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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
217/360

休暇

「てめぇ、なにふざけたこと言ってッ!?」

 アルゼンの突飛な言葉に噛み付くリナだったが、瞬時に裏拳を背後に放つ。

 するとそこにはいつの間にか移動していたアルゼンがおり、リナの裏拳を受け止めていた。

「やはり、遅いですな」

「ちぃ」

 舌打ちしたリナの首元にアルゼンの貫き手が寸止めされていた。

「刹那のタイミングですが反応が遅い。 いや、感知出来ていても体が追い付いていないと言うのが正確でしょうな」

 アルゼンは手を放すとリナは顔をしかめる。

「てめぇ、さっきわざと喰らいやがったな?」

「我輩、避ける価値のない一撃は防がない質でしてな」

 アルゼンは軽く髭を撫でるとこほんと話始める。

「正直、リナ嬢を筆頭に貴殿らは皆オーバーワークが過ぎます。 コキュートとの大戦からアルビアとの死闘。 更にその後すぐにラミーア殿の探索と、いくら貴殿らがかの五魔とは言え無茶が過ぎます。 その証拠にイトス殿の術で傷は治せても、疲労などのダメージは確実に蓄積されております」

 事実アルゼンの言葉は当たっていた。

 特にリナはコキュート戦で三万を越える軍勢の動きを重力で抑え、その後アーサーであるエミリアに敗北し重傷。

 それをイトスの術とルシスの薬で回復させた後アルビアでまたエミリアと再戦。

 大怪我をしながら勝利した後復活したラミーアの魔力からの撤退戦。

 体力も魔力も酷使しすぎの状態だ。

 無論それはクロードやジャバ達他の五魔、更にはノエルやライルにも当てはまる事である。

「1度ガッツリと頭も体も休ませる必要が皆様にはありますな。 幸いここには素晴らしい温泉もあれば、体を癒すことを得意とするエルフの皆様もおります。 更に運のいいことに真に美味な食を提供してくださるシェフが2名本日プラネに入りました。 まさに今こそ休息を取るのに最適な瞬間なのですぞ」

「でも、まだ決めないといけないことが・・・」

「いや、あたしもアルゼンの坊やに賛成だね」

 ノエルの言葉を遮りアルゼンに賛同したのはラミーアだった。

「確かに急がなきゃならないけど、体にガタが来てるなら意味はないからね。 焦って無理するより、1度しっかり休んだ方が効率的だよ」

「でも」

「私もそうすべきだと思う。 ノエル陛下達には私達のせいで酷使させ過ぎてしまったし、ここは私達に任せて・・・」

「なに言ってんだいエミリアの嬢ちゃん。 あんたらも休むんだよ」

「え?」

 呆けるエミリアにラミーアはヤレヤレと首を振る。

「あんたらだってこいつらと戦ってボロボロなんだろ? しかもその後軍の立て直しだなんだと雑事やらなんやらやって。 いい機会だ。 今日は休暇ってことでゆっくりお休みよ」

