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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
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拳王起つ


「いや~! 御会いできて光栄ですぞギエンフォード殿!」

 ギエンフォードの登場に、アルゼンは子供の様に素直な喜びを表に出した。

 実際本当によろこんでいた。

 五魔の影に隠れがちだが、ギエンフォードも武王アクナディン相手に激戦を繰り広げた真の強者。

 しかも使うのは両の拳のみの徒手拳。

 武術家であるアルゼンにとってある意味五魔以上に戦ってみたい相手だった。

 そんなアルゼンをよそに、ギエンフォードは左手でライルの体を支える。

「よぉ、親父。 随分格好いい登場じゃねぇか」

「馬鹿が。 んなこと言ってる場合かよ」

 父親の救援に少し安堵するライルの表情は明らかに弱っている。

 ギエンフォードはライルを強く掴むと空いた右手で地面を強く殴り付けた。

 殴った衝撃で辺りに粉塵が舞い、周囲の視界は閉ざされてしまった。

「小賢しい」

 アルゼンはリザを抱えたまま蹴りを放つとその風圧で粉塵は一気に晴れた。

 しかしそこにはギエンフォードとライルの姿はなかった。

「おやおや、つれないですな。 やはり、あの様な方でも親なのですね」

 アルゼンは受け止めていたリザを下ろすと、勢いよく駆け出した。

 





 ギエンフォードはライルを抱えたまま、全力でその場を離れようとしていた。

「 親父、なにやってんだよ? なんで逃げてんだよ?」

「馬鹿野郎! てめえの状態考えろ! 今はやり合うよりてめえの手当てが先だ!」

「だけどよ・・・」

 反抗するライルの声にいつもの力強さがない。

 ギエンフォードは内にある不安を見せぬように口を開く。

「今回の戦いの一番の目的はノエルの小僧を助けることだ。 ついでにフェルペスの計画を潰せりゃ一番いいが、小僧さえ助けりゃそれでいい。 ましてやあの野郎を無理して倒す必要なんざ毛程もねぇ。 大切なのは誰も死なねぇで俺達の王を迎えることだ」

「親父・・・」

「それに、てめえはメロウの化け物ジジィ仕留めたんだ。 大金星もいいとこだ。 もう充分やった。 後は俺達に任せて安全な所で休んでろ」

「へへ、随分、優しいじゃねぇか。 ・・・親父らしくなくて・・・気味・・・悪ぃ・・・」

「!? ライル!?」

 ギエンフォードはライルを下ろすと、傷口からの出血が更に増していた。

(クソッタレ! 早く手当てしねぇと! ここで死んだらぶっ殺すぞクソガキ!!)

 ギエンフォードはマントの様に肩に掛けた軍服を破り止血を試みようとする。

「いやはや、素敵な親子愛ですな~!」

 背後から聞こえた声に構えると、既にアルゼンが追い付いていた。

「武名名高い拳王がご子息の為に逃げを選ぶ。 実に素晴らしい! ただ、我輩少し寂しいですぞ?」

「その名はあまり好かねぇんだよ。 俺は今拳聖なんてもんに構ってる暇はねぇ。 とっとと失せな」

「奇遇ですな。 我輩もその異名は好きではありませんな。 聖なる拳等片腹痛い。 拳とは只の手段に過ぎない。 どんなに優れた技だろうと使う者次第で聖にも魔にもなるのですのわっと!?」

 話続けるアルゼンにギエンフォードは怒りのまま拳圧を放った。

 アルゼンはそれを避けると、殺気を隠さないギエンフォードにニヤリと笑う。

「今すぐ失せろ。 じゃねぇとぶち殺す」

「ふふ、戦場でその言はなんとも温いですなギエンフォード殿。 ですが、また逃げられても困るのでここは1つ、取引と参りましょう」

 アルゼンは両手をポンと鳴らすと手品の様に小瓶が現れた。

「さあさあ御立ち会い! ここに取り出したるこの薬! かの東の大国ヤオヨロズより手に入れた妙薬! 通称ガマの油! 少し掬って傷口に塗るだけであら不思議! 傷が一瞬で綺麗さっぱり消えてしまう! まさに奇跡の妙薬でございます!」

 アルゼンは大袈裟な身ぶりで言うと、素に戻りコホンと咳をした。

「とまあ、一瞬で治るというは少々大袈裟ですが、実際この薬の速効性と治癒力は保証しましょう。 特に切り傷への効果や止血作用はすこぶる優秀なので、今のライル殿にはピッタリだと思いますが?」

「それ使わせる代わりに戦えってか?」

「流石ギエンフォード殿! 察しがいい! 今の貴殿と戦ってもご子息が気になり全力の死闘とは程遠くなるのは必然! ならば、早々にご子息の処置を済ませてもらった方が我輩も楽しめるというもの。 ああ、勿論怒りに任せた方が力が出るというのならライル殿にしっかり止めをお刺ししますが?」

 なんの悪気もなく言ってのけるアルゼンを、ギエンフォードは静かに見据える。

「そうかい。 なら丁度よかった。 こいつを死ぬまでサンドバックにしろっつった時から、てめえをぶちのめしたくてしょうがなかったんだからよ!!」

 ギエンフォードの激しい怒りと殺気に、周囲の空気が弾ける。

 常人ならその場から逃げ出す様な殺気を前に、アルゼンはむしろ心地よさを感じている様にうっとりとする。

「素晴らしい! 実に素晴らしい! リナ殿達五魔や武王アクナディンと、数々の素晴らしい猛者が射る中迷いましたが、最初の相手が貴殿なのはまさに幸運と言えましょう!」

 そう言うとアルゼンは薬の小瓶をギエンフォードに投げ渡した。

「さあ! 早くライル殿の手当てをして始めましょう! 血沸き肉踊る最高の戦い!」

 小瓶を受け取ると、ギエンフォードはアルゼンを睨み付ける。

「そんなもんはねぇよ。 てめえが味わうのは、血凍り肉竦む最悪の時間だ」

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