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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
204/360

魔人の秘密


 一週間後、ノエル達は懐かしい場所に来ていた。

 ゴンザ達の拠点のある山岳地帯から西へ向かった森の中にある、巨木を利用した小屋。

 そこはノエルがエルモンドとイトスと初めて出会った場所であり、二人が長年暮らしていた場所だった。

「全く、とんだ里帰りだなイトス」

「しょうがねぇよリナ。 ここしか手がかりないしな」

 イトスはかつての自分の住んでいた小屋を静かに見つめる。


 あれからノエル達は今後の事について話し合い2つの方針を決めた。


 1つ、あのラミーアの魔力から産まれた怪物の討伐、もしくは再封印の方法を探す。

 1つ、現在の混乱の鎮静化。


 この2つはそのまま条約の目的としても使われ、これらが達成されるまで互いに協力し合い、かつラミーアの悪用を禁ずるということで纏まった。

 そしてラミーアを利用する勢力が現れた場合団結しそれを阻止する事も。

 アクナディン達一部の兵をラミーア監視に残しファクラと今後の事を話し合う為にラバトゥへ帰還。

 マークスもルシスへ戻り兵の派遣とラミーアに関する記述がないか調べるという。

 アルビアはラミーアに関する情報を集めつつ国民への対処に追われた。

 ラズゴートとカイザル、サルダージが先頭に立ちイトスのシナリオ通りに説明しながら国民の不安を和らげようと尽力している。

 シナリオを裏付ける意味もありプラネはアルビアに全面的に協力しつつセレノアのダグノラと連絡を取り、セレノアの協力を取り付けようとしている。

 そしてノエル達はエルモンドの手がかりを探す為にこの場所へとやって来ていた。


「にしても、ラクシャダがいねぇとやっぱ移動がキツいな」

「ラクシャダ今休ませるのが一番。 無理させられない」

 愚痴るリナをジャバが嗜める。

 ラクシャダはノエル達を助けたあの日以来傷を癒している。

 知識を奪うラミーアの黒い帯を喰らいながら、幸いにもノエル達の事を忘れる事はなかった。

 だがやはり所々記憶が抜け落ち混乱し、今はとてもノエル達を運べる状態ではなかった。

 幸いにもゴンザ達の拠点にはベクレムの術で瞬間移動出来た為、こうして短期間で辿り着くことが出来たのだ。


「しかし、まさか大敗した地に再び訪れることになるとは」

「頼りにしています、ギゼル殿」

 周囲を見渡し呟くギゼルに、エミリアが声をかけた。

 今回この地にやって来たのはノエルと五魔、イトスとライル、そしてギゼルとエミリアだった。

 ギゼルは手がかりを探す為にその知能が必要だとイトスに頼まれ、エミリアはラズゴートの薦めで同行することになった。

 当初エミリアはアルビア国民への対処の為残ると同行を断ったが、ラズゴートに

「今お前さんに必要なのはアーサーとしてではなく、エミリアとして過ごす時間じゃ。 その方が色々自分と決着も付けられるだろう。 それにはノエル陛下やリナ達と旅をするのが、恐らく一番じゃろうからな」

