに駆け出した。

 感じた気配が近付くと自分の気配を殺し静かに近付き、クナイを手に木の影から覗いた。

 すると、女性が倒れている。

 それを見たサイゾウはクナイをしまうと女性に駆け寄った。

「どうした? 一体ここで・・・」

 サイゾウはその女性を見て思わず息を飲んだ。

 その女性は見慣れない服装に身を包み、金色の髪に青い瞳をしていた。

 それはこの国にはいない筈の異国人の髪と目の色だった。

 サイゾウは一瞬迷うが、すぐにその女性を助ける選択をする。

「大丈夫か? ほら、飲めるか?」

 サイゾウは腰に下げた竹筒の水筒で水を飲ませる。

 憔悴していた女性の目僅かに生気が戻る。

「あ、ありがとう、ございます」

「まだ無理はしないで。 すぐ私の屋敷に運ぶから」

 サイゾウは女性を起こすとその背に背負った。

「あ、貴方は?」

「私はサイゾウ。 あなたは?」

 女性は小さな声が、サイゾウの耳に名を告げる。

「リーティア・・・リーティアと申します」

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