偶然の会合
今回はノエルがメインです
なのでリナ達出番少な目(^o^;)
ノクラの森へと歩みを続けるノエル達は、岩山を登っていた。
「はぁ~・・・ちょっ、休憩しないっスか姉さん~?」
「てめぇな、ちょっと前に休憩したばっかだろうが!?」
荷物を持ちひぃひぃ言っているライルに素の状態のリナの怒声が飛ぶ。
ここはノクラの森の手前に位置する場所で、山としてはまだ小さい部類だが、荷物を持たされているライルにはそれでもなかなかキツかった。
「つか姉さん、なんでこんな道通ってんスか!? 下の森通ればいいんじゃないっスか!?」
「最近この近辺でロックワームが増えているらしいんです。 もしワームの群れに襲われている時にまた追っ手と遭遇する可能性もありますから、この道にしたんです」
ごねるライルにリーティアが優しく説明する。
ロックワームとは、この近辺に生息する魔物の一種で、巨大なミミズの様な姿で表面は岩のように固く、頭部の丸い口には鮫のようなギザギザの歯が円の様に何重にも生えている。
その歯で地中の大岩も破壊しながら進めるので、神出鬼没とされ住民や旅人から警戒されている魔物だ。
「噂じゃ近隣の村も被害に遭ってるらしいですね」
「まあな。ま、ここも安全ってわけじゃねぇが、下より出てくる可能性は低・・・」
ノエルの言葉に続こうとしたリナは、下からの気配に顔をひきつらせる。
「おいおいマジかよ・・・冗談じゃねぇぞ」
リナの言葉に察したノエル達は地面から飛び退くと、その場から何体かのロックワームが岩を食い破り襲ってきた。
「姉さん! 話違うじゃないっスか!?」
「うるせぇ! 安全じゃねぇっつったろうが!?」
言い合うリナとライルに、ワームは容赦なく襲い掛かる。
「うっせぇんだよ虫ごときが!」
リナはワームの表面の岩肌を殴り砕いた。
ワームはその場に倒れ痙攣するが、すぐ他のワームが襲ってくる。
無論、数が多くともワームごときで遅れを取るリナ達ではなく、問題なく倒していく。
ノエルも黒炎と体術でワームをいなしていく。
このまますぐ殲滅出来る・・・と思っていたその時、ノエルの足元からワームが飛び出してきた。
完全に無防備だったノエルはなんとかかわした・・・が、バランスを崩し、崖に身を投げ出される。
「ノエル!!」
リナが叫ぶと同時に、リーティアがノエルを助けようと飛翔する。
だが目の前にワームが何体も出現し、リーティアの行く手を遮った。
「どけ~!!!」
遮られたリーティアの脇をすり抜け、リナがワームを蹴散らしノエルに手を伸ばす。
しかし、その手は僅かに届かなかった。
「ノエル~!!!?」
リナの叫びが響く中、ノエルは下に広がる森に消えていった。
目を覚ますと、ノエルは横たわっていた。
まだ覚醒しきらない意識の中周囲を見回す。
そこは森の中らしく、目の前には焚き火、横には自身が被っていた漆黒の兜が置いてある。
「僕は・・・!?」
自分の状況を思い出したノエルは勢いよく起き上がる。
(自分は崖から落ちて・・・それで・・・なんで焚き火が・・・)
ノエルは状況を整理しようとする。
「おお! 目を覚ましよったか!?」
背後から聞こえた大声に振り向くと、大きな老人が立っていた。
その姿に驚き声を失いノエル。
何しろ老人は顎の白い髭とツルツルの頭に似合わぬ程筋骨粒々で、背中に巨大な斧を背負い、片腕で恐らく仕留めたであろう熊を抱えている。
驚いているノエルを見て、老人は可笑しそうに笑う。
「がっはっはっ! なかなか元気そうじゃないか! 安心したぞ小僧!」
豪快に笑うと老人は熊を下ろしノエルの体を触った。
「・・・うん! 痛みが残ってる場所は無さそうだな! 顔の割になかなかタフな小僧だ! がっはっはっは~っ!」
また豪快に笑う老人に、ノエルは漸く自体を飲み込み頭を下げた。
