ラミーアの旅路
幻の空間の中、1年は一瞬にして過ぎ去り初代アルビア王は彼の予見通り父が他界したことにより領主になった。
領主となった初代アルビア王は隣の領地のオブロを攻めその領地をすぐ自分の物とし、その勢いのまま他の隣接する領地と同様に自身の領地にした。
そして1領地に過ぎなかったアルビアを正式に国とし、初代アルビア王を名乗り当時の王への宣戦布告を宣言した。
無論、その影にはラミーアの姿もあった。
ラミーアは初代アルビア王に招かれてからほぼ彼の書庫にいた。
初代アルビア王の父が病弱の為集めた壁一面の本はまさにラミーアにとって天国の様な場所だった。
ラミーアはそこで得られる全ての知識を吸収し、そしてそれを初代アルビア王の為に活かした。
農地の開拓や治水、そして他の領地の有力者の調略までこなし十分な食料と他領地の有能な人材を手に入れた。
実際オブロの領地を手に入れた時もオブロの腹心であるマルコを引き込んだ事が決め手となり、予想よりも遥かに早く少ない損害で戦いを終わらせた。
そして、初代アルビア王とラミーアが出会ってから3年が過ぎようとしていた。
『旅に出る?』
『はい。 本による知識は最早不用です。 ここからは自分の足で歩き、様々な人に出会い経験を積みたいと思います』
初代アルビア王は仕事の手を止めラミーアと向き直る。
『それは、アルビアの為か?』
『そうですね。 後あたし自身の為です』
あっけらかんとした答えに初代アルビア王は苦笑する。
『相変わらず自分の欲求に正直な奴だ。 まあ、そこがお前の魅力だが』
『ありがとうございます。 でも、実はもう1つ理由があるんです』
『・・・例の魔力増幅か?』
アルビア王の目付きが真剣な物に変わった。
ラミーアの魔力増幅に気付いたのは1年半前。
最初はただのほんの小さな揺らぎ程度の錯覚だと思える程僅かだったが、それは日に日に増大していった。
原因がわかるのもすぐだった。
ラミーアが新しい知識を得る度にその魔力は強くなる。
質を問わず、とにかく知識を得る度に無尽蔵に魔力は増えていく。
当時は現在に比べ魔力量が多い者は多くいたが、それでも魔力が増えるなどあり得ない事だった。
無論、その増えた魔力はラミーア自身を強化し結果として初代アルビア王を助ける事になった。
だが、それでも不安な面もある。
このまま増え続けて本当に大丈夫なのか?
そもそもラミーア自身がいつまでその魔力に耐えられるのか?
当時はまだなにもわからなかった。
そんな状態のラミーアを放置するのは、色んな意味で危険だった。
『今の陛下の勢力なら、彼方も迂闊に手を出すことは出来ないでしょう。 その間に私はこの力を知る旅をする必要があるのです』
領土も人材も増えた今のアルビアに、いきなり全面戦争を仕掛けるほど今の王は愚かではない。
小規模な衝突や策謀による攻撃はあるにしても、そう簡単には全軍で攻め寄せたりはしないだろう。
加えて、今のラミーアなら一人で旅をさせても問題はないだろう。
だがそれでも、初代アルビア王はまだ複雑な表情を浮かべていた。
『陛下』
ラミーアは初代アルビア王に近付くと、その頬にキスをした。
『心配してくださるのは嬉しいですけど、私なら大丈夫です。 それに、私も知りたいのです。 本だけでなく実際に見て聞いて出会って、本物の知識を得たいのです』
子供を宥める様に、更にラミーア自身の望みの強さを話され初代アルビア王は折れるしかなかった。
『わかった。 だがちゃんと戻ってこい。 俺が国を統一した後もお前の力は必要なのだからな』
『はい、陛下』
ラミーアは微笑み、初代アルビア王も同様に暖かく笑った。
「なあ、あんたらってそういう仲だったのか?」
「想像に任せるよ」
リナの質問をかわすと、ラミーアは解説しながらまた時を進めた。
「この後あたしは色々歩き回った。 興味持った事はなんでもやったし、首を突っ込んだ。 大変だったけど、なかなか楽しかったよ」
「なんだか誰かと似てますね」
「だな」
ノエル達がエルモンドの事を思い浮かべる中、一人の少年が現れた。
燃える様な赤い髪に真っ赤な瞳。
頭の左右に小さな捻れた角を持ち生意気そうな雰囲気だった。
「この子は?」
「ディアブロだよ」
「はあ!? このちんちくりんが!?」
初代ディアブロの姿に驚くリナにラミーアは「当時のあいつが聞いたらブチキレるだろうね」と笑った。
「こいつは地底深くにある魔界を住みかにしていた魔族でね。 あの頃の魔界は弱肉強食って言葉でも生ぬるいくらい力が全ての場所だった。 こいつはそんな魔界最強の魔王になる為に地上にやって来たんだよ。 因みに、このナリで1800年は生きてるよ」
「こんなガキがか!?」
「魔族の中じゃ若造もいいとこさ。 それこそ、何万年何十万年生きてる太古の魔族だっている世界だからね」
ラミーアは初代ディアブロを見ると、ディアブロは偉そうに言い放つ。
『喜べ女! お前を俺の記念すべき地上の奴隷第一号にしてやる!』
「うわっ生意気。 今のリナそっくり」
「どういう意味だアホレオナ!」