「待って! 私達はそんな休む訳には・・・」

「うるさい子だね。 ほら、そこのトロールの坊や」

「グヘヘ! 任されよ!」

 トロールの長ジャックは立ち上がるとノエルとエミリアを抱えた。

「ちょっ!? ジャックさん!?」

「いきなりなにするのよ!?」

「お二人とも! このジャックがお連れしよう! ドルジオス殿達ドワーフが手掛けた大浴場たっぷり楽しんでもらおう!」

「わ、わかりましたから下ろしてうわああああ!?」

 ノエルとエミリアはそのままジャックに連行され温泉へと連れて行かれた。

「さて、残りの連中はどうする? なんならルシフェルに運ばせようか?」

 脅しの様なラミーアの言葉にリナははぁと息を吐く。

「しゃあねぇな。 ケーキ大量に用意しとけよ」

「ガッハッハッ! ならわしらもお言葉に甘えようかカイザル! ギゼル!」

「わ、私もですか?」

「諦めろ。 こうなったら流れに任せるのが吉だ」

 ラズゴートにカイザル達も連れ、クロードやレオナ達もそれに続き部屋を後にする。

「じゃあその間にあたしらはやることやっちまうかね。 っとその前にイトスの坊や」

「あ? 俺も休めとか言うのかよ?」

「それもあるけど、杖をちょっとお寄越し」

「俺の? なにすんだよ?」

「あんたのだけじゃないよ。 リナの嬢ちゃんが拾ったのもだよ」

 その言葉に、イトスは顔色を変える。

「あんた、なんでそれを?」

「あたしはなんでも知ってるのさ」

 ラミーアはクスリと笑うとドルジオスとマグノラの方を向く。

「ドワーフの坊やとドルイドの坊やも力をお貸し。 今のあたしじゃこの手の作業はちと骨なんでね」

「おや、まさか我々にお呼びがかかるとはね」

「何をするか知らねぇが、力になるぜ!」

 ラミーアは頷くとエドガーに向き直る。

「あんたも各国への連絡したら少し休みな。 その他の雑事はルシフェルにやらせるから」

「なら、お言葉に甘えよう。 私も個人的にやりたいことがあるからな」

「恐らくそれが正解だろうね。 好きにやりなよ」

 そして全体に向き直り、しっかりとした口調で言い放った。

「とりあえず、連中が少しでも休める様にしっかりやりな。 まずは各国との連携。 そして可能な限りの戦力を集めな」






 ノエルが各亜人の長と見付けてドルジオスにより造られた大浴場。

 そこの男湯にノエル達はいた。

 ジャバの本来の大きさで入っても余裕のある石造りの湯船の中、ノエルはふぅと息をつく。

「なんだか、変な感じですね」

「まあ、少し前までは想像してなかった光景だね」

 ノエルに同意するクロードの視線には共に温泉に入るラズゴートとカイザル、ギゼルの姿があった。

「まさかノエル陛下とこうして裸の付き合いが出来るとは、長生きはするものじゃのぅ! ガッハッハッ!」

「しかしいいのでしょうか? 我々だけこんな風に休んで?」

「まあいいんじゃないかなカイザル君。 実際アルゼン君やラミーアの言うことは正しい。 1度どこかで休む必要があったということさ。 私もこの後しっかりリーティアの体をケアするつもりだし、君もジーク君と散歩でもしてあげたらどうだい、」

「むぅ、確かに最近軍の再編やらでそこまで構えなかったが・・・」

 クロードの言葉に真剣に考え出すカイザルを不思議そうにライルは見ていた。

「しかし、本当変な感じだな。 俺達つい最近本気でやり合ったばかりなのによ」

「珍しく意見が合うな。 正直私もこんな事態想定していなかった」

「ならよギゼル。 折角だからこの後飲まねぇか?」

「断る。 この後私も用があるのでな」

「けっ! つまんねぇ野郎だな。 ・・・お、そうだ」

 ライルはニヤリと怪しい笑みを浮かべながら壁の方へと進んでいく。

「ん? ライルさんどうしたんです?」

「へへへ、温泉でやることなんて決まってるじゃねぇか」

「き、貴様まさか、覗きを!?」

「シーッ! でけぇ声出すなってカイザルよ。 なんならお前も見るか?」

「な、なぜ私がそんなことを!?」

「若いの~。 わしも昔はギエンフォードに止められながらやったもんじゃ」

「ラズゴートさん、それ流石にまずいんじゃ・・・」

「人間なんでも経験ですぞノエル陛下! ガッハッハッ!」

「つうわけで静かにしてろよ」

「止めろ貴様! 仮にも五魔の仲間がその様なことを!?」

 揉み合うライルとカイザルをクロードは微笑ましそうに見ていた。

「いや~、カイザル君は真面目だね」

「貴様は止めなくていいのかクロード?」

「勿論。 だってどうせすぐ・・・」

「うるせぇぞてめぇら!?」

 リナの怒声と共に小さな重力球が二つ壁の隙間から飛び出しライルとカイザルに当たった。

「ぎゃ!?」

「ぐが!?」

 二人はそのままプカプカと湯船に浮かぶのだった。

「向こうの面子を覗こうなんて、無謀もいいところだよ」

「それを知って覗こうとするとは、ある意味勇敢というべきか、それともやはりバカというべきか」

「まあ愛すべきバカってことで。 ジャバ」

「うがぅ。 ライル達こっち」

 ジャバに持ち上げれて運ばれるライルに呆れ、巻き添えを喰ったカイザルに同情するギゼルだった。

「ふふ、もうライルさんったら」

「やっと笑いましたな」

「え?」

 笑うノエルの横でラズゴートは普段と違う静かな、そして穏やかな笑みを浮かべる。

「ノエル陛下はここの所随分気を張っておられた。 ご自分では気付いておられなかった様ですが、あまり笑みも浮かべておられなかった。 まあ、あの様な事の後でなら仕方ないですがな」

