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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
182/360

魔獣VS聖獣


 ラズゴートと対峙したジャバは威嚇する様に唸りだす。

 ラズゴートはそれを見て「ほぉ」と顎髭を撫でた。

「随分やる気じのぅ。 お前の事だから多少は戸惑うと思っとったが」

「おれ、ノエル助けるって決めた! それ邪魔するなら、ラズゴートでも倒す!」

 ライノの時の様に躊躇せず自分と戦う覚悟を持つジャバに、ラズゴートは豪快に笑う。

「ガッハッハッ! そいつはいい! そう来なくちゃのぅ! ましてや本気で守りたいもんの為ならモタモタしとる間もないからな! それなら・・・」

 ラズゴートの空気が変わり、巨大斧を構え直しジャバに向き直る。

「言葉は、もういらんな」

 ラズゴートが斧を横凪ぎに振るうのと同時に、ジャバは雄叫びを上げながら拳を振るう。

 一方は圧倒的な体躯を誇る巨人。

 もう一方は鋼の筋肉を持つ武人。

 他の実力者と比べても規格外と言えるパワーの持ち主二人の攻撃がぶつかっただけで、衝撃波で周囲の建物は崩れ瓦礫が吹き飛ぶ。

「どっせいや!!」

 ラズゴートは拳をはらうと飛び上がり斧を降る下ろす。

 ジャバはそれを迎撃する様に再び拳を合わせる。

 空中で踏ん張りの効かないラズゴートは後方へと飛ばされるが、建物の壁に着地しそのまままたジャバへと跳んでいく。

 ジャバも地響きを発生させながらラズゴートへと突進する。

 フェイントも何もない正真正銘のぶつかり合い。

 それは単純ながら周辺の屈強な筈の兵達ですら戦慄するほど激しいものだった。

 三度ぶつかったラズゴートは、そんな周囲の反応とは逆に楽しそうに笑いだす。

「ガッハッハッ! やはり戦いはこうじゃないといかんのぉ!」

「ぐがう!!」

 頭に被った角でラズゴートを弾き返したジャバは近くにあった石造りの建物を掴むと、ラズゴートへもぶん投げた。

「小賢しいわ!」

 ラズゴートは飛んできた建物を斧で打ち砕く。

 だがすぐに次の建物が幾つも飛んでくる。

「ええい! 面倒じゃ!!」

 ラズゴートは両腕に力を込めると、斧を思い切り振り下ろす。

 すると衝撃波で飛んできた建物が全て粉々に砕かれていく。

「さあどうするジャバ!?」

 ラズゴートはそう言うと同時に、自分に巨大な影が覆い被さっているのに気付く。

「うがああう!!」

 ラズゴートが建物に気を取られている隙に、ジャバは飛び上がり回転しながら落下してくる。

「珍しく頭使いよって! ぬおりゃあ!!!」

 ラズゴートは斧を振り衝撃波を放つが、回転するジャバに弾かれてしまう。

「ラズゴート! これで終わる!!」

 ジャバは両手を合わせて握りそのままラズゴートへと打ち下ろす。

 その威力とジャバの重量で打ち下ろした場所を中心に地面が陥没する。

 渾身の力で振り下ろした一撃だった。

 だがジャバはすぐに違和感に気付く。

 土煙が晴れると、ラズゴートは斧を盾にしジャバの攻撃を受け止めていた。

「流石に、ちぃっとヒヤッとしたぞ」

 両腕の筋肉から血管を浮き出させながら、ラズゴートはジャバの両手を押し返す。

「うが!?」

 その勢いにジャバが一瞬怯むと、ラズゴートは間髪逃さずジャバに突進する。

「ずりゃああああ!!」

 斜め一閃。

 ラズゴートの反撃の一撃がジャバの胸を捉えた。

 ジャバはすかさず後ろに退くが胸に傷を負う。

「獣同士の戦いで後ろに退いちゃいかんじゃろう」

 ラズゴートは追撃と体ごと斧を回転させ横凪ぎにジャバの腹部を斬る。

「うがああああああああああ!!!」

 ジャバは攻撃を受けながら咆哮をラズゴートに浴びせる。

 ラズゴートは踏ん張り咆哮に耐える。

 そんなジャバにラズゴートは違和感を覚える。

「随分焦っとるのぉ!? そんなにノエル陛下が心配か!?」

 ラズゴートの言葉にジャバは咆哮を止め突進して殴りかかってくる。

(図星か)