「あなたが助けてくれたんですね。 ありがとうございました」
「いやいや、わしはたまたまお前さんを拾っただけだよ。 まさか崖から落ちて気を失う程度で済んどるとは思わなかったがな! がっはっはっはっ!・・・っと、まだ名乗っとらんかったな。わしはラズってジジィだ!」
「ノエルです。よろしくお願いします」
「おお!がっはっはっは!」
よく笑う人だな・・・と思いつつ、何となくいい人そうだなと安堵した。
「さあ食え! 熊の肉は精が付くからな! と言っても、料理したのはお前さんだがな! がっはっはっは!」
「ありがとうございます」
日が暮れ、ノエルはラズから仕留めた熊をご馳走になっていた。
解体した後ノエルが申し出て調理すると、ラズは感心した様に声を上げていた。
ノエルは食べながらラズに事情を話した。
勿論自分の素性や五魔の事は伏せてだ。
ラズは豪快に肉を食い千切りながら話を聞いてくれた。
「なるほどの、岩山でロックワームの群れにか…運が悪かったのぅ。 普段ならそこらへんには出ないんだが、今年はどういうわけか数が増えてな、そこら中にしょっちゅう出るんだ。 まあそれで怪我がないんだから、運がいいとも言えるがな! がっはっはっは!」
本当によく笑う人だ・・・と思いながら、ノエルは自分の体を見た。
ラズにも見てもらったが、殆ど怪我は無かった。
恐らくリナが落ちる直前に重力を操作して衝撃を和らげてくれたのだろう。
そうじゃなければ、いくら鎧や木の枝がクッションになってもこんなに軽傷なはずはない。
ノエルは自分が落ちる時のリナの顔を思い出した。
必死に自分を助けようとし、間に合わなかった時のリナは、悲しみと悔しさの入り交じった表情をしていた。
リナだけではない。
ライルやリーティアもロックワームを相手にしながら必死に助けようとしてくれた。
(皆・・・心配してるだろうな・・・)
自分の不注意でリナ達に心配させた事に、ノエルは責任を感じてしまう。
「ほれ! 手が止まっとるぞ?」
「あ、はい・・・」
いつの間にか考え込んでしまっていた事に気付き、ノエルは手に持つ肉を一口食べた。
「まあ、お仲間が気になるのは分かるが、起きちまったもんをグチグチ考えても仕方ない。 夜は危険だし、明日近くの村に連れてってやる。そこなら合流もしやすかろう」
「!ありがとうございます!」
「なに、わしも用があるからついでだ、ついで・・・がっはっはっは!」
子供みたいに笑うラズに、ノエルはどこか安心感を覚える。
不思議な人だな・・・ノエルはラズに不思議な魅力を感じていた。
「ほれ! そうと決まったらちゃんと食って休め! それが今お前さんが一番することだ!」
「はい!」
ノエルに元気が戻ると、ラズはまた楽しそうに笑った。
翌日、ノエルはラズの案内で昨日話した村に向かっていた。
「ラズさんは何のために村に?」
「ん? なに、昔その村に世話になってな。 その村がロックワームで困ってるらしいんで虫退治に来たってわけだ」
「そうなんですか。 ラズさんって、凄く強そうですからね」
「なかなかわかっとるじゃないか小僧! がっはっはっは!」
上機嫌で笑うラズだが、実際お世辞抜きにラズは強そうだった。
60前後位とは思えない体躯に堂々とした佇まい、何より背負っている斧はラズの身長並みに大きく、常人では持つ事すら難しそうだ。
まあ、熊を片手で担いでいる時点で只者ではないが・・・。
「ラズさんは傭兵か何かだったんですか?」
「そうさな・・・まあ、ノルウェ陛下の元で兵士をやっとった事はあったな」
いきなり出た父の名に、ノエルは内心動揺する。
「ノルウェ陛下に…ですか?」
「おお。 これでもそこそこ腕は立ったんでな。 陛下の元随分戦ったもんだ」
ラズは懐かしそうに、また少し寂しそうに話した。
まさかこんなところで父親の元部下と出会えた事に、ノエルは驚きを隠せなかった。
