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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
197/360

和解、そして・・・


「ノエル!!」

「リナさっ!?」

 リナが勢いよく抱き締めて来た。

 リナらしからぬ行動に戸惑うノエルの耳元に、絞り出す様なリナの声が聞こえてくる。

「よかった。 よく生きてた」

 心からの安堵の声、それは今までリナがどれだけノエルを案じていたかを表していた。

 守れなかった悔恨、それによる無事かどうか、生きているかどうかという不安。

 それは恐らく、側にいながらノエルを連れ去られたリナが一番大きかっただろう。

 それを出さずに、ただノエルを取り戻すと己を奮い立たせ皆の先頭に立ちここまで来たのだ。

 リナの体についた傷が、どれだけ必死だったかよくわかる。

 それがノエルの無事を確認し、抑えていたものが一気に出たのだろう。

 ノエルはリナの背中に優しく手を添えた。

「ありがとうございます。 迎えに来てくれて」

「当たり前だろが。 約束したろ? 守るって」

 いつものリナの表情に戻り、ノエルも心の底からまた会えてよかったと思えた。

「二人とも随分いい雰囲気ね」

 そんな二人を見ながら、レオナはイタズラっぽくニヤニヤ笑う。

「レオナさん! 来てくれたんですね!」

「勿論。 なのにノエル君ったらリナばかりに夢中なんだもん。 やっぱり人妻に興味ないのかな~?」

「え? 興味って? え!?」

 顔を真っ赤し慌てるノエルに、リナはジロリとレオナを睨む。

「てめぇレオナ! ノエルからかうんじゃねぇ!」

「あら久しぶりなんだしいいじゃない。 それとも、あんたからかった方がいい? 会った早々抱き付いちゃって情熱的ね」

「なんだとアホレオナ!」

「なによバカリナ!」

 いつもの調子で言い合いを始める二人の様子に、ノエルから自然と笑みが零れた。

「父様!!」

 肩を貸す部下を振りほどき、エミリアはフェルペスへと駆け寄った。

「父様! 大丈夫ですか!?」

 心配そうにその手を握るエミリアの顔を見て、フェルペスはもう片方の手でその頬に触れる。

「いつぶりだろうか。 お前の素顔を見るのは」

「父様!」

 フェルペスが体を起こそうとすると、エミリアに付いていた部下がその体を支え手当てをしようとする。

「いや、少し待て」

 フェルペスが制すと、エミリアの後に部屋に入ってきたギゼルに目を向ける。

「陛下」

 跪こうとするギゼルをフェルペスは止めた。

「状況は?」

「現在城外で未だ戦闘中ですが、最高幹部はクリスを除き既に敗走を確認。 拳聖アルゼンも、ギエンフォードに敗北しました」

「そうか。 皆に伝えてくれ。 私が敗北し、戦いは終わったと」

「既に、我が隊の者達通信致しました。 じきに城外、そしてプラネ軍と戦っているティトラ将軍も戦いを止めるでしょう」






「おらぁ!!」

 城外にて、ラグザの大刀とオメガの爪が火花を散らしていた。

 ここまで両者互角の戦いを演じ、双方満身創痍といった様子だった。

「やるじゃねぇか。 こんだけ鬼人(オーガ)と戦える奴なんてなかなかいねぇぞ」

「貴様の評価などどうでもいい。 俺はギゼル様の命を・・・ッ!?」

 瞬間、オメガの様子が変わった。

 耳元に手を当て、神妙な様子で何かを聞いている様だった。

 ずっと冷静だったオメガの変化にラグザが怪訝な顔をすると、オメガは「了解しました」と一言答え、ラグザに向き直る。

「聖帝陛下がノエル殿に敗北された」

「あ!?」

 突然の事実に驚くラグザをよそにオメガは続けた。

「最高幹部もクリス殿以外全員敗北。 故にこれ以上の戦いは意味がない。

即刻戦闘を中止せよとのことだ」

「つまり、俺達の・・・」

「ああ。 貴様達の勝ちだ」

 ラグザは拳を握り締め自分達の勝利を、そして何よりノエルの無事を喜んだ。

 同様の通信が各所に入り、敗北を知った魔甲機兵団の面々は次々に戦闘を止めていく。

 そして他の部隊にも知れ渡り、獣王親衛隊にもその報が届いた。

「ヴォルフ様! 聖帝陛下より通達・・・ッ!?」

 狐の獣人の兵はその光景に思わず体が固まった。

 アクナディンと対峙していたヴォルフは、ボロボロの状態で立ったまま気を失っていた。

 戦っていたアクナディンも、戦いの激しさを語る様に体の各所に傷が出来ていた。

「ヴ、ヴォルフ様・・・」

「ウチの若いのに随分やってくれたのぅラバトゥ王」

 狐の獣人を飛び越え、メロウがアクナディンとヴォルフの間に立ち塞がる。

「お前さんは他の連中に知らせな。 無駄な戦いで怪我させちゃラズゴートにどやされる」

「は、はい!」

 狐の獣人が去ると、メロウは殺気を出してアクナディンを牽制する。

「ほほぉ! 獣王の知恵袋か!? おどれもなかなか楽しめそうじゃのぅ!」

「勘弁しとくれよ。 これでももう体はボロボロなんでね」

 アクナディンに戦闘の意思はないと悟るとメロウは殺気を消した。

「もう察しとると思うが、戦いはこっちの敗けだよ。 あの小僧に聖帝が負けよった」

「ほぉか! やりおったかノエル! やっぱりあいつは大したもんじゃけぉの!」

 嬉しそうに笑うアクナディンだったが、不意に気を失っているヴォルフに目を向ける。

「結局、わしはノエルの所には駆け付けられんかった。 ここまで抑え込まれたんはギエンフォード以来じゃ。 目が覚めたら褒めてやれ。 そいつはこの武王アクナディンに勝ったとな」

