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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
189/360

魔器VS 聖人2


 再び動き出したオミクロンの拳がレオナに向かい振り下ろされる。

 レオナそれを避けると腕の上に乗り、駆け上がりながら腕を斬りつけていく。

 だが火花が起きるだけでオミクロンの腕には傷1つ付かなかった。

『無駄だと言っているだろう!?』

 ギゼルはオミクロンを操作しレオナを振り払った。

 そこへ追撃と両手の平から熱線を何発も放っていく。

 レオナはワイヤーを手から出し持ち前の素早さをフルに使いながらそれを避けていく。

『やはり遠距離からでは無理か』

 ギゼルは足元に斥力を発生させ加速し、レオナへと急接近する。

 レオナは辛うじて避けるが、その速さはオミクロンのモデルとなったジャバを越えていた。

「でも、そんなに甘くないわよ」

 オミクロンが振り返ろうとすると、かわす時に仕掛けられた幾つもの鉄線が全ての関節に巻き付けられていた。

「鎧の弱点は関節って相場が決まってるのよ」

 レオナは手の鉄線を思いきり引っ張ると、関節から火花が飛ぶ。

『甘いわ!』

 オミクロンが力を込めると、鉄線は全て音を起てて千切れていった。

『ルシフェルの精霊を計算して造り上げたこの装甲が、そんなちゃちな鉄線ごときで傷付くわけないだろう!』

 向かってくるオミクロンを、レオナは舌打ちしながら避けた。

『どうしたレオナ!? デスサイズとはその程度か!? それとも先程の私の話に同情でもしたか!?』

 痛い所を突かれた様にレオナは顔をしかめる。

 レオナは五魔の中でも特に優しい部類の人間だ。

 繊細で相手に共感しやすく、さりげなく気遣うことが出来る。

 それは人としては利点だが、容赦なく敵を葬る五魔としては枷となる感情だ。

 骸骨兜(スカルヘルム)を被っていたのも正体を隠す意味だけでなく、レオナの場合はそういった感情を封じ込める意味合いもあった。

(だから素顔で戦うのはいやなのよ。 でもね、あんた達には悪いけど、あたしも何がなんでも退けないのよ!!)

 レオナは目を見開き更に武器を産み出した。

 ギゼルの指摘は間違ってはいない。

 話を聞いて揺らいだ所もある。

 だがレオナはそれ以上にノエルを助けたかった。

 皆との新たな場所を、そして何より今も戦っている仲間の想いを守りたかった。

 だからレオナは生じた揺らぎよりも強く大きな覚悟と共に、オミクロンへの攻撃を緩めなかった。

 槍をギゼルの乗っている胸部へ投げると、すぐにハンマーを産み出し振るう。

 槍をくさびにハンマーで強打されオミクロンのボディが軋む。

 だが槍もハンマーも粉々に砕け散り中のギゼルへは届かなかった。

『それも想定済みだ!』

 ギゼルはオミクロンの背中から何本もの触手の様な刃が飛び出しレオナを襲う。

 レオナはそれらを避けるがかわしきれず、鎧の一部が剥がれ所々出血しだす。

『貴様らを研究し尽くし造り上げたこのオミクロンに、隙などない!』

 距離を取るレオナだったが、不意に不敵に笑った。

「研究し尽くした割には再現度は低いみたいね」

『なんだと?』

 反応するギゼルに、レオナは挑発的に続けた。

「例えばリナの斥力。 本当ならあれは防御の要。 完全に再現出来てたなら今頃あたしの攻撃は当たる前に全部弾かれてる筈よ。 クロードのフレアランスだって本物だったらとっくに何発かはあたしを捉えてる。 それにあたしの武器を産み出す力だってそう。 あれは産み出してるんじゃなくて予め仕込んだ武器を使ってるだけ。 全部中途半端なものか見せ掛けだけ。 あんたが自慢してるのはその程度のものよ」

