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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
196/360

ノエルVSフェルペス2


「そんな、一体どういうことですか!?」

 自身が最後の生け贄だというフェルペスの言葉にノエルは驚愕した。

 その様子にフェルペスは剣を構えたまま口を開いた。

「そうだな。 その事を話すには君の認識を1つ正さねばならない」

「? どういうことです?」

「今ここに封じられているのはラミーアではない」

「え!?」

 更なる事実にノエルは混乱する。

「いや、ラミーアであることは間違いはないが、正確に言えば違う。 ここにあるのはラミーアの肉体のみであり、魂はいない」

「肉体のみ?」

「そうだ。 そもそも、この封印はラミーアが初代アルビア王に頼み自らの意思で施したものだ」

「一体、何の為にそんな事を?」

「ラミーアが情報を吸収すればするほど魔力を増やす性質なのは知っているね? それは強力ではあるが、ラミーアは自分のその力の危険性にいち早く気付いた。

 そしてこのまま魔力が増えれば自分の精神が壊れることも。

 だからラミーアは肉体と魂を分け肉体のみを封印した。

 既に生み出された魔力の大半も抜き取られ、脱け殻となった肉体は君の後ろにある十字架に縛られ封印された」

 ノエルは振り返り改めてラミーアの封印された十字架を見る。

「じゃあ、どうやってこれを使う気なんですか?」

「それにはまだ魔力を生み出す力は残っている。 その力を利用する為にはラミーアの肉体を復活させねばならない。

 だから生け贄を与え復活するに十分な魔力を生みださせたのだ」

「! まさか、ラミーアの力を利用する方法って!?」

「そう。 最後に生け贄となった者がラミーアの肉体と一体となること。 それがラミーアを確実に制御する方法だ」

 最後の生け贄となることを利用し、ラミーアの肉体に自分の魂を宿す。

 確かにそれならラミーアの力を確実に操れる。

 本来ある筈のラミーアの魂自体がないのだから、恐らく入ることは可能なのだろう。

 だが、それでもノエルは納得がいかない。

「でも、いくらラミーアの体に入ってもそんな魔力を制御出来るんですか!? いやその前に、ラミーア本人が危険性を感じた力です! そんな力を持つ体に魂を宿したら、貴方自身正常でいられるかわからないんですよ!?」

「そこは問題ない。 ラミーアの肉体を手に入れた暁には、私はアルビアの為に魔力を生み出すのみの存在になり2度とこの地下から出ない。

 そうなれば万一暴走しようとも対処出来るし、そもそも魔力を国中に巡らせるから、魔力が増えすぎて精神に異常をきたす可能性も低い。

 そしてその魔力で永久にアルビアを守護し続ける」

「ずっと生け贄を喰らい続ける化け物になってもですか?」

 ノエルの言葉に、フェルペスの空気が変わる。

「貴方の言葉が正しいとしても、今ある魔力だけで国全体を長期間賄うには明らかに足りない。 それはつまり、定期的な生け贄が必要ということ。 貴方はそんなものになってまで、ラミーアの力を欲するんですか?」

「その通りだ。 私に迷いはない」

「何故です!? そんなこと誰も望んでいない! 貴方に託した父も、エミリアさんだって貴方が化け物になることなんて望んでなんか・・・」

「そのエミリアの為に私は化け物になるのだ!」

 フェルペスは話に気を取られているノエルに接近し、その腹に膝蹴りを加えた。

「くはっ!?」

 息を詰まらせるノエルの後頭部に追撃と剣の柄を叩き付ける。

「私は己の弱さのせいで、あの子を私の娘でいられなくしてしまった! 聖王アーサーと名を変え、私の業を背負わせてしまった! 私は、自分で娘を殺した様なものだ!」

 強い悔恨とも思える言葉を聞きながら昏倒しそうになる中、ノエルはなんとか反撃しようと黒刀を振るうがフェルペスはそれを素早くかわす。

「だがそんな思いがありながらも、私はそんなあの子に頼るしかなかった! それほど叔父上が私に背負わせたものは大きく重い! その重責が、君にわかるか!?」

 フェルペスはノエルの両肩に両手の剣を突き刺した。

「がっ!」

「だから私は誓ったのだ! 例えどんな手段を使おうと、叔父上から託されたものを守り、そしていつか娘をアーサーという重責から解放する! その両方を必ず成すとな!」

「それが、ラミーアですか?」

「そうだ! 軍師に方法を教えられた時は光明が見えたよ!

 これならば私は未来永劫アルビアを守り続けられるし、娘を解放してやれる! 化け物だろうと関係ない!

 不退転の覚悟をもって、私はその二つを成し遂げてみせる!

