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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
213/360

守護者対魔王


 魔甲機兵団第六部隊隊長であるミューの特技は結界術。

 その為基本は後方支援が主な役割となり、他のメンバーの様に前線で戦うことは滅多にない。

 だがそれは、弱いということと同義ではない。

 ミューは、やり方によっては魔甲機兵団最強のオメガすら瞬殺しかねない能力を持っている。

 それを今、最大の敵を前に解放したのだ。

 ディアブロはミューを意識しながら斬られた部下の断面に視線を向ける。

(傷が綺麗過ぎる。 刃物はまずないな。 かといって熱線にしては焦げすらない。 面白いな)

 ディアブロは周囲の兵士達に目を向ける。

「何をしている? このまま座して死ぬ気か?」

 動けずにいた魔族の兵士達はその一言で目の色を変えた。

 このままなにもしなければ魔王直々に処分される。

 そう感じた兵士達は必死の形相でミューに突撃していった。

「無駄ですよ」

 ミューの言葉の後、次々と兵士達はバラバラに斬り裂かれていく。

 兵士達は攻撃の気配に気付く事すら出来ず無慈悲にその命を散らしていく。

(ふむ。 これなら上級兵も瞬殺されかねんな)

 ディアブロはその様子を、時折来る自分への攻撃を避けながら観察する。

 そして、いきなり宙のなにかを指でつまんだ。

「なるほど。 これが正体か」

 最後の兵士を斬り裂いたミューは顔をしかめる。

「貴様の力、それは結界術を攻撃に転用した物か。 そして、これがその媒体となっていると」

 ディアブロの指には、常人の目では見えないほど極小の装置がつままれていた。

 それはナノマシンと呼ばれるミューの結界補助装置。

 このナノマシンを幾つも周囲にばら蒔くことでどこにでも結界を出現させられるミューは、対象を巻き込む形で結界を張ることでその対象を斬り裂く事が出来る。

 初見では回避は不可能。

 万一仕掛けがわかっても極小のナノマシンを見付けることは常人には不可能な為、防ぐことは出来ない。

 勿論、これは防御にも使える為死角はない。

 まさに攻守に長けたミューの無敵の能力だった。

 ディアブロは感心した様にそのナノマシンを見詰めた。

「まさか地上の技術がここまで進んでいるとは。 この技術者、是非配下に加えたい程だ」

「我が主は貴方の様な部下を犠牲にする者とは組みません」

「気付いていて倒す貴様も人の事を言えんと思うがな。 だが、貴様自身も誇っていい。 あの巨大な結界を維持しつつここまでの攻撃を繰り出せる者など、魔界ですら何人いることか。 少なくとも、結界術という点では貴様に敵う者はほぼいない。 まさに最強の矛にも盾にもなる優れた力だ。 もっとも、負担もその分大きいだろうがな」

 ミューは現在ラミーアの魔力を封じる巨大結界を産み出している。

 リーバスが死ぬまで戦闘に参加しなかったのも、その負担があったからだ。

 更に今は他の拠点が占拠された為、その負担も倍増している。

 そこをディアブロに見抜かれ、ミューは警戒を強める。

「随分いい目をお持ちの様ですね。 なら私も1つ聞いていいですか?」

「良かろう。 見事な術の褒美だ。 なんでも聞くといい」

「貴方達はあの魔力の怪物をどうするつもりですか?」

「貴様はこの世の魔力が減ってきていることは知っているか?」

「ええ。 我が主が何度も観測して出した答えです」

「なら話が早い。 我ら魔族にとって魔力とは生命の源言える存在だ。 食料の少ない地下の魔界で、魔力こそ我ら魔族の生きる糧なのだ。 その魔力が減ればどうなるか、言わずともわかるだろう?」

 糧と言える魔力が無くなる。

 それは魔族の滅亡を意味する。

 代わりの糧を得るにもマグマの川が流れ、深い地下にある魔界でそれを産み出すのは不可能に近かった。

「それで、あの怪物を利用しようと?」

「そういうことだ。 あれは質を問わず量さえ与えれば無尽蔵に魔力を産み出す。 あれさえあれば我らは半永久的に糧を得ることが出来るのだ」

「その為に犠牲者が出ることもわかっていると?」

「小さな犠牲で魔界全土が救われるのだ。 やむ終えないだろう。 ついでに地上も支配下に置き、魔力以外の糧も得られる様にすれば犠牲も更に少なくなる。 そうなれば、貴様ら地上の民も我らの恩恵を受けることが出来る」

 そこまで話すと、ディアブロはミューに手を差し出した。

「見た所貴様の体は鉄か何かで出来ている様だな。 寿命も人より永いだろう。 貴様の結界術はあれの管理に役立つ。 余の軍門に下りその力を役立てないか? そうすれば厚遇を約束しよう」

