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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
212/360

魔族強襲


 少し時は遡り、ノエル達がラミーアとルシフェルと出会う前、聖都イグノラ近郊のでミューは結界の状態を確認していた。

「調子は如何かミュー殿?」

「問題ありません。 リーバス殿こそ、護衛の任お疲れ様です」

「なんの! ある意味ここが最前線! そんな重要な場所の守護を命じられるのは名誉あることよ!」

 アルビア第五部隊隊長リーバスは豪快に笑って見せた。

 現在聖都イグノラを中心にミューの魔甲機兵団第六部隊は五芒星の形に展開していた。

 これはミューを起点に各部隊から結界術を施すことでその効果を最大限に高める陣形だった。

 そして今、各部隊の拠点に同盟を組んだ各勢力の護衛が付いている。

 結界の要であるミューにいるリーバスの第五部隊を筆頭に、ベルスの第四部隊、ラバトゥの戦士団、プラネのゴブリン兵団、そしてルシスの魔法騎士団と精鋭が揃っていた。

 特にルシスの部隊には選ばれしエルフ騎士(ナイツ)の一人、ヴェルク・サーヴァンが加わっていた。

 エルフ騎士(ナイツ)はプラネの五魔、アルビアの聖五騎士最高幹部、ラバトゥの八武衆に相当するルシスに相当するルシス最強の10人。

 特にヴェルクは風の魔術の使い手で、攻防から索敵までこなす万能の騎士だ。

 その最高戦力をマークスは送ってきた。

 これは自身の最後の砦とも言える戦力の一人を派遣することで、裏切る事を懸念するだろう各勢力の知恵者にそれはないと知らせる為のマークスの配慮でもあった。

「しかし、この状況歯痒くもあるが各勢力が団結し集結しているのは不覚にも少し興奮するな。 っと失礼。 貴殿の事も考えず・・・」

「いえ、構いませんよ。 彼らの奮闘がこの同盟の礎になったと思えば、私も少し心が軽くなります」

 ミューにとってここは多くの同志が散った場所だ。

 その場所で結界を張り続けるのは本来かなり辛い筈だった。

 だがミューは気丈に役目を果たす為、この場に残り続けた。

 それが亡き同胞達への手向けになると信じて。

「だが実際どう思う? これだけの戦力がいるのに攻めてくる者がいると思うか?」

「マークス様はその抑止の為にヴェルク殿を派遣なさったのでしょう。 本当抜け目がありません」

「賢王健在か。 同盟が続く限りは頼もしいことだ。 ん?」

 リーバスが意識を向けると、疲れた様子の眼鏡をかけた男が一人近寄ってきた。

「リーバス将軍。 言われた物資運び終わりました」

「うむ。 ご苦労。 暫く休んでいろグリム」

「はい。 わかりました」

 そう言うとグリムは近くの木陰にぐったりと座り込んだ。

「しかし、リーバス将軍も思いきったことしますね。 犯罪者を部下にするなんて」

「あの混乱を生き残った奴だ。 捨て置くのは勿体無いだろう」

 このグリム、ノエルとリナが出会った田舎町ノットでチンピラを集めて悪さをしていた男である。

 賞金目当てでノエルを襲撃したがリナに返り討ちに合い一味は全滅。

 その後憲兵に捕まり生け贄にされる為にイグノラに連れてこられていた。

 だがグリムの番になる前に生け贄は十分な数となり、運良く生き延び牢屋の中でそのまま放置されていた。

 そして例の怪物が復活した騒ぎで牢屋が崩壊。

 他の囚人達が喰われていく中命からがら逃げ延びた所をミューの第六部隊に保護されていた。

 リーバスはそんなグリムを使えると判断し自分の部隊に半ば強引に加えて雑用をさせていたのだ。

 グリムも嫌々ながらまた犯罪者として捕らえられるよりはマシだと承諾したが、今はその雑用の多さに後悔していた。

