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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
220/360

霧の里

 カイザルは完全に混乱しながらも、漸く何故クロードがヤオヨロズ説得に名乗りをあげたのか理解した。

 クロードはヤオヨロズ出身。

 しかも諜報を司る忍びと言う密偵集団の出だ。

 ならば確かにヤオヨロズの上層部と繋がりがあってもおかしくはないし、今回の役目にうってつけだ。

 しかもお頭と呼ばれていた水楼の兄というのが事実なら・・・。

「クロード。 貴様は、この里の長の一族なのか?」

「もうその資格は欠片もないよ。 それに、本来私はここに戻っていい人間じゃないしね」

「よくわかっているじゃないか」

 水楼は再び鋭くクロードの事を睨み付けるとクナイを首元に(かざ)す。

「貴様は本当ならこの場で殺されても文句が言えない立場だ。 それだけの大罪を犯したのだからな」

「だろうね。 それも理解した上でここに来たんだ」

 暫く二人は視線を交わすと、水楼はクナイを納めた。

「だが俺も一応長なのでな。 他国の使者を無下に扱う非礼は出来ん。 ましてや、あの魔帝の国とアルビアの国の重鎮なら尚更だ」

「なるほど。 情報収集力は私がいた時より上がっているらしい」

「知っている。 貴様が五魔とかいう集団に属していたのも、そこの男が新参の部類とはいえアルビアの最高幹部にいることもな」

 全て知られている事に驚くカイザルを他所に、水楼は二人に背を向ける。

「話は聞こう。 貴様らの存在は我らの里だけで判断していいものではない様だからな」

「感謝するよ、水楼」

「気安く呼ぶな。 俺はもう貴様の弟ではないのだからな」

 憎しみにも似た感情を滲ませる水楼はそのまま歩き始めた。

「すまない、カイザル君。 驚かせてしまったね」

「いや、それはいい。 いや良くはないが、とりあえず後でちゃんと説明しろ」

「わかってるよ。 でもまずは私達の役目を果たそう」

 クロードは小さく感謝する様に笑うとリーティアと共に水楼の後を追い、カイザルをジークを連れて続いた。

 道中クロードからこの里は普段ああして幻術で覆い侵入者を惑わせていると聞かされた。

 大抵の者は変わらぬ景色を迷った挙げ句弾き出されるが、クロードは仕組みを理解していたので幻術中でも正確な道を通ることが出来たのだと言う。

 カイザルが感心していると、森を抜け開けた場所に出た。

 そここそ、忍びと呼ばれる者達の里、霧の里だった。

 石造りの多いアルビアと違い、全ての建物が木で出来ており、ガラスの代わりの障子と呼ばれる紙の窓や瓦と呼ばれる屋根等カイザルにとって初めて見る光景が広がっている。

 だがそれ以上に目を引いたのは、里の住民達。

 着物や忍び装束と呼ばれる独自の衣服を着ていることもだが、皆クロードと同じ様な人形を使っていたのだ。

「驚いたろ? 人形使いはこの里じゃ珍しくないんだよ」

 聞けば初代の長が人形使いだったらしく、以来この里ではずっと忍術と傀儡術を得意としているという。

 人形もその術者達が自分で造り、クロードのリーティアの様に人間に違い形のものもあれば、人間とはかけ離れた異形の姿の人形もあった。

 異国とはこうも違うものかと驚くカイザルだが、彼らから見れば古竜を連れた自分も同じかと一人納得する。

 やがて二人は里の中で一際大きな屋敷に連れてこられた。

 ジークを外に待たせクロードに言われるまま靴を脱いで家に上がると、畳の敷かれた広間へと通される。

 既に事態を聞いていたのか里の重役と見られる者達が数名おり、水楼はその奥に座る老人の横に座った。

 老人はラズゴートを思わせる様な筋骨粒々な体つきをしており、周りを圧倒する様な威圧感を放っていた。

「久しいなサイゾウ。 いや、今はクロードと名乗っていたか」

 ドスの効いた声で語りかける老人に、クロードは胡座をかきいつもの調子で答えた。

