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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
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過去への旅


「な! なんだこりゃ!?」

 ライルは混乱し周囲を見回した。

 先程までラミーアのリビングにいた筈なのに、今は喉かな村の風景が広がっている。

「時間転移? いや、そんなこと出来るわけが・・・」

「流石に詳しいねギゼルの坊や。 まあ確かに時間を越えることなんてあたしでも出来やしないよ。 こいつはあたしの記憶を映し出したただの幻さ」

「幻? これがかよ?」

 イトスはとてもこれが幻とは思えなかった。

 吹く風の感触。

 草花の匂い。

 そして何より、空気そのものが違う。 ここまで全てを錯覚させる幻などイトスは勿論、魔術に長けたクロードやルシス王マークスでも再現は不可能だろう。

「ん? おいあれ」

 リナが指差す方向から、馬に乗った二人の人物が走ってきた。

『若! お待ちください!』

『ははは! どうした爺!? 腕が落ちたんじゃないのか?』

『若が早すぎるのですよ!』

 金髪の快活な青年と、それを追う老人が駆け抜けていった。

「あの人、父さんに似てる気が」

「父様にも少し面影がある様に見えるけど」

「あれが、この時代の次期アルビア領主。 後の初代アルビア王だよ。 ま、あんたらのご先祖様だね」

「あの人が!?」

「ついでに言うと後ろのじいさんはラズゴートって奴の先祖だよ」

「マジかよ! つうかおっさん先祖から使えてたのかよ!?」

「この頃はまだアルビアは国じゃなくて1領地に過ぎなかった。 まだ父親がいたけど体が悪くてね、ほぼこの人が取り仕切ってる状態だったんだよ」

 初代アルビア王が馬で走るのに合わせて景色が変わっていき、やがて村外れの小さな家に辿り着く。

『若、何故この様な所に?』

『ここの住人に用があるんだ』

『まさか! ここには変わり者の女しか住んでおりませんよ!』

『その変わり者が今の内には必要なんだ』

 初代アルビア王は扉を叩くが、反応がない。

『若、帰りましょう。 時間の無駄です』

 初代アルビア王は爺の制止も聞かず扉を開けた。

 すると部屋中隙間なく本で埋め尽くされていた。

『これは、噂以上だな』

『若、ここの住人は女のくせに本ばかり読んで録に仕事もしない様な者ですぞ?』

「この時代は女の地位が低くてね。 女は家事や針仕事してりゃいいって考えのが多かったんだよ」

 ラミーアの解説を聞きながら、ノエル達は初代アルビア王の動向を見続けた。

『おい! 誰かいないか!?』

『若、そろそろ・・・』

『・・・すけて・・・』

 すると、小さな呻き声の様な声が聞こえた。

『爺。 何か聞こえたか?』

『はて? 私には特に・・・』

『たすけて・・・』

 再び聞こえた声に、初代アルビア王は反応した。

『爺手伝え! 埋もれているぞ!』

『は、はい!』

 二人は慌てて本の山を掻き分けていく。

 すると、髪を三つ編みにし厚いレンズの眼鏡をかけた少女が姿が掘り起こされていく。

「なあ、まさかと思うがあれって・・・」

「あたしだよ。 この時代にこんな本まみれの変人が他にいるかい?」

 リナ達は当時のラミーアに目を丸くする。

 よく言えば純粋そうな、悪く言えばどんくさそうな、そんな雰囲気の少女は今のラミーアとはあまりに違っていた。

『あ、あの、助けていただいてありがと・・・て若様!?』

『そうじゃ! 若にいらぬ手間かけさせおってこの!』

『ああ! すみませんすみません! 若様とは知らずあたしったら!』

 混乱する当時のラミーアに、初代アルビア王はクスリと笑った。

『なかなか愉快なお嬢さんだな』

『あわわ、あ、あたし何か罰を・・・』