 ジャッジメントクロス!!」

 フェルペスは刺した剣を交差させ、ノエルの体を切り裂いた。

 斬られたノエルには肩から胸に大きなバツの字が出来、そのまま鮮血を流しながらうつ伏せに倒れこんだ。

「おっと、まだ死なないでくれ。 死んでしまえばラミーアへの生け贄効果も半減してしまう」

 勝利を確信したフェルペスはラミーアの方へと視線を向ける。

「さあラミーアよ。 新たな贄だ。 これでお前の復活まで後一歩となる」

 フェルペスの言葉に呼応する様に、十字架から黒い触手の様なものが何本も現れノエルを貫こうと迫っていった。

 だがその時、黒い雷がノエルの体から放たれ触手の接近を防いだ。

「まだそんな力が・・・!?」

 フェルペスは立ち上がろうとするノエルの姿に驚く。

 ノエルは黒雷を体に帯電させバチバチと音を立てていた。

 それだけではない。

 フェルペスがつけた傷が赤い氷で塞がれている。

「血を凍らせ止血し、雷で無理矢理体を動かしているのか」

「言ったでしょ? 僕の全てを賭けて貴方を止めると」

 力を振り絞り立ち上がるノエルの周囲に黒炎で生み出した分身が無数に現れる。

 ダグノラ、アクナディン、エドガーといったノエルが対峙した強者と戦い身に付けた力を総動員し、ノエルは更にその身に強化の魔術を施していく。

 クロードから教わった魔力コントロールでそれらの魔術を全てコントロールしながら、ノエルは黒刀を構える。

「それに、今の話を聞いて尚更貴方を止めたくなりましたよ。 エミリアさんと貴方自身の為にね」

 強い眼光で自分を見据えるノエルに、フェルペスはかつての魔帝ノルウェの姿を思い出す。

「私の為だと? 本当にそう思うなら、今すぐラミーアの生け贄となれ!」

 再び向かってくるフェルペスの剣に、ノエルは反応し受け止めた。

「な!?」

 完全に対応された事に驚くフェルペスにノエルは続ける。

「貴方は、残された人間の想いを知っていますか?」

「くっ!」

 フェルペスは返事をせずノエルに攻めかかるが、ノエルはそれら全てに反応する。

 黒雷と肉体強化で身体能力を無理矢理底上げしたことで、レオナとジャバから教わった剣術と気配を読む技術がその真価を発揮していた。

「貴方は自己を犠牲とすることで全てを成そうとしている。 でも、そんな事はただの逃げだ」

「黙れ!」

 フェルペスの剣をすり抜け、ライルに習った拳をフェルペスの腹に叩き込む。

「ぐっ!?」

「僕は父さんが自分を犠牲にしてアルビアを救ったと思っていました。 でも違う。 父さんはもっとも楽な道を選んだだけだ。 今の貴方を見てそう思いましたよ」

「な、にを言っている?」

 自身の父親まで非難する様な事を言い始めるノエルに戸惑いながらも、フェルペスは剣を振るう。

「確かに自分が犠牲になれば全てが丸く治まる状況は理解出来ます。 でもそれは、残された人達に本来自分が背負うべき苦しみや重荷を背負わせることになる。 貴方が父にアルビア再興の重荷を背負わされた様に」

 ノエルは生み出した黒炎の分身と共にフェルペスに応戦する。

 炎の分身達は自らフェルペスの剣を受けに行き、その身でフェルペスを焼いていく。

 更に床に流れ込んだ水を媒介に黒氷がフェルペスに襲い掛かる。

「舐めるな!」

 フェルペスは黒氷を全て切り裂き、その風圧で分身を吹き飛ばす。

 その隙にノエルはフェルペスへと接近し、二人の剣がぶつかり鍔迫り合いの形となる。

「貴方は、エミリアさんを解放すると言っていましたが逆です。 貴方がしようとしていることはエミリアさんを更なる重荷を背負わせる事です。 それだけじゃない。 貴方は、エミリアに父親を死なせてしまったという十字架を、一生背負わせることになるんですよ」

 2本の剣でノエルの黒刀を受け止めるフェルペスだったが、徐々に押し返されていく。

「私は、私はアルビアとエミリアを・・・」

「だったら何故向き合わない!

 エミリアさんや他の国の王と何故正面からぶつからない!?

 誰とも向き合わず自分だけで決めて犠牲になるなんて、そんなこと馬鹿げてる!

 もっといい方法があるかもしれないのに、もっと皆が喜ぶ方法があるかもしれないのに、それを探す苦しみを味わおうとしない!

 それが、貴方や父さんの弱さだ!」

 まるでリナの様な意志の強さを示すノエルの力は更にその力を増す。

 その時、不意に覚えのある気配を感じそちらに意識を向けた。

 するとノエルの開けた穴から駆け込んでくる、戦いを終えたリナと、部下に肩を貸されたエミリアの姿が映った。

「エミリア・・・」

 瞬間、フェルペスの剣が2本とも砕け、ノエルの黒刀がフェルペスの体を切り裂いた。

 同時に、限界を迎えていたノエルも膝をつき黒刀で体をなんとか支えている状態だった。

「父様!」

「ノエル!」

 エミリアとリナの声を聞き漸く二人の存在に気付いたノエルの耳に、フェルペスの声が響いてくる。

「父様か。 久しぶりにそう呼ばれた」

 肩で息をしながら、ノエルは倒れるフェルペスに顔を向けた。

「エミリアの顔が目に入った時、君の言葉過ったよ。 そして思ってしまった。 この子に君の言った様な重荷を背負わせたくないとな。 そう思った瞬間、もはや体に力は入らなかったよ」

「フェルペスさん」

 フェルペスは小さく息を吐くと、ノエルに告げた。

「この戦い、君達の勝ちだ、ノエル君」

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