ノエルVSフェルペス
片膝を付くノエルは肩でかなり消耗していた。
体には剣で斬られた傷が幾つもあり、そこから血が流れ出ている。
「くっ!」
ノエルは足に黒魔術の強化を行うと一気に飛び出た。
黒炎を強化魔法を纏わせた黒刀をフェルペスに向かい放つが、フェルペスは最小限の力でそれをかわし、その勢いを利用し側面からノエルを斬りつける。
右脇腹に新しい傷が出来、ノエルは距離を取る様にその場から離れる。
(強い・・・)
ノエルは純粋にそう思った。
フェルペスはアーサーの様な速さを主とする戦い方をする。
しかも力の使い方が上手くどれだけ攻めても先程の様に最小限の力で反撃されてしまう。
その証拠に傷だらけのノエルに対しノルウェは“ほぼ”無傷。
周囲にはノエルが放った黒炎や黒雷の残り、ノエルがどれだけ攻めたのかがよくわかる。
それでもこの差だ。
自分の父親を倒した男の実力を間の辺りにしながらノエルは黒刀を握り締めると構える。
「まだ闘志が消えないか」
「リナさん達が戦っているのに、僕が簡単に折れる訳にはいかないでしょう。 それに、わかったこともありますしね」
「ほぉ? なにかな?」
「貴方は、聖王アーサーよりも弱い」
ノエルの指摘にフェルペスはピクリと反応する。
「貴方は確かに強い。 それでも、前に見たアーサー殿の動きには及ばない」
確かにフェルペスは速い。
だがアーサー程の速さを感じない。
だからこそ僅かとはいえフェルペスに攻撃を当てられた。
「・・・やはり叔父上の子か。 いい目をしている。 確かにアーサーの実力は既に私を凌駕している。 だがそれがどうした? それが君が私に勝つ材料になるとは思えないが?」
「攻撃が当たるだけでも、アーサー殿を相手にするよりは勝機はありますよ」
無論、それだけではない。
フェルペスはどこか消耗を抑える様な戦い方をしている。
それはつまり長くは戦えない何かがある。
そこにノエルの勝機がある。
だがそんなノエルの考えを見透かす様にフェルペスは自ら接近してきた。
「なっ!?」
「君が何をしようとしてるかは大体予想が付く。 なら、早々に終わらせてもらうだけだ」
スピードを上げるフェルペスに対しノエルは黒炎の分身を出し迎撃する。
フェルペスは分身を軽く斬り裂きノエルへ迫る。
ノエルは強化魔術で身体能力を上げなんとか距離を取ろうとする。
「残念ながら、私は君を舐めてはいない。 だから油断も何もなく、冷静に君を処理させてもらう」
動きを読んだフェルペスはノエルの背後に回り込むと両手の剣を振るう。
ノエルは分身と二人で剣を受け止めるが弾き飛ばされてしまう。
フェルペスは追撃に斬撃を何発か飛ばすが、ノエルは黒雷でそれをなんとか防ぐ。
優勢なフェルペスだが、言葉通りその姿に油断は欠片もない。
何故なら、現時点でノエルは魔帝ノルウェを越えていたからだ。
勿論戦い方も経験も違うから一概にノルウェより強いとは言えないが、一点だけ確実にノルウェを越えている部分がある。
それは同時に使える魔術の数。
ノルウェが使えたのは黒の魔術を含めて同時に3つ。
これまでの戦いでノエルは少なくとも4つは使っている。
ただ1つ多いだけだが、それだけで使える戦術は確実に増える。
同時にそれだけの魔術を操り、分身まで生み出す精密さを保持するノエルの技量はノルウェ以上と判断せざるおえなかった。
加えて、ノエルの成長速度はフェルペスから見ても驚異だ。
(五魔に鍛えられた成果か。 本当に惜しい人材だ)
加えて、ノエルの成長速度は驚異だった。
短時間の戦闘で自分の速さに僅かとはいえ対応し始めている。
完全に対応出来る様になる前に、確実に倒さねばならなかった。
フェルペスは追撃の手を緩めず剣を振るいノエルを追い詰めていく。
ノエルは打開しようと黒雷を放つが、雷の速度でもフェルペスは捉えられず壁へと激突する。
「よく頑張ったが、あまりアーサー達に任せきりな訳にもいかない。 せめて一瞬で終わらせる」
フェルペスはそのまま、両手の剣を振るいノエルの首筋に刃が迫る。
「まだですよ」
すると突然フェルペスとノエルの間に巨大な何かが飛び出してきた。
弾き飛ばされたフェルペスが体勢を立て直すが、すぐに気配に気付きその場を飛び退く。
すると先程まで場にノエルの黒刀が横凪ぎで振り抜かれていた。
着地したフェルペスの頬に一筋の傷が浮かび上がる。
初めてまともな傷を付けられた事に驚きながら先程地面から飛び出したものを見ると、それは漆黒の氷柱だった。
「氷だと? これ程多用な魔術をこの短期間で同時に扱うなど・・・」
そこでフェルペスは何かに気付いた様に先程かわした黒雷の先を見る。
壊した壁の先にはノエルと会談した花の部屋があり、そこの小川から水が部屋へと流れ込んでいた。
「確かに、僕の力じゃまだ5つの魔術を使うのは無理です。 ですが媒介があれば、話は別です」
「そうか。 川の水を使い術の発動の補助に使ったということか」
「ええ。 ある人のお陰で元々イメージはありましたからね」
ノエルの黒氷の氷柱はかつて戦った元コキュートの王エドガーのものとよく似ていた。
「僕は五魔以外にも、これまで何人もの強者や王と会ってきました。 その全てが僕の力です。 その全てを駆使して貴方を倒します」
力強く言い放つノエルに、フェルペスは小さく笑んだ。
「今までいい経験をしてきたようだ。 その知識、ラミーアの生け贄とするのにふさわしい」
全くぶれないフェルペスに、ノエルは構えながら問いただす。
「何故そこまでラミーアに拘るんです? そもそも、どうやってラミーアを制御するつもりなんですか?」
「先程言っただろう? ラミーア復活に必要な生け贄は後二人。 一人は君で、もう一人は誰だと思う?」
ノエルは少し思考すると、驚愕した様に目を見開いた。
「まさか、貴方は!?」
「その通りだよ。 ラミーア最後の生け贄は、この私だ」