 と説得され、共に行くことを決意した。

「でもよかったなエミリア。 苦手な蛇に乗らなくて済んでよ」

「もうラクシャダには慣れたわよ。 いつまでもピーマンが苦手なあなたとは違うの」

「んだとこの野郎!」

「なに騒いでんのよバカリナ!」

「うるせぇ邪魔すんなアホレオナ!」

「なんですって!」

「二人とも、今はそんな場合じゃないだろ」

 クロードにたしなめられ喧嘩を止めるリナとレオナに、エミリアはクスリと笑いながらラズゴートが言った意味を改めて理解する。

 リナ達もノエルも先の事でまだ割り切れていない所もあるだろう。

 勿論自分もだ。

 だがリナ達はそれでもいつも通り進もうとしている。

 かつてセレノアで旅したあの頃の様に。

 そんなリナ達といれば、きっと自分も前に進めるだろう。

 エミリアはそう感じた。

「じゃあイトス、まずはどこから探す?」

「あの人の部屋や研究室だな。 もっともあの人の事だから、どっか予想外の場所になんかしら隠してるかもしれないけどな」

「貴様がエルモンドの思考を理解しているのだ。 頼みにしている」

 ギゼルに言われ頷くイトスは小屋の中へと入りギゼル達も続いた。

 そんなイトスが、ノエルはやはり無理している様に思えた。

 アクナディンやマークス達も集ったあの会議以来、イトスは師匠という言葉を使わない。

 エルモンドの事はずっとあの人と呼んでいる。

 恐らく、そう呼ぶことでエルモンドが敵に回ったという事実を無意識に誤魔化しているのだろう。

 今自分達の中で一番不安定なのはイトスだろう。

 もし今回の調査で何かわかり、更にイトスが傷付いたら・・・。

 ノエルはそんな心配をしながらも小屋の中へと入っていった。





 暫く小屋を探したが、それらしいものはなにもなかった。

 部屋は勿論、エルモンドの書物や持ち物も徹底的に調べ、ジャバの鼻も使った。

 だがそれらしいものや隠し部屋の様なものはなにもない。

「くそっ! なんかねぇのかよ!?」

「流石にこれだけ探してないとなると、ここにはないと考えた方がいいかもね」

 エミリアがそう言う中、イトスは必死に考えた。

(思い出せ。 あの人ならどうする? あの人なら人に見られたくないものをどう隠す? 俺が一番あの人を見てきた筈だろう)

 エルモンドは知りたがり。

 そして知った知識は他人に披露したり、それをもとに講義する事を好む。

 だが自分の事は殆ど語らない。

 リナ達の話を聞いてもエルモンド個人の事はあまり知らない。

 そんなエルモンドが自分の核心的な部分をどこに隠すか?