「ふん。 きっとこいつは納得しないだろうけどね」

「ならいつでも相手しちゃるわ! そいつとなら、また楽しくやれそうじゃけぇ!」

 豪快に笑うアクナディンに「王の言葉じゃないのぅ」と言いながら、メロウはヴォルフの体を支えた。

「ま、お前さんにしてはよくやったよ、ヴォルフ」





「終わったか」

 目を覚ましたラズゴートは、周囲の様子を見て静かに呟いた。

「うがぅ! ノエル大丈夫なのか!?」

 ジャバに聞かれ、ラズゴートは頷いた。

「様子を見ると、どうやらこっちの敗けの様だ。 つまり、ノエル陛下はご無事だ」

 ラズゴートは複雑な心境だった。

 自分達は敗けた。

 自身もジャバに破れ、それは主を護る武人として情けない結果でしかない。

 だが、悔しさよりもノエルが無事だった事の安堵の方が大きい。

 なんとも中途半端な・・・。

 己の半端な心に苦笑する中、ジャバは嬉しそうに雄叫びをあげる。

「うがああう!! これでラズゴート達とも戦わずに済む! また皆仲良くなれる!」

 純粋に喜ぶジャバの表情に、ラズゴートは「お前は本当変わらんな」とその純粋さを羨ましく思うのだった。

 自分も彼ほど純粋に真っ直ぐ生きられたら、もっと強くなれるだろうか。

 そんな想いを抱きつつ、ラズゴートは腰を上げる。

「なら、わしもノエル陛下やアーサーの所に行くか。 役目は果たせんかったが、せめて主の元へは駆け付けんとな」

「おれも行く! ノエルに迎えに行く!」

「なら、二人で行くとするか! ガッハッハッハッ!」

 ラズゴートはいつもの様に笑い、ジャバと共に城へと向かっていった。






 一方、ティトラ率いるアルビア本軍はエドガー率いるプラネ軍の包囲を抜けようと激戦を繰り広げていた。

 前後挟まれた状態ながらその陣形の一部を崩し、突破する為エドガーと剣を交えていた。

 エドガーの尖槍とティトラの剣がぶつかり、両者一歩も譲らぬ気迫で戦い続けていた。

「何故だ!? 何故コキュートの王が魔帝の子の為にここまで戦える!?」

「魔帝の子じゃない。 民と、私が認めた王の為だ!」

 再び二人の武器がぶつかろうとしたその時、宙に赤い証明弾が放たれた。

「なに!?」

 それがなんなのか分からないエドガーは警戒するが、逆にティトラは全てを悟った様に呆然とそれを見上げた。

「そうか。 フェルペス様が、敗北したか」

 ギゼルの通信を受けたアルファの証明弾により、アルビア軍は聖帝の敗北を知り動揺する。

 だがそれが自分達の敗北と理解すると、戦闘を止めていった。

「どうやら、我らの負けの様だ。 これ以上の抵抗はせぬゆえ、矛を収めてくれないか?」

 ティトラの申し出に、エドガーは構えた尖槍を下ろした。

「承知した。 我らの王は無用な犠牲を嫌う。 これ以上我々もそちらを害するつまりはないので、安心してもらおう」

「感謝する」

 頭を下げるティトラは、聖都の方の空を見た。

 この場で唯一フェルペスの真の苦悩を知るティトラは、敗北したにも関わらずどこか安堵した様な表情を浮かべた。

 エドガーはそれには触れず、指示を出す為にその場を離れた。

「漸く、解放されたのですね。 フェルペス様」







「素早い対応、感謝するギゼル」

「役目を果たせなかった身なれば、この位は当然です」

「いや、皆よくやってくれた。 特に、エミリア」

「え?」

 フェルペスはエミリアの頭に手を乗せた。

 その表情は娘に対する父親の顔だった。

「お前には私が不甲斐ないせいで色々背負わせてしまった。 その中、よく支えてくれた。 ありがとう」

「と、父様、その・・・私は・・・」

「おうおう、随分可愛い顔するじゃねぇか」

 戸惑うエミリアに、リナがノエルを支えながらからかう様に言ってきた。

「わ、私はその、今は皆の前だし!」

「まあいいんじゃねぇか? ずっと甘えてなかったんだし娘らしく甘えろよ。エ・ミ・リ・ア・ちゃん」

「ちょっとリナさん」

 からかうリナをノエルが嗜めると、からかわれ顔を真っ赤にするエミリアは表情を正した。

「ノエル陛下」

「よかったですねエミリアさん。 お父さんに甘えられて」

 再び真っ赤になるエミリアに、ノエルもクスリと笑う。

「お前もやってんじゃねぇか」

