魔獣
今回魔獣登場です
やっと五魔半分出せました(^-^)
ノクラの森、聖都から北西に位置するアルビア位置の大森林だ。
巨木に覆われ昼間でも薄暗く、その回りを囲むように岩山に覆われている。
もし人が使えば、天然の要塞として大いに活躍するだろう。
だがそれは決して叶わない。
なぜなら、そこは獣型や鳥型等魔獣種の魔物の巣であるからだ。
しかも皆力が強く、並の冒険者は勿論、騎士団の人間すら迂闊に踏み入れる事は出来ない。
中には閉ざされた環境だからこそ手に入る貴重な薬草や魔物の素材を求めてやって来る者もいるが、その殆どが魔物の餌となっている。
ノエル達は今その森の数少ない出入口となっている岩山の裂け目から森の中に入ろうとしていた。
「たく、相変わらずここは入るのが面倒だな」
狭い裂け目の道を移動しながら、リナは愚痴を言った。
その幅は狭く、リナやリーティアはまだ普通に通れるが、ライルはかなり窮屈そうだった。
「リナさんは来たことあるんですか?」
「昔な。 あいつを五魔にスカウトする時俺も一緒に来たんだよ」
「大森林の巨人って、当時噂になってましたからね」
リーティアの言葉に頷きながら、ノエルは漸く裂け目を抜ける。
「うわぁ・・・」
ノエルはその光景に息を飲む。
10メートルを超える大木が多くあり、見たことのない植物が生い茂っている。
僅かに射し込む太陽の光により、神秘的な雰囲気を醸し出していた。
「結構すげぇだろ?」
「ええ・・・こんなところ初めて見ました」
「そりゃそうだ。 お前が育った田舎にはない植物ばかりだからな」
ノエルの育った場所も、山もあり自然豊かな場所だった。
だがそれとは明らかに空気が違う、まるで別世界の様だった。
「あ、姉さん・・・ちょっと待って・・・」
「漸く抜けたか。 よし。 さっさとジャバ見付けるか」
「あ、姉さ~ん」
ライルの悲痛な叫びを無視して、リナ達は先に進む。
もっとも、ちゃんと付いてこれる体力がある事はわかっているからの行動だが。
予想通りライルはヘトヘトになりながらリナ達に付いていく。
「しかしあいつどうしてっかな?」
「会うなり飛び付いてくるかもしれませんよ? リナの事大好きでしたから」
「勘弁しろよ・・・」
ため息をつくリナを見ていると、ノエルはあることに気づく。
「そういえば魔物が全然出てきませんけど・・・ここって魔物や魔獣が沢山いるはずじゃ・・・」
「ホーンラビットがデスサーベルタイガーに襲いかかると思うか?」
「ああ、そう言うことですか・・・」
擁するに、リナやリーティアを恐れて近寄ってこないと言うことだ。
事実ここの魔物達は利口なものが多く、この前のロックワームの様に食欲のみで襲ってくるような真似はしない。
「ていうかノエル。 今回随分余裕じゃねぇか? この前クロードに会う時なんか緊張しまくってたくせに」
「いや、もう色々吹っ切れまして・・・まあ噂に振り回されるのは止めようかなって」
巨人の様な巨体に天を突く様な2本の立派な角を持ち、その怪力で山をも砕くと言われ、凶暴極まりない化け物・・・というのが世間のジャバウォックの噂である。
ただ現に魔王は可愛い女性、魔竜は人形使いと、噂とはかけ離れた姿をしていたことに、ノエルはそれを于のみにするのを止めた。
「きっとジャバウォックさんも誇張されてると思うんですよ。 だから変に気張るのも逆に疲れるだけかなと」
「まあ、確かに少し誇張してっかな・・・ん?」
リナが何か考えるように頬をかいていると、何かに気付き下を向く。
「どうしましたリナさ・・・え?」
今度はノエル達にもわかるような違和感。
地面が揺れる様な感覚・・・しかもそれは徐々に大きくなり、地響きと呼べるレベルにまでなっていく。
「なな!? なんなんだよこりゃ!?」
「何かが・・・近づいてきている!?」
慌てるライルとノエルをよそに、リナとリーティアは地響きの元と思われる方向を見た。
「・・・もう来やがったか」