「・・・どうした?魔帝の部下が怖いか?」
からかうように言うラズに、ノエルは慌てて否定した。
「い、いえ!そんなことないです! それに・・・」
「?なんだ?」
「あの人は・・・国のために必死に戦った人ですから・・・怖くありません」
「そうか・・・そう思ってくれるもんがいるなら、あの方も浮かばれるな…」
ラズは一瞬なんとも言えぬ表情になるが、嬉しそうに顔を綻ばせる。
「あの方は国や民の事をいつも気にかけてた。 表面では恐ろしく振る舞ってもわしにはよくわかった。 五魔の連中もそうだった。 皆ノルウェ陛下の為に必死に戦い抜いた。 敵に恐怖を、味方に希望を・・・五魔の戦いは本当に見事だった」
思わず聞けた父や五魔の話に、ノエルは胸が熱くなる。
魔帝と恐れられたにも関わらず、未だにこうして慕ってくれている人がいる・・・ノエルにとってこの上なく嬉しい事実だった。
「・・・だが、そんな陛下も亡くなられた・・・あの裏切り者のせいで」
「?裏切り者?」
「ああ。 かつてまだ五魔がいない頃、軍の主力だった男がいた。 獣王と呼ばれ、当時他国からも一目置かれる程の猛将だった」
五魔以外にそんな人が・・・ノエルがそう思っていると、ラズは苦々しい顔になる。
「長くノルウェ陛下に仕えていたにも関わらず、ヤツは聖帝が動き出すと寝返り、陛下の居城に攻め入る手引きをしたのだ。 その後奴は聖帝の軍で聖獣と名乗っとるそうだ。 ふん! わしから言わせれば最低の裏切り者だ!」
徐々に怒りを露にするラズだったが、我に帰りまた普段の様子に戻った。
「っと、ついつい湿っぽい話になってしまったな。 ジジィになるといらんことばっか言ってしまう。 さっきのは忘れてくれ!がっはっはっは!」
笑い飛ばすラズを見ながら、ノエルはその獣王・・・現在の聖獣という人物の事を考える。
本当に裏切ったのか、それとも五魔達のようにノルウェの望みの為敢えて裏切ったのか・・・。
(後で確認した方がいいかもしれないな)
そんなことを思いながらノエルはラズに付いていった。
目的の村に着くと、村人がラズゴートに見るなり集まってきた。
皆ラズを信頼しているらしく、ラズを見て安堵する者、嬉しそうに語らう者が大勢いた。
その内村長がラズの元にやって来た。
「おお、ラズ殿。 よくこんな小さな村の為に・・・」
「水臭いこと言うな村長! ワシとお前さんらとの仲だろうが! がっはっはっは!」
「ありがたいことです。・・・して、そちらの方は?」
村長は恐る恐るノエルに視線を向ける。
ノエルは今兜を被っており素顔が見えない。
その為村人達には正体不明の黒騎士として警戒されてしまっている様だ。
「こいつは今回連れてきた助っ人だ! そこそこ腕は立つから、きっと役に立つだろうよ! がっはっはっは!」
勝手に自分もワーム退治の頭数に入れられ驚くノエルだが、ラズには助けられた恩もあり、何よりこのまま村を放っておく事はノエルには出来なかった。
「任せてください。 きっとロックワームを退治して見せます」
村人から歓声が上がり、ラズは「よく言った!」とノエルの背中を叩き笑った。
村長から被害状況を聞いたノエル達は村から少し離れた森の開けた場所に来ていた。
村長によると死人こそ出てないか怪我人が何人か出ており、特に家畜が多く食い殺されているとのことだ。
ラズは近くの木に昨夜の熊肉の残りに抜き取った血をべっとり付けて木に吊るした。
「これは一体?」
「ロックワームは目が見えない分鼻が利く。 特に獲物の血には敏感だ。 これだけ血が滴った肉があれば、群れで確実に群れでやって来る」
ロックワームの習性を利用して誘きだし、群れ事を一網打尽にしようという作戦らしい。
力自慢そうに見えてしっかり戦略も立てれるラズにノエルは感心した。
