光明と暗雲
水晶を見たイトスとノエルは皆の待つ地下室へと戻り、エミリアとギゼルに自分達の見解を伝えた。
「つまり、エルモンドは何者かに操られていた可能性があると?」
「ああ。 勿論、師匠自身の意思だった可能性もまだある。 でもあの映像を見る限り、俺は師匠に何かあったしか思えねぇ」
「まあ、ここは貴様の言葉を信じよう。 少なくとも私よりエルモンドの事を知っているわけだしな。 それでいいかエミリア?」
「いい、とは正直言えないけど、彼がちゃんとエルモンドが黒の可能性を理解しながら辿り着いたなら、今は納得しとくわ」
ギゼルとエミリアが認めてくれた事に、イトスはホッとする。
「それに、我々もこんなものを見つけてしまったしな」
ギゼルは水晶と一枚の地図を出した。
「それは?」
「まず、これを見てもらおう」
ギゼルは水晶から映像を出すとエルモンドが現れた。
少し興奮した様子で、正確な日付を言わずに話始める。
【いやしかし自分でも驚いたよ。 まさか僕が誰かに仕えるなんてね~、ふひひひ】
「仕えるって、もしかして・・・」
「ノルウェ陛下の事だろう。 となると、恐らく20年前だろうな」
【まあノルウェ君も化ければなかなか面白い人物になりそうだけど、誰かに仕える気になるなんて考えもしなかった。 地位だ役目だというのは僕の人生ににおいて無縁だし、知識の探求の為には障害でしかない。 なのにまさかだよ。 僕も心境の変化というのは何度も経験してるけど、こんな事になるとは。 まあ、彼の元でどんな経験が出来るか、楽しませてもらうよ】
エルモンドが語り終えると映像は消えた。
「今のがなんだってんだよ?」
「わからないかリナ? エルモンドは本来ならしない行動を取り自分でも驚き記録に残した。 先程のイトス達の、もし誰かに操られているというのが本当ならば、この時既にその影響を受けているということになる」
「つまり、私達を集める遥か前から既に事は始まっていたということになるね」
「そういうことだクロード。 そしてこの地図」
ギゼルが広げるとある場所に小さな印と、その横に“黒猫”という文字が書かれていた。
「この黒猫が何かはわからない。 が、あの男の事だ。 もしエルモンドが自身が操られていると気付いていたなら、対抗策を考えていたと推測するのが妥当だろう」
「エルモンドは何かを見つけたって事ですか?」
「そうなるな。 だが間に合わなかった。 だから仮死となり封じ込めるという手段を用いるしかなかったのだろう」
「見つけたっつっても、いったい何をだよ?」
ライルが首を捻る中、ギゼルはノエルとリナ、レオナ、そしてエミリアに視線を向ける。
「お前達四人は、何となく察しはついているのではないか? あの場でエルモンドの話を聞いた者なら?」
その問いに最初に反応したのはエミリアだった。
「ラミーアの魂」
「そうだ。 あの場にあったのはラミーアの魔力から産まれた意思。 つまりラミーアの別人格と言っていい存在だ。 そしてラミーアはその別人格を危険と判断し自身の魂を分離する形でその力の殆どを奪い取り封印した」
「ちょっと待って? それって本物のラミーアがその印の場所にいるってこと?」
「あるいは、それに関係する何か。 またはラミーアに付き従ったというかつての、というより、最初の五魔に関する物、場所ということかもしれん」
驚くレオナ達だったが、リナは不敵に笑った。
「エルモンドが1000年生きてたんだ。 今更1500年前の魔女や魔王が生きてようが驚かねぇよ」
「とにかく、そこにあの怪物をどうにかする方法がわかる何かある可能性が?」
「そうなるな。 少なくとも無意味な物をあの男が遺すとは思えん」
漸く見えた光明にノエルを始め皆の表情が明るくなる。
「よっしゃ! 早速そこに行って猫だかなんだか探してこようぜ!」
「騒ぐなライル。 で、場所はどこなんだよ?」
「そうだな。 この場所は・・・ふむ、確かノットという田舎町だったはずだ」
「「ノット!?」」
町の名を聞き、ノエルとリナ、ライルは驚きの表情を浮かべる。
「ど、どうしたのよ一体?」
「姉さん。 ノットってもしかして?」
「もしかしても何もねぇよ」
「僕とリナさん達が、初めて会った場所です」
空は黒く硬い岩盤に覆われ、大地には水の代わりにマグマの川が流れる。
明かりはマグマと空の岩盤に付いた幾つかの魔結晶の僅かな光しかなく、とても生物が生きていられない様なそんな場所にそれはあった。
死の大地と呼ぶに相応しいその場所に建っていたのは、巨大で禍々しい、厳な城だった。
禍々しくも豪華な造りの城の中で一際豪華な場所である玉座の間で、一人の男が座っていた。
燃える様な赤い髪をしたその男は、頬杖を付きながら静かに目を閉じていた。
すると、玉座の間に誰かが入ってくる。
ローブの様なぼろ布にフードを被っていたが、その合間から覗いた顔は赤銅色のドクロだった。
ドクロはズカズカと進むと玉座の男の前で止まった。
「とうとう目覚めたみたいだぜ? で、どうすんだ?」
「決まっている。 余のものとする」
玉座の男は目を開くと、血の様な赤い瞳を露にした。
「へへへ、了解。 1500年振りの地上ってわけだ。 なあ、魔王様よ」
ドクロは不敵に笑った。
ノエル達の知らぬ所で、ラミーアの魔力を巡る戦いが、始まろうとしていた。