「相変わらず速いですね」
まさか・・・と思いノエルが同じ方向をを見た、その時だった。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
全てを吹き飛ばす様な雄叫びが大森林全体に響くと同時に、木を薙ぎ倒し巨大な怪物が現れた。
「ぎゃあああああああああ!!?」
ライルが叫び声を上げ、ノエルは思わず後ずさる。
8メートルはあるだろう巨大な体躯、強固な筋肉に覆われ、牙を剥き出しにしている。
腰と背中、腕に獣の毛皮で作った腰簑や小手をまとい、頭には巨大なヘラジカの骨を被っている。
その姿にノエルは直感した。
これが魔獣・ジャバウォック、通称ジャバなのだと。
「どこが誇張されてるんスか!?」
「いや、巨人ってのは言い過ぎかなと思ってよ」
「充分巨人レベルっスよあれは!?」
思わずツッコむライルを尻目に、リナとリーティアはどこか厳しい表情をしている。
「ウガアアアアアアアアアアアアアウ!!!」
するとジャバはこちらに気付き、両手を地面に付き四足動物のように突進してきた。
「おい、逃げるぞ」
「へ? ちょちょ! 待って~!!」
リナの一言でノエル達は一気に走り出す。
ジャバは咆哮をあげながらリナ達目掛け猛スピードで追いかけてくる。
「ちょっと姉さん!? なんで逃げんスか!? もしかして抱き付かれんの嫌なんスか!?」
「下らねぇ冗談言ってんなら囮にすっぞ!?」
「すんませんした!!」
「でもなんでジャバウォックさんが追いかけてくるんですか!?」
「知るか! 少なくとも、ありゃ正気の目じゃねぇ」
ジャバの目は血走りっており、理性は欠片も感じられなかった。
なにより、その体全体から荒々しい殺気が溢れている。
「姉さん! なんとか止められねぇんスか!?」
「出来るならやってる! つかお前奴の世話係りになったんだから何とかしろ!」
「無理に決まってるっしょ~!!」
「こんな時に言い争ってる場合じゃないでしょ!? とにかくどこかに隠れないと!」
「皆様! 此方です!」
ノエルが突然した声の方向を見ると、そこには黄木な洞窟があった。
「お前ら! あそこに飛び込め!」
リナの言葉に従い、四人は洞窟に飛び込んだ。
洞窟は坂になっており、四人は滑り降りていく。
「のわああああ・・・グビャ!?」
ライルが着地に失敗するのをよそにノエル達は洞窟のそこに降り立った。
「・・・ここは?」
ノエルが辺りを見回すと、そこは大きな空間が広がっていた。
少し硫黄の様な匂いがするが、それより気になったのは、洞窟の中か昼間の様に明るい事だった。
「リナさん、ここって・・・」
「おお! 皆様ご無事でしたか!」
ノエルがリナに聞こうとすると、前から声がした。
ノエルが振り向くと、そこには大柄で鬼の様な形相の・・・というより、緑色の鬼の様な人物が立っていた。
「久しぶりだなゴブラド。 お陰で助かったぜ」
顔見知りの様に話すリナの横で、リーティアからクロードが出てきた。
「お久しぶりです、ゴブラド殿」
「リナ様、クロード様・・・リーティア様も・・・ああ、こうして皆様と再びお会いできるとは・・・このゴブラド、歓喜の極みにございます」
リナ達を見てゴブラドは恭しく頭を下げる。
「よせよ、大袈裟だな」
「あの・・・リナさん、この人は?」
「おお、こいつはゴブリンのゴブラドって言って古い仲間だ」
「ゴブリンって・・・あの亜人の?」
亜人とは、普通の人間とは異なる姿、または能力を持つ一族の総称であり、エルフ、ドワーフ、獣人、トロル等多くの種族が存在する。
ゴブラドはその中のゴブリンという小鬼の種族だ。
「お初にお目にかかります。 ゴブリンのゴブラドと申します。 以後お見知り置きを・・・と、悠長にしておれませんな。 ここではまだ匂いが外に漏れる可能性がありますので、どうぞ奥へ」
初対面のノエルとライルに丁寧に自己紹介しながら、ゴブラドはノエル達をしている奥へと案内した。
