旧五魔の会合
「ヒャハハハハ! 久しぶりだなトカゲジジィ! 石ころになってたくせに随分早い到着じゃねぇか!?」
挑発する様に笑うデスサイズの姿を、バハムートは静かに見つめた。
「デスサイズか。 お主は随分変わったもんだのぅ。 昔はもう少し肉付きがよかった気がするが?」
「相変わらず口の減らねぇジジィだな。 安心したぜ、ムカつくジジィのままでよ」
デスサイズは言葉とは裏腹にどこか嬉しそうだった。
「まあ、ある意味お主以上に変わったのは、お主だがなディアブロ」
バハムートは静かだがどこか威圧感のある目でディアブロを見つめると、チラリとタナトスを見る。
「わしの知っているお主は冥府の王と組む様な男ではなかったがな」
「随分僕の事嫌ってるみたいだねバハムート。 ちゃんと君のお仲間はあっちで管理してるよ?」
軽く言うタナトスをバハムートは鋭く睨み付けた。
その殺気にタナトスは一筋汗を垂らす。
「へぇ、流石に竜の神様だね。 恐ろしい恐ろしい」
「止めろタナトス」
タナトスを諌めると、ディアブロはバハムートを見下ろした。
「こいつは気に入らないが役に立つ。 余の大望には必要な存在だ」
「え? ちょっとなんで僕一人だけ悪者扱い?」
拗ねるタナトスを無視しディアブロは続ける。
「それで、貴様はなぜここに来た? よもや余を邪魔する気か?」
「それも考えてはいたが、そうもいかん様だ」
バハムートはため息を吐くと少し複雑そうな表情を見せる。
「同胞の為、わしもあの力が必要でな。 その力の恩恵を受けられるなら、お主に力を貸そう」
「そうか」
そう答えるとディアブロは小さく口角を上げる。
「では、早速会うとするか。 我らが魔女の成の果てに」
ディアブロ達は既に操っているミューの第六部隊に結界の一部を開けさせると、最初に魔族の兵を二人進ませた。
するとすぐにその二人は黒い帯に貫かれ、ミイラへと姿を変える。
「ッ!? 何をしておる!?」
「奴等はまだ300年程度しか生きていない新兵だが、それでも二人で600年分になる。 それだけの情報を吸い取り処理するのは多少時間がかかる筈だ。 その間なら我らが進んでも襲われる可能性は低い。 一々払いながら進むのは面倒だからな」
「その様な理由で同胞を!?」
「止めとけジジィ。 今はこいつに従っとけ」
ディアブロの行為に憤るバハムートだったが、デスサイズがそれを宥める。
かつて争いを煽る存在だったデスサイズの宥めに何かを感じ、バハムートは納得していなかったが従うことにする。
「さて人間。 貴様も来い」
「え? 俺もですか?」
「貴様は将軍だったのだろう? だったらこの町や城に詳しい筈だ。 案内しろ」
ディアブロに指示され、ベルスは結界の中へと足を踏み入れる。
幸い、ディアブロの読み通り黒い帯は襲ってこなかった。
それに続きディアブロ、バハムート、デスサイズ、タナトスの四人も進み出す。
「そういやウォッキーはどうしたんだよジジィ?」
「生きておる。 が、正気ではない。 解き放てばその暴威を振う化け物と化すじゃろう」
「へっ、なにもなしで今も生きてるたぁ、巨人ってのは随分長生きだな。 ま、それよか長生きなジジィ共ばかりだけどな」
「君も人の事言えないよデスサイズ。 さっさと死んでくれれば僕が有効活用してあげるのに」
「その前にてめぇを殺してやるよクソガキ」
「いい加減にしろ。 着いたぞ」
ディアブロ達の前に建つアルビア城は所々破壊されているが、まだその姿を保っていた。
「じゃあ、このまま地下に・・・」
「いや、玉座に向かえ」
「え? でもあの怪物は地下に・・・」
「2度も言わせるな」
ディアブロの命じられ、ベルスはそのまま玉座の間へと皆を案内した。
そして玉座の間へと入るとディアブロの言う通り、杖を片手に玉座で瞑想する様に座る中性的な少年、ラミーアの魔力がそこにいた。
「余の土産は気に入ったかラミーア?」
ディアブロが臆することなく声をかけると、ラミーアの魔力は静かに目を開けた。
「足りない。 貴様らも我が糧に」