「・・・どうやらおいでなすったようだ」
ラズの言葉通り、肉の周りの地面から大量のロックワームが飛び出してきた。
「よし! 暴れるとするか!」
ラズは飛び出すと斧を使わず素手でロックワームを薙ぎ倒していく。
この程度の相手に斧等不要と言うように、握り潰し、砕き、ひき千切る。
まるで固い岩肌などないかのごとくロックワームを粉砕していく。
それはこの前のガンマが赤子に見えるほど圧倒的な姿だった。
ノエルはその光景に圧倒されながら、自分も戦うため飛び出した。
一度不意を疲れた事もあり、ノエルは距離を起きながらロックワームに黒炎を見舞う。
更に足元からの気配も察し、出てくる前に黒雷を地面に放つ。
燃えるロックワームを見て、ラズは感心した様に笑った。
「がっはっはっは! やるじゃないか小僧!」
「落とされた借りがありますからね。 しっかり返さないと」
「その粋やよし! どんどんやるぞ小僧!」
ノエルとラズはロックワームを悉く倒していった。
すると、地面から大きめの揺れを感じた。
「どうやら本命のご到着のようだ」
ラズの予想通り、目の前に現れたのは先程のロックワームの三倍程の大きさの巨大ワームだつた。
表面も普通のよりも硬度が上と言わんばかりに光っている。
「このデカブツが大量発生の原因みたいだな」
「ならこいつを倒せば、村の被害も無くなるんですね」
「そういうこった。 油断するなよ?」
「はい!」
ノエルは構えると黒雷を放つ。
黒雷はロックワームに直撃し、辺りに粉塵が舞う。
よし!とノエルが思った瞬間、ロックワームが口を開きノエルに突進してきた。
ノエルは避けるか迎撃を考えていると、ラズが間に割って入り斧で突進を受け止めた。
「ラズさん!」
「なに、心配する・・・なっと!」
ラズは斧に力を込めるとロックワームを弾き返す。
「すみません、大丈夫ですか?」
「なに、気にするな! それよりお前さん、力を抑えすぎじゃないか?」
ロックワームを見据えながらラズは指摘した。
「抑え過ぎですか?」
「そうじゃ! あの魔法、本当ならもっと威力があるはずじゃ! それをお前さんが殺しとる! 恐らく無意識だろうが、それじゃいかん! いいか! 世の中はお前が思うよりタフで強い奴がごまんといる! だから相手を傷付ける事を余計に怖がるな! 思いっきりぶちかませ! それだけでお前さんはより強くなれる!」
ラズの言葉がノエルに響く。
(そうか・・・僕は怖がっていたのか・・・)
他者を傷付ける事を必要以上に恐れ、その為詰めが甘かったり要らない隙を作っていた。
ラズに気付かされた自分の心理に、ノエルは色々納得した。
すると体勢を整えたロックワームが再び突進してくる。
(恐れず・・・思いっきり・・・)
ノエルは魔力を集中させ、ロックワームの頭上に集める。
ノエルは今まで以上に魔力が収束していくのを感じる。
「(・・・今だ!)黒雷!」
ノエルが手を降り下ろすと、先程より太く速い雷がロックワームに落ちた。
表面の岩肌は砕け散り、ロックワームの体は二つに裂けた。
予想を越える威力に、ノエルは言葉を失った。
「おお! やるじゃないか小僧! まさかこれだけやるとは思わなかったわ! がっはっはっは!」
豪快に笑いながら背中をバシバシ叩くラズに、ノエルは苦笑しながら例を述べた。
「ありがとうございます。・・・何となくですが、感覚がつかめました」
「おお! 自分がどんだけ出来るのか知らんで手加減ばっかしとる程危ないもんはないからな! これで今のお前さんの上限もわかったろうし、より適切に力を操作出来る様になるだろう!」
「はい! 頑張ります!」
ノエルの言葉にラズは微笑んだ。
が、すぐに表情を引き締める。
その途端先程ノエルが倒したのと同じ大きさのロックワームが地面から現れた。