「まあ色々ありましたし、少し位は今までのお返しに」

 イタズラっぽく笑うノエルだったが、立ち上がろうとするフェルペスを見て表情を引き締める。

 エミリアもそんなフェルペスに肩を貸し、フェルペスはしっかりとノエルと向き合った。

「ノエル君、いやノエル王。 君の要望通り、我々はラミーアから手を引く」

「それは、本当ですか?」

「この状況で嘘をつけるほど私の肝は座ってないよ。 それに、君の言葉は正直堪えたしね」

 フェルペスはラミーアの封じられた十字架を見上げながら続けた。

「私は、どこか叔父上の最後に囚われていたのだろう。 己を犠牲にしても国の為にという叔父上の王としての生き様にね。 私も王足る者かくあらねばと、ずっと思い込んでいた。 だから自身を犠牲にすることで、国を、そして大切な者達を護ろうとした。 だが、真に大切ならば、生きて向き合うべきだった。 他国とも、この国ともね。 叔父上はともかく、私の行動は確かに逃げそのものだったのだろう」

 そこまで言うとフェルペスはノエルと改めて向き合う。

「まずは、ラミーアを封印し直そう。 そして国民に今回の騒動の謝罪をしなければな。 それで私が王であり続けられるかはわからないが、己の罪と向き合い償っていくつもりだ。 今度こそ、大切な者を見失わない様にね」

 フェルペスはエミリアに視線を向けると、エミリアは穏やかな笑みを浮かべた。

 その光景に、ノエルも頷いた。

「わかりました。 プラネも、アルビアの力となる事を誓いましょう。 貴方達の負担を、共に背負いながらね」

 ノエルが手を差し出すと、フェルペスはその手を取ろうと手を伸ばした。

「ッ!?」

 するとフェルペスは突然ノエルとエミリアを突き飛ばした。

「なっ!?」

「父様!?」

 その刹那、ノエルの手を取ろうとしていたフェルペスの左腕が宙を舞っていた。

「があああああああ!?」

「父様!!」

 腕を斬られ踞るフェルペスにエミリアにエミリアは青ざめ、周囲の皆は警戒を高めた。

「困りますね~。 このままハッピーエンドなんて捻りのない展開は」

 すると、部屋の影から先端から光る刃が出たステッキを持つ軍師が現れた。

「あなたは?」

「貴様軍師! これはどういう事だ!?」

 ギゼルの怒声を無視し、軍師はニヤリと笑いノエル達の方を向いた。

「これはこれは、お初にお目にかかりますノエル陛下。 そして五魔のお二方。

 私はフェルペス陛下の相談役をさせていただいています軍師と呼ばれております。 以後お見知りおきを」

「あなたが、軍師?」

「てめぇがフェルペス達に色々いらねぇこと吹き込みやがッた野郎か」

 敵意と警戒心を露にするノエルとリナ達に対し軍師は余裕を崩す様子なく全体を見渡す。

「まあそうですね。 まさかフェルペス様が敗れるのは予想外でしたが、概ねはそちらの考え通りですな」

「軍師! やはり父様を利用していたのか!?」

 父親の腕を斬られ怒るエミリアに、軍師は嘲笑で返す。

「ふふふ、これはこれはアーサー、いや今はエミリア殿とお呼びした方がいいですか。 そう怒られては可愛い顔が台無しですよ?」

「貴様!!」

 剣を抜こうとするエミリアをフェルペスが制した。

「軍師よ。 お前は、私を利用したのか? ラミーアの力を自分のものにする為に」

「いえフェルペス様。 1つ訂正があります。 貴方を利用したのは事実ですが、私ごときがラミーアの力を手に入れるなど致しません。 全ては我が主様の為です」

「てめぇが黒幕じゃねぇってのか?」

「その通りですよリナ殿。 我が主こそ至高の御方。 あの方こそがラミーアの力を手にするのにふさわしい。 そうでしょう、主様?」

 軍師の視線が自分達の背後に向いている事に気付いたリナ達は急いで振り向いた。

 だが、瞬間その場の全員の動きが止まった。

 特にノエル、リナ、レオナの3人は軍師が主様と呼んだ人物の姿に言葉を失った。

「うそ、でしょ?」

 レオナがそう呟く中、その男はニヤリと笑った。

「ふひひ。 なかなかいい顔をしてるね皆」

 五魔の魔人ルシフェル、エルモンドがいつもの笑みを浮かべながらそこに立っていた。

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