暫く進むと、大きな屋敷に辿り着く。
近くには畑もあり、他のゴブリンが何体か働いている。
ノエル達は屋敷に入り、応接間へと通された。
「ささ、お掛けください・・・と申しても、ここの真の主はリナ様達ですが」
「細かいことは気にするなって。 殆どお前らのもんみたいなもんだろが」
そう言いながらリナは椅子に座り、ノエル達も続いた。
するとゴブリンの女性が丁寧な仕草で紅茶を出してくれた。
「そうですよ。 ここを10年間守ってくれたのは貴方達なんですから」
「10年?」
「そう、10年。 こここそ俺達五魔の移動拠点だ」
「「え!?」」
リナの説明にノエルとライルは驚きの声を上げた。
「ちょっ待て姉さん! この屋敷が動くのか!?」
「いや、動くのは洞窟だ」
「・・・へ?」
リナの言葉に、ライルは間抜けな声をあげる。
「流石にはしょりすぎだよ。 正確には、ここは洞窟じゃない。 巨大な蛇の腹の中だよ」
「「・・・え?」」
クロードの言葉に、今度はノエルまで変な声を出してしまった。
「蛇って・・・あの・・・蛇?」
「・・・ぎゃあああ!? 俺ら溶かされぐうわ!?」
「やかましいわ馬鹿ライル!」
「正確には腹の一歩手前だよ。 世界でも珍しい巨大蛇アーススネーク。 名をラクシャダだ。 ちゃんと飼い慣らしているし問題ないよ」
「問題ないって・・・」
「それで、私達が解散した後、ここの管理をしてくれていたのが、ゴブラド殿とゴブリン達なんだ」
「聞いて驚け! ゴブラドはな、ゴブリンの王様、ゴブリン領主なんだぜ!」
何故か自分の事の様に自慢するリナの横で、当のゴブラドは「お恥ずかしい・・・」と照れていた。
聞けばゴブラドはゴブリンの中でもかなり特殊な存在らしい。
本来ゴブリンは背も小さく力も弱い。
何より亜人に分類するのもどうかというほど頭が悪かった。
そんな中現れたのがゴブラドだ。
ゴブラドは平均140前後のゴブリンの中で2メートルという巨体、発達した筋肉も持ち、何より知性と理性を兼ね備えていた。
ゴブラド他所からは知識を吸収し、仲間のゴブリン達に根気よく教えていった。
その結果、ゴブリン達の知性と能力は格段に上がり、ゴブラドはゴブリンロードとして崇められるようになったのだという。
クロードがゴブラドに敬語を使っているのも、ゴブラドの功績に敬意を払っているからだそうだ。
「あの、リナ様、クロード様。 そろそろそちらのお二人の事を教えていただきたいのですが」
流石に恥ずかしかったのか、ゴブラドは恐る恐る話に割って入る。
「と、悪い悪い。 このでかいのがライル。 俺のパシリだ」
「舎弟っス!」
「で、この鎧が・・・」
リナが目配せすると、ノエルは兜
を取り素顔を出した。
瞬間、ゴブラドの表情が一変する。
「初めまして。 ノエル・アルビアと申します。 今リナさん達と旅を・・・ゴブラドさん?」
ゴブラドは信じられないものを見た様に動揺しながら、ノエルに歩み寄る。
「ノエル・・・アルビア・・・ノルウェ様の・・・ご子息様ですね?」
「は、はい・・・そうです」
瞬間、ゴブラドはその場に崩れ落ち、その瞳から大量の涙が溢れ出る。
「ゴブラドさん!?」
「ああ・・・ああ・・・なんということか・・・まさか陛下の・・・ノルウェ様のご子息に、この様な形でお会いできるとは・・・なんたる天の巡り合わせか」
ノエルの素性を知ったゴブラドは、感涙を禁じ得なかった。
突然の事に困惑しながらも、ノエルはゴブラドの視線に合わせる様に屈んだ。
「えと・・・顔を上げて下さい。 僕はそんな・・・」
「ああ、申し訳ございません。 ついとり乱してしまい・・・」
「いいえ・・・あの、父さ・・・父とはどの様な・・・その、関係だったんですか?」
「ノルウェ陛下は・・・貴方の御父上は我らゴブリンの・・・いえ、亜人の恩人です。 今日我らがこの国でこうして生きられるのは、あのお方のお陰なのです」