 ラズゴートからすればジャバの心情はよく理解出来た。

 大切な者が敵に囚われて安否が不明。

 しかも自分達が救出に来たことで何かノエルに危害が加えられるなる可能性も十分にある。

 リナ達を先に行かせているとはいえ、その懸念が消えるわけではない。

 より早く、より確実にノエルを助けるためにも自分も駆けつけなくては。

 相手が大事ならば大事なだけその気持ちは大きくなる。

 その感情は真っ当であり、ジャバがどれだけノエルを大事に想っているかラズゴートにはよく伝わってくる。

 だが・・・。

「そんなもんで、ノエル陛下が守れるか!!」

 ラズゴートはジャバの拳を斧で弾くと裏拳をジャバの顔に浴びせる。

 そのまま容赦なくジャバの顔面に拳を叩きつける。

「ラズゴート! どくぅ!!」

「どかんわたわけが!」

 ジャバはラズゴートを払い除けようとするが、その拳は斧で斬りつけられ防がれる。

 ジャバの気持ちはよくわかる。

 だが戦士であるならそれは弱さだ。

 他者を心配するあまり判断力もなにもかも落ちる。

 それは結果、守りたい大切な者を危機へと誘うだけだ。

 魔帝ノルウェの元で戦い続けたラズゴートにとって、戦場に立つということはそういう弱さを捨てる事を意味する。

 そうすることで、眼前の敵を圧倒する力を発揮するのだ。

 ましてや覚悟を持って望む戦場ならば、尚更である。

「半端な気持ちで戦場に立つほど、この聖獣は甘くないわ!!」

 ラズゴートは再び斧を叩き付け、ジャバの胸を斬る。

 だがジャバは斧を喰らいながらラズゴートに拳を会わせる当てる。

 二人は互いに吹き飛び、瓦礫に激突する。

 崩れ落ちる瓦礫を吹き飛ばし、ラズゴートはいち早くそこから抜け出る。

「たくっ、格好がつかんわ」

 ラズゴートは血をペッと吐き出すとゴキンと首を鳴らす。

 被っていた兜の角が片方折れておりそれなりのダメージを負っているが、まだ余力は十分だった。

 ラズゴートは吹き飛んだジャバの方を見るが、ジャバは静かにその場を動かなかった。

(あれで決着、というほど簡単な相手ではないからのぅ)

 ラズゴートは気を抜かず斧を構え意識を向ける。

 だがジャバはピクリとも動く気配がない。

(おかしい。 何かの策か? じゃが奴は策を弄する様な奴では・・・)

 その時だった。

 ラズゴートは何かを感じとり思わず後ろに退いた。

(なんじゃこいつは?)

 ラズゴートは己の感じたものがなんなのかわからなかった。

 何故自分が後退したのか。

 その行動から導き出される答えは、1つしかなかった。

(まさか、こいつは・・・)

 ラズゴートが答えに辿り着きそうになった途端、周囲の全てを圧殺するかの様な大きなプレッシャーが包む。

「こいつは、あの時の!?」

 身構えるラズゴートの目の前で、ジャバがゆっくりと立ち上がり始める。

 静かに、だがこのプレッシャーは明らかにジャバから発せられている。

「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 それは普段の心優しいジャバではなかった。

 狂った様に雄叫びを上げ目が血走ったその姿は、まさに血に餓えた魔獣そのものだった。

「あやつ、戻りよったか」

 ラズゴートはジャバの姿に漸く自分が感じたものがなんなのか理解した。

 それは恐怖。

 真の魔獣と化したジャバから発せられるプレッシャーに恐怖し、本能的に後ろに逃げたのだ。

「久しく感じ取らんかったが、なるほどのぅ。 まさか、またお前にビビらされるとはな」

 ラズゴートは過去を思い出しながら地を踏み締め、魔獣と対峙した。


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