 静かに語るラズゴートの言葉にノエルは今までの事を思い出す。

 漸くアルビアと決着が着き、聖帝と和解出来ると思った矢先にエルモンドが裏切りラミーアの魔力が復活。

 ゴブラドを始め多くの死者を出してしまった。

 アクナディンに吐き出す事で次に進む決意を固めたが、それでもやはり精神的に追い込んでいたのだろう。

 正直こうして敵だったラズゴート達と温泉に入り笑い合うなど考えもしなかった。

 こうして皆が笑い合う事を目指していた筈なのに。

 そんな事を考えていると、ラズゴートが背中をバシンと叩いた。

「ッ!?」

「まあ、こういう時には笑うのが一番! 困難な時ほど笑うべし! そうすれば自然と道も開けると言うものですな! ガッハッハッハッ!」

 ラズゴートの力で叩かれジンジンと痛みを感じながら、ノエルも不思議と笑顔になる。

「なんだか不思議ですね。 ラズゴートさんにそう言われると、そうなんだなって思えてきます」

「うむ! それは光栄ですな!」

 そうして二人は笑い合い、その後はしゃぐジャバに振り回されながら男湯は久しぶりに楽しい時が流れたのだった。






「たくっ、あの馬鹿が」

「私達相手に覗くなんて、ある意味凄いわねあなたの舎弟」

「ライル君は特別だからね~」

 女湯ではリナ、エミリア、レオナの3人が悠々と湯船に浸かっていた。

「まあ、こんな美女が2人もいたら覗きたくもなるわよね」

「おお、珍しく自分の事がわかってるじゃねぇか」

「言っとくけど外れてるのあんただからね」

「何も言ってねぇのにわかるなんて自覚あるんじゃねぇか」

「なによバカリナ!?」

「やんのかアホレオナ!?」

 いつもの様にケンカを始める二人にエミリアは苦笑する。

「それにしても、セレノアの時も思ったけど二人供仲いいわね」

「「どこが!?」」

「そういう所。 正直羨ましいわ」

「? あなた友達とかいなかったの?」

「私にいると思う? まあ子供の頃はいたけどアーサーになることを決めてからは極力交遊関係は作らない様にしてたわ。 正体バレると色々厄介だしね」

「つまり、ボッチってことか?」

「否定しないけど、ちょっと引っ掛かるわねその言い方」

 不服そうな顔をするエミリアに、レオナはニヤリと笑いながら近付く。

「じゃあ、あたし達が友達になってあげる」

「はぁ?」

「え? 別にそういうつもりで話した訳じゃ・・・」

「いいじゃない。 折角こうして裸の付き合いもしてるんだし♪ あたしだってたまにはがさつじゃない女友達欲しいと思ってた所なのよ」

「よし。 その喧嘩買った」

「待っ、待ってよレオナさん!」

「レオナ。 呼び捨てでいいわよ。 あたしもエミリアって呼ぶから」

「ああ、それは俺も言いたかった。 今さら改まってさん付けされても微妙だしな。 俺も呼び捨てでいい」

「そ、そんな急に言われても・・・」

 エミリアが年相応の少女の様な顔でオロオロすると、レオナとリナは揃って悪い顔をする。

「ほらほら、呼んでみてよエミリア」

「別になんでもねぇだろ呼び捨てくらいよ?」

(やっぱりこの二人仲いいでしょ!?)

