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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
176/360

ライルVSメロウ再び


「のあああああ!?」

 メロウの奇襲からリナを救ったライルだったが、場所が空中だった為そのまま落下してしまった。

「こなくそ!」

 ライルは空中で拳を振り下ろすと、地面に拳圧を激突させる。

 その衝撃で一瞬浮かぶとそのまま転がる様に着地した。

「ふぃ~危ねぇ危ねぇ。 て、前にもこんなことあったな。 ん?」

 ライルが周囲に意識を向けると、アーサーの精鋭部隊と思わしき兵士達が取り囲んでいる。

 というより、ライルが彼らの中に落ちてきたのが正解だろう。

 だがそんな異常事態でも、兵士達は慌てずすぐに槍を前に突き出しライルを牽制する。

「五魔の一味だな! アーサー様の命により無力化させてもらう!」

 隊長格らしき男の言葉を聞きながらライルは周囲の兵士達を見回す。

 パッと見約20人。

 今のライルなら苦戦せずに倒せる数ではあるが、どう消耗を抑えて倒すか。

「フェっフェっフェっ。 あの時からは少しは成長したみたいじゃのぅ小僧」

 ライル達が声の方を向くと、リナが吹き飛ばした建物の瓦礫の上に腰掛けるメロウの姿があった。

「ちぃ、やっぱ無事だったか」

「本当お前さんにはこっちの算段を狂わされる」

「いきなり姉さん狙おうなんざ千年早ぇんだよ!」

「この手の戦じゃ敵の頭目を消すのが定石よ。 犠牲も少なく早く終わる」

「獣王親衛隊のメロウ殿とお見受けする! 我らも共に戦わせていただく! 異論ないな!?」

 先程の隊長格が声をかけると、メロウはやれやれと首を振った。

「本当、余計なことしてくれたもんじゃよ。 お陰で・・・」

 瞬間、ライルは寒気を感じその場を飛び退いた。

 それとほぼ同時に、精鋭部隊の隊長格を含む数人の首筋から鮮血が噴き出した。

「余計な犠牲者が出ちまうじゃろうが?」

 先程までライルがいた場所に現れたメロウは両手にクナイを構えながら素早い動きでライルに迫る。

 ライルがそれを避けると、近くにいた精鋭部隊の兵士達が急所を斬られ絶命していく。

 味方である筈のメロウに襲われ残りの兵士達から悲鳴が上がる。

「てめぇ! 味方に何してんだよ!?」

「お前さんが避けなきゃ他は誰も死なんよ。 しかし本当に腕を上げたな。 ここにおるのは皆アーサーが集めた精鋭達だ。 そいつらがかわせん攻撃をこんだけかわせるとな、わしの助言通りしっかり親父に泣きついた様じゃな」