 イトスは自分が把握する限りエルモンドの行動を遡る。


もしもの時は、ここがいいかな。


 ある一言を思い出したイトスは小屋の外へと駆け出した。

「おい、イトス!?」

 リナ達がイトスを追うと、イトスはエルモンドが仮死状態の時入っていた墓の前にいた。

「ある人が仮死に入る前に、万一の時はここに埋めてくれって頼んだんだ。 もしかしたらここに」

「! ジャバ!」

「うがう!」

 リナの声に反応しジャバは墓の土を一気に掘り起こす。

 エルモンドが埋まっていたより更に奥までほると、なにかに当たる音がした。

「当たりみてぇだな」

 周囲の土をどけると、地下室への扉が見つかった。

「自分の墓に隠し扉か。 ある意味エルモンドらしいね」

 クロードが扉を調べると、長いこと使われていなかったせいか鈍い音をたてながらゆっくりと開いた。

「行きましょう」

 念の為に外にジャバを残し、ノエル達は地下室へと進んでいく。

 階段を下っていくと、広い部屋へとたどり着く。

 瞬間、部屋に自動的に灯りが点いた。

「なに、ここ?」

 その部屋には何かの実験器具の様な大きな装置と机、そして人が一人入れそうな大きなガラスの容器が3つ程置かれていた。

「訳わかんねぇなこりゃ。 どうなんだクロード? こういうの得意だろ?」

「流石にこれはわからないよ。 一体なんに使うものなのか検討もつかない」

「まさか、これは・・・いやそんな馬鹿な」

 すると突然ギゼルは装置に近付き調べ始めた。

「なんだ? どうしたんだあいつ?」

「あれはギゼル殿に任せて、私達は他の者を調べましょ」

「つっても、調べられそうなもんと言ったら机くらいしか・・・あ? なんだこりゃ?」

 リナが机の引き出しを開けると、幾つもの手のひらサイズの水晶があった。

「これは、恐らく魔道具か何かだね」

 クロードが手に取ると、水晶から光が壁に向かって照射された。

 身構えるリナ達の心配をよそに、光は何かの映像を映し出した。

 やがて像がハッキリすると、一人の今にも息絶えそうな老人が映し出された。

「ねぇ、この人って」

「嘘だろおい」

「エルモンド」

 レオナ達は驚くのも無理はなかった。

 映った人物は老人ではあったが、明らかにエルモンド本人だった。

「エルモンドって、どういう事だよ姉さん?」

「俺が知るかよ」

「シッ。 何か言いますよ」

 映像の中の老人エルモンドは、ゆっくり口を開いた。

【に、272年8月15日。 研究記録13025番。 こ、これがもしかしたら最後の記録になるかもしれない】

「272年!? 今から約1000年前よこれ!?」

「1000年だと!? んな馬鹿な事があるかよ!?」

 皆が驚く中、映像のエルモンドは語り続けた。

【ひ、人の一生は、僕の知識欲を満たすには短すぎる。 過去に起こったことは勿論、まだ解き明かされていないもの。

これから先に起こること。 僕はその全てを知りたい。 だから、僕はこれを造った。 例え人の理を犯す禁忌だとしても、僕はこの可能性に賭ける】

 エルモンドの背後に映ったのは、ギゼルが調べている装置と、例のガラスの容器。

 だがその容器の中身に皆戦慄する。

 そこには液体に浸かった青年の姿があった。

 しかもその青年の顔は、イトスによく似ていた。

「なんだよ? どうなってんだよ?」

 イトスが青ざめる中、映像のエルモンドは言葉を続けた。

【これを見た人がもしいて、この研究記録の続きがない場合は、どうか愚か者の所業と笑い飛ばしてほしい。 でももし、続きがあるようなら、その時は是非褒め称えてくれ。 恐らく、世界初の偉業だからね。 ふひひひ】

 映像はそこで終わり、光は消えた。

「おい! 次の水晶は!?」

「待って! 今探して・・・これか」

 クロードが見付けた水晶も先程と同じ様に光を放った。

 そして同じ様に映像が映し出される。

 だが違っていたのは、映像に映し出された人物は老人のエルモンドではなく、先程容器に入っていた青年だった。

【やった! やったよ! とうとう僕はやったんだ! いや~忘れていたよこの感覚! これが若さというものか!? やはり経験に優るものはないね!】

 テンション高く話すイトスに似た青年の口調は、紛れもないエルモンドのものだった。

 そしてよく見ると、映像の隅に先程まで話していた老人のエルモンドの体が横たわっている。

 明らかに死んでいた。

【やはり僕の理論は間違っていなかった! 脳ではなく魂に全ての知識を移せば、こうして全ての知識を持ったまま体を移る事が出来るんだ! 凄いよこれは! これなら、いくらでも知識を得ることが出来る! ふひひひひ!!】

「何言ってんだよ? どういう事だよこれ?」

「クローンだ」

 混乱するリナ達の背後からギゼルが声をかけた。

「まさか、あり得ないと思っていたが、これは間違いない」

「クローンって、なんなんですかギゼルさん?」

「細かい説明は省くが、人の体の一部から新しい肉体を造る技術だ」

「うそ。 それって・・・」

「そうだ! 私がオメガやアルファ達の肉体を復活させる為に研究していた技術だ! それをこの男はとうの昔にその技術を完成させていたのだ! しかも1000年という遥か昔に!」

 ギゼルがあり得ないというのも頷ける話だった。

 ギゼルのオメガ達に施した義手義足ですらオーバーテクノロジーと言ってもいいほど高度なものだ。

 そのギゼルが研究しまだ辿り着けずにいる肉体の複製技術を、エルモンドは遥か1000年と前に実現させてしまったのだ。

 しかもその新しい体に肉体を代えるという常識では考えられない事までしている。

 もしこの1000年前という事が事実なら、マークスと500年来の友人でいられたのも頷ける。

「なあ」

 皆が混乱する中、イトスは力なく声を出した。

 その顔は青ざめ、明らかに動揺している。

「あれがあの人の複製なら、俺はどうなんだ? あの若いあの人と同じ顔の俺は、一体・・・」

 ショックを受けるイトスに、ノエルは声をかけようと近付いた。

 だがその時、見えてはいけないものを見つけてしまった。

 ノエルの視線に気付いたイトスはノエルが見た方を見る。

 すると、残っていたガラスの容器の1つに[イトス]と書かれていた。

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