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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
202/360

賢王来訪


「マークス殿!?」

「やあノエル殿。 無事、というわけではなさそうだが、また会えて嬉しいよ」

 驚く周囲をよそに、マークスは天幕の中奥へと進んでいく。

「おう久しぶりじゃのぅ賢王の!」

 そんなマークスの前にアクナディンが立ち塞がる。

「おや、誰かと思えば武王殿か。 美しい女性達に目がいってしまい君に気付かなかったよ」

「抜かせこの貧弱もんが! どうせまた下らん浅知恵でかき回しに来たんじゃろぅが!?」

「いやいや、君じゃないんだから浅知恵程度でここの皆を騙せると思うほど私は愚かじゃないよ」

「しばいたろかおどれぁ!?」

 そう言ってアクナディンはマークスを睨み付ける。

 武王と賢王という大国の王同士の対話にも拘らず、その光景は優等生にガンを付ける不良にしか見えなかった。

「お、落ち着いて下さいアクナディン王! それより、何故マークス王がここに?」

「ああ、それは彼の案内でね」

 アクナディンを軽くかわしエミリアの言葉に答えるマークスの背後から入ってきたのは、ルシス軍を監視しに出向いていたサルダージだった。

「全く、急いで戻ってくればなんとも府抜けた顔ばかりだね」

「げっ」

「うわ~面倒なのが来たわね」

 サルダージの姿を確認し、リナとレオナはあからさまに嫌な顔をし、クロードも面倒な人が来たと表情で訴えていた。

「ふん。 貴様らも相変わらず心を読むまでもなく不快な連中よ」

「心を? え? どういうことです?」

「奴の名はサルダージ。 王宮魔術師長を勤める現アルビア1魔術に精通した男です」

 一人サルダージを知らないノエルに、ラズゴートがそっと解説した。

「お前がノルウェ陛下の倅か。 どれどれ」

 サルダージはノエルに近付くとノエルの頭に手を置いた。

「おい、サルダージ!」

「危害は加えん。 ただ知りたい情報を見るだけだ」

 サルダージは魔力を集中すると、一気に力を放出した。

「てめぇ! 何しやがる!」

「リナさん! 僕は大丈夫です!」

 殴りかかろうとするリナをノエルが止める中、サルダージはふぅと息を吐いた。

「なるほど。 どうやら、お前達は本当に利用されただけの様だね」

「え?」

「てめぇ、ノエルの記憶を見やがったな?」

「そう凄むなリナ。 寧ろこの国の最重要機密の1つをこうして披露したんだ。 記憶の1つや2つ安いものだろう?」

「記憶を?」

「その通りだよ。 私の秘術は他者の心を読む読心術。 力を込めれば他者の記憶すら読み取ることの出来る最上の力の1つだ。 味わえたことを光栄に思いたまえ」

 仮にも先王の息子で、現在は他国の王であるノエルに対し、サルダージは不遜な態度を崩さなかった。

「サルダージ殿。 ノエル陛下にあまり無礼を働く事は私も許しませんよ?」

「ふん、アーサーか。 いや今はエミリアと呼ぶべきかね。 状況把握にはこれが一番てっとり早いのでね。 エルモンドとの繋がりを調べる意味も込めて使わせてもらった。 まあ、本音を言えば余計なものまで伝わるから、私としてもやりたくはないのだがね」

「他国の人間や王がいるのにそんなに話していいのかい?」

 クロードの問いにサルダージはフンと鼻を鳴らした。

「今の状況を考えれば、私の秘術が知られる事すら些事と言っていい。 エルモンドが裏切り、聖都が化け物に選挙されたこの状況ならな」

 その言葉に、マークスは表情を変えた。

「やはり、エルモンドのせいなのか」

「マークス殿、貴方はその事でここに?」

「それ以外にあるわけないだろうノエル王。 私との交渉中聖都にとんでもない魔力を感じた瞬間血相を変え、ここに来ることを条件に軍を退かせたよ。 説明役に私だけ無理矢理連れてこられたせいで他の連中はまだ到着していないがね」