「うるせぇよ!!」

 ライルは拳を繰り出すとメロウはそれを避け、その最中残りの兵士も全て殺してしまった。

 その場に残るのはメロウとライル、そしてアーサーの兵士達の屍のみとなった。

「あ~あ、だから乱戦ってのは苦手なんだよ。 まあ、親衛隊の連中がいなかっただけマシか」

「なんなんだよてめぇはよ!? なんでそんな平然としてんだよ!?」

 ライルはメロウの行動に混乱していた。

 メロウが手にかけたのは全員味方だ。

 しかも戦略的に犠牲にしたのでも、メロウの逆鱗に触れた訳でもなんでもない。

 なんの意味もなく殺されたのだ。

 そんなライルを見ながら、メロウは懐から煙管を出すと軽く吸い込んだ。

「全くぎゃあぎゃあ騒がしい小僧だね。 中身はなんも成長しとらんじゃないか」

「うるせぇイカれ野郎! 味方簡単に殺す様な奴よりマシだ!」

「小僧が知った口利くんじゃないよ。 お前さんにわしの何がわかるってんだ」

 静かな威圧と殺気に、ライルは思わず後ずさる。

 それはまるで、リナや五魔のメンバーが放つのも同じくらいの迫力だった。

「仕方ない。 少しだけ昔話をしてやるよ。 昔昔本当にいた、ある暗殺者の話だよ」

 メロウは軽く煙を吐くと語り始めた。

「そいつは何百年以上も続いたある暗殺集団の中で産まれた。

 本当に産まれたのか赤子の時拾われたのかは知らないが、物心着いた時にはそこにいた。

 穴蔵と呼ばれる隠れ家の中、そいつは当然暗殺者として育てられた。

 最初に手をかけたのは4つの時だ。

 どんな奴かも覚えてないが、周りが暗殺者だらけの環境で育ったから何にも感じなかった。

 それからもそいつは殺し続けた。

 男も女も年寄りも貴族も物請いも戦士も神父も指令が下ればなんでも殺した。 何人も何人ね。

 所でお前さん、息は吸うかね?」

「は? な、何言ってんだよ? んなもん当たり前だろ?」

 突然の質問に戸惑いながら答えるライルに、メロウは続けた。

「じゃあ吸う時意識はするかい? これから吸うぞとか意気込むかい?」

「んなもんするわけねぇだろ! 一々息吸うのに意気込む馬鹿がどこにいるんだよ!?」

「そう、そういうことだよ」

「あ?」

「やがて師である育ての親まで殺したそいつは、ある化け物になっちまった事に気付いた。

 自分にとって殺しは息をするのと同じ。

 無意識に自然と殺っちまっている。

 そりゃそうだ。 何せそいつは産まれてから殺ししかしたことがなかったんじゃからな。

 もう体が生きる為に必要な機能として殺しをしちまう様になっちまったんだよ。 

 じゃがそのお陰でそいつの技は更に鋭さを増した。

 呼吸に余分な力が入らないのと同じ様に、そいつは殺す時気負いも何もない。 じゃから余分な力も入らずより正確に急所を斬れる。

 まさに暗殺者のあるべき姿だとその集団の連中は褒め称えたよ。

 連絡に来た仲間すらそいつに殺されてるってのに。

 どうじゃ? なかなか狂っとるじゃろ?」

 そこまで話すとメロウはまた軽く煙管を吸い、煙を吐いた。

「じゃがそれも終わりの時が来た。

 暗殺者として60年以上生きてきたそいつはあることを切っ掛けに長老を始めとした暗殺集団の連中を殆ど殺した。

 何百年と歴史を持つ暗殺集団にしちゃあっさりした最後じゃろ?

 で、そいつはその後獣王を名乗る男に拾われ、その殺人癖を煙管で特殊な煙を吸う事で抑えながら恩を返す為に今も老骨に鞭打ちながら働いてるってわけじゃ」

 メロウはそこまで話すと煙管を放り投げた。

 乾いた音を立てて、煙管はライルの足元に落ちた。

「さて、これでジジイの昔話は終わり。 こっから先は、煙を吸えなくなった怖い暗殺者の大量虐殺劇じゃ。 その一人目は、当然お前さんだよ」

 クナイを手にするメロウの殺気は、かつて対峙した時とは別物だった。

 今のメロウなら、五魔に勝てずともこの場で大量虐殺をすることは可能だろうとすら思えた。

 そんなメロウを前に、ライルは両の拳を打ち鳴らした。

「ほぉ、やる気のようじゃね。 てっきり怖じ気付くかと思ったよ」

「ああ、正直怖ぇよ。 でもな、てめぇはここで俺が止めなきゃならねぇ。 そんな気がすんだよ。 それにここで逃げたら親父に泣きついたのが全部無駄になる」

「止める? わしを? 自惚れるなよ小僧」

「小僧小僧ってうるせぇ! こっちにはライルって名前があんだよ!」

 そう叫ぶとライルは一足飛びでメロウに向かっていった。


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