「どうやらツガイだったようだ。 旦那が上さんの仇を討ちに来よった」
ノエルが再び黒雷を放とうとすると、ラズが制した。
「お前さんは慣れない全力魔法使ったばっかじゃ、休んどけ」
「でも・・・」
「なに、この程度なんともないわい! それにな・・・」
ラズは斧を上段に構えると、先程とは比べ物にならないほど力を込め始める。
「久しぶりにいいもん見させてもらった・・・今度はわしの取って置きを見せてやる」
ラズの両腕の筋肉が普通ではあり得ない程隆起し、躍動しているのが見える。
ロックワームはラズの空気に圧され後ずさるが、意を決し奇声を上げながら突進してきた。
「ぬおりゃ!!!」
気合いと同時にラズは大きく斧を降り下ろす。
するとまるで爆発でも起きたような風圧が生まれ、衝撃でロックワームの体を砕き飛散させる。
しかも勢いは止まらず、ロックワームの背後にある木を次々と薙ぎ倒していく。
風圧が収まると、ロックワームの姿は消え、その背後に大きな一本の道が出来ていた。
ノエルはその威力に圧倒された。
恐らくリナやクロードも同じ事は出来るだろう。
だがそれはあくまで二人の莫大な魔力があってこそ可能な技だ。
ラズは腕の筋力だけでそれをした。
素手でロックワームを倒していた時から普通じゃないとは思っていたが、まさかここまでとは・・・ノエルは呆然とさっきまでロックワームがいた場所を見つめていた。
「ふぅ、年取ると加減ってもんが難しくていかん、やり過ぎたわ! がっはっはっは!」
いつも通り豪快に笑うラズだったが、何か感じニヤリと笑った。
「・・・だが、どうやら狼煙代わりにはなったようだ」
「え?」
ノエルが耳を澄ませると、聞き覚えのある声と足音が近づいてきていた。
「!リナさん達だ!」
表情が明るくなるノエルにラズはにっこり笑う。
「どうやらお仲間が来たようだな。・・・じゃ、わしはそろそろ引き上げるか」
「え、でも・・・」
突然のラズの言葉に戸惑うノエルに、ラズは笑顔を向ける。
「お前さんら、何か訳ありなんじゃろ? ならあまり1ヵ所に長居しすぎても困るじゃろ」
そこまで言うとラズは真剣な表情でノエルの目を見た。
「恐らくお前さんらの旅は、これから先苦難が続くだろう。 じゃが、心配するな。 仲間を信じて真っ直ぐ進め。 そうすりゃ、きっと道は開けるだろう」
「・・・はい!ラズさんに教えてもらったこと、決して忘れません!」
力強く頷くノエルに、ラズは豪快に笑った。
「がっはっはっは! いい返事だ! それじゃあな小僧! 縁があったらまた会おう!」
「はい! ラズさんもお元気で!」
ラズはノエルに背を向けると、村の方へと去っていった。
「ノエル~!!!?」
その姿を見送っていると、ライルが絶叫しながら抱きついてきた。
「ら、ライルさん! ちょっと、苦しい・・・」
「ばっかお前! 心配したんだぞこら!? 足あるか!? 幽霊じゃないよな!?」
顔を涙と鼻水まみれにしながら、ライルはノエルの兜を外し体をべたべた触わり無事を確認する。
その後ろから、心配そうに駆け寄るリーティアと、どこか憮然としたリナの姿があった。
「ノエル様! よかった無事で・・・私がついていながら、本当にすみませんでした」
「いえ、僕の不注意が原因ですし・・・クロードさんもリーティアさんも、本当に心配かけてすみません。 後ライルさんも・・・」
「俺はついでか!?」
「いえ、私達はノエル様が無事ならそれでいいんです。 ねぇリナ?」
「ん・・・ああ・・・」
リーティアに話を振られ、リナはどこかぎこちない感じで返事した。
「リナさんも本当にすみませんでした。 でもリナさんの重力操作のお陰で、怪我せずに済みました。 ありがとうございます」
「あ、ああ・・・」
どこか様子の変なリナを見ていると、ライルがにやけながら小声で話してくれた。
