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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
191/360

魔人VS聖盾2


 もしギゼルがこの場にいれば「あり得ない!」と驚愕しただろう。

 ギゼルでなくとも、魔術に精通した者達はこのエルモンドの行為を信じられないと叫び、恐怖する者も現れるだろう。

 それほどエルモンドのしたことは規格外であり常識外れであり、決してあり得ない行為だった。


 エルモンドは今、精霊を体に纏ったのだ。

 タイタンを鎧に、シルフィーを靴に、ウンディーネを盾に、そしてイフリートを剣とすることでその身に宿した。


 精霊と人間では魔力の質も量も違う。

 精霊の魔力は人間より遥かに強力であり、逆に人間の体は精霊の魔力を受け入れるにはあまりに脆弱過ぎる。

 つまり、強力で大量の魔力を宿す精霊をその身に取り込むという行為事態ある種の自殺行為と言っても過言ではないのだ。

 ましてやエルモンドが宿したのは精霊の中でも最上級の力を持つ四大精霊。

 もし1体でも体に取り込もうとするならば、どんな熟練した魔術師であろうとその巨大な魔力に耐えきれず確実に死ぬ。

 それは精霊と友好関係を築けていても同義だ。

 精霊とどんなに固い絆で結ばれ協力的だとしても、人間である限りそれを覆すことは不可能なのだ。


 だがエルモンドはそれをした。

 四大精霊全てをその身に宿し、今もこうして生きている。

 世界の摂理から外れていると言える様な現象を、彼は今起こしているのだ。

 そんなエルモンドと対峙し、クリスが思わず呟いたのは「きれい・・・」の一言のみ。

 巨大な魔力で輝くエルモンドの姿に、クリスはまるでオーロラでも見たかの様に看取れていた。

「ふひひ、この姿を見てそれだけとは、なかなかの大物じゃないか」

 例え魔力に関して初心者でも、ある程度の実力者なら今のエルモンドの姿が異常だということくらいわかる。

 だがクリスはそんな様子もなく、変わらずマイペースに思った感想を口にするのみ。

 その反応はエルモンドの欲求を更に刺激する。

「やっぱり君の事が気になるな~。 よく教えてよ。 たっぷり僕の事も教えてあげるから」

「おじさんのこと? それっておもしろいの?」

「ああ。 さっきより確実に楽しめるのは保証する、よ!」

 そう言うとエルモンドは突風の様にクリスへと向かっていく。

 肉体を動かすことが不得手なイメージの普段とは比べ物にならないスピードで接近するエルモンドに、クリスは横凪ぎに盾をぶつける。

 だがそれはウンディーネの盾により防がれた。

 まるで水を叩いた様な手応えに戸惑うクリスを、エルモンドは力を込めて弾き飛ばす。

 タイタンを思わせるその怪力に吹き飛ばされるクリスだがすぐに体勢を立て直して着地する。

 するとすぐ追撃にエルモンドは燃え盛る炎の剣を振り下ろした。

 クリスは両腕の盾を構えて受け止めると、強い衝撃がクリスにのし掛かる。

 とてもエルモンドの細腕で放っているとは思えない力に、クリスは初めて危機感を覚えて盾を斜めにして剣をズラし、その隙に滑る様に横へと逃げた。

 クリスは盾を見ると、直接受け止めた右手の盾に亀裂が出来ている。

「うそ? なんで?」

 今まで完全に防いでいたエルモンドの攻撃に盾が傷付き、クリスは首を傾げる。

 不思議がるクリスの耳にまたあの笑い声が聞こえてくる。

「ふひひ、簡単だよ。 確かに魔力を無効化する君の力の前では精霊は無力だ。 でも今彼等は僕が纏っている。 そうすることで魔力ではない物質的な力を発揮する事が可能になったわけさ」

