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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
198/360

魔人の業

 その場にいた者、特にノエルとリナ、レオナにとってこの状況はあり得ないものだった。

 全ての黒幕だと思っていた軍師。

 その軍師が主様と呼んだ視線の先にいたのは、五魔を育て上げノエルに王の道を説いた男、魔人ルシフェルこと、エルモンドその人だった。

「・・・どういうことだ? どういうことだよエルモンド!?」

 リナの怒号にも似た叫びに対し、エルモンドはいつもの笑いを浮かべるだけだった。

 そんな中、軍師はエルモンドの傍らへと近付き跪いた。

「ああ主様。 貴方様の到着を心待ちにしておりました」

「ふひひ、色々ご苦労だったね」

「ええ。 主様の為、役目を果たそうと働いて参りました。 ですので主様。 お約束の褒美を。 私に名をお与えください。 軍師という役割ではなく、私だけの名を」

 名がないという軍師の事実。

 それがどういうことなのか考えるよりも前に、エルモンドは行動を起こした。

「そうだね。 君にはご褒美をあげようね」

「あ、主さぶぁ!?」

 軍師が目を輝かせた瞬間、軍師の体を黒い触手が貫いた。

 それはラミーアが生け贄を喰らう時に出す死の触手だった。

「あ、主様! 何故!? 何故私が生け贄に!?」

「君がこの中では一番適任だったからさ。 知識量もだし、僕を前にして完全に気を抜いていたからね」

「そ、そんな!?」

「そうそう、名前だったね。 君の新しい名前は、生け(サクリファイス)だよ」

「わ、わたしグガア!?」

 軍師は断末魔の叫びをあげ、その体にあるを全て抜き取られた。

 吸い付くされた亡骸はミイラの様に干からび、その表情は絶望に染まっていた。

「どうなってるの、これ?」

「さあね。 だがこれで確定した事がある。 エルモンドはラミーアを完全に操っている」

 呟くレオナにフェルペスが出した答えはノエルや五魔にとって非常なものだった。

 言葉も発せずエルモンドはラミーアを操り軍師を始末した。

 それはつまり、エルモンドが黒幕であることを決定付ける証拠に他ならなかった。

「なんでだよ? なんでこんなことしやがったエルモンド!?」

 リナの言葉に答えず、エルモンドはラミーアを見つめ恍惚の笑みを浮かべている。

「答えやがれこのクソ野郎!!」

 リナの叫びに、エルモンドは漸く我に帰った様にリナ達の方を向いた。

「ああごめんごめん。 つい夢中になってしまって。 なにせ漸く宿願が叶うものだからね」

 いつもと変わらぬ調子で答えるその姿が、今のノエルやリナ達には何か得たいの知れない何かの様に不気味に見えた。

「いつから、僕達を利用していたんですか?」

「ふひひ、そうだねノエル君。 折角だ。 最後の授業といこうじゃないか」

 いつもの笑みを浮かべながら、エルモンドは語り始めた。

「まず、いつからという質問だけど、僕も正確には覚えていない。 ただ、五魔を作り上げた頃という意味では最初からと言ってもいいね。 あの時はアルビアに勝ってもらわないといけなかったからね」

「なん、だと?」

「次に軍師君だけど、彼は君達の予想通り僕がフェルペス君を動かす為に造った存在さ。 なかなか役に立ったろ?」

「私は、いや私達は最初からお前の手のひらの上だったと? お前がラミーアを手にする為に利用されていたということか?」

「まあ、大体はそんな所だよフェルペス君」

「貴様! よくも父様を、私達を弄んでくれたな!」

 エミリアは剣を抜きエルモンドに斬りかかる。

 だがそれは、見覚えのある巨大な盾に防がれた。

「なっ!? クリス!?」

「どうしたの? 全然いつもより遅いよ?」

 エミリア達と同じ最高幹部である聖盾(せいじゅん)イージスことクリスの登場に動揺するエミリアを、クリスは弾き返した。

「クリス! 何故あなたがエルモンドと!?」

 エミリアの問いに、クリスは少し申し訳なさそうにしながら顔を背けた。

「ごめんねアーサー。 ぼく、本当のご主人様を思い出したんだ」

 そう言うクリスの視線の先にはラミーアの姿があった。

「あなたまで、私達を?」

「おっと、彼女を責めないでおくれよ。 彼女は長い時を待ち続けていただけなんだ。 何を待っているのか? なんで待っているのかすら忘れる位長い時をね。 その仮定で、君は彼女の一時的な宿り木になってくれたんだよエミリア君」

