魔獣捜索
翌朝、ノエル達は早速行動を開始した。
クロードの人形とゴブラドの部下ゴブリン10人によるジャバの捜索。
勿論、気取られないよう最新の注意を払ってである。
リナは最初正面からジャバとぶつかることを提案したがクロードが却下した。
敵は自分達と同じ五魔、しかもその中で最大の巨体とパワーを誇る魔獣だ。
それでも二人係なら勝てると思うが、当然まともにぶつかれば被害は大きくなる。
ならばジャバを操っている者の正体、もしくは操る道具を見つけ、ジャバの洗脳を解く事が一番安全なやり方だ。
ノエルの説得もありリナは渋々納得、現在屋敷の一室で知らせを待っている。
「たくよ、ぶっ叩けば元に戻るだろうあんなもん」
「そんな無茶苦茶な・・・とりあえずもう少し待ちましょう」
ノエルに宥められながら、リナはイライラを抑える為ケーキを頬張った。
因みに現在12皿目である。
その時、一人のゴブリンが慌てた様子で部屋に入ってきた。
「ゴブラド様! 見つけました! ジャバ様です! 西の岩山付近です!」
「おお! よくやった!」
「こっちも見付けたよ」
両目を閉じ意識を人形に集中していたクロードが此方に振り返った。
「敵はこの前の3人組だ。 どうやったかは知らないが、先回りされたみたいだ」
「つうことは、そいつらボコボコにすりゃあジャバは元に戻るんだな」
リナは最後の一口を頬張ると、両手を鳴らした。
「よし! あの馬鹿の目! 覚ましにいくぞ!」
ノエル達は、ゴブラドと戦闘に特化した20名のゴブリンを従え、ノクラの西部に来ていた。
「皆様、お気をつけください。 ここは既に西の区域、特に狂暴な魔獣達の縄張りです」
「そんなもん、今頃巣穴で震えてんだろ。 それにジャバより危険な魔獣なんていないからな」
忠告を気にすることなく進むリナに、ゴブラドは困ったようにノエル達を見た。
「まあ、仕方ありませんね」
「ああなった姉さんは止めんのは無理だしな」
「普段なら諌めるんだけど、今回は私もリナの気持ちもわかるからね。 我慢させた分、好きにさせるさ」
3人の言葉に、ゴブラドは諦めたように息を吐いた。
暫く進み、目的の岩山が見えてきた。
「よく来たな! ノエル殿と五魔達よ!」
声の方を見上げると、アルファ、ベータ、ガンマが岩山の中腹に立っていた。
「てめぇは・・」
「一応こうして顔を合わせるのは初めてだな。 私はアルファ、この二人の隊長をしている者だ」
「よぉ、ディアブロのねえちゃん。 この間は世話んなったね」
「わりぃけど、今お前の楽しいトークとかいうのに付き合う気はなくてな・・・」
リナの眼光に、ベータは思わず冷や汗をかく。
「あらら・・・やっぱり怒ってるわ」
「まあ、予想通りの反応だな」
「今すぐジャバを返せば骨の2、3本で許してやる。・・・ただし、断るってんなら、命の保証はしねぇぞ?」
「ふ、寛大な提案だな。 なら今すぐ会わせてやろう・・・来い!ジャバウォック!」
アルファの言葉と同時に、宙から巨大な物体が、リナ達の前に地響きをお越しながら着地した。
「ウガアアアアアアアアアウ!!!」
ジャバの咆哮に、ゴブラド含めたゴブリン達は思わず後ずさる。
その混乱の中、クロードはゴブラドに目配せし、部下のゴブリン何人かをアルファ達の方へ向かわせる様指示を出す。
「馬鹿かてめぇら? いくらジャバがそっちにいるからってこっちは俺とクロードがいるんだ。 正面からぶつかって勝てる気か?」
「勿論そのつもりはない。 だから助っ人を呼ぶことにした。 ジャバウォック!」
アルファの言葉に、ジャバは大きく息を吸いこんだ。
「・・・ウロロロロロロロロロロロロロロロロ!!」