ラミーアの魔力は黒い帯をディアブロ達に伸ばす。
だがディアブロ達はそれを簡単に弾き返してしまう。
「長い封印で余達を忘れたか? まあ、不純物もいるから仕方ないか」
「なんかさっきから僕に酷くない?」
「自覚があるのはいいことだ」
文句を言うタナトスを流すディアブロを見ながら、ラミーアの魔力は何かに気付く。
「そうか。 貴様らは私の元の宿主の元にいた奴等か」
「その通りだラミーア。 いや、ラミーアの魔力に宿った意思と言うべきか?」
「私の事も気付いていたか。 ディアブロはそこまで勘が良くなかったと記憶していたが、それだけ時が流れたということか」
「そうだ。 今は魔界の魔王としてここに来た」
ディアブロは改めてラミーアの魔力と向き直る。
「ラミーアの魔力よ。 我らと契約しろ。 貴様の魔力の一部を我らの為に使わせてもらう。 無論、見返りもやろう」
「見返り?」
「そうだ。 我らに従えば安定した贄をくれてやる。 手始めに知恵の回りそうな贄を一人用意した」
ディアブロの言葉の意味を察したベルスは瞬時に曲刀をディアブロの首めがけて抜いた。
だが刃はディアブロの皮膚すら傷付けられず折れた。
「マジかよ・・・」
「やはり、従うと言うのは嘘だったか」
「いつから気付いてた?」
「最初からだ。 上手く装っていたが、あの余が殺した男の屍を見た時感情が揺らいでいたぞ」
「はっ、俺ってリーバスのおっさん意外と気に入ってたのかな!?」
ベルスは折れた曲刀で再びディアブロに斬りかかる。
だがその刃は届かず、その体を黒い帯が貫いた。
「ほんと、柄じゃねぇこと、するもんじゃ・・・があああああああ!?」
ベルスは体の情報を吸いとられ、ミイラとなり体が崩れ落ちた。
「ありゃりゃ、折角連れてきたのに裏切るなんてバカだね~」
「最初からわかってて連れてきたのだろうが」
「あ、バレてた? だって余裕なふりして必死なのが滑稽だったからついね。 ま、君なら問題ないでしょ?」
邪悪な笑みを浮かべるタナトスとこれ以上話すのは無駄と思ったディアブロはラミーアの魔力に問いかける。
「どうだ? こうして生け贄を月に100人貴様に届けよう」
「足りないな。 少なくとも1000は用意しろ」
「1000人だと!?」
「いいだろう。 くれてやる」
「正気かディアブロ!? その様な数を生け贄に!?」
「それが貴様の同胞の為にもなる。 それに、人間を贄にするなら貴様の同胞の溜飲も下がると思うが?」
バハムートは「ぐっ」と唸るが、それ以上反論せずに下がった。
「というわけだ。 文句はあるまい?」
「いいだろう。 ただし、もし怠れば貴様が私の糧になるぞ」
「交渉成立だな。 ではこれから頼むぞ、ラミーアの魔力・・・いや、もはやそう呼ぶのも無粋か。 なんと呼べばいい?」
ラミーアの魔力は少し考え、口を開いた。
「私はラミーアと似て非なる者。 コインの表と裏の様な存在だ。 故に、これからはアーミラと名乗ろう」
「ではアーミラ。 待っていろ。 すぐに贄を連れてきてやる」
ディアブロはバハムート達に向き直る。
「聞いての通りだ。 これより我らは地上を手に入れる。 準備が出来次第四天王を使い各国を襲撃する。 貴様らもそれぞれと共に行動してもらう」
「漸くだね。 いいコレクションが集まりそうだよ」
「ヒャハハハハ! またエルフの所に行かせろ! 連中の血は乾きによく効くんでな!」
「それとバハムート。 ジャバウォックを余に渡せ」
「!? なんじゃと!? まさか封印を!?」
「封印は解かん。 だが、奴の存在は使える。 有効活用しなくてはな」
かつての仲間を理由するという発言に、バハムートはディアブロの変化をより強く実感した。
だが今の同胞の事を考えるとディアブロと共に動くのが最良と判断し、校口にするのが精一杯だった。
「ウォッキーまで使うか。 本気で世界と戦争をする気か?」
「戦争ではない。 蹂躙だ」
そう言い放つと、ディアブロはその場を後にしバハムート達もそれに続いた。
今、魔の者達による本当の蹂躙が始まろうとしていた。