「当時のディアブロは喧嘩っ早くて乱暴で、おまけに地上の常識も通じないから苦労したよ」
「その上馬鹿だった」
「益々リナそっくり」
「よし! その喧嘩買った!」
「喧嘩買ったら否定してる意味ないでしょ!」
リナとレオナの喧嘩を止めようとするノエルを見て、ラミーアは懐かしそうにルシフェルを見る。
「あんた達もよくこうやって喧嘩してたね」
「あの馬鹿が無駄に私に突っかかってくるからです」
「ディアブロ以外とも色々問題起こしてたよあんたは」
ルシフェルがバツが悪そうな顔をするとラミーアは話を再開した。
「この時ディアブロは地上を支配して魔界の連中に対抗しようとしてたんだよ。 で、その最初の奴隷があたし。 ま、返り討ちにしたけどね」
「それで一緒に連れていったんですか?」
「まあね。 当時でも魔族は珍しかったし、あたしも色々聞きたかった。 何よりなんだか憎めない面白い奴だったしね。 その後も似たような感じだよ」
ラミーアが再び時を進めるとジャバの様な巨人が現れた。
ただその大きさはジャバより大きく、着ているのも普通の軽装の鎧だった。
何より野生児のジャバと違い、理知的な感じがした。
「うがぅ! おれよりデカイ!」
「ジャバウォック。 あたしらはウォッキーって愛称で呼んでたね。 巨人族の戦士で、見聞を広める為と戦士としての力を磨く為に旅をしていたんだよ。 気配りの出来る奴でね、よくディアブロとルシフェルの喧嘩の仲裁をしてくれていたよ」
続いて出てきたのはローブ姿の老人だった。
好好爺と言う雰囲気だったが、どこか威厳の様なものを感じ取れる。
「バハムート。 竜の神とまで呼ばれた最古の竜だよ」
「竜? 人になれるのかい?」
「力のある竜は人に擬態することが出来るんだよクロードの坊や。 今じゃ言葉すら話せない竜が殆んどだけどね。 こいつはこうして人の姿で散歩するのが好きでね、あたし達との旅もこいつにとっては散歩みたいなもんさね。 長年生きてきたせいか気の長い所はあったけど知識量も凄くてね。 あたしの質問になんでも答えてくれたよ。 あたしの魔力の事もこいつが教えてくれたんだ」
そして次に出てきたのは鋭い目付きのガラの悪い細身の男だった。
「うげっ。 これがデスサイズ?」
「正解だよレオナの嬢ちゃん。 五魔一番の問題児だった殺人鬼。 ディアブロ以上に血の気が多くて大変だったね。 あたしらと会った時も殺そうとして来たんだっけね」
「仲間になったのもいつか我が君を殺す為だとよく言ってました」
「あたしやっぱり改名しよっかな」
「それ以外人との接し方がわからなかったんだよ。 とことん不器用で素直じゃない、そんな男だよ」
最後に出てきたのはルシフェルだった。
姿こそ変わらないが、今よりやさぐれた感じがした。
『我が許可無く囀ずるな塵供。 死にたいのか?』
「うわぁ~」
「これは、無いね」
「絶対モテないでしょあんた」
「滅茶苦茶性格悪いじゃねぇかこのエセ天使」
過去ラミーア達に向かって放った自分の発言にドン引きするノエルやリナ達の言葉にルシフェルはプルプル体を震わせる。
「我が君。 何故私の言葉まで再生を?」
「傲慢の罪で天界から追放処分された堕天使様がこれだけマシになったと伝えといた方がいいだろ?」
確かに今のルシフェルは傲岸不遜と言える態度だが、それでも侮辱や侮蔑の言葉は言わず彼なりに礼は尽くしてくれている様に感じた。
だが過去のルシフェルの目付きは完全にラミーアや他の種族、自分以外の全てを見下しており、言葉通りまるで塵でも見るかの様だった。
「案外昔のディアブロ怒らせてたのってこいつの態度のせいじゃねぇのか?」
「意外に鋭いじゃないかライルの坊や。 ルシフェルが加わってからディアブロがまあよくキレて本当大変だったよ」
「我が君。 どうか本当にご容赦を」
本当に勘弁してくれと言う様な顔に、ラミーアはケラケラ笑う。
一体何があってこんなに変わったんだとノエル達は疑問に思ったが、なんだかこれ以上追求するのも可愛そうに思い止めた。
「まあ、そんな訳でルシフェルを加えてからあたしらは約2年旅を続けた。 随分色々やらかしたもんさ。 実際魔界にも行ったしね。 で、そこでとうとう全面戦争が始まりそうだからあたしらはアルビアに戻った。 で、初代の五魔の力を借りながら当時の王様を倒し、漸くあの人の悲願が達成された」
初代アルビア王は現在の聖都に位置する場所で城のバルコニーから民に手を振っている光景がノエル達の前に現れた。
その後ろにはラミーアと初代五魔の面々もおり、その姿を見守っていた。
「その後アルビアが落ち着いて暫くしてから、あたしらは解散した。 ディアブロは魔界に戻って元々の自分の野望を叶える為に。 バハムートは自分の縄張りの山に。 ウォッキーも仲間達に報告する為故郷に帰った。 行き場のなかったルシフェルとデスサイズは城に残ってあたしの手伝いをしてくれたね」
そこまで話すと、ラミーアの表情が陰った。
「でも、あたしらが集まれたのはこれが最後だったんだよ」