先程と違う雄叫びが森中に響き渡る。
その雄叫びに、リナとクロードは表情を変えた。
瞬間、周囲が影に包まれる。
「う、うわあああああ!!?」
見上げたゴブリンの一人が悲鳴をあげた。
そこには、熊のような発達した手足を持つ巨大なコンドルが飛んでいたのだ。
更にそのコンドルの背中から、二つの影が降ってくる。
2体がゴブリンの最後尾に降り立つと、そこには三メートル程の三面六背のゴリラと、巨大な牙と手足に刃を持つサーベルタイガーの姿があった。
「ベアコンドルにアシュラコング、おまけにデスサーベルタイガーだと!? ジャバ様を除けば、この森最高峰の魔獣だぞ!?」
ゴブラドが驚愕するのも無理はなかった。
この3体の魔獣、並は勿論、上級の冒険者すら敵わず、討伐するなら王国の騎士が駆り出される程の怪物達だ。
この森ではジャバの存在により大人しくしており、ゴブリン達も被害に遭ったことはなかったが、その危険度は十分承知していた。
「ちっ、あいつらジャバの能力知ってやがったか」
リナは舌打ちしながらアルファ達を睨み付けた。
(まさか本当に軍師の言う通りになるとは・・・)
アルファは現在の状況に内心驚いていた。
『ジャバウォックはその巨体と怪力に目が行きがちですが、その真価は動植物の声を聞き、操ることが出来る事にあります。 例えどんな凶悪な魔獣であっても、魔獣の頂点にあるジャバウォックには逆らえないと言うことです。 これを上手く使えば、ディアブロとバハムートを分断することも出来るでしょう』
正直今でも軍師の事は信用していない。
だが、例え軍師の思惑がなんであれ、使える物なら使うまで。
そう思いアルファはジャバウォックに命を出す。
「さあジャバウォック! 魔獣達と共にディアブロを倒せ!」
「ウガアアアアアアアアアウ!!!」
クロードはリーティアに白銀鎧を装着させると戦闘体勢になる。
本来なら、自分達が引き付けている間にゴブリンの部隊がアルファ達を捕らえジャバを自由にさせる筈だった。
万一捕らえられずとも隙さえできればどうにか出来る自信があった。
だが、もはやそんな余裕はない。
既に先程目配せしたゴブリンの前にはデスサーベルタイガーが立ちふさがり、とても回り込むことは出来ない。
それどころか、ゴブリンに死者が出る可能性すらある。
ゴブリン達も、明らかに格上の魔物の姿に恐怖を感じ、体が強ばってしまっている。
「怯むな! ゴブリンの戦士達よ!」
突然の怒号に、ゴブリン達はゴブラドの方を向く。
「我らこそ、ノルウェ陛下に認められし亜人の一族! たかが魔物ごときに、遅れを取る筈がない! 奮い起て! 誇り高きゴブリンの戦士達よ!」
ゴブラドの激昂にゴブリン達の目から怯え消え、戦士の目となった。
皆武器を持ち直し、魔物達に向かい合う。
一気に空気を変えたゴブラドの力に、クロードは改めて感嘆し、小さく覚悟を決めた。
それに呼応するように、ノエルとライルがクロードの隣に立つ。
「クロードさん。 僕達も行きましょう」
「あんなゴリラ野郎! 俺にかかればいちころよ!」
クロードは頷くと、背を向けたままリナに声をかける。
「リナ! こいつらは私達が抑える! その間に君はジャバを頼む!」
「言われるまでもねぇよ」
クロードの言葉に答えると、リナはジャバの見据えた。
「・・・何年ぶりだろうな、お前と本気で喧嘩すんのは・・・」
リナの呟きに答えず、ジャバは殺気をみなぎらせた目でリナを威嚇する。
「たく、随分おっかねぇ目しやがって・・・俺の事忘れたって言うんなら、こいつで思い出させてやるよ!」
リナの体に魔力が満ち、今、魔王と魔獣の戦いが幕を開けた。