 息ピッタリの二人に心の中でツッコミながら、エミリアは少し顔を赤くしボソリと言った。

「り、リナ。 レオナ」

 小声ながらちゃんと呼び捨てで呼ぶエミリアにレオナとリナはニッコリ笑う。

「ふふ、エミリア可愛い♪」

「たくっ、呼び捨て位でオドオドし過ぎなんだよ」

「し、仕方ないでしょ! こういうの慣れてないんだから!」

「俺は割と誰でも呼び捨てだったぞ?」

「あんた子供の頃からがさつだったしね」

「やっぱケリ着けるかこの野郎?」

「二人とも止めてよもう!」

 二人を止めながら、エミリアは少し感謝した。

 散々酷いことをした身だ。

 比喩もなく命を奪おうともした。

 本来ならこうして普通に会話している事すら有り得なかった。

 だが二人はその事を気にせず、正体を隠して接触した時と同じ様に接してくれる。

 エミリアにはそれがとてもありがたかった。

「ねぇ、そういえばエミリアって好きな人とかいるの?」

「え?」

 突然振られた会話にエミリアは固まる。

「ほら、あたしにはフランクって最高の夫がいるでしょ? エミリアにもいい人がいるのか気になっちゃって」

「いるわけないでしょ!? 第一友人すら作ってないんだからそんな人なんて」

「でも片想いとかはあるんじゃない? 教えてよエミリア~」

「なあどうなんだよ? さっさと吐いちまえよ?」

 さっきまで言い合いしていた筈なのにもうまた息合わせて質問攻めする二人にエミリアはただただ振り回されるのだった。

「わ、私よりリナは!? リナはいないの?」

「あ? 俺?」

「あ~大丈夫。 リナは察し付いてるしバレバレだから」

「どういうことだよ?」

「教えてあげな~い」

「んだとこら!?」

 またギャアギャア騒ぎ始めた事で話題が逸れてホッとするエミリアだったが、同時に少し気になる事が出来た。

(リナの好きな人って、誰なんだろ? バレバレって言ってたけど)

 エミリアはリナ関連の男性の顔を思い浮かべると、自然とノエルの顔が浮かぶ。

(まさかね。 流石にそんな・・・)

 そう思いつつ、エミリアはもしそうならどうしようと無意識に考えてしまう。 その思考になった理由に気づくこともなく。






 翌日、ノエルは久しぶりにスッキリとした状態で目覚めた。

 あれからキサラを始めとしたエルフから疲労回復の施術を受け、祖父の懐かしい手料理を堪能した。

 フランクやリム達ゴブリンの給仕組と一緒に作られた大量の料理のせいもあり半宴会状態となった。

 リナは大量のケーキを貪り、レオナは久しぶりの夫の料理を満喫していた。

 クロードとギゼルは似たような技術を持っているせいか人形や義手義足の構造や仕組みなど技術談義が始まり、ジャバとラズゴートは豪快に料理を平らげていた。

 カイザルはライルに捕まりいつの間にか飲み比べを始め、そこにラグザやドルジオスといった亜人の長やゴンザ達荒くれも加わった。

 いつの間にかヴォルフ達獣王親衛隊やアルファ達魔甲喜兵団も加わり、当初予定していたより大きさ騒ぎになっていた。

 勿論、ちゃっかりアルゼンも参加し出された料理を大量にその胃袋に詰め込んでいた。

 ラミーアも顔を出し、イトスやノーラと話していた。

 久しぶりに楽しい時間を過ごしたノエルは、その時の余韻を思い出しながら広間へと向かった。

「おう、ノエル」

 広間には既にリナとジャバが陣取っており、リナは大量のホットケーキを、ジャバは肉を朝食で頬張っていた。

「ノエル来た! おはよう!」

「おはようございますリナさん、ジャバさん。 あれ? レオナさん達は?」

「レオナは旦那のとこ。 クロードはこれだ」

 リナが1枚の紙を渡すと、それはクロードの置き手紙だった。

「お前昨日クロードに頼まれた書簡書いただろ? それ持って今朝早くリーティアと行っちまったらしいぞ」

「随分早いですね」

「あいつも色々あんだろ?」

 リナは気にする様子もなく再びホットケーキを食べると、ノエルの後ろからラズゴートが入ってきた。

「カイザルも付いていった様ですな」

「カイザルさんも? なんでまた?」

「さあ? わしらも知らぬ間に消えておったので。 恐らくジークと散歩でもしててたまたま見つけて付いていったのでしょう。 まあ、礼節は弁えておりますから他国で粗相をすることはないでしょう。 おおジャバ! わしにもそれ寄越せ!」

 そう言うとラズゴートは肉を貰いにジャバの方へと歩んでいった。

 ノエルも席に付こうとすると、後ろから駆けてくる足音が聞こえてきた。

「の、ノエル様!」

 血相を変えて走ってくるラグザに、ノエルもただ事ではない事を察した。

「どうしたんですか? 一体何が?」

「そ、それが、セレノアが・・・」

「セレノアがどうしました?」

「セレノアが、滅ぼされた!」

 その報告にリナ達も顔色を変えて立ち上がると、ラシータとキサラも駆け込んできた。

「ラバトゥから緊急通信! 国を囲う城壁が魔族を名乗る軍勢に破られたと!」

「ルシスも魔族から侵攻を受けたと知らせがありました!」

 3つの大国の緊急の知らせに驚く中、ラミーアが舌打ちしながら現れた。

「あの馬鹿、とうとうおっ始めたか」

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