 かつてレオナもクリスの盾に小さな傷を付けたことがあった。

 更にクリス自身にもワイヤーを使い出血させるだけの傷を付けた事もある。

 それはレオナの技があればこそなのだが、それは物理的な攻撃は効くという何よりの証拠に他ならない。

 精霊を構成するのは魔力だが、エルモンドを介し物理的な影響力を強めたことで魔力に頼らずとも十分な攻撃力を発揮出来る。

 それにより魔力の無効化による影響もほぼ消え、クリスにダメージが通る様になったのだ。

「そして、こんなのも君には有効だろう?」

 エルモンドが剣を横凪ぎに振るとその風圧で鎌鼬が起きる。

 それらはクリスに向かうが、先程の様にクリスは盾で防いだ。

 が、盾で覆いきれていない部分に小さな切り傷がいくつか出来る。

「魔力が通じないなら、魔力の宿らない攻撃をすればいい。 簡単なことだよ」

 魔力の宿らない物理的な鎌鼬も、当然クリスの魔力の無効化は通じない。

 クリスはキョトンとしながら、エルモンドを見つめる。

「おじさん、なんなの? 本当に人間?」

「君にそう言われるとは思わなかったね。 でも、そういう新しい反応を見れるのは嬉しいね」

 変わらぬエルモンドに、クリスは顔を曇らせる。

「おじさん、危ないひと。 だからもういいや」

 クリスは急に速度を上げるとエルモンドの背後に移動する。

 反応が遅れたエルモンドはクリスの盾の一撃をその背中に受けた。

「ぐっ!?」

「おじさんと遊ぶの楽しかったけど、なんだかおじさんこわいや。 アーサーの為に倒しちゃうね」

 クリスは同じ様な動きで何度もエルモンドの隙を突き盾の一撃を放っていく。

 物理防御も上がっているとはいえ、その一撃一撃は着実にエルモンドを削っていく。

「力が強くても、速く動けても、ぼくの動きにぜんぶ反応出来るわけじゃないでしょ? それに、魔力の鎧ならぼくのちからで無効化できるんでしょ?」

「学習能力もなかなかいいね。 じゃあこれはどうだい?」

 エルモンドは即座に振り返ると剣から炎を射ち放つ。

 他の精霊の魔力も合わさりイフリートの時よりも巨大となった炎がクリスを包み込む。

「? おじさんどうしたの? 魔力はぼくに効かないんでしょ?」

 巨大な業火の中盾を構えながら首を傾げるクリスにエルモンドは変わらず笑んだ。

「さあどうだろうね? なら次はこれで行こうか?」

 今度は盾を前に出しその前面から巨大な水流を出しクリスに放つ。

 だが水流は熱で赤くなった盾に簡単に防がれてしまう。

「だからなんなの? おじさんなにがしたいの?」

 その瞬間、クリスの巨大な盾がピキッと音を立てた。

 そして先程より大きな亀裂が両手の盾に入る。

「え? なんで? 魔力は効かないんじゃないの!?」

 混乱するクリスに、エルモンドは級接近し剣を振りかざす。

「魔力は効かなくても、熱は効くもんだよ」

 エルモンドの狙いは炎の直接的なダメージではなく、その時発生する熱にあった。

 炎が効かなくとも、盾自体はその時発生する熱により徐々に熱されていく。

 その証拠に炎が止んだ直後の盾は赤くなっていた。

 そんな熱を帯びた状態を水で一気に冷やされ、盾は金属疲労を起こし一気に脆くなってしまったのだ。

 エルモンドの剣でクリスの盾は音を立てて砕け散った。

「あ、ああ~!!」

 クリスは慌てて盾の破片を広い集めようとするが、それはなんの意味も為さなかった。

「ど、どうしよう! アーサーから、アーサーから貰ったのに!」

 初めて取り乱し動揺するクリスはエルモンドの事も忘れ盾を集めようと床に意識を集中する。

 その首筋に、エルモンドの剣が当てられた。

「僕の勝ちだね」

 首筋に剣を当てられながらも、クリスは動揺したままエルモンドにすがる。

「ねぇ返してよ! あれアーサーから貰った宝物なの! お願い返して! ぼくの盾返して!」

 子供の様に涙を浮かべるクリスに、エルモンドは剣を引いた。

「君は本当に純粋だね。 ある意味僕と似てるけど、それは無知から来る純粋さだ。 僕の知識欲とは違う」

 そう言うとエルモンドはクリスの頭に手を乗せた。

「君の宝物を返してあげてもいいよ」

「本当!?」

「ああ。 でも条件がある。 君の中にある全てを僕に見せてもらうよ。 長い時間の中君自身忘れてしまった君の真実をね」

 エルモンドの言葉の意味がクリスにはわからなかった。

 だがそんなことは今のクリスにはどうでもよかった。

「いいよ! なんでも見て! だからお願い! アーサーの盾元に戻して」

「いいとも」

 瞬間、頭に置かれた手から強い力が放たれた。

 クリスは暫く呆然とすると意識を失い、その場に倒れた。

「なるほど、やはり君がそうだったか」

 エルモンドはクリスに載せた手を見詰めてそう呟くと、タイタンの鉱物を操る力で盾を修復した。

「ありがとう。 君のお陰で、僕の欲求は満たされそうだよ」

 エルモンドはニヤリと笑った。

 だがその笑みは普段リナ達に見せるものとは、まるで別物だった。






地下、ノエルとフェルペスが会談をしていた部屋の1つ前の部屋。

 何もなくただ広く白い空間が広がるこの部屋で、アーサーは一人ノエルとフェルペスへと繋がる扉の前に静かに立っていた。

 だがその静寂は破られた。

 上階へと繋がる扉が轟音と共に破壊される。

「来ましたか」

 アーサーは動じる様子もなく扉があった場所を見据える。

 すると、扉の奥から漆黒の鎧に身を包んだリナが姿を現した。

「よぉ、返してもらいに来たぜ? 色々とな」

 魔王と聖王、この二人の2度目の会合が果たされた瞬間だった。

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