「ではミュー殿。 俺は部下の様子を見てくる」

「ええ。 リーバス殿もお気をつけて・・・ッ!?」

 ミューは何かの気配を察知し、リーバスもそれに呼応する様に腰に巻いた鎖に手をかけた。

「何者だ?」

 リーバスが気配の方に声をかけると、見慣れない兵が何人も現れ周囲を取り囲む。

 しかもその兵達は人間とは違う異様な容姿をしていた。

「なっ! なんだこいつらは!? 亜人か!?」

 休んでいたグリムは慌ててリーバスの近くに逃げていく。

「亜人? あんな棄民と一緒にするとは、地上の住民は余程無知の様だな」 

「地上だと?」

「その通り! 我らは魔界の王、魔王ディアブロ様が率いる誉れ高き魔族の軍勢! この地とラミーアは我らが貰い受ける!」

 ハ虫類の様な頭の魔族が言い放つと、リーバスは不遜に言い返す。

「それは奇遇だな。 此方にもディアブロの名を持つ者がいてな。 まあそいつは女だが、貴様らの様な下品なツラはしていなかったな」

「ふん! 随分と強気な奴だ! だがすぐに口も利けなくなる! こいつらの様にな!」

 ハ虫類の魔族が投げ寄越したものを見てリーバスは目を見開き、グリムは悲鳴をあげた。

 それはリーバスの部下である第五部隊の兵士の首だった。

「貴様ら、あいつらをどうした?」

「歯向かう者には死を。 当然の報いだろう?」

ニヤニヤ笑うハ虫類の魔族に対し、リーバスは冷静にその首を見ていた。

「そうか。 最期まで戦ったか」

 リーバスは亡き部下達を静かに労うと、その目をカッと見開いた。

「グリム!」

「は、はい!」

「今から貴様は俺の副官だ! 生き延びて甘い汁を吸いたければ、死ぬ気で戦え!」

「・・・ああもう! なんでこんな事に巻き込まれてるんだ私は!?」

 リーバスの飴を含んだ激に、グリムも半ばヤケ気味ではあるが覚悟を決め立ち上がり戦闘体勢を取る。

「ミュー殿! ここは俺が引き受ける! 貴殿は結界に集中してくれ!」

「御武運を」

 ミューが1歩下がると、ハ虫類の魔族はまた笑い始める。

「ヘヒャヒャヒャヒャ! バカな奴らめ! 貴様らの脆弱な地上の住民ごときが俺達に敵うとでもッ?!」

 瞬間、ハ虫類の魔族の頭が吹き飛んだ。

 ハ虫類の魔族の頭があった場所には鎖が伸び、その先には人の頭位の大きさの鉄球があった。

 リーバスは鉄球を引き寄せると反対側の鎖を投げた。

 そこには斧の刃が付いており、鎖を大蛇の様にうねらせながら魔族の兵達の首を跳ねていく。

 豪快な破壊力と繊細な鎖捌きこそ、リーバスの真骨頂だった。

「これでも五魔やラズゴート殿とあの大戦を生き残った身だ。 魔界だかなんだか知らんが、地上を舐めるのもいい加減にしろ!」

 リーバスは再び鎖を操り、鉄球と斧で魔族の兵に襲い掛かった。






「やれやれ、まさか本当に敵さんがくるとはねぇ」

 面倒そうににながら、第四部隊隊長ベルスは愛刀である曲刀で魔族の兵士を斬り裂いていく。

 やる気が無さそうに見えながらその実、無駄な動きも力もなく流れる様な動きで魔族の兵を翻弄していた。

「これでも一応将軍なんでね。 それに怠けるとリーバスのおっさんがうるさいんでね、ちょっとは真面目にやらせてもらうよ?」

 細い目で鋭く睨むとまた一人、魔族の兵士が真っ二つにされた。






「やはり陛下の予測は当たっていたか」

 エルフ騎士(ナイツ)ヴェルク・サーヴァンは周囲に風の刃を展開させ腕を振る事に魔族の兵士達を細切れにしていく。

 更に風の盾を駆使し自身と部下の兵達を守り敵の攻撃を寄せ付けない。

 攻防一体の技を駆使し、ヴェルクは人間より数段強い肉体を持つ魔族相手に兵達を統率しながら余裕の様子で状況を分析する。