 賢王とまで呼ばれる冷静なマークスがそこまで動揺する存在。

 ノエル達は改めてエルモンドが甦らせた存在の脅威を感じとる。

「マークス王。 貴方はエルモンドと古くからの友人だと聞く。 何か知っていることがあれば話してほしいのですが?」

「申し訳ないエミリア殿。 私もそこに関しては力になれない。 ただ言えるのは、私とエルモンドの交流は500年に渡るということ位だ」

「500年!?」

 マークスの言葉に周囲は一気にざわめきたった。

「おいおいおっさんボケちまったのか!? エルモンドは人間でエルフじゃねぇ! 500年生きてる人間なんている分けねぇだろ!?」

「真実だよリナさん。 私としてもその謎はわからない。 ただ彼は一定の年になると突然若い姿で現れた。 その繰り返しをしながら私達は友情を深めていった筈なんだが」

 エルモンドとの交流を思い出したのか、マークスの表情に若干の寂しさが滲み出る。

「結局彼は、私すら駒にしたということだろう。 チェス所か完全な私の敗北だな。 賢王が聞いて呆れる」

 500年。

 もしそれが事実ならば、マークスは500年の長い友情を裏切られた事になる。

 友人と呼べる存在をあまり作らないマークスにとって、エルモンドはかけがえのない存在だったに違いない。

 それだけに、マークスにとっても今回のエルモンドの行動は苦しいものだった。

 だがマークスはすぐに思考を切り替え賢王の顔へと戻った。

「アクナディン王。 エミリア殿。 そしてノエル王。 1つ私から提案がある」

「提案?」

「ああ。 ルシス、ラバトゥ、アルビア、そしてプラネで正式に同盟を結びたい」

 急なマークスの提案に皆の空気が変わった。

「なんの為の同盟じゃ賢王の? わしら4つの国であの化けもん潰すっちゅうことか?」

 マークスの提案に冷静に受け止めるアクナディンに、マークスはニヤリと笑む。

「勿論そのつもりだけどそれだけじゃない。 それに可能なら、セレノアやヤオヨロズも巻き込みたいしね」

「この大陸の大国全てを結ぶと?」

「エルモンドが甦らせたあの怪物。 少なくとも、私はあれをそれだけの脅威だと思っている。 それはあの存在そのものもそうだけど、万一あれを飼い慣らせる者が出てくればどうなる?」

「それは不可能ですマークス王。 現に、アルビアはそれをしようとし失敗した」

「自分達が失敗したからと言って他の者に出来ないと思うのは早計だよエミリア殿。 今だって結界に封じ込める事には成功している。 もし封じ込めたまま、その力を利用する術を持つ者がいれば、もしくはそれを見付けた者がいるならばどうなる? 我々はその存在の奴隷となるしかなくなる」

 確かに今あの黒い帯は結界を壊すことは出来ない。

 勿論まだ力が十分回復していないというのもあるだろうが、封じ込めには成功している。

 となれば、制御する術も探せばあるのかもしれない。

「つまり、あの怪物を倒すと同時にそういった人物が悪用するのを防ぐ為に同盟を?」

「その通りだよノエル殿。 まあ、私達でその方法を探して有効利用というのも考えたけど、ハッキリ言ってリスクが高過ぎる。 第一、あれは人の使っていい代物ではないしね」

 そこまで話すとマークスは羊皮紙を出しテーブルの上に置いた。

「条文はそちらに任せよう。 勿論、どこかの国が一方的に有利になる内容なら修正を要求するが、そうでなければ私はルシス王マークスとして正式にサインしよう」

 己の国を豊かにする事のみを考えるマークスが、自国の優位性を度外視し正式に署名するという。

 その行為にアクナディンは豪快に笑った。

「ガッハッハッ! なかなか面白い事を言い寄るな賢王! 見直したわ! ええじゃろう! ラバトゥはその同盟に加わっちゃるわ!」

「元はと言えば、今回の件は我々アルビアの不手際。 それを償うのに他国の力を借りられるなら、これ程ありがたいことはありません」

 アクナディン、エミリア共に同盟の参加に同意し、ノエルも静かに立ち上がる。

「あれは、僕達が止めないといけないものです。 だからどうか、皆さんの力を貸してください」

 強い決心を抱くノエルに、リナ達も同意する様に頷いた。

「条文に関しては、私が作成しましょう。 どの国に対しても中立で不公平のないように計らいます。 よろしいでしょうか、ノエル陛下?」

「僕は構いません。 皆さんもいいですか?」

 キサラの提案に皆頷き、キサラはマークスの出した羊皮紙を受け取った。

「・・・魔術や細工はないようですね」

「ひどいなキサラは。 いくら私でも、この状況でそんなことはしないよ」

「貴方ならやりかねませんから。 ですが、今回は貴方を信じましょう」

 相変わらずのキサラの態度にマークスは苦笑する。

「さてと、まだ正式に同盟が決まった訳じゃないが、今後どうするか少し話し合おうか」

「ああ、それに関して調度いい者を連れてきているよ」

「? 誰ですサルダージさん?」

「入ってくるといい」

 サルダージが天幕の外に呼び掛けると、一人の少年が憔悴した様にゆっくりと入ってきた。

「!? イトス!?」

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