「お前が落ちた後、一番心配してたの姉さんだったんだからな。 しかもそこからここ来るまで鬼の形相でロックワーム見付けたら片っ端からぶちのめしてその姿のおっかねぇのなんのってぶろは!?」
「余計な事言うんじゃねぇ! 大体! リーティアだって蹴散らしてたろうが!」
「私はもう少し加減はしてましたよ。 貴方が暴れたところなんか荒れ野原になって・・・」
「だあ!? うるせえこの人形オタクが!」
顔を真っ赤にして叫ぶリナの姿に、ついクスリと笑みをこぼしてしまう。
「ありがとうございます、リナさん」
「・・・おぅ。無事でよかったよ」
ちょっとだけ素直になったリナに、皆笑顔になる。
そんな中、リナとリーティア・・・正確には中のクロードの視線が、ラズゴートの消えた方に向いた。
「・・・やっぱりあいつか」
「でしょうね。 というか、あんな芸当が出来る人なんて、他にいませんしね」
ノエルとライルに聞こえないように話ながら、リナはやれやれと頭をかく。
「借り作っちまったな・・・色々と・・・」
ノエルと別れたラズは村に向かい森を歩いていた。
すると、急に立ち止まった。
「・・・首尾はどうだメロウ爺?」
ラズが声をかけると、黒装束の小柄な男が木から降りてきた。
覆面とゴーグルで顔は見えないが、笑い声からかなりの高齢であることがわかった。
「ふぇっふぇっふぇっ、上手くいったよ。 ロックワームの残りも全部潰せたよ。・・・と言っても、わしらは殆どなにもせず済んだがね」
「リナか」
「まあね。 凄い惨状だったよ。 魔王の怒りに触れた者の末路って感じだったね。 ロックワームが少し可愛そうになったよ」
ある意味凄い報告内容ながら軽い調子で報告するメロウに、ラズは向き直りながら笑った。
「がっはっはっは! それでもまだ加減はしとるんだろう! 奴が本気だしたら、本当ここら辺一体が平地になっとるよ!」
「全く、相変わらず末恐ろしい娘だね」
やれやれと首を振りながら、メロウはラズの顔を見る。
「しかし面白い偶然に遭遇したね。 ダグラ国の残党掃討で忙しい中わざわざ来たかいがあったよ」
「ああ、立派になられた・・・陛下の面影もしっかり残っていた。 見た目は、母親寄りだったがな」
先程ノエルと接していた時とは雰囲気が代わり、ラズの目には懐かしさとノエルに対する愛しさが読み取れた。
「その割には、最後まで名前呼んでやらなかったじゃないか。 やっぱり呼ぶと当時の事を思い出しちまうからかい? 聖獣ミノタウロス・・・いや、獣王バスク・ラズゴート」
獣王と呼ばれ、ラズ・・・いや、ラズゴートは少し目の色を変った。
「その名は呼ぶなと言った筈だが、メロウ爺?」
「ふぇっふぇっふぇっ、お前が聖獣なんて柄かね? 荒々しく暴れる獣王の方が合ってるよ」
「まあ、どの名で呼ばれようが裏切り者には変わらんさ」
「そう卑下するもんじゃないよ。 あの子にも随分酷い感じに伝えてたじゃないか」
「真実だ。 それにいずれ敵対するんだ。 どうせなら変な情より、憎まれた方が楽だ」
「全く不器用な男だね」
呆れながらも、ラズゴートの性格を理解しているメロウはそのまま黙ってラズゴートに続いた。
「でも敵に回るより、お前が保護した方がよかったんじゃないのかい? 今回の事がわかれば、ギゼルの小僧辺りが煩そうだよ?」
「あれは自分の研究しか興味ないから問題ないだろう。 それに・・・」
「?」
「・・・今日会ったのは聖獣ミノタウロスじゃなく、村を助けに来たラズってジジィだ。 それでいいじゃろ?」
顔だけ振り向きニカッと笑うラズゴートに「・・・本当に不器用な男だよお前は」と悪態を付きながら、メロウは再び木の上に消えた。
(・・・わしに願う資格はないかもしれんが、どうかお元気で・・・ノエル殿下)
ラズゴートは複雑な表情を浮かべると、村の方へ歩き出した。