 普段のギゼルなら激昂するしかねない言葉に、ギゼルはあくまで冷静だった。

『確かに、まだ100%の再現は私の技術では不可能だ。 特にディアブロの斥力に関しては移動に使うだけで精一杯だ。 だが、それで十分だ』

 するとオミクロンは斥力を使い高速でレオナに接近する。

『現にこれで貴様に肉薄することが出来るのだ。 この力をフルに使えば貴様を倒すことも可能』

 レオナはワイヤーを出し素早く逃げると、オミクロンはすぐにレオナを追った。

『逃げ切れると思うか!? 先に力尽きるのは貴様だぞ!』

 レオナはワイヤーを巧みに使い研究所の実験広場を縦横無尽に駆け巡る。

 ギゼルもオミクロンを操作し、何度も斥力の高速移動でレオナを追いかけ続けた。

『どうした!? 挑発したわりには逃げてばかりか!? それで勝機などある筈が・・・ッ!?』

 突然、ギゼルは急激な目眩が襲われた。

『ば、馬鹿な? 何が起こって?』

 頭がクラクラし吐き気も催すギゼルはオミクロンを操縦出来ず動きを止める。

「漸くね。 全く手間がかかるわね」

『貴様、なにを?』

「なにもしてないわよ。 ただあんたが自滅しただけ」

『私が自滅? そんな訳が・・・』

「ある程度のレベルの高速移動にはね、体に負担が掛かるのよ。 ましてやリナの斥力を使った高速移動なんて、普通の人間に耐えられる訳ないでしょ? 幾らそんな中に入って衝撃軽減してても、あれだけ連続して激しく動けば、そうなるのは当たり前よ」

 その説明で漸くギゼルは理解した。

 高速移動により強力なGを受けることで脳への血流に異常をきたし最悪失神してしまうブラックアウト。

 ギゼルはその症状に近い状態にある。

「暫くすれば戻るけど、当分はまともな操縦なんて出来ないわよ。 だからそのまま大人しくしておくことを勧めるわ」

『確かに、オミクロンを移動させることは出来ないが、それで勝ったと思われては困る!』

 オミクロンは両手を前に出すとエネルギーを貯め始める。

『研究所を破壊することになるが仕方ない! 最大出力の熱線で貴様を焼き尽くす!』

 ギゼルはオミクロンの両手から極大の熱線を射ち放った。

「そう来ると思ってたわよ」

 レオナは巨大な湾曲した分厚い鉄板を産み出した。

 高熱を受け赤く溶けかけながら鉄板は熱線を受け止める。

 そして熱線は鉄板の形に反って曲がり、ギゼルの乗るオミクロンへと向かっていく。

『ば、馬鹿な!?』

 熱線はオミクロンを直撃し爆炎を上げる。

 熱線を受けたオミクロンは装甲の所々が壊れていた。

『まだだ! これで壊れるオミクロンでは!』

「それだけ壊れれば十分よ」

 一線。

 オミクロンに接近したレオナの剣が、熱線を受け脆くなった胸部を斬り裂いた。

 胸部の装甲が剥がれ、露になったギゼルの胸から鮮血が飛ぶ。

「ぐがぁ!?」

 胸を押さえるギゼルに、レオナは剣を向けた。

「・・・どうやら、ここまでか」

 敗けを悟ったギゼルは潔く諦めた。

「ねぇ、1つ聞いていい?」

「なんだ? 」

「こんな大掛かりなもの造らないで、自分改造した方が有利に戦えたんじゃないの? 今さら自分を実験台にするのを怖がるあんたじゃないでしょ」

 レオナの質問に、ギゼルは「下らんな」と言いながら己の手を見つめた。

「この生身の肉体は、彼等(オメガ達)が手に入れたくてももう手に入らないものだ。 そんな体を、私が自分から捨てられるわけないだろう」

 どこまでもオメガ達を想うギゼルの言葉に、レオナは剣を静かに引いた。

「ま、これ以上やるのはあたしも後味悪いし、これでおしまいってことでいい?」

「構わん。 どのみち私には貴様を止める術はない。 結局、私は何も変わっていなかったしな」

 全てを賭けて望んだ決戦も、己の役目を果たすことすら出来ず敗北した。

 これでアーサー達が負ければラミーアの魔力を使った肉体複製は不可能となる。

 新たな手段を模索するにしても、この後の自分の処遇次第ではそれも叶わない。

 自分はやはり何も守れないのか。

 ギゼルの中にそんな想いが去来する。

「人間なんて、そう簡単には変われないものよ。 それが出来ればあたしだってもっと楽に生きられたし」

 そう言いレオナは手を差し出す。

「それでも足掻くあんただから、オメガ達だってあんたを信頼して付いてきたんじゃないの? もっと犠牲の少ない素敵な方法を見付けてくれるって」

 レオナに差し出された手を見つめ、ギゼルは小さく笑うとその手を取り立ち上がった。

「そうだな。 あの様な他力本願な力に頼るなど、私らしくなかったか」

「あら、やけに素直ね」

「昔の私の方がもっと素直だったよ」

 どこかスッキリした表情のギゼルに、レオナも柔かい笑みを浮かべる。

「じゃあ、リナに追い付かないとね。 傷の手当てしてあげるから、ちゃんと案内しなさいよ」

「仕方ない。 今は勝者に従ってやる」

「本当、可愛いげないわね」

 レオナは苦笑しながら表情を引き締め、リナを追う為ギゼルと共に歩き始めた。


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