 ディアブロの勧誘に、ミューはニヤリと笑った。

「魔王直々のお褒めの言葉、光栄ですね。 ですが、我が主はギゼル様のみ! 己の利のみで敵に下る者など、魔甲機兵団には一人もいない!」

 瞬間、ディアブロの体を幾つもの結界の刃が巻き込んだ。

 ディアブロと話す間に避ける事が出来ない様ナノマシンを配置し、そこから幾つもの結界を発生させたのだ。

 ディアブロの体は幾つもの結界により断裂した様に見え、ミューは漸く安堵の表情を浮かべる。

「惜しいな。 貴様の様な者ほど配下に適しているというのに」

 ミューは驚きディアブロを見ると、ディアブロを断裂した筈の結界がひび割れ、そして粉々に砕け散った。

「馬鹿な!? 私の結界が!?」

「言い忘れていたが、余の肉体は強靭でな。 それこそ最強の矛にも盾にもなる程の優れものだ。 あの怪物を封じ込められたからと言って、余がそれより弱いと思ったか?」

 ディアブロは一歩踏み出すと、そのままゆっくりミューに歩み始める。

「仕方ない。 貴様はあれを管理する為の装置になってもらおう。 安心しろ。 死んでしまっては意味がないから生かしておいてやる」

 対峙してよくわかった。

 この魔王はリナ達五魔、そしてエミリア達聖五騎士団よりも強い。

 それも圧倒的に。

 このままでは確実にやられる。

 そうなればギゼルを始め、多くの者がこの魔王の犠牲になる。

 それだけはなんとしても避けないと。

 ミューは覚悟を決め、ディアブロに特攻を仕掛ける。

(こうなれば、自爆して奴を道連れにする。 倒せなくとも結界が消えあの怪物が暴走すれば、魔族の軍勢に大きな打撃を与えられる。 これは賭けだけど、このまま利用されるよりはいい)

 ミューは同胞達がした様に自分の自爆装置を起動させ様とする。

 全ては自分の大事な者達の為に。

(申し訳ありませんギゼル様。 貴方に新たな悲しみを背負わせる事、お許しください!)

 ミューは自分とディアブロの周りに結界を展開させ爆発の威力を閉じ込め様とする。

「魔王! 覚・・・ッ!?」

 爆発させようとした瞬間、ミューの胸をディアブロの腕が貫いた。

 その手にはミューの自爆装置が握られていた。

「やはりな。 貴様の様な者ならこのくらいすると思った。 実にいい忠義心だ」

 ディアブロは腕を引き抜くと結界を破壊し、自爆装置を宙に投げ捨てる。

 装置は空中で大きく爆発し、ミューはその場に崩れ落ちた。

「ひ、ひぎゃあああああ!!?」

 ここまで完全に腰を抜かし蚊帳の外だったグリムは、恐怖でその場から逃げ出した。

 ディアブロはそれを一瞥するが、興味はないと言う様に見逃した。

「あれ~? 殺さないの?」

 気安く声をかけられ振り向くと、そこにグレーの短い髪に紫の瞳を持つ美しい少年だった。

「タナトスか。 なんの用だ?」

「つれないね~。 同盟関係なんだからもう少し愛想よくしてよ」

「貴様はキュラミスの所にいたのではないのか?」

「あっちはとっくに終わっちゃったよ。 それより、なんであいつ逃がしたのかな?」

「この事を外に広める必要があるからな。 奴の恐怖の言を聞けば、我らになびく者も増えるだろう」

「なびくね~。 こいつみたいに?」

 タナトスが指を鳴らすと、ミューの部隊を護衛していた筈の第四部隊隊長ベルスが姿を現れた。

「貴様は?」

「いや~魔王様初めまして。 俺はベルスという、この国で将軍をしていた者です」

 ディアブロを前にいつもの調子を崩さないベルスに、ディアブロは気分を害す様子もなく話を聞いた。

「地上の将軍というのなら、何故余に下る? 貴様の同胞は最期まで戦い骸になったぞ?」

「あ~リーバスのおっさんね」

 ベルスは下半身だけになったリーバスの死体を一瞥するとすぐディアブロに視線を戻す。

「あんな古臭くて煩いのと一緒にしないで下さいよ。 俺は自分が死ぬってわかってて戦い続けるなんて事はしないんですよ。 有利な方に付いて長生きする。 死んだらおしまいですしね。 俺なら今の地上の各国の情勢とか力関係、主力の情報とかお渡し出来ますし、使ってみませんか?」

 死んだリーバスに対し敬意も何もない言葉を吐くベルスに、ディアブロは少しだけ思考を巡らせる。

「いいだろう。 せいぜい役に立て」

「感謝します。 魔王陛下」

「おいおい、随分うさんくせぇ奴とつるんでるじゃねぇか」

 瞬間、ベルスの背後から首筋に骨で出来た刃が当てられる。

「止めろデスサイズ」

「はっ、これ以上うさんくせぇのが増えると面倒そうだから減らしてやろうとしただけだよ」

「それは僕の事かな、デスサイズ?」

「よくわかってんじゃねぇか、迷王さんよ」

「僕は冥王だよ。 その空っぽの頭に叩き込んでおいて」

「言うじゃねぇか。 死体相手しかしてねぇくせによ」

「いい加減にしろ」

 睨み合う二人は、ディアブロの一喝で殺気を消した。

 デスサイズは舌打ちしながら刃を消し、タナトスはベーと舌を出した。

「デスサイズ、あっちはどうした?」

「今ベアードのジジィが生け捕りにした結界張ってた連中に魔眼をかけてる。 そこに転がってる女もかければ、結界は問題ねぇだろ」

「そうか。 よくやった」

「え~僕には労いの言葉ないの~?」

「黙ってろクソガキ。 それと、もう一人懐かしいジジィが来やがったぜ」

 デスサイズが親指で指すと、古びたローブを着た老人が近付いてきた。

 老人はフードを取ると、白い長い髭を触りながらディアブロと向き合う。

「久しいな、ディアブロ」

 しゃがれながら芯のある声でそう呼ぶ老人に、ディアブロは小さく口角をあげた。

「漸く目覚めたか、バハムート」 

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