「まさか本当に魔族が来るとは、陛下の慧眼は相変わらず恐ろしい。 だが、この程度なら兵達と連携すれば・・・ん?」

 ヴェルクが意識を向けると、部下の魔法騎士達が苦しみながら倒れていく。

「馬鹿な!? 私の風の防御をすり抜けるなど!?」

「ふむ。 なるほどなるほど。 棄民の末裔にしてはなかなかやるようですね」

 ヴェルクが声の方を向くと、白を基調とした貴族風の服を着た細身の男が優雅に歩いてくる。

「貴様何者だ!? 私の部下に何を!?」

「いっぺんに質問するとは礼儀がなってませんね。 まあいいでしょう。 私は災厄のベルフェゴール。 偉大なる魔王ディアブロ陛下の元に集いし四天王に名を連ねる者です」

「ディアブロ・・・かつての五魔か」

「おや、仮にも賢王とやらに仕えているだけはありますね」

 相手の正体を知ったヴェルクは風を纏い構える。

「貴様が何者であろうと関係ない! 敵の主戦力の一人ならこの場で排除する!」

「綺麗な見た目の割りに血気盛んですね。 ですが、残念な事にあなたの相手は私ではないのですよ」

「なに?」

「ヒャハハハハ!」

 愉快そうな笑い声をあげながらヴェルクの視界に飛び込んできたのは、邪悪な笑みを浮かべた赤銅色の骸骨だった。

「あなたは運がいい。 かつての陛下の同胞、デスサイズ様の相手が出来るのですからね」






 リーバスが魔族の兵達相手に奮戦する中、グリムも必死に戦っていた。

 産み出した雷を固めてダーツの様に投げていく。

 雷の速度で飛んでいくダーツは魔族ですらかわしきれず、次々と撃ち抜かれていく。

「なかなかやるじゃないか! 俺の目に狂いはなかったって訳だ!」

「私は本当は頭脳労働タイプなんですからね! 副官の件忘れないでくださいよ!」

「おう! たっぷりこき使って・・・ん?」

 リーバスは魔族の兵達の空気が変わるのを感じ攻撃を一旦止めた。

 すると兵達はいきなりその場に跪いた。

「まだ少しは出来る者が地上にもいたか」

 瞬間、リーバスは戦慄する。

 目の前に現れたのは人間の青年の様な姿の魔族だった。

 角を除けばほぼ人と変わらぬ姿なのに対し、そこから漏れるプレッシャーは幾つも死線を潜り抜けたリーバスですら圧倒する程だった。

「貴殿の名を、聞かせてもらおうか?」

 リーバスの言葉に、魔族の青年は反応する。

「余はディアブロ。 魔界の魔王、ディアブロだ」

 その名を聞き、リーバスやミュー達は驚きと共に納得した。


 これが本物の魔族かと。


 特にグリムの狼狽ぶりは凄かった。

 脂汗をかき、今にもその場から逃げ出したい衝動に駆られていた。

 グリムはかつてリナと戦ったことがある。

 軽くあしらわれる程度だったが、それでも五魔の魔王ディアブロの片鱗見て化け物と思った。

 だが今その認識は変わった。


 リナは人間だ。


 本物の化け物は目の前の魔王を名乗るこの魔族の青年なのだと。

 リナと戦った事があるからこそ、その恐ろしさがより理解できてしまったのだ。

 そんなグリムをチラリと見ると、リーバスは小さく息を吐く。

「貴殿が魔界の王か。 こうして会えたことは光栄だが、侵略行為を続けると言うのなら排除させてもらう」

「ほぉ、余を前にしてその様な台詞を吐けるとは。 肝は座っている様だな」

「生憎、俺も魔王と共に戦った身なのでな。 今更新しい魔王が出ようと関係ない」

「嘘だな。 貴様は今恐怖している。 だが、見た所多少は使えそうだ。 降伏するのであれば配下の末席に加えることも考えてやらんでもない」

「笑わせる! 魔族だろうがなんだろうが、簡単に俺達が負けると思うか!」

「ああ。 なにせ、“最下級”の兵ごときで全滅する程度の者達だからな」

「なっ!?」