『いや、これで罰とかどんな暴君・・・ん?』

 初代アルビア王は今度は何かイタズラを思い付いた子供の様な顔をした。

『そうだな。 それじゃ罰として、俺の屋敷に相談役として来てもらおうか』

『え?』

『若~!? いったい何を!?』

 ラミーアはポカンとし、爺は驚きのあまり絶叫した。

『私の話を聞いておりましたか!? この女は本ばかり読む変わり者で・・・』

『その分知識が豊富なのだろう? うん。 まさに欲しい人材だ』

『あ、あの、一体どういうことです? あたしが相談役って?』

 完全に混乱するラミーアに、初代アルビア王は軽く聞いた。

『え~と、君は今のこの国の情勢とかってわかる事ある?』

『え? あ、はい。 今の王様は外交関係で問題を抱えていて、特にセレノアと仲が悪いですね。 強国のセレノアに有能な奴隷を多く独占された事が発端です。 その為王様はセレノアと事を構えることも考えて兵士を集めようとしているんですけど、各領主が反発して今大多数の領主が王様を倒して次期国王を狙っていますよね。 でもアルビアはお父上の体の事もあってその争いには参加してませんからあまり関係ないですよね。 むしろ隣のオブロ様の領地との関係の方が問題ですか?』

 捲し立てる様に語り続けるラミーアに爺は呆然とし、初代アルビア王は満足した様に頷いた。

『見たか爺? 彼女は普通の村人では知ることが困難な中央の知識まで有している。 しかも何が問題となっているかすら把握している。 確か他にも色々知っているんだろ?』

『は、はい。 植物の育て方動物の扱い方、後魔術と薬学も。 ただ、全部本での知識ですし、あたしが買える程度の本じゃまだ・・・』

『なら屋敷の書庫で学ぶといい。 更に知識を深めてより確かなものにしてくれ』

『ちょちょちょっ! ちょっとお待ちください若様!』

『なんだ爺? 彼女の知識は今聞いたばかりだろう? 一般に広がっていない情報まで集めている彼女の力は大いに役に立つ』

『いやしかし、女を次期領主の相談役等聞いたことがありません』

『その考えが古いんだ爺。 女だからなんだ? 有能なのに女だからという理由で使わないのはただの愚者だ』

『そ、それは・・・』

『それにこれからの事を考えれば幅広い知識を持つ知恵者は必要不可欠だ』

『若それは・・・』

『これからって、どういう事です?』

 爺の制止も聞かずに初代アルビア王はラミーアに宣言した。

『俺はこの国の王になる』

『え!? でも、ご領主様が』

『親父殿はもう長くない。 持って一年と言う所だろう。 そうしたら俺は領主となり、正式にこの国取り合戦に名乗りを上げる。 その為にはこの一年が勝負だ。 俺はその間に出来るだけ準備を整えなければならない。 領民の生活の安定は勿論、軍備や医療も可能な限り充実させる。 そしたらオブロに攻め入り、そこから一気に周辺領地を制する。 それだけの武力が俺にはある。 だが俺にはそれを成す知恵がない。 そこで、お前の力が必要になる』

 初代アルビア王は真剣な表情でラミーアを見つめた。

『どのみちこのまま国内の混乱が続けばこの国は終わる。 そうなる前に、俺はこの国を制さなければならない。 だからお前の知恵を貸してくれ。 頼む』

 頭を下げる初代アルビア王を見ながら、今の猫のラミーアは沁々と言った。

「嬉しかったね~この時は。 周りからは変わり者って言われ続けて、誰からも必用とされなかったあたしが、初めて必要だって言ってもらったんだから。

今でも、あの人には感謝してるよ」

 懐かしそうに話すラミーアが視線を向けると、過去のラミーアも喜びを噛み締めに顔を上げる。

『あの、あたしでどこまで役に立てるかわからないですけど、あたしが役に立つなら、使ってください!』

『ありがとう』

 ラミーアはこうして、後の初代アルビア王の相談役に就任した。

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