「何故です? あなたはなんで、こんなことを? 一体何が目的なんですか?」

 ノエルの言葉に、エルモンドはラミーアを見上げた。

「実は君達に話したラミーアの事で、少し嘘があるんだよ」

「え?」

「まず、ラミーア封印の理由。 僕はノエル君達にラミーアが増大する魔力に精神が耐えられず暴走したからと言ったけど、それは違う。

ラミーアはアルビアを守る為に自らの肉体と魔力の一部を封印したんだよ」

「どういうことです?」

「さっきフェルペス君が話していたよね? この体にラミーアの魂はない。 だから自分が器になると。 

確かにここにラミーアの魂はない。

だが、別の意思はあるんだよ」

「なんだと!?」

 驚愕するフェルペス達に、エミリアはイタズラのネタばらしをする様に語り出す。

「ラミーアの増大し続ける魔力。 それは強大で、何より強力だった。 そんな魔力がほぼ毎日増え続けている内にある事が起きた。

魔力の一部に独自の意思が産まれたんだよ」

「魔力に意思だと!? そんな馬鹿な!?」

「そう、本来なら絶対あり得ない事だよ。 だけどそれは産まれた。

ラミーアの特異体質による必然か、それとも全くの偶然かはわからないけど、それでもそれは産まれた。

そしてそれは徐々に大きくなり、ある生物的欲求に囚われる。

そう、食事だよ。 生存本能か何かはわからないが、ラミーアから産まれた魔力の意思は、とにかく自分が食する情報を欲した。 そしてそれはやがてラミーアが得る知識だけでは足りなくなった。

もっと知識を。 もっと情報を。

魔力の意思は徐々にラミーア本人を蝕み始めた。

ラミーアはそれに気付きこのままでは暴走すると判断し、当時彼女の元にいた最初の五魔であるルシフェルとデスサイズ、そして初代アルビア王により魂と魔力の大半を肉体から分離、肉体には産まれた意思が干渉出来る僅かな魔力のみを残してこうして封印したというわけさ」

 そこまで話すとエルモンドは「ふひひ」と笑った。

「だけど魔力の意思もそこで終わらなかった。 意思は残った魔力を少しずつ消費しながら、自分を復活させられる者を探した。

自分と同じ、知識や情報に貪欲でそれを得るならなんでもする様な、そんな人物を」

 その瞬間、ノエル達は理解した。

 何故エルモンドが魔力の意思に協力したのかを。

 エルモンドは己の知りたいものに関しては自分の体を危険にさらしてまで知ろうとする知識の虫だ。

 その膨大な知識欲は、まさに魔力の意思が欲する器として最適だった。

「その為に、こんなことをしたんですか?」

「僕はねノエル君。 知りたいことが山ほどある。 その最たるものが感情だ。 喜び、怒り、悲しみと言葉にすれば簡単だけど、感じ方は個人個人で全く異なる。 同じ大事な人間を失ったとしても、その悲しみの大きさや感じ方は個人で全然違うだろ?

 他人にとって大したことなくとも、その本人には自ら命を絶つほどの苦しみになっているものもある。

 痛みもそうだ! 同じ怪我でも人によって感じ方は全く違う!

 それらは全て、数値や表では決して表すことの出来ない、そして他人には理解できないその者だけが持つ知識と経験だ!

 この魔力の力があれば、僕はそれらを知ることが出来る!

 それだけじゃない! 普通の人間では一生知ることの出来ないこの世の理や心理、遥か未来の事象すら知れるかもしれない!

それは僕にとって、まさに至上の喜びとも言えるんだよ!!」

 徐々に言葉に熱を帯びていくエルモンドは狂気染みて見えた。

 と同時に、これがエルモンドの人としての業なんだと思えた。

「あなたの目的がなんだろうと、僕達はラミーアの復活を止めます。 例えあなたと戦っても」

「無駄だよノエル君。 君を含めてこの場にいる者達は既に満身創痍だ。 とても僕達と戦う余力はない。 ああ、クリス君がいるなら、もうこれもいらないね」

 エルモンドは自ら持つ四大精霊の宿る杖をリナ達の方へと投げ捨てた。

「さてと、じゃあ仕上げといこうか」

 エルモンドがラミーアの前に歩み出すと、ノエルとリナ、レオナはそれぞれ黒雷、重力球、ナイフを飛ばし、ギゼルも魔力封じをエルモンドに放つ。

 だがその全てがクリスの盾に全て弾かれてしまう。

「無駄。 いまのみんなじゃ、ぼくには勝てないよ」

「くっ!」

「どけこの野郎!!」

 リナとエミリア、レオナの3人が攻撃を仕掛けるが、クリスはその全てを弾いていく。

 その間にエルモンドはラミーアの前で両手を広げた。

「エルモンドさん!」

「エルモンド! 貴様その様に全てを知りどうすると言うんだ!? 神にでもなる気か!?」

 ギゼルの叫びに、エルモンドはまた笑った。

「ふひひ、それはいい。 神なんてぼくにとって一番縁遠いと思っていたけど、面白い。

“魔人”は今“魔神”となる!」

 エルモンドの言葉に呼応する様に、ラミーアの触手が今エルモンドの体を貫いた。

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