 自分の部下を全滅させたのが兵として最もしたの魔族達と知り驚くリーバスをよそに、ディアブロは何かと話始めた。






 第六部隊の拠点の1つで、顎に短めの髭を蓄えた片眼鏡の老紳士が一人佇んでいる。

 老紳士は何かを飛ばす様に意識を集中し穏やかな声で語りかける。

「ミスターディアブロ。 聞こえますかな?」

『ベアードか。 首尾はどうだ?』

「ええ、正直驚いていますよ。 まさか最弱のゴブリンが連携を取って我が軍の兵を倒すとは」

『なるほど。 やはり認識を改める必要がありそうだな』

「その様ですな。 もっとも、私達四天王が出れば意味はないですがな」

 ベアードの背後には、その場を警備していたゴブリン達の屍だった。

 コキュートやアルビア軍とも戦い抜いた精鋭のゴブリン達が、このベアードという老紳士一人相手に傷1つ、いや、汚す事すら出来ず無惨なに殺されたのだ。

「そうそう。 ヒュペリオスとキュラミスも制圧が完了したようです」

『そうか。 ベルフェゴールはどうした?』

「ご想像の通りかと」

『デスサイズか』

「ええ。 あそこの者共は運が悪かった様ですな」






 骸骨は新しい朱に染まっていた。

 デスサイズは口を開け赤い液体を流し込んでいる。

 その手に持つのは、ヴェルクの首だった。

 その表情はエルフ騎士(ナイツ)としての面影を無くし、恐怖に歪んでいた。

 ヴェルクの血はがらんどうのデスサイズの体を流れ落ち全身を赤く染め直す。

 そう。

 デスサイズの赤銅色の体は、今まで殺してきた者の血で染まった色だった。

「やれやれ、相変わらずですねデスサイズ様」

 その様子に呆れるベルフェゴールを一瞥するとデスサイズはヴェルクの首を捨てた。

「乾くな。 まだ足りねぇ」

「これ以上は止めてくださいよ? 結界を張る者は生け捕りにしろとの魔王様からのご命令です」

「ちっ。 しかたねぇな。 次もエルフがいいな。 よく効きやがる」

 邪悪な笑みを浮かべ次の殺戮を想像するデスサイズに、ベルフェゴールは辟易としながら報告をした。






「どうやら他は我々の手に落ちた様だ。 降伏する気になったか?」

 それは絶望的な言葉だった。

 敵の力は強大で援軍も最早望めない。

 各勢力の強者達が集まったにも関わらず、自分達は魔族の軍の前では無力に等しかった。

 それでも、リーバスは吠えた。

「笑止! 俺は誇り高きアルビアの将軍! この程度で降伏する程柔ではないわ! それに旗色が悪くなったからと敵に寝返っては、最期まで戦った部下達にあの世で殺されるしな!」

 リーバスは一瞬ミューに目配せすると、ミューは頷いた。

「行くぞ魔王! アルビアの将軍の生き様、見よや!!」

 リーバスは鉄球の付いた方の鎖を投げると自分も突進する。

 鎖はディアブロの顔の横をすり抜けるとその体に巻き付く。

 リーバスはその頭に向かい直接斧の刃を降り下ろした。

 ガキンという金属音と共に炸裂した斧だったが、それは粉々に砕け散った。

「ぐっ!?」

「愚かな」

 ディアブロは鎖を千切ると、リーバスの目の前に手をかざした。

 瞬間、リーバスの上半身はこの世から消し飛んだ。

 ディアブロが軽く放った魔力に飲み込まれ、残った下半身が静かに地面へと落ちていった。

 だが、ディアブロはすぐにその場をを飛び退いた。

 するとディアブロの近くにいた魔族の兵達がバラバラに斬り裂かれた。

「自らを囮にしたか」

 ディアブロが視線を向けると、フードを取り素顔を露にしたミューの姿があった。

「魔界の魔王ディアブロ。 ここからは魔甲機兵団第六部隊隊長、ミューがお相手致します」

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