「お久しぶりです、大爺様。 相変わらずの傀儡術ですね」

 傀儡術と聞きカイザルがまじまじと老人を見ると、老人から先程とは違う軽い声が聞こえた。

「なんじゃ。 折角久しぶりの再会で驚かそうと思うとったのに、つまらんの」

 そう言うと、老人の後ろから小柄な老人がヒョイと現れた。

「驚かすも何も、貴方の正体を知っている私に仕掛けても意味はないでしょう」

「カッカッカッ! そう言うな! 年寄りのお茶目な遊び心じゃ!」

 飄々と笑う小柄な老人こそ本当に大爺様と呼ばれた人物だとカイザルが理解すると、大爺はカイザルの方に向き直る。

「いや、初対面で失礼したのぅアルビアの使者殿。 わしは14代目サイゾウという。 まあ、ただの隠居爺ということで容赦してもらいたい」

「いえ、此方こそ挨拶が送れ申し訳ない。 聖五騎士団聖竜ニーズホッグ、アレックス・カイザルと申します。 以後お見知りおきを」

 クロードに倣い同じ様に座りながら姿勢を正し頭を下げるカイザルに、大爺は少し感心する。

「ほほぉ、わしの傀儡術を見た後で平静でいるとは、流石その若さで最高幹部になっただけの事はあるのぅ」

「似たようなものをこの男に散々見せられているので、慣れているだけです」

「なんか言い方にトゲがあるなカイザル君。 大爺様も人が悪い。 私やカイザル君の今の身分も全部、もう知っているんでしょう?」

「まあ、その程度はの。 じゃが肝心のお主らが来た理由は知らん」

 そこで大爺の空気が少し変わり空気がピンと張り詰める。

「里を抜けたお主がわざわざアルビアの最高幹部を伴って来るとは、ただの里帰りであるまい?」

「察しが良くて助かりますよ」

 クロードは懐から書状を取り出した。

「現在、私の仕えるプラネとカイザル君のアルビアはある怪物と戦うことになっています。 その怪物はあらゆるものから情報を抜き取り、魔力を無尽蔵に増やす正真正銘の化け物です。 それを打ち倒す為、ヤオヨロズの力を貸してもらいたくケンシン公に取り次ぎ願いたい」

 水楼が目配せすると忍が現れクロードから書状を受け取らせると、その書状に軽く目を通した。

「・・・1500年前の化物か。 随分とお伽噺の様な話だが、プラネ王と現アルビアの事実上トップの連名なら笑えないな」

 書状を読み終えると、水楼は冷静に事態について思案を始める。

「既にラバトゥ、ルシスは我々と協力関係にあり、セレノアとも交渉を始めている。 是非ヤオヨロズの力も貸してもらいたい」

「カイザル殿、と言ったか。 そちらの言い分はわかった。 少なくとも俺達だけで判断する案件ではないようだ。 この件に関しては中央に取り次ごう」

 前向きな返答に、クロードとカイザルはとりあえず安堵の表情を浮かべる。

「だが、貴様は他に用件あるのだろう? でなければ再びこの里には来ないだろうからな」

「やはり、お見通しか」

 水楼の指摘に、クロードの表情が真剣なものへと変わる。

「初代サイゾウの遺した人傀儡の秘伝を、教えてもらいたい」

 クロードの申し出に周囲がざわつき、水楼の瞳が怒りに満ちた。

「あの秘法は代々正式に長を継いだ者のみが知ることの出来る秘伝中の秘伝! 里を抜けた大罪人に教える訳がないだろう!」

「聞いてくれ水楼。 今回の戦いは必ず勝たなくてはならない。 その為に力がどうしても必要なんだ」

「ふざけるな!」

 必死に懇願するクロードに対し、水楼は烈火の如く言葉をぶつける。

「貴様は自分のしたことを忘れたか!? そもそも貴様は掟を破り、独自に秘伝を再現しようとした! その結果出来上がったのが貴様の後ろに控えるその木偶だ! その後里から逃げ出した貴様に、秘伝を与えるだと!? 俺達を馬鹿にするのも大概にしろ!」

「・・・今、リーティアの事を何て言った?」

 クロードは立ち上がると、水楼を睨み付ける。

「木偶と言ったのだ! 貴様の下らぬ思考が具現化した様な最悪の失敗作! それを大事にしている貴様も、滑稽でしかない! そんな貴様を側近にしている魔帝の息子とやらは、余程節穴らしい!」

 クロードは火球を生み出し水楼もそれに対し迎撃しようとする。

「二人とも待ちなんし」

 カイザル達が止めに入ろうとした瞬間襖を勢いよく開き、この場に似合わぬ可愛らしい少女が現れた。

 少女が現れるや否やカイザル以外のほぼ全員が動きを止め、その場で頭を下げた。

 一触即発だったクロードと水楼ですら臨戦態勢を解き、冷静さを取り戻している。

 茶色の髪に狐の耳をした半獣人である少女は、その見た目に反し遊女の様な妖しい雰囲気を醸し出しながら進んでいく。

 すると大爺が前に出て少女に声をかける。

「これはダキニ様。 何故このような場に?」

「わっちの可愛い若いサイゾウが来たと聞き、久しぶりに顔を身に来ただけでありんす」

 ダキニと呼ばれた少女はそう言うとクロードに視線を向けると微笑みを浮かべた。

「久しいなサイゾウ。 いや、今はクロードと呼んだ方がいいでありんしょうか?」

 そんなダキニに対し、クロードは珍しく畏まり跪き頭を下げる。

「お久しぶりです師匠。 相変わらず美しいお姿が見れて、安心しました」

「お前も相変わらす、正直な口でありんすな」

「し、師匠!?」

 唯一状況に付いていけていないカイザルに、大爺が説明した。

「この方はダキニ様と言ってな。 わしら代々サイゾウの名を継ぐ長達の指南役をしてくださっておる。 云わばこの里の護り神の様な御方じゃ」

「代々の長? ということは・・・」

 カイザルはダキニの歳を想像するが、悪い予感が過り口に出さなかった。

「悟い子でありんすな。 その賢明さ.大事にしなんし」

 読まれてると感じたカイザルの背中に嫌な汗が滲み出る。

「女狐! 貴様何しに来た?」

「おやおや、水楼は相変わらず聞かん坊でありんすな。 昔は素直だったのに」

「今俺達は大切な会談をしている! 道楽主義の貴様の出る幕はない!」

「その大切な会談で挑発紛いな事をして乱闘をしようとした悪い子は、どこの子でありんしょうな?」

 「ぐっ」と言葉に詰まる水楼にダキニはクスリと笑うとクロードに視線を移す。

「主も同じでありんすよクロード。 水楼がこうなることはわかっていながら、我を忘れるなんて悪い子でありんすな」

「申し訳ありません師匠」

 素直に謝罪するクロードの姿に、本当にこの少女がクロードの師なのだとカイザルは納得するしかなかった。

「さてとクロード。 人傀儡の秘伝が欲しいんでありんしたな?」

「はい。 これからの戦い、どうしても新たな力が欲しいのです」

「可愛い弟子の頼みだから聞きたい所でありんすが、わっちもこの里の者。 なんの断りもなしに里を抜けたお前に簡単に教える訳にはいかないでありんす」

 そこで、ダキニは妖しく笑みを浮かべた。

「そこで、こうするのはどうでありんしょう? 元長候補だったクロードと今の長である水楼の二人が戦い、勝てば秘伝を授けるというのは?」

 再び周囲がざわめくと、大爺は「またダキニ様の遊び癖が出たか」と苦笑する。

「どうでありんす? この方が二人にとっても丁度いいと思うんでありんすが?」

「元から私はどんなことでもするつもりでした。 受けない理由はない」

「水楼、主は?」

 ダキニに聞かれ、水楼は再びクロードを睨み付ける。

「いいだろう。 どのみちこの男には裁きを与えなければならないと思っていた所だ」

 その答えに、ダキニはニヤリと笑う。

「なら明日の正午、修練場中央広場にて二人の試合を行う。 よろしいでありんすな?」

 ダキニの言葉に大爺を初めとした重役達は頭を従った。

「なら、詳しいことは主さんらに任しんしせるでありんす。 わっちは久しぶりに愛弟子と異国の客人をもてなそう」

 そう言い、ダキニは後の事を丸投げし半強制的にクロードとカイザル達を連